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読心系コミュ障。下

どうも、大塚ガキ男です。巷ではどうぶつの森が流行っているらしいですね。

 




 自宅に着いた。両親は仕事中の為、家には誰も居ない。制服のポケットに入っているスマホ以外は学校に置いてきた。

 当然の如く、施錠されている玄関のドアは開かない。


「急いで逃げてきたは良いけど、家に入れねぇじゃん・・・」


 馬鹿である。

 肩を落とし、項垂れた。そんな、間抜け極まりない俺の背中に掛かる声があった。

 それは、俺にとっては神の恵みに等しく、地獄に落ちた俺の元に垂らされた一本の蜘蛛の糸のようでもあった。


「もしかして、お兄さん?」

「お、おう?・・・ひ、久し振りだな」


 振り向くと、そこには昔遊んであげていた近所の女の子がいた。女の子が中学に上がったのを切っ掛けに交流を終わらせたので、かれこれ二年振りくらいか?女の子と呼ぶには大人っぽくなり過ぎてしまった目の前の女の子。しかし、確かに面影があるので、俺にとってはいつまでも年下の近所の女の子だ。

 再開までの間が空いてしまったとは言え、相手は昔馴染みの——あの幼馴染よりも幼馴染している、家族のような存在。他人よりかは、上手く話せているつもりだ。


「どうしたんですか?こんな時間に。しかもこんな所で」


 女の子が俺に問う。


「そ、それを言うなら、君もだろ?ま、まだお昼前の筈だが」

「今日は創立記念日なので、学校はお休みだったんですよ」


 だから、こんな時間に歩いていたのか。羨ましい。創立記念日って単語だけで滅茶苦茶テンション上がるよな。

 どうでも良いが、この女の子の一人称が僕なのは、二年前の俺が一時期『一人称が僕ってちょっと知的で格好良くね?』と思って僕僕言っていたら真似された。人のふり見て我がふり直せ——女の子に真似されて急に恥ずかしくなった俺は、一人称を俺に直したのだが、女の子はそれ以来自身の事を僕と呼び続けている。


「で、お兄さんは?」

「・・・・・・恥ずかしながら、鍵が無くて家に」


 それを聞いた女の子は、ニコニコと嗤って——笑っている。あぁそうかよ!笑うなら笑うが良いさ!


「高校生にもなって何やってるんですか」

「め。面目無い」


 頭を掻きながら照れ笑う。久々の再会だと言うのに、物凄く格好悪い所を見せてしまった。


「おばさんが帰ってくるのは何時頃ですか?」

「あー、し、仕事の後に買い物してくる、だろうから、十八時頃だな」

「仕方無いですね」


 女の子が隠し切れない笑みを浮かべながら、溜め息を吐いた。もう笑われているのはこの際もう諦めるとして。

 何が仕方無いのだろうか。俺は良く分からずに頭上に疑問符を浮かべた。


「?」

「おばさんが帰ってくるまで、僕の家で過ごしましょう」


 その提案に、俺は飛び上がって喜びたかった。しかし、己の理性と世間の目がそれを許さない。——中学生の女の子の家に上がるのはどうなのだ?そもそも悪いのはお前自身だよな?ご近所さんに見られたらどう思われるだろうな?——そんな思いが頭の中でぐるぐる回り、俺を躊躇わせる。


「い、いやいや。悪いって。しかも、と、年頃の女子の家にあ、上がるだなんて」

「へぇ?お兄さんは僕の事を『年頃の女子』と、引いては異性として意識しているんですか?」


 確かに目の前の女の子は大人っぽくなった。だけどそれは、大人になった訳じゃない。見た目は美人さんになったが、中身がそれに追い付いているとは限らない。俺は、優しくリードしてくれるお姉さんタイプの女性が好みなんだ!

 だから、女の子に対する俺の返答はこうだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんな訳無いだろ」

「途轍も無い程の間があったような気がしましたけど、そう言うんだったら問題有りませんよね」

「そ、そうだな。じゃあお邪魔させてもらおうかなーはっはっはっはー」


 俺は、いつものような調子を努めて答えた。大丈夫大丈夫。あとたったの六時間と少しだろ?余裕余裕。

















 近所の女の子相手に意識するな。冷静になれ、と必死に自分に言い聞かせていたからだろうか。

 俺は二つ程見落としている点があった。

 何故、創立記念日の筈なのに女の子は制服を着ているのか。

 何故、女の子からは心の声が聞こえてこないのか。

 俺は、見落としていた。



















「お、お邪魔しまーす」

「そんなにオドオドしなくても大丈夫ですよ?お母さんは出掛けてますし」


 普通に挨拶しただけなのに、オドオドしていると取られるとは。俺もまだまだ真人間には程遠いようだ。そりゃそうだ。・・・もう少し仕草に気を付けなければ。

 ・・・って、おや?女の子の口からトンデモナイ単語が聞こえてきたような。


「え、おばさん居ないのか?」

「居ませんよ?」

「・・・やっぱり、何処かでじ、時間を潰すとしよう」

「嫌ですねぇお兄さん。出掛けてると言っても、一時間も経たずに帰ってきますよ。ただ友達とお茶会に行っただけですし」

「な、なら問題無い・・・か?」


 女の子の言葉を受け、俺は外に向かいたがっていた足を止める事にした。

 マズいな。女の子と二人きりという状況に些いささか神経が過敏になっているらしい。原因を辿ればそれは、朝から立て続けに起こっている奇妙な現象によるモノなのだが。

 二階に上がり、一室に通された。


「ここが僕の部屋です。懐かしいですか?」


 懐かしいな。そう言おうとしたら、女の子がそれよりも先に問うてきた。まるで心を読まれているようだ、なんて冗談を心の中で言ってみる。馬鹿言え、心を読めるのは俺の方だっつうの。


「た、確かに懐かしいな。い、家に上がった事自体な、何年振りだ?」

「二年と十一ヶ月。そして八日振りですね」


 よくもまぁ、そんなにスラスラと口から出鱈目でたらめが出てくるモンだ。


「・・・・・・本当なんですけどね」

「な、何か言ったか?」


 聞き取れなかったので問うてみる。


「お茶でも飲みますか?って言ったんです」

「お構い無く——って、言うようなああ、間柄じゃないしな」


 家に上がるのは躊躇うが、俺とコイツは親友と言っても差し支え無い程の仲なのだ。数年前に一度殴り合いの喧嘩をした事があり、それを切っ掛けに今みたいに仲良くなったんだよなぁ。懐かしい。二人してボコボコになってそれぞれの家に帰宅した時に、何かの事件に巻き込まれたのではないかと親に誤解されたのは今となっては良い思い出だ。


「・・・ちょっと、お兄さん?」

「あ?」

「思い出に浸るのは良いですけど、折角こうして久し振りに顔を合わせたんです。どうせなら僕と語らいましょうよ」

「そ、そうだな。じゃあ、戻ってくるまでボーッとしてる」

「大人しく待ってて下さいね」


 バタン。女の子が閉じたドアの向こうへ消えた。それと同時に舌を出す。

 さぁーて。

 この部屋には俺一人。やる事は一つしか無いよな?

 御名答、家探しである。この場合は部屋探しか?何だかそれだと不動産屋が頭を過るな。

 例え部屋内をウロチョロしているのを見られた所で、然程問題はあるまい。せいぜい呆れ顔で諭されるだけ。

 あれ、地味に辛いな。

 ガサゴソガサゴソ。こんな事して許してくれるのはアイツだけだよなぁ、と自分の交友関係に辟易しながらも、手始めに机の一番大きな引き出し——某猫型ロボットが出てきそうな引き出しを開けてみる。


「・・・・・・えーっと」


 ギッシリとしか表現の仕様が無い。写真が詰まっていた。

 所狭しと。

 色んな角度から撮られた。

 明暗色彩様々な。



 《《俺の》》写真が。



 まだ、昔の俺の写真(そして、一枚か二枚程の少ない量)だったなら『大事に取っておいてくれてるのか。嬉しいなぁ』という、心がほっこりするワンシーンに納められたのだが。どうみても、着ている制服が現在俺が着ているのと同じだった。よく見たらこの写真とか今朝の写真じゃねぇか?俺と幼馴染が登校している所を撮ったらしいのだが、俺の隣を歩く幼馴染の顔は真っ黒に塗り潰されていた。

 ただの印刷ミスだと思いたい。


「・・・これらは見なかった事に」

「——出来ると思いますか?」


 ・・・・・・思いません。


「お兄さんったら、イケナイ人ですねぇ。僕がおもてなしの用意をしている間に、こんな事をしているだなんて」


 引き出しを閉めもせず、振り向く。最悪のタイミングで女の子が部屋に戻ってきていた。マグカップ等が乗ったトレーを片手に、壁に寄りかかりながらこちらを見ている。怒った顔を見せてくれたなら、まだ良かった。しかし女の子は無表情。それが逆に恐怖心を煽る。

 何をすべきか云々よりも、先に謝っておくか。


「わ、わわ、悪かった。許してくれ」

「えぇ、許しますよ」


 あっさりと笑顔を見せた女の子。俺は安堵の溜息を吐いた。


「た、助かる」

「まぁ、許した所でどうなるんだって話ですけどね」


 ピクリ、俺の身体が一瞬硬直した。


「・・・俺には、す、少しばかり嫌な展きゃっ、展開が想像出来たんだが」

「全然嫌じゃありませんよ?寧むしろ、待っているのは素敵な展開です」

「だ、だと、良いんだけどな」

「あっ、お兄さん。取り敢えずその引き出しを閉めてもらえます?」


 世間話。

 それこそ思い出話のような感覚で女の子がそう言うもんだから、俺は警戒せずに返事した。


「りょ、了解っと」


 身体を再度反転させ、女の子に背を向けて引き出しを閉め——


 ゴンッッ!!




















「——・・・・・・あれ、ここは」


 閉じていた目を開く。辺りは薄暗くてよく見えないが、俺の記憶を振り返ってみてから正解に辿り着く。

 そうだ、女の子の部屋だ。


「目が覚めましたか?」


 意外と近くから聞こえた、俺を気遣うような女の子の声。近くも何も、声がしたのは耳元だ。ついでに、吐息が耳に掛かっている。くすぐったい。


「な、何を、考えている」


 俺がそう問うた理由は、至極当然なモノ。椅子に座らされ、その状態で手足を縛られていれば誰だって今みたいな台詞を言う筈だ。コイツとはSMプレイをするような仲ではないので、恐らく女の子が勝手に俺を縛ったのだろう。意図は分からない。


「『何を考えている』?お兄さんなら僕が何を考えているのか、心を読めばすぐに分かるんじゃないんですか?」


 女の子は俺の目の前に移動して、ニコニコしながら俺の瞳を覗き込んだ。


「・・・・・・し、知っていたのか」

「えぇ、まあ」


 満足したのか、俺から顔を遠ざけ、女の子はそう言った。


「だ、だが残念。お前からはこ、心の声が聞こえてこないんだ」

「でしょうねぇ」

「は?」

「僕がそうしましたから」

「そ、『そうしました』って・・・心の声が、き、聞こえないようにしたって、言うのか?」

「その通りですよ。流石お兄さんですね」


 こんなの普通に分かるだろ。下手なお世辞はむず痒い。


「下手なお世辞ですみませんね」

「・・・・・・は?」


 コイツ、まさか。


「はい、そのまさかです。心の声が聞こえるのは自分だけだとでも思っていたんですか?」

「お、おお、お前も聞こえるのか!?」


 互いに心の声が聞こえるのならば、女の子の心の声が聞こえてこない点については納得出来る。力が相殺されて〜とか色々理由をこじつけられるからだ。

 しかし、俺の心の声は女の子に聞こえてしまっている。

 何故だ?

 俺の疑問に答えるように——いや、女の子は俺の疑問が『心の声』として聞こえているのだろう——女の子は更なる衝撃を俺に語った。


「実は、聞こえるだけじゃないんですよね」


 つまりは。


「操れるんです。相手の心を」


 口をポカンと開く事は出来るが、何も言えない。

 嘘であってほしい。俺の心の声を読んだ云々もただの偶然で、心理学やらを応用して俺にカマを掛けただけなのだと思いたい。

 しかし、現実は無情。女の子は恍惚に満ちた表情を浮かべた。


「可愛いですねぇ。目の前の事態を信じたくないんですか?」

「・・・・・・」

「お兄さんと同じように、僕も神に願ったんです」

「ッ」


 良い意味でも悪い意味でも、神は平等ですもんね。

 女の子は言った。

 まさかとは思っていたが、こんなにも身近に同じ状況の奴がいたなんて。

 感情の出元が分からない身震いが止まらない。


「お兄さんってば、狡い人ですよね。幼い頃に僕の心を奪っておきながら、中学生に成った途端に僕を避け始めるだなんて」


 避けたつもりは——いや、アレは避けたと言うのか。周りからの視線を気にして、女の子に理由もロクに説明せずに交流を断つ。

 ・・・・・・最低じゃねぇか、俺。


「えぇ、最低です。僕の中でお兄さんの存在は日に日に大きくなっていくのに、お兄さんは今日再開するまで僕の事なんか記憶に留めてすらいなかったんでしょう?」

「俺を、恨んで、いるのか」

「好このんでいます」


 間髪入れずに女の子は返した。


「だって、そんなお兄さんも素敵ですもん」

「わ、訳が分からん。俺はっ、俺はお前に何かをし、してあげたか?ここまです、好かれる理由がなな、無いと思うんだが」

「何もしなかったから、ですよ」

「?」

「僕に寄ってくるような奴等は、僕じゃなく僕の容姿目当てでした。小さい頃から、ずっと。でも、お兄さんだけは違ったんです。下衆(ゲス)な視線なんか一つも向けず、優しい瞳だけを向けて僕と遊んでくれました」

「しょ、小学生に容姿目当てで近付く中学生がいるとしたら、ソイツは多分、ただの変態だろ」


 ただ、女の子の言いたい事はなんとなく理解した。

 したけど、許容する訳じゃない。

 こうして身体を拘束しておいて、好きだ何だと言われても困る。


「お兄さんは、僕の事好きですか?」


 俺以外の誰かからしたら、有り得るデジャヴ。

 唯一分かるのは、女の子のこの台詞に対する返答を間違えたらいけないという漠然とした使命感。

 俺の答えは決まっていた。


「す、好きじゃ、ない」


 どうせ、心は読まれるんだ。嘘を吐いたって仕方が無い。好きな相手を椅子に縛り付けるコイツは、疑いの余地なく(間違いなく)異常だ。狂ってやがる。こんなイカれた奴を嫌いになる理由なんて無い。

 ・・・・・・あ?

 純粋に俺だけを見詰めるその瞳は美しい。

 一途に何年も想い続けたその心はとても綺麗。

 容姿なんか言うまでも無い。


「ちょ、ちょっと待て!な、何だコレは!?俺はここ、『こんな事』思っちゃいないぞ!?」

「僕の事が嫌いなら、僕の事を好きになって下さい」


 女の子はポツリと、そう言った。その唇も柔らかそうで、そこから紡がれる言葉は俺の耳を優しく浄化する。


「ふ、ふざけるな!今すぐ、止めろ!ああ——!頭が痛い!考えがッ!うわがきされあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」








































































『あら見て、あの二人』

『仲良さそうに手を繋いで、本当に良い夫婦よね』

『両想いで、しかも旦那さんが高校生の時に、奥さんにプロポーズしたらしいわよ』

『純愛ねぇ。羨ましいわ〜』


 住宅街。

 世間話に興ずる二人の年配の女性の瞳には、手を繋ぎながら仲睦まじく歩く新婚の男女が映っていた。






今新たに書いているお話も、中々良い感じに仕上がりそうなので、投稿する時までお楽しみに。

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