海洋国家・マグダラ1-2
苛立ちをぶつけるような荒々しい足音が廊下に響き渡る。
先の戦闘で機体は大破したが、ボニーリードは軽い打撲のみだった為にそのまま本部へと呼び出されたのであった。
「ボニーリード、ただいま帰還しました」
むすっとした表情で感情を乗せずに喋るという高等技能を見た玉座に座る男はくすくすと笑う。
「ああ、おかえり。手酷くやられたようだが無事で良かったよ。キミはエースであり一国を代表する者なのだからね」
「ええ、中身は無事でしたよ。外装は滅茶苦茶だけどな」
ケッと吐き捨てるボニーリードの態度を見ても男の笑顔は崩れない。
男は玉座から立ち上がるとゆっくりと歩み寄る。優しく抱き寄せ、その頭に手をふわりと乗せる。
「マシナリーは後で治せるじゃないか。ボクはキミが無事で本当に嬉しかったんだよ?……ありがとう、生き残ってくれて」
「っ、うるせえよ!離れろって!」
一瞬、惚けていたのかされるがままだったボニーリード。我に返った瞬間に、男の腕の中から逃れようともがく。
男は再びくすりと笑うと大人しくボニーリードを解放する。
「酷いなぁ……いくらボクでも女 の子にそんなに嫌がられると傷つくなぁ」
「女の子言うんじゃねぇよ、クソ……【トライソウル】の補修するから国に帰る」
「キミのマシナリーに使われているのはシーフレームだったっかな……我が国のマギアフレームに改修する予定はないかい?キミのその熱ならば良い性能になると思うよ」
「ねぇよ。陸でも空でもうちのシーフレームでてっぺん取るのが俺の役割だ。俺も、シーフレームも、弱くねぇんだ」
「うーん、勿体ないなぁ……でも、無理強いはしないよ」
玉座へと戻り、腰掛けた男の表情が切り替わる。
「ボニーリード・マグダラ、必ず帰って来てくれ。キミの力は破天同盟にとってかけがえのないものだ」
「分かってるよ、ちゃっちゃと終わらせて戻ってくるさ!」
行きとは正反対に楽しげな足音を響かせながら彼女は愛機の待つドックへと向かっていった。
「いるんだろう、ヴィヴィアン」
「あら、バレてましたか?」
文字通り、柱の影から水のような印象の女性__ヴィヴィアンが姿を現す。その腕で絡むように持たれた杖から鈴の音が響く。
「盗み見なくても、ボクは別に良かったんだよ?」
「あらあら、ボニーちゃんが照れちゃうでしょう?あの子、素直じゃないから」
「そこが可愛らしいじゃないか。ボクは素直な子も好きだけどそうじゃない子も勿論大好きさ」
「あの男みたいな博愛主義かしら……貴方も一度、禁欲生活を送ってみるのはどうかしら、ねぇアーサー?」
鈴が鳴る。空気が凍る。ヴィヴィアンのその雰囲気に彼女が本気であると察した男__アーサーは降参とでもいうかのように両の掌を彼女へと向けた。
「キミに本気で監禁されたら誰も抜け出せないよ……ごめんなさい」
「……フフ、ちょっと大人げなかったかしら。冗談よ、貴方は王なのだからハーレムの一つや二つ作っても問題ないわよ」
「本気にしか見えなかったんだけど……うん、そういうことにしようか!」
ピリピリとした空気が霧散し、間の抜けたものへと変わる。その空気を引き締める為なのかどうなのかアーサーが咳払いをする。
「そういえば、キミが喚んだあの子の様子はどうだい?確か……ヨーヘイくんだったっけ?」
「ええ、ヨーヘイ・キシミツよ。騎士たちが久しぶりに新人が加わるかもしれないと、全員が気合いを入れて鍛えているわ。マシナリーの操作も天性の物を感じるし……空いていた円卓も埋まるかもね」
「そうか……それは、期待できるね」
【用語説明】
なんもないよ(´・ω・`)