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命名される山田くん


 態度の悪いロリっ子に少しだけ殺意を抱きながら、これからどうなるのかと不安にもなっていた。

通報はしない、けどこれから接近禁止とかなるんだろうか……そんなことになってしまったら、絶望の日々を過ごすことになるんだろうな。


あの幸せな二週間を糧にこれから過ごしていかなければいけないのか……。

録音とかしておけばよかった。

あわよくば盗撮もしとけばよかった。

声を聞けるだけで満足していた二週間が悔やまれる。


えっ、やっちゃう?盗撮。今からでも遅くはないよね?あーでも俺、無音カメラのアプリとってないからなー。

思い出にってお願いするしかないかな。

引き受けてくれるかな?

んー見た目天使な美咲ちゃんでもここまではしてくれないだろうな…仏の顔もって言うし。

図々しいとか怒られるんだろうな。

まあ、それはそれでご立腹な彼女を見れる貴重な機会だと思うけど。


うんうん考えている俺の様子がどうやらとても反省しているように見えたようで、「そこまで反省しているならしょうがない」と言っていただけた。

心の声が聞こえなくて本当に良かった。

ナイス勘違い、ありがとう勘違い。


「で、本題のあなたのこれからの処遇だけど」


おおっと、まだ心の準備とか出来てないんだけどな。

言うのね、今から言うのね、ちょっと待ってくれるかな。心と脳内メモリーに最後だからいっぱい美咲ちゃんのお顔を、保存しておきたいのよ。


「では、判決を言い渡す!!被告を有罪」


あぁー言われたー。

しかも有罪って……いや、分かってたけどさ、実際口頭で言われるとまた違うじゃない。言葉の重みがさ。


「山田の刑に処す。以上」


キリッと言い放った美咲ちゃん。これもまた絵になる彼女だけれども。

山田の刑って何。

法律とか詳しくないんだけど、そんなのがあるの?


「えっと……美咲ちゃん、どう言う刑罰なのかな?分かりやすく教えてもらえると嬉しいんだけど」


うん、ダメな子を見る目をされたらゾクゾクしちゃうから逆効果だよ。美咲ちゃん。


「はぁ、仕方ないな。一回しか説明しないからちゃんと聞いてなさいよ」


はーいと良い子のお返事は心の中だけにしておく。


「あなたの呼び方は今日から“山田”になります。そして、ストーカーから私の下僕として毎日朝、夕の食事を作ること。

朝、時間になったら私を起こすこと。これがあなたへの罰です」


うーん、この場合……


「美咲ちゃん、それは俺にとってご褒美にしかならないんじゃないかな?」

「そうでもないわよ。本名は呼んでもらえないんだから」

「美咲ちゃん、俺的にはどんな名前で呼ばれても俺を呼んでくれてるって認識があれば嬉しいんだよ」

「かなり考えてのこの罰だったんだけど……不二子ちゃんどう思う?」

「やっぱり、通報した方がいいと思うよ。何されても、こいつ喜びそうだし」


ジト目で見てくるロリっ子。

ふむ、言い方に腹は立つが、よく分かってると言えば分かってるな。

何されても、美咲ちゃんがする事は全部俺へのご褒美だ。


「うーん、今さら考えるの面ど……いい案が浮かばないのよね……取り敢えず、これでやってもらって、それでも私の気が済まなくなったら追加するってことでどうかしら」


考えるの面倒だったんだね、美咲ちゃん。俺はそれでいいけどさ、そこのロリっ子は納得するのかな。


「美咲お姉ちゃんがそれでいいなら良いよ」


おや、あっさりオッケー出しちゃうのね。


「いいとは思うけど、何個か条件を付け足してもいい?美咲お姉ちゃん」


こてっと小首をかしげて美咲ちゃんを見つめる不二子ちゃん。

可愛いけどさ、なんかなんかさ……いや、女の子同士だって分かっているけどさぁ、あざとすぎない?

そんなんでころっと墜ちるほど美咲ちゃんは軽くないんだからなっ!!

いや、俺も自分で何ポジだよって思うけどさぁ、美咲ちゃんに恋する者として、男女関係なくそんな風に美咲ちゃんを見てほしくないんだよね。

あっ、もしやこれが独占欲?


「おい、妄想に浸っているそこの変態改め山田。ちゃんと聞いておけよ。条件一つ目、美咲お姉ちゃんの部屋には絶対に入らないこと。二つ目、お泊まりは禁止!!三つ目、美咲お姉ちゃんに何かあったときは身を挺して守れ、そしてあわよくば死ね」


最後の方は美咲ちゃんに聞こえたらマズいと思ったのか小声だったけど、俺にははっきり聞こえた。

殺意のこもった心からの言葉、そして睨み。ふむ、不二子ちゃんのご両親、育て方を間違えてらっしゃるようです。ご家庭で今一度、命についてのお話し合いをした方がいいと思いますよ。


「それはとてもいい案ね。さすが不二子ちゃん」


パチパチと何も知らない美咲ちゃんは手を叩く。

彼女の笑顔はとても綺麗だったから、あぁこの笑顔を守れるのならばそれでもいいかと思ってしまった。



 贖罪であるご飯作りのため、台所へ移動。

俺が目の前の光景を見てまず、したことは現実逃避である。


 少し懐かしさを感じさせるような、料理上手なお母さんやお祖母さんの包丁の音がリズミカルにトントン聞こえていただろうその場所は、大量のゴミで埋め尽くされていた。

しかもこのゴミ袋の中身は分別なんてくそくらえと言わんばかりに燃えるゴミとペットボトル、不燃物がまとめて入れてある。

ふう、一見見ただけでこれ程分かってしまうとは。自分が恐ろしいぜ。

しかも、指定袋にさえ入れてないとは……強敵すぎる。

これ、夜ご飯までに終わるかな?

絶望半分の目で後ろにいる美咲ちゃんを見てみる。あわよくば手伝いなぞしていただけないかと思いながら。


あっ、無理やわ。

振り返って彼女の顔を見て分かった。

俺と同じ現実逃避の目をしてらっしゃった。

うん、そうだよね。お手伝い云々の前にそんなの事が出来るならこんなになってるはずが無いし、俺への罰として食事の準備なんて思いつかない。

その人の食の好みとかさ、そもそもストーカーしてた奴にさせるようなことじゃ無い。

何入れられるか分かったもんじゃ無いから怖いし。いや、俺が何かするとかの前によ、そういうリスクがあるっていう前提の話。


じゃああれか、俺が妄想してた美咲ちゃんの手作りお弁当を持ってピクニックはできないのか……タコさんウインナーを期待していたけれど、まあそれなら仕方ない。俺が作れば問題ないし。目下の問題点は今日の晩御飯をちゃんと作れるかどうかだ。

取り敢えず冷蔵庫を開けてみる。

閉める。

ふう、予想していたとは言え空っぽの冷蔵庫なんて家電量販店でしか見たことないぞ。

うーむ、晩御飯はさっき美咲ちゃんから六時と指示されたから、それまでにここの片付けと買い出しか……俺って一応は我が女帝に扱き使われまくってたから大体の家事は出来るけど食事のレパートリーが少なすぎるし作るのに時間が掛かるんだよな。

ただ今の時刻は十四時。タイムリミットまであと四時間。

やるしかないだろ俺、頑張れ山田!!





「えっとーどうかな?美味しい?少ないレパートリーの中でも一番自信のあるやつ作って見たんだけど……」

「……」


おっおぅ。

俺の愛が沢山詰まりすぎて苦しいのか美咲ちゃんのお返事が聞こえない。

「きゃー山田の手料理なんて正直あんまり期待してなかったけど美味しいじゃない。あれ、なんか山田がかっこよく見える?え、やだ私っ山田に餌付けさせられたの?惚れさせられちゃったの?」

ぐらい思ってくれてるかも知れない。

あっ、大丈夫。分かってます、身の程くらい分かってますよ。ほら、頑張ったご褒美ってやつ。犬だってさぁおやつくれなきゃおてとかお座りとかやってられないからね。

目の前の彼女は黙々とスプーンを口に運んでいく。表情は一切変わらないけど不味そうな顔はしてないみたいだし合格ってところなんだろう。

まあ、親子丼で不味くなることなんてあんまりないんだろうけど。


手抜きとか言わないで。これでも時間ギリギリで作ったんだから。

掃除と言ってもさ、ゴミ袋には一応まとめてあるから床とかには散らばってないのよ、ただ一つづつ開けては分別しての作業が大変だったけど。

んで、ゴミ収集場所には当日の朝しか出せないから取り敢えず日本庭園のご立派なお庭に移動して曜日ごとにまとめて置いた。

俺が出したゴミじゃないのにご立派なお庭を汚しているようでなんだか申し訳ない気持ちになった。


掃き掃除に拭き掃除、それが終わったのが二時間後の午後四時。それから近くのスーパーに行って、食器洗いの洗剤やらスポンジ類が無かったからそれとお米、数日分の食材を買ってきた。

世の主婦(夫)さん達に敬意を称しつつ、筋トレを寝る前の日課にしようと密かに決意した。


ここで残りが一時間弱。

急いで米を炊飯器にセット。ありがたいお急ぎ炊きに感謝しつつ、必要な具材を切っていく。



タイムリミットまで後三分というところで美咲ちゃんがリビングに来た。

ふふっ、驚いていらっしゃる。それもそうだろう、あの惨状から数時間で綺麗にして、なお且つ晩御飯まで準備出来ているのだから。

どうだ美咲ちゃん、俺きっといい旦那さんになれると思うのだけど。


「何で二人分用意してあるの?不二子ちゃんはもう帰ったけど」

「ああ、これは俺の分だよ。一人で食べるより二人の方がいいでしょう?」


そう、あのロリっ子は俺がはあはあ言いながら掃除しているのを横目で見ながら「まあ頑張れ、変態山田」と薄笑いながらご退場されたのだ。

邪魔者がいなければ美咲ちゃんとの距離を埋めるべく頑張るのが山田の役割なので、お泊まり禁止だけど一緒にご飯食べるなとは言われて無かったよなと俺って天才じゃねと思える屁理屈を編み出していた。

勿論、これから毎日朝夕のご飯は一緒に食べるつもりなので二人分の食材を購入済みである。

ふふっ、変態は変態なりに変態の方へ思考を巡らすものなのだよ。爪が甘かったなぁロリっ子。


そして現在、俺の作った料理を二人で向かい合って食べている。

親子丼にサラダ、お味噌汁。

ドレッシングは何がいいか分からなかったから何種類か食卓に置いてみた。

美咲ちゃんはシーザーがお好きなのかな、今日の気分って事もあるし数日は全部置いて見よう。

あっ、お味噌汁は少し微笑んでくれたように見えた。

豆腐とわかめが好きなのかな。


こうやって少しずつでも美咲ちゃんの好きなものを知っていくって凄く嬉しい。

好きだって簡単な言葉が中々言えない俺だけど、少し猶予を貰えたのはとても幸運な事だ。

美咲ちゃんの好きなものを知っていくたびにもっともっと美咲ちゃんを好きになるんだろうな。

願わくば彼女にちゃんと好意を伝えられるまで彼女と一緒にご飯を食べられますように。


幸せを噛みしめながら俺は親子丼を平らげていった。


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