翡翠楽士・紅榴兵器2-1
燃えろ燃えろ燃え尽きろ
雑音だ雑音だ黙ってしまえ
どうか私に構わないでくれ
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風を切り、矢の雨が降り注ぐ。
それを両端に刃の備えられた棍を回転させることによって落とすのは青と白に彩られた非常に美しいマシナリーだ。
矢を放ったのは翼型のブースターにより空を舞う翡翠色のマシナリー。再び弓に矢をつがえ、放つ。放たれたのは一度、しかし飛んだのは何十にも及ぶ矢の雨だ。
「同じ手をされてもっ!」
先ほどの焼き回しのように矢を叩き落とす。が、刃が矢に触れた瞬間に矢が爆発する。先端に爆薬が仕込まれていたのだ。
爆発により体勢を崩した所に第三射が襲い掛かる。矢一本一本は小さな傷しか与えないが、何本かが四肢の関節部に突き刺さり、相手の動きを阻害する。
「しまった!?」
「これで詰みだよ」
ゆっくりと舞い降りた翡翠のマシナリーが胸部にあるのコックピット部分に矢の先端を向けつつ近づく。
「う……ま、参った」
「見た目が子供で油断したかな?僕の方がキミより強いって理解してもらえたと思うけど……これから、僕の指示にはちゃんと従ってもらうからね?」
「はーい……」
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矢だらけのマシナリーを黒髪の、どこか間の抜けた雰囲気の少年が見つめている。
「こんなになるまでやらなくてもいいんじゃないかなぁ」
「やるなら徹底的にが僕の信条さ。反抗心が浮かばないようにね、ヨーヘイ」
「うぇ!?聞いてたんすか、トリスタン……さん」
背後から声を掛けられ、黒髪の少年__ヨーヘイは軽く飛び上がりながら振り向く。
「結構地獄耳だからね、僕。それと見た目は派手だけど傷ついてるのは表面だけだからパッパッと傷を埋めたらなんとかなるよその機体」
「マジっすか……」
作業員たちがその言葉を肯定するように、慣れた手つきで矢を引き抜くと上から溶けた金属のような物を塗り広げていく。
「さて、邪魔になるから話しは向こうでしよう。ついてきて」
「うっす」
無言でせかせかと歩くトリスタンの後ろをヨーヘイはゆっくりとした足取りで追う。単純に身長差によるコンパスの差だ。
行き着いた部屋ではガウェインが腕を組み、目を閉じた状態で座席に腰かけている。
「お待たせ、次の戦場についての話をしようか」
「うっす」
「…………」
懐から取り出したパッドを操作し、地図を表示させると二人に見えるように机に置く。地図を見る為に今まで閉じていたガウェインの目が開く。
「戦場予定地は大小様々な岩場が点在しているね。僕たちはこの西の辺りから攻める。こちらが出す戦力は500と僕とガウェイン、そしてキミだ」
「トリスタンさんー作戦とかは決めてるんすか?」
「作戦というか、いつものガウェインの運用で行く予定だよ。ガウェイン以外の戦力で敵を固めて、後は彼が凪ぎ払う。いつも通りだね」
「……」
「つまり、ガウェインが作戦の肝って奴っすね!」
「そうだね。当日の天候は晴れだけど、風が強いから雲が流れてくる可能性が高い。太陽のあるうちに短期決戦でいこう」
無言でガウェインが頷く。その後、ヨーヘイを睨み付ける。
「え、なんすかガウェイン……?」
「……」
睨みが強くなる。
「あー……ヨーヘイ、ガウェインは自分にさん付けされてないのを気にしてるみたいだよこれ」
深々とガウェインが頷く。
「あっ、成る程……ごめんなさいっす、ガウェインさん」
満足げに何度もガウェインは頷く。
「結構、そういうの気にするよねガウェイン……じゃ、決行は五日後だからね。体調を整えるように、解散!」