上京したい女の子とかぼちゃ
タイトルをお題として他の方にいただいたものです。
東京に行きたいんです。
その申し出を、両親は無言で返事をした。
女優になりたかった。その為の学校に行くことも、オーディションを受けることも、両親はいい顔をしなかった。
憧れの劇団がある、東京に行きたかった。オーディションも、舞台の上演も、様々な機会に出会うきっかけもきっと多い、東京に。
いっそ、家出という形で上京してやろうか。そんなことを、本気で考えだした頃の話だった。
「ご飯よ」
「はーい」
いつも賑やかだったはずの食卓は、私が東京に行きたいという話をしだしてから音が消えていっていた。
憂鬱な気持ちを抱えながらリビングに向かうと、私のずっと好きだった匂いが充満していた。
「……かぼちゃの煮付け?」
「好きだったでしょ?」
少し笑いながら言った母に、私は目を見開いた。その控えがちな笑顔を久々に見た気がした。
最近ずっと眉間に皺を寄せていた父は、かぼちゃの煮付けを口にして表情を少し緩めていた。
席について、手を合わせてから煮付けに箸を付ける。大好きな、母の味だった。
そういえば、その味付けの材料を教えて貰ったことがなかった。上京すれば、この味ともお別れなのか。
思わず笑みが零れた。私の心は、決まった。笑顔で、久々に明るい会話をしながら食事を進める両親に私は告げる。
「私、やっぱり東京に行くから」