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隻眼聖騎士と神裔の王女  作者: 六条 甘太
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モントレール街道にて(2)

 

 一人の子供は、水色のシュシュで長い髪を束ねている女の子で、もう一人は、手首に麻糸で編まれた黄色と白の腕輪をつけた男の子であった。


 子供達の衣服は砂埃で茶褐色に汚れ、所々楕円形に破れていた。

 どうやら道中に小枝か何かに引っ掛けてしまったようだ。

 また、靴も履いていない為、小石などで傷がついたであろう傷口が痛々しい。


 そんな彼らにアルフレッドは、優しく手を差し伸べたが、二人で手を握り、後ずさりをし、恐怖におののいる様子である。

 しかし、それは当然の反応であろう。

 隻眼の鎧を着た男が、いきなり雑草を剣で一閃し、何もなかったかのように無表情で手を差し伸べているのだ。

 物心ついた者でも恐怖で身体が固まってしまう。


 数十メートル離れた先にいたリーベルにも、子供達の驚いた声は聴こえていた。

 何事かと思いアルフレッドの元に駆け寄り、目の前にいた子供達の姿に目を丸くした。

 だが、すぐさま子供達に優しく微笑みかけると、彼らをそっと抱きしめた。


「大丈夫。彼も私も何もしないわ。きっと辛い思いをしたのね。でも、もう大丈夫だから」


 すると、子供達は、リーベルのローブに顔を埋め、声を上げて涙した。

 リーベルは、彼らの背中を優しくさする。


「リーベル様、私は何をすれば……」

「ここは私に任せて、アルフレッド」

「しかし、私のせいで泣いてしまったのではと思うと」

「いいからいいから」


 その時、魔獣がうめくような音がリーベルの左右の脇腹に響く。

 その音は、間髪も入れずもう一度響く。

 思わずアルフレッドに目を向けるリーベルだが、アルフレッドは左右に首を振ると、口角を少し上げてリーベルに視線でその音の正体を示した。

 視線の先には、先程まで泣いていた子供達が熟した果実のように顔を真っ赤にさせ、片一方の手で自らの腹部を抑えていた。

 子供達の素直な反応に、リーベルは微笑すると、二人の子供達の髪の毛をワシャワシャと軽く掻きみだし、最後にポンと優しく手を置く。


「よし、ご飯にしよっか! アルフレッド、まだ食料の余裕はある? 」

「ええ、朝食用に残していた魚三匹と干し肉、それに根菜が少々」

「おっけー、じゃあ、君達、あのお兄さんのお料理を手伝ってくれる? 」


 すると、彼らは、アルフレッドの顔を見てすぐにリーベルのローブに顔を埋めたが、リーベルが彼らに「大丈夫」と声をかけた。

 子供達は、コクリと頷き、アルフレッドの元へと駆け寄る。

 しかし、子供の対応に不慣れな彼は、何と声をかけていいのか分らず、困惑気に右頬を人差し指で掻き、助けを求めるようにリーベルをチラチラと見る。

 そんな彼に、リーベルは自らの手と手を貝殻のように結び、子供達と手を繋ぐよう促した。

 その指示に、アルフレッドは、戸惑いつつも子供達の手を握る。


「で、では、行きましょうか」


 彼は、子供達と共にや野営場へと歩を進めた。

 そんな、完璧だと思っていた彼の意外な一面に可愛らしいと思ったりーベルは、ローブの袖をギュッと掴み、リズムを刻む様に彼らの後を付いていった。


 野営場に戻ると、アルフレッドは、早速、子供達と共に料理に取り掛かった。

 彼は、不器用ながらも子供達に、下処理した魚を木の棒に波型のように差すコツを教えたり、彼らの後ろに回り、彼らと一緒に根菜を食べやすい大きさに切っていく。

 そして、ようやく料理が完成した。

 数種類のスパイスで焼き上げた焼き魚に干し肉の塩味と根菜の甘味が引き立つ温かなスープ。


 アルフレッドは、木製のお椀に子供達のスープを注いで、彼らに手渡していると、横から別のお椀が差し出されていた。

 お椀を差し出した正体は、瞳を輝かせたリーベルであった。

 片一方の手には、焼きあがった魚櫛を持っていた。


「リーベル様、先程召し上がられたばかりでは……」

「何を言ってるの、これは夜食よ」

「しかし、リーベル様、その量は夜食の次元では……」

「いいから、早く入れて! 」


 やれやれといった様子でスープをお椀に注ぐアルフレッド。

 しかし、リーベルの食い意地、いや、食いしん坊さは相変わらず変わらないなと懐かしく思った。

 昔、ティータイムの時間に、姉のフレイアのクッキーを彼女が目を離しているうちに、リーベルがこっそり盗み食べ、頻繁に喧嘩になっていた事を思い出す。


 皆で焚火を囲むと、子供達は両手を祈るように手を合わせると、男の子が口を開く。


「海と大地の恵みに感謝を込めて」

 続けて、女の子が口を開く。

「美味しくいただきます」


 呆気にとられたリーベルだが、女の子の言葉を合図に、温かいスープに口をつけた。

 塩味と甘味のバランスの絶妙な優しいスープに思わず頬が緩む。

 数種類のスパイスで焼き上げた魚も、夕食で食べた焼き魚とはまた違い、程よくパンチの効いたスパイスがより一層食欲を掻き立てる味わいで絶品である。


 リーベルが、夢中で焼き魚とスープを食べている中、子供達は、食事の挨拶を口にしたっきり、全くそれらに手を付けず、ただじっと見つめていた。

 その姿をアルフレッドは、不思議に思い、彼らの間に移動ししゃがみこんだ。


「どうしたんですか? スープが冷めてしまいますよ」


 すると、彼の左隣にいる女の子が彼の袖を引っ張る。


「本当に食べていいの? 」

「ええ、食べていいですよ」

「でも、リラ達、何も役に立ったことしてないし……」


 女の子の顔が俯く。

 子供慣れしていないアルフレッドは、どうしていいか分からなくなったが、先程のリーベルの行動を思い出す。

 この行動が正解かどうかは分からないが、彼は彼女の背中をそっと擦った。


「してますよ。料理を一緒に作ったじゃないですか」

「けど、それだけじゃ……」

「それで十分です。見てください、目の前にいる白のローブを着たお姉さんを」


 そう言うと、彼はリーベルの方を指さした。

 それに合わせて子供達もリーベルに目を向ける。

 いきなりの事に面食らうリーベル。

 木製のスプーンでスープをすする手が止まる。


「あのお姉さんは、料理のお手伝いを一切していないのに、何食わぬ顔で幸せそうに食べてますよ」

「なっ! アルフレッド、いきなり何よ! 」

「冗談ですよ、リーベル様。あのお姉ちゃんも食べてるんですから、君達が食べるのは当然の事なんです」

「本当に? 」

「本当ですよ。さあ、召し上げれ」


 アルフレッドは、地面に置かれたスープの入ったお椀を手に取り、女の子に手渡す。

 右側にいる男の子にも同様に手渡すと、彼らは一瞬目を合わせ、「いただきます」と元気よく叫ぶと、勢いよくスープを飲み始めた。

 相当お腹が空いていたのか、あっという間にスープは無くなり、焼き魚も骨に身がほとんど残っていないほど綺麗に食べていた。


「美味かった~! お兄ちゃん、ありがとう」


 子供達は口を揃えて、アルフレッドに言うと、彼もその言葉に笑顔で応えた。

 その後、子供達が率先して、料理で使ったナイフや鍋、更にはお椀やスプーンを綺麗に洗っていた。

 冗談とはいえ、アルフレッドの言葉が気になったリーベルも、自分のお椀とスプーンを洗った。


 食事もひと段落し、再び子供達と共に焚火を囲むリーベルとアルフレッド。

 子供達は、リーベルを挟み、寄り添うように座っている。


「君達、名前は? 女の子の方はリラさんで良かったですか? 」


 アルフレッドの問いかけにリラは頷く。


「僕は、カイル。双子なんだ」


 髪型が違うため、気づいていなかったが、確かに顔はよく似ていた。


「リラさんにカイルさんか。よろしな」

「アルフレッド、子供相手に固すぎるわよ。子供達も委縮しちゃうわ」

「申し訳ございません、リーベル様。それじゃあ、リラとカイル。二人ともどうしてそんな傷だらけの状態でいたのですか」

「えっと、それはね」


 そうカイルが話し始めた時、大きなあくびをする声が聞こえた。

 声の先には、リーベルの二の腕にもたれウトウトするリラの姿があった。

 カイルも話し始めたものの、その目は今にも眠りそうなトロっとした目をしている。


「二人とも疲れたんだね。ゆっくりお休み」


 リーベルは、リラとカイルの頭をそっとなでると、二人ともリーベルに寄り添う形で眠りについた。


「幸せそうに眠っているわね」

「ええ、本当に。しかし、彼らはなぜこんな場所にいたのでしょうか」

「何か事情がありそうね。明日、起きたら聞いてみまひょう。私もそろそろ眠くなってきました」

「リーベル様もお疲れでしょう。私が、見張り番を致しますので、リーベル様はゆっくりお休みください」

「ありがとう、アルフレッド」


 リーベルが眠りについたのを確認し、アルフレッドはそっと彼らに毛布を掛けた。


 夜空に浮かぶ満月が雲に覆われていく。

 アルフレッドは、夜空を眺めながら、嫌な予感が胸中を渦巻いていくを感じていた。


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