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隻眼聖騎士と神裔の王女  作者: 六条 甘太
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世界の秩序の終焉


 太陽暦555年 12月 24日 23時 59分。


 この日、この瞬間、世界の秩序は乱れていった。


 サンフレア王国。

 太陽神アポロンを崇拝し、この世界の七つの大国の一つである。


 サンフレア王国、王都ソレイユ。

 その中心に位置する白と金で彩られた煌びやかなソレイユ王宮は、混沌の闇に包まれていた。


「フレイア様、お逃げください!」


 聖騎士は、サンフレア王国の王女フレイアの腕を掴み王室から連れ出そうとした。


 既に、混沌の闇は王宮中を支配し、逃げ道は王室の玉座の下にある隠し通路のみとなっていた。


 しかし、彼女は一歩も動こうとしない。


「国民を見捨てて逃げる事など、私には出来ません」

「ですが、このままですとフレイア様の身に……」

「もう覚悟は出来ております。私に構わず、国民の避難を優先しなさい」


 彼女は、真っ直ぐに聖騎士を見つめる。

 彼女の真剣な表情の裏には、どこか悲しげな雰囲気をその聖騎士は感じ取っていた。


「私は、フレイア様を見捨てる事など出来ません!それは、王国聖騎士としてではない。一人の男として……」


 聖騎士は、その場に跪き、グッと歯をくいしばり涙をこらえると、彼女の右手を優しく両手で包んだ。


「泣かないで下さい。これは決して別れではないのです。新たな私たちの旅立ちなのですから。でないと、私は……」


 彼女は、悲しみの感情を抑え切れず、両目から溢れんばかりの涙を流していた。


 "ポツリ"


 彼女の涙が、聖騎士の手の甲に落ちる。


「フレイア様、私は心からあなたを愛しております」

「私もです。あなたを愛しています」


 彼女と聖騎士は、そっと唇と唇を重ね合わす。


「何だか、しょっぱいですね、初めてのキスの味は」


 彼女は、聖騎士に優しく微笑みかける。

 その微笑みに、聖騎士も両目を潤ませながら、優しく微笑み返す。


「そうだ、明日は18度目の誕生日でしたわね。何かプレゼントをしないといけませんわね」

「今はそんな事をおっしゃられてる場合では……それにフレイア様も明日は……」

「いいのです。私は、もうプレゼントを頂きましたから」


 彼女は、左手で軽く聖騎士の唇に触れる。

 聖騎士は、少し恥ずかしくなり、頬を赤らめる。


「あら、頬が真っ赤ですわ。どうかされましたの?お酒でも飲みすぎましたか?それとも風邪でも引きましたか?」

「フッ、フレイア様!からかわないでください」

「フフフッ、ごめんなさい。あなたがあまりにも可愛かったもので。では、プレゼントをお渡し致します」


 そう言うと、彼女は、下唇をギュッと噛み締め血を出すと、再び聖騎士の口づけを交わす。


 口づけと共に彼女の血が聖騎士の体内に流れていく。


 その瞬間、聖騎士は、自らの心の中に何者かが介入していくような不思議な感覚に襲われる。

 ドクンドクンと心臓が高鳴る。


 彼女は、数秒間口づけを交わし、聖騎士の唇からそっと離れていった。

 一方の聖騎士は、呼吸を荒くさせながら、彼女へ問う。


「いったい……何が?」

「私の力を授けました」

「私の力……もしや、太陽神アポロンの!」

「そうです。アポロンの子孫である私の血液とあなたの神経が一つになり、あなたは、自らアポロンの力を引き出す事ができるのです。しかし、その代償として左目の視力は失われてしまいました」


 彼女の言葉に、聖騎士は驚きを隠せない。

 ゆっくりと右目をつむると彼の視界は真っ暗な世界に変わっていた。

 そして、彼は、右目を開くと、彼女の右手を包んでいた両手を離し自らの手の平を見つめる。


「しかしながら、フレイア様。なぜ、私にこの力をお与えくださったのですか」

「あなたが、この王国を救う希望であり、私の最愛の人だからです。あなたの側にずっと私が存在し続ける証です」


 彼女は、聖騎士のスキっとした爽やかな黒い髪を優しく撫でる。


「フレイア様」

「最後に私のワガママを聞いてもらってもいいですか?」

「ええ、何なりと」

「私の事を"フレイア"と呼んでください」

「それは……」


 聖騎士は、思わず口籠る。

 しかし、彼女は真っ直ぐに聖騎士を見つめる。


 その瞬間に聖騎士は悟った。

 これが、彼女との最後の別れなのだと。


「……フレイア、俺は、お前を愛している」

「私も、愛しています。国民をお願いします」


 彼女はそう言うと、王室の扉の前へとゆっくり足を進める。


 聖騎士は、彼女の背中から伝わる覚悟を見届けつつ、玉座の下の隠し通路の扉を開けた。

 螺旋状になった階段は地下へと繋がっているようだ。


 聖騎士は、地下へ続く階段を確認した後、再び彼女の方に視線を向けた。


 すると、彼女は王室の扉に手をかけ、ゆっくりと聖騎士の方を振り返る。


 そして、彼女は涙を頬に伝せながらニッコリと微笑むと、扉を開け、混沌の中へと消えていった。


 聖騎士は、彼女の笑顔を脳内に焼き付け、王宮から去っていったのであった。





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