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隻眼聖騎士と神裔の王女  作者: 六条 甘太
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モントレール街道にて(3)

 

「んぐぐ……おはよう、アルフレッド」

「おはようございます、リーベル様」


 リーベルは、空に向かって両手を突き上げ背伸びをした。

 昨日とは打って変わり、黒灰色の雲が空を覆い、今にも雷雨が轟きそうだ。

 スッキリとしない天気に、リーベルの心も少し暗くなっていたが、鼻に抜ける香ばしい美味しそうな匂いに、先程の気持ちは、曇空へと吸収されていった。


 アルフレッドが、朝食の支度を行なっていた。

 リーベルが、アルフレッドの元へ行くと、香草と特製スパイスで焼き上げられたローストチキンであった。

 昨日のスープで既に食料は切らしてしまっていたが、運よく野鶏が近くを彷徨うろついていたらしく、見張り中に一羽捕まえたらしい。

 朝食にローストチキンは、寝起きの体には重いのではないかと食事に申し訳なげに尋ねるアルフレッドであったが、リーベルは首を横に振り、目の色を輝かせ、ローストチキンを見つめている。

 すると、いつの間にかリーベルの横には、リラとカイルがリーベルと同様にローストチキンをみ見つめていた。

 三人の反応をおかしく思い思わず笑ってしまうアルフレッド。

 アルフレッドの笑い声に意味が分からず、顔を見合わせる三人だったが、アルフレッドに釣られるように三人ともクスクスと笑う。


「んー……朝から騒がしいですよ。一体何が起きたんですか? 」


 大きなあくびと共に起き上がるエステリア。

 眠気まなこをこすり、笑い声の方に目をやるとリーベルの横に見知らぬ子供が二人いる事を確認しする。

 確認した途端、エステリアは血相を変え、傍に置いていたレイピアを鞘から抜き、アルフレッドの元へ詰め寄ると、喉元に剣先を向ける。

 昨日の出来事と同じ状況に思わずため息が出るアルフレッド。


「貴様、あの子供達は誰だ? もしや、貴様が誘拐を! 」

「そんな訳ないだろう! お前が寝ている間に色々あったんだよ」

「色々ってなんだ! まさかとは思っていたが、お前が幼女好きであったとはな」


 エステリアの言葉に、信じられないといった様子で冷たい視線を送るリーベル。


「なんでそうなる!言いがかりも甚だしい! 」

「しかし、聖騎士見習い時代に何度か幼女二人と手を繋いで歩いているのを見かけたぞ」

「へーそうなんだ、アルフレッドは幼い子が好きなんだー」

「リーベル様まで……。誤解です! あれは聖騎士団長の子供達の子守を任されていただけで。それよりも、剣をしまえ。リラとカイルが怖がっている」


 そう言われエステリアがリラとカイルの方を顔を向けると、二人とも体をビクビク震えさせながらリーベルのローブの裾をギュッと握りしめていた。

 冷静さを欠いていた事を認識し、慌てて剣を下ろし、ぎこちない笑顔をリラとカイルに向けるエステリアであったが、その表情が余計にリラ達を強張らせる。


 ちょうど朝食も出来上がったタイミングであったので、朝食を摂りながら、アルフレッドは昨晩の事情を説明した。


「そうだったのか。リラ、カイル、先程はすまなかった」


 リラとカイルは、何の事か分からず、顔を見合わせて首を傾げたが、声を揃えて「いいよ! 」と満面の笑みで応えた。

 おそらく、ローストチキンに夢中で、先程の事は忘れてしまったのであろう。

 続けて、アルフレッドがリラとカイルに尋ねる。


「リラ、カイル、一体昨日は何であんな時間にこんな場所にいたんだ」


 すると、二人の頬張る手が止まり、数秒の沈黙の後、カイルが口を開いた。


「実はね、みんなの分の食べ物を探しに来てたの」

「みんなの分? 」

「そう、ハルート村のみんなの分だよ」


 ハルート村は、この先にある村の名で、リーベル達が食料などを調達する為に訪れる予定であった村である。

 それから、カイルは、ハルート村の事情を話してくれた。

 ハルート村では、ここ数ヶ月、何者かにより、家畜の牛や豚、育てた野菜、さらには村の蔵に保存していた備蓄食料まで食い荒らされてしまっている。

 また、井戸水は黒く濁り、腐敗臭が漂っていてとても飲めるような状況ではない。

 村の大人達は、僅かに家に残った食料を子供達を優先に分け与え、男を中心に大人達は近くの森に食料調達に向かっているようだが、一人も帰って来ていないという。

 それは、リラとカイルの父親も同様に……。

 更には、街にいる子供達の数名は行方不明になっており、ハルート村は原因不明の危機に陥っているのであった。


 自ら話をして悲しくなったのかカイルとリラは、今にも泣き出しそうな目になっている。


 そんな姿にリーベルはステッキを強く握りしめ、その場に立ち上がると、ハルート村へ続く道の方をステッキで指し示した。

 つられるようにしてアルフレッドとエステリアも立ち上がり、リーベルと同じ方を向く。


「リラ、カイル。私達があなた達の村も人々も守ってみせるわ。だって、私達は国を救う英雄になんだからね」

 リーベルは、そう告げると、リラとカイルにニコリと微笑んだ。

 リラとカイルはその言葉が嬉しかったのか、リーベルの元へ駆け寄りギュッと抱きついた。


「リーベル様ならそう仰られると思っておりました。おい、アルフレッド。リーベル様の足を引っ張るんじゃないぞ」

「誰が引っ張るかよ、エステリア。俺はリーベル様と共に国を再興すると誓ったサンフレア王国の聖騎士だぞ」

「ちょっと二人とも。そんなこと言ってないで、出発の準備よ! 」

「承知致しました! 」


 そうして、アルフレッドの馬にはカイル、エステリアの馬にリラを乗せ、リーベル達は危機に瀕したハルート村へと向かうのであった。



 ハルート村に着いたリーベル達であったが、目の前の村の姿に言葉を失う。

 人影はなく、地面は、水分を失い、咲いていた草花は褐色に変化し枯れ果てている。

 木造の家々は、木が腐り、今にも倒壊してもおかしくない様子で、内の数軒は、壁面や扉には鋭い爪で引っ掻かれた跡があった。


 一先ず馬で進みながら荒れ果てた村を見渡すと、おそらく村の中心にあるであろう大きな井戸のある広場にたどり着いた。

 彼らは、そこで馬から降り、井戸の近くにあった立木に馬と紐をくくりつけた。

 リーベルは、恐る恐る大きな井戸を覗き込むと、暗く怪しく光る水面にそこから放たれる血肉が腐ったような異臭をまとった冷気が彼女の鼻奥を猛烈に刺激する。

 瞬時に鼻と口を右手で抑えたものの、急激なめまいに襲われ体がふらつく。


「大丈夫ですか。リーベル様」

 様子を見ていたアルフレッドが、倒れこみそうになったリーベルの肩をそっと支える。

「ありがとう、アルフレッド。このくらい平気よ。ちょっと足がもたついただけよ」

 リーベルは、アルフレッドのたくましく且つ温かみのある手に触れようと、自らの手が自然と肩の方に伸びていたが、咄嗟に我に帰り手を引き、アルフレッドの手から離れる。


「リーベル様、本当に大丈夫すか。お顔が赤くなられて……」

「きっ、気のせいよ!とにかく、ハルート村を散策するわよ」


 リーベルは、心配そうな眼差しを向けるアルフレッドを横目に、急ぎ足で馬と戯れているリラ達の元へと向かった。

 リラとカイルの世話をしていたエステリアも、リーベルの様子を心配したが、リーベルは何とも無いと答える。


 そうして、リラとカイルに案内され、彼らは、とある家の前に到着した。

 木造で作られた平家だが、周囲の家に比べると数倍大きく感じられる。

 リラとカイルは、背伸びをして、扉の中央につけられた来訪を知らせる金属の輪に一生懸命に手を伸ばしたが届かず、代わりにアルフレッドがその輪に手をかけ、二度扉を叩いた。

 すると、木造の扉が軋む音ともに、杖をついた白髭ヒゲを首元まで蓄えた白髪の老人が現れた。

 老人は、リラとカイルの姿を見るや否や、細めた目尻から大粒の涙を浮かべ、こちらにゆっくりと歩み寄る。


「リラ、カイル。生きておったのか」


 老人は、しゃがれた声を震わせ、目一杯の力で彼らを抱きしめたのであった。


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