1話
太古の昔。
神は陸を作り、海を作り、空を作り、世界を作った。
植物を作った、動物を作った。
最後の動物に人類を作った。
竜人族、巨人族、魚人族、オーク族、獣人族、エルフ族、そして人族。
最後の人類を作った神は満足し、人類に魔力、知恵、力を分け与え、7つの種族が繁栄することを楽しみにしばらくの眠りについた。
神が眠りから目覚めると、7つの種族は繁栄どころか喧嘩に明け暮れていた。
神は急いで新しい陸を作り、7つの種族を離れた所に住まわせた。
中央の1番大きな大陸には人族、エルフ族、オーク族。南の次に大きな大陸には竜人族、巨人族。東の諸島には魚人族。西の諸島には獣人族。
疲れ果てた神は陸を、海を、空を作る力を世界に残して。陸を離れ、空を離れ、地上からは見えないどこかへ消えてしまった。
しかし、その後も争いは続く。
中央大陸の北西、パイセス国の国軍兵舎。
「おい、聞いたか? オークの奴らまた蜂起したらしいぜ」
朝と昼の間と言える刻、体と声の大きさがその職種を物語る男が彼より少し小さめの男に声をかける。椅子に腰掛け、新聞を読みながらコーヒーをすすっていた男は、朝の至福のひと時に邪魔が入ったと言わんばかりのため息をつきつつ、既知の情報をどうだとばかりに教える大柄な男に返答する。
「今週の新聞に出てたよ」
短く答えられた大柄な男は少しつまらなさそうに、しかし予想通りの反応が返ってきたことに満足した表情でさらに声をかける。
「ま、アルマスが俺より遅く新聞を読んでるはずもないか。そういや、他の奴らは?」
「訓練所だよ」
アルマスと呼ばれた男は読み終えた新聞を折りたたむとコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
「あいつら俺の小便も待てねえほどせっかちだったか?」
小言を言いながら大柄な男は廊下を歩いて立ち去っていく。コーヒーカップを流台へ持ち運び、給仕係を務める初老の女性に手渡すと先ほどの男の後を追った。
訓練所と呼ばれた物は、屋根と腰の位置ほどの高さのある長机があるだけの物だ。長机の上には木製の練習用魔道銃が等間隔に紐で縛りつけてある。そして、長机の奥には一定の距離に丸い的が設置してある。実に簡素な造りの訓練所は人もまばらで使用率の低さを物語っていた。
ただただボケーっと訓練所まで歩いてきたアルマスは、先ほどの大柄な男とさらに2人の男のグループを発見し呼びかける。
「調子はどうだナセル〜?」
「お、アルマスも来たか」
ナセルと呼びかけられ返事をした先ほどの男は、握っていた練習用魔動銃を長机において手を振った。続けて周りにいた2人の男も声をかける。
「おうアルマス! お前も今晩の飯掛けて勝負するか? ちなみに今ナセルがビリだぜ」
茶髪にアルマスと同じくらいの背丈を持つドラヘが楽しそうに声をかけてくる。実際に夕食を掛けて的当てを競っているようで、ドラヘは自信満々にアルマスを誘う。
その後ろから、4人の中では1番小柄なブルアベがドラヘをなだめるように割り込んでくる。
「アルマスも入れるなら一旦スコアは帳消しにするか。ナセルもそれがいいだろ?」
余裕たっぷりの表情でドラヘとナセルに目配せする。ここまでの会話の中で大体の順位が割り出すことは容易で、ナセルは助かったとでも言いたげな表情をしている。ドラヘはナセルに負ける気は全く無いようで、ブルアベ同様余裕の表情だ。アルマスはそんな3人の様子を見て楽しそうに承諾する。
「それじゃ入れてもらおうかな」
現在の人族が主な武器として用いているのが魔動銃銃だ。銃身に弾が込められたマガジンをセットし、使用者自身の魔力を使用して弾丸を射出する構造になっている。
人族は魔力を原動力として動く大小様々な魔動機器を開発し、利用してきた。生産にかかるコストや使用中は魔力を放出し続ける必要があることから、広い用途で流通しているわけでは無いが、ある程度の物は庶民レベルにも行き渡っている。
魔動機械を製造する技術は人族で占有しているため、他の種族が使用する武器は弓矢や槍、又、それらに魔法を付与した物が多いとされており、生活の中でも魔動機器の類は全く見られ無い。