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隻眼聖騎士と神裔の王女  作者: 六条 甘太
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セレーネの窮地(4)


 セレーネ郊外の西側に位置する”ハルジオンの森”。

 そこは、ヒツジやヤギなどの食料となる動物や、木の実や果実が豊富に実っている、セレーネの住民にとって、生きていくうえで欠かせない場所の一つとなっている。


 混沌の闇が支配を始めて以来、下級の魔獣たちがこの森を荒らし始めたのであった。

 この由々しき事態に、セレーネの現市長は冒険者ギルドをを設立し、下級魔獣の討伐を冒険者に一任した。

 この設立を機に、”ハルジオンの森”は、徐々にその平穏を取り戻し、セレーネの生活も安定していった。

 セレーネの人々にとって、冒険者の存在は、非常に大きい。


 今、ガルフからの依頼を受け、冒険者のリーベルとエステリアは”ハルジオンの森”の中を進んでいた。


「まさかニーズヘッグが上級魔獣とはねー」


 リーベルは、赤い宝石のついていない反対側のステッキの先を地面にコツコツと叩きながら、呟いた。


「ですから、私は、リーベル様をお止めしたのです。私一人でも戦える相手ですから」

「何よ、それ。もしかして、私が足手まといとでも言いたいの」

「いえ、そうではありません。相手は上級魔獣です。リーベル様にもしもの事があればと思うと……」


 エステリアの顔が曇る。

 しかし、そんな事は気にしていないと言わんばかりに、リーベルは呑気な様子であった。


「むしろ、私にとっては好都合よ。だって、強い相手と戦う事でステータスアップにも繋がる。そう思うでしょ? 」

「確かにそうですが……」

「じゃあ、それで良いじゃない。それに、セレーネの人々は、親切で優しい人達ばかり。そんな人々に恩を返したいのよ」


 そう言うと、リーベルは、エステリアに向かってニコリと微笑んだ。

 エステリアも「そうですね」と言って、軽く微笑み返した。


 森の入り口からは、鳥魔獣のバルドや姿がカエルに似た肉食魔獣のケルンといった下級魔獣が次々と現れ、二人はそれらを討伐しながら森の奥へと進んでいた。

 しかし、奥に進むにつれ、徐々に下級魔獣の出現は減り、とうとう現れなくなっていった。

 ヒツジやヤギの鳴き声も聞こえなくなり、辺りに聞こえるのは風に揺れる森の木々のさざめきだけであった。

 空気もひんやりとし、雰囲気も不気味に感じられる。


「何か雰囲気変だね」

「ええ、下級魔獣が出現しないという事は、恐らくこの先に強者がいるからではないでしょうか」

「たぶんそうね。そいつがニーズヘッグって事なんだろうけど……ってうわぁ! 」


 話の途中で、突如驚いた声を上げるリーベル。

 リーベルがステッキで突いた先には、無惨に食いちぎられたバルドの亡骸であった。

 バルドの肉は食われ、内臓部分はその亡骸の近くで吐き出されていた。

 落ちていた緑葉が、バルドの血で真っ赤に染まっている。


 エステリアは、その場にしゃがみ込み、指先でバルドの血を確かめた。


(まだ温かい……)


 エステリアは、血で染まっていない緑葉を見つけると、指先についた血をそれで拭った。

 すると、リーベルもエステリアの隣でしゃがみ込み、彼女の顔を覗き込んだ。


「何か分かったの? 」

「はい。この血はまだ温かく、捕食からはさほど時間が経っていないように見受けられます」

「つまり、この近くにいるという事? 」

「恐らくですが、その可能性が高いかと」

「急ぐわよ、エステリア」

「はい」


 リーベルとエステリアは、更に奥へと足を進めた。

 奥に進む道中には、先ほどのバルドと同様に、ケルンや、ヒツジやヤギの亡骸までもが無惨に転がっていたのであった。

 その亡骸を頼りに、更に進んでいくと少し先の方から、聞き覚えのない動物の呻き声のような物が聞こえてきた。


 リーベルとエステリアは、急いでその声の方へと歩みを進めた。

 すると、そこには直径20メートルほどの大きな洞穴が目の前に見えたのだ。

 そして、先ほど聞こえた呻き声は、この中から発せられているようだ。


「きっと、あの中にニーズヘッグがいるのね。早速、討伐に行くわよ」

「お待ちください、リーベル様。洞穴内での戦闘は、あまりに危険すぎます」

「なんで? 」

「戦闘中に、洞穴の石版が崩れ、出口を塞いでしまう可能性があるからです。たとえ、ニーズヘッグを倒せたとしても私達は帰る事が出来ずに、餓死していくだけです」

「なるほどね。じゃあ、どうするのよ? 」

「私に良い考えがあります。リーベル様、荷物袋を貸しては頂けませんか? 」


 エステリアに言われるがまま、リーベルは肩にかけていた荷物袋を手渡した。

 エステリアは、紐で括られた荷物袋の上部を解くと、袋の中から5つほどのヒツジの干し肉を取り出したのであった。


「これでニーズヘッグを私達の戦いやすい、平地まで誘き寄せるのです」

「えっ、待ってよ! せっかくオヤツに食べようと思って残してたのに」

「セレーネに戻ったら、干し肉はいくらでも食べられます」

「分かったわよ」


 リーベルは、渋々エステリアの作戦を了承した。


 そして、エステリアはほぼ等間隔で、森の中にある平地までの道中に干し肉を置いていき、平地で待ち伏せする事にしたのであった。


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