海洋国家・マグダラ1-10
「……以上が帝国によるマグダラへの戦闘行為の簡単な内容だ」
その純白の円卓には13の席が有り、その内7つが埋まっている。
全員に説明をしているのは武骨な鉄仮面を被った人物で、動く度に歯車同士が擦れる音が微かに聞こえる。
「帝国"が"マグダラを攻撃したねぇ……それ、本当なのかアグラヴェイン?」
鉄仮面の男__アグラヴェインに疑問を投げ掛けるのは水色の瞳を持つ初老の男だ。ニヤニヤとした表情で相手がどう答えてくるのかを待っている。
「私は事実を述べただけだ」
「かーっ!おもんねぇ答えばかりだなホントに!脳味噌も鉄屑に置き換わって来たんじゃないのお前?」
「置き換わっていたら私は思考出来ないが?」
「まあまあ、アグラヴェインさんもパロミデスさんも喧嘩になる前にやめましょ?ね?」
険悪な雰囲気となる寸前に黄色の髪の青年がアグラヴェインと初老の男__パロミデスを止める。
「喧嘩じゃないよーディナダンくん。これ、俺とアグラヴェインのちょっとしたじゃれあいだって……ねー!」
「……そうなのか?」
「相方がじゃれあいと思ってくれてなかったんだが!?」
『オーノー!』と頭を抱えて叫ぶその様子に、くすくすと金髪の男__アーサーが笑いを漏らす。
「パロミデスがいると会が賑やかになって楽しいねぇ。」
「楽しんでいる場合ではないだろう……兎に角、マグダラの被害状況はどうなっている?」
「QAR号の砲が三門破損、胴体部分に穴が空き、航行は修理が終わるまで不可能。同時に作業員も何人か負傷。マグダラのエース機【ウォーターハート】が中破して戦闘は困難。死者は出ていない」
「成る程……死者は出ていないと」
琥珀の長髪の男が顎に蓄えられた同じ色の髭を撫でる。深く思案しているのかその瞳は閉じられたままだ。
翡翠色の瞳の少年が、アグラヴェインへと質問を投げる。
「マグダラに帝国が攻撃した目的は一体なんなのだろう……滅ぼすのが目的なら、死者が出ていると思うのだけれど」
「シーフレーム作成用のインゴットがかなりの量を盗まれたそうだ」
「もしかして、帝国でもシーフレームの機体を作ろうとしているとかですかね?」
先ほど喧嘩を止めようとした青年__ディナダンの言葉にアグラヴェインが頷く。
「恐らくはそうだろう、だが作れても小型一機だけだ。対局には影響しない」
「ですよねー……シーフレームって、水上戦以外だと脆いし特に何もないですし、ほっておいても問題なさそうですね!」
「おいちゃんはそうは思わないけどねー、アレ結構軽いから速度特化の小型機が作られたらヤバそうじゃない?」
「確かに軽いですけど、脆すぎますよ。速度にフレームが耐えきれずに関節部分が破損の可能性があります」
「……関節部分だけを別フレームで作ってくる可能性はないだろうか?」
「無いとは言い切れませんが……いや、不可能です。フレーム同士の繋ぎ目はやはり脆いですし、完璧に接合する技術なんてどこの国も持っていませんよ」
「うーん、キミたち。ちょっと話ズレて来てるよ。フレームのことじゃなくてこれからどうするかを考えよう」
アーサーが脱線し始めた話を戻すべく、一つのポイントに注目させる。
「どうするってなぁ……マグダラにうちの誰かを支援として配置するか?」
「マグダラの首領は不要と言っている」
「ほーん……エドワードのおっさんからしたらこの機にうちが取り込みに掛かってると思うから却下するわな……ま、実際その通りだけど」
「悪い顔してますよ、パロミデス。騎士がそういう顔はいけないです」
「おっと、失敬失敬」
ニヤニヤした表情を継続しつつ形だけは謝るパロミデスにディナダンは溜め息を吐く。
「では、次に帝国への報復だが……円卓の騎士を二名出す」
「成る程、だからガウェインがいてるんだね。メンバーの一人は彼でしょ?」
翡翠色の瞳の少年が顎で指した方向でピクリとも動かず、会話にも混ざらなかった深紅の髪の青年__ガウェインが無言で頷く。
「ガウェインが動くんなら、おいちゃんはパスするわー、巻き込まれたくないしー」
「オレも行きたくはないな、動きすぎてうっかり範囲に入り込むかもしれん」
「私は勿論動けないから無理だ」
パロミデス、琥珀の男、アグラヴェインが難色を示すと翡翠色の瞳の少年が渋々と手を上げる。
「今回の円卓のメンバー的に僕だよね?遠距離メインなの僕しかいないよね……?」
「そうなりますね、大丈夫です。トリスタンさんならいけますよ!」
「あ、最近来たヨーヘイくんも今回の戦闘から参加させる予定だからよろしくね」
「ちょっと待ってアーサー、ガウェインと僕でその子のお守りもしないといけないのそれ。ガウェインの砲撃に巻き込まれないようにその子の行動見てないといけないのそれ」
「……頑張ってね!」
花が咲くように明るい晴れ晴れとした笑顔を向けるアーサーと対象的に翡翠の瞳の少年__トリスタンの顔が曇る。
「……大人って、理不尽」