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捕まる山田くん


 多分会ったことがあるであろう女の子に何故か後ろを付いて来られている不思議な状況だけれど、美咲ちゃんに言われたとおりに家へ向かっております。


 近くを通ることはあっても、玄関先には来たことがなかったから、ちょっと嬉しい。

まあ、これからのことを考えると不安しかないんだけど。

これからどうなるのかな……。

通報……はしないって言ってたけど、正直されてもおかしくないって分かってるんだよね。

それ程悪いことだし。犯罪だし。

あー我が女帝には一生蔑んだ目で見られるんだろうな。


 複雑な心境のまま、玄関の前へ。

ピンポンとか押した方がいいよね。

よし、まずは深呼吸を。

吸ってー吐いてー吸ってーはい


「おい、さっさと入れ。変態」


そう言って何故か後ろから付いてきてたはずのロリっ子が、無遠慮に引き戸のドアをガラガラ音を立てながら開けた。

俺の背中を蹴るというアクション付きで。


「ふむ。お嬢ちゃん、人様のお家に入るときは、ピンポンか『こんにちはー』ってお声をかけるのが常識なんだよ。

何も言わずに勝手に家に入ったら不法侵入なんだからね。犯罪だよ?全く、これだから今時の若いもんは」


こうお説教をロリっ子に言ったら、お前が言うな。見たいな目で見られた。

何でかなー。

解せない訳じゃないよ。

ただ、思い当たる節が多すぎて、どれか分かんないだけ。


「残り三十秒~」


家の奥の方から聞こえた声。

愛しい美咲ちゃんの、可愛らしくもシビアな現状を伝える声が聞こえる。

ちゃんとカウントしてたんだね。こういう所はルーズじゃないんだなとか感心しつつ、声のする方へ歩いて行く。


襖の開けられたこじんまりとしたリビングらしき場所。

この家にピッタリすぎる年季の入った洋風な一人用の椅子に、スラッとした足を組んで優雅に微笑みながら座っていた美咲ちゃん。

土下座しろって言ってたけどさ、この美しさならば言われなくてもやってしまうと思う。

思わずって感じだと思うけど、本当に芸術作品のような美しさだったんだ。



 俺は今、絶賛後悔中である。

あっ、ストーカーをしたことではありません。

足を組んで座ってらっしゃる美咲ちゃんの正面で土下座する俺。

と言う構図。

本来ならば、やった事への後悔が先でしょう。常識的には。

でも、してる後悔はそれでは無い。

この、足を組んで座っていらっしゃる正面のやや下の方に俺の顔があるわけです。分かる人はすぐわかって下さるでしょう。

そう、パンチラもしくはムチムチの太ももを堪能できる至福の時間でもあるはず!!なのに、なのに……悲しいかな今の季節は冬。

寒さ対策万全の美咲ちゃんは可愛らしい萌えるような部屋着は着てくれていないのです。

悲しい、悲しいよ。

構図的には美術品。ご尊顔もスタイルも、申し分ないのに……。

部屋着だからだよね?

まさかそんな格好でお外出歩いたりしてないよね?

っていうかさ、これっていつもの格好なのかな?

あっ、もしかして俺が幻滅するようにとかそう仕向けてある感じですか?

いやいや、俺の愛を疑ってもらったら困るよ。こんな事ごときで冷めるような愛じゃないんだからな!!

俺はちゃんと愛せる。

大阪のおばちゃん並みにど派手なヒョウ柄全身コーデだとしても!!


 下からのアングルで紹介するならば、靴下は茶色のヒョウ柄でモフモフのやつ。しかし可愛さが無い。

ピンクのモフモフ、ヒョウ柄上下。それも何故か可愛さが無い。その中のティーシャツは唯一の無地で黒色に白い文字で『ヒョウ』ってまあまあ大きく書いてあった。

わざわざ言わなくても分かるよ。豹ってことはさ。

普通モフモフ系のって可愛らしく見えるよね。なのに何故可愛らしさの欠片も無いのか。逆にどこで手に入るのって気になってくる。

聞ける日は来るかな~。

まあ、これからのお話し合い次第だと思うけど。



 俺が土下座をしてごめんなさいをして、両者無言の時間が過ぎております。

何分くらいかな。

ようやく足が痺れてきた頃にやっと美咲ちゃんが口を開いた。


「何でバレないと思ったの?」

「え……何故バレたのかな?計画は完璧だったはず……」


そう、俺って分からないように計画は完璧だったはず、なのに。


「白いぬいぐるみに赤色の糸で縫ったら、一度開きましたって主張しまくってるのと同じでしょう?」

「手術の後だから、血とか滲むかなぁって……」

「そこで何故リアルを追求したのよ」


えー女の子ってロマンチックも好きだけど結構現実主義って聞いたよ?


「あと、俺と美咲ちゃんの運命の赤い糸もかけてみたんだけど……」

「……」

「美咲お姉ちゃん、警察に通報しよう!!」

「!!反省してます!!……?と言うか、何で君まだいるの?」


俺を会って早々変態と言い、美咲ちゃんのお家まで公園から着いてきたあげく、無遠慮に人様の家の玄関を開けた挙げ句、お家の中まで侵入してきていたらしい。

君~図々しいにもほどがあるぞ。

あれ、もしかしてストーカー?俺のストーカーなのかな?でもごめんね、俺は美咲ちゃんだけのものだからさ、この好意は受け取れないの。きっと俺の他にいい男いっぱいいると思う。だからね、ドンマイ!!

失恋した分だけ女の子は綺麗になるとか聞いたことあったと思うよ。

いやーしかし、ストーカーがストーカーされていたとは。美咲ちゃんの事だけで頭がいっぱいでこの子の存在すら今の今まで気づいてなかった。


「私の従姉妹よ。不二子ちゃんって言うの。この見た目だけど中二よ」


え?従姉妹?知らなかったとはいえ失礼な態度は取ってなかったはず、だよな、な?

じゃあ、俺のストーカーではないのか……しかし小っさいな。百五十センチメートル有るかな?位だし。これで中二とは……


「今、年のわりに小さいとか思っただろう!!失礼な!!まだ成長期だから、見込みあるから」


あるかな……。

だってほら、お名前の割にいろんな所が成長されてないじゃない?

ナイスバディーでボンキュッボンのあの方と比べちゃうじゃない?


「こらぁ!!失礼な奴だな!!さっきから口に出てるから!!あの高貴なお方と私を比べることがおこがましいと思えぇ!!」

「え、口に出てた?」


うんうんと頷く美咲ちゃんと不二子ちゃん。

え、マジで?なんかごめんね。


「でも、何で俺だって分かったの」

「式の最中にあんなわかりやすく棒読みで退席したあげく、戻ってきたら第二ボタンが無いって周りの皆から笑われてたでしょ。そして、これが小モチのお腹の中から出てきたら、お前しかいないだろ!!」

「小モチ?」

「盗聴器お腹に入れられた子よ」

よしよしと優しく小モチのお腹を撫でる美咲ちゃん。

「そうなんだ、ごめん小モチ。それと美咲ちゃん、凄いね。名探偵になれるよ!!」

「美咲ちゃん呼びがウザいな。この前までは佐伯さん呼びだったよね?」

「うん、ストーカーさんの常識で呼んでみた」

「誰から聞いたのそんな常識」

「なんとなく……?ストーカーさんって大好きな子の下の名前プラスちゃん付けが常識かなって。イメージだけど」

「……そう。やめは「しない!!」」

「……そう」

「ほんっとにキモっ」


吐き捨てるようにそう言ったロリっ子にほんの少しだけ殺意が沸いてしまった。


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