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拉致から始める結婚生活。

どうも、大塚ガキ男です。しばらくは、投稿速度の遅さをハーメルンの読者様の優しさで補えると思います。





 入学し、出来事の何もかもが新鮮に映るのが一年生。

 入学から一年経ち、何のしがらみも無しに夏休みや修学旅行を謳歌出来るのが二年生。

 ・・・じゃあ、三年生は?

 俺は、そこで思考が止まる。

 一、二年生の良い所は思い浮かぶのだが、肝心の自分の学年三年生の良い所が何も思い浮かばない。

 あらゆる行事で上に立てる、とかか?

 体育祭の団長にしても、文化祭の実行委員長にしても、委員会の委員長にしても。大体の場合、三年生が選ばれる。

 しかし、それが三年生の良い所か?と問われれば話は違ってくる。

 少なくとも、俺がそれを良い所だと思ってないからだ。他の奴は知らんぞ?ただ、こうやって大して意味の無い思考を重ねている俺が——この脳内議論の議長を務めている俺自身が良しとしてないのだから、良くはない筈だ。

 後は・・・アレか?下級生に威張れるとかそんな感じか?

 考えるも考えるも、議論終了には至らない。『そもそも一、二年生の良い所も、俺が勝手に思っているだけで、客観的に見たら実は良い所じゃないかも知れない』と根底を疑い始め、これ以上やってられないと思った俺は強引にこの脳内議論を終わらせる事に。

 結論。

 世の中クソだ。

 

「・・・・・・何でそうなるのさ。三年生の良い所についての話じゃなかったの?全然関係無いじゃん」

「馬鹿言え、成るべくして成った結論だ」

 

 机を寄せ合って話しながらの昼休み。ふと、考えていた事を話してみると、返ってきたのは呆れながらの言葉だった。

 

「良く考えて、良く周りを見渡してみろ。世の中は害にまみれてみる。クソまみれだ」

「そんな事無いと思うけど」

「なら、今周りを見渡して受けた印象を一つずつ言ってみろ」

「えーっと・・・、自分磨きを欠かさない人達。個性的な髪色の人達。楽しそうにお喋りする人達。専門的な知識を語り合う人達・・・・・・かな?」

「マジかお前」

 

 ドン引きだ。だが、俺をドン引かせた張本人である黒奈(くろな)は、何故引かれたのか分からないらしい。「え、何が?」と首を傾げている。

 仕方無いので、真実を教えてやる。

 

「お前は人というモノを少々美化してしまう

 きらいがあるようだが・・・良いかよく聞け。コイツ等は全員クソだ。クソの集まりだ」

「食事中にそういう事言わないでよ」

「ケバい化粧を馬鹿みたいに塗りたくっているギャル共も、自ら毛根を虐めにかかっている髪染めチャラ男集団も、内輪でのみ騒ぎ散らす女子ヲタ軍団も、不快な笑い声と脆弱な滑舌で己の知識を宣う童貞塵芥も——全てがクソだ!そうだろう?」

「サイテー!」「ざけんな!」「お前も大概だろうが!」「死ね!」「黒奈さんから離れろ!」「T◯itterに晒すぞ!」

「見ろ!これが本音を言われて怒り狂う馬鹿共の姿だ!ふははははははは!!」

「わー!わー!皆さん御免なさい!この人病気なんです!今のも発作なんです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのか?」

 

 家へと向かう道すがら、隣を歩く黒奈に問う。

 

「何が?」

「あの場の勢いで鞄を持って学校を飛び出してしまったが。よくよく考えれば、コレは無断早退というヤツではないのか」

 

 ただでさえ俺は、屁理屈や居眠りや遅刻をしているので先生からの評価は芳しくはないと言うのに。校内での俺の悪行のワンランク上の無断早退何ぞしてしまったら・・・。考えるだけで頭が痛い。本当に病気になってしまいそうだ。

 俺が問うと、黒奈はジト目で俺を見てきた。しかし、黒奈は背が低いチビなので、ちょっと下手くそな上目遣いにしか見えない。むしろ癒されそうだ。

 

「仕様が無いでしょ。どこかのお馬鹿さんがクラスの皆を挑発しちゃってあの場に居辛くなっちゃったんだから」

「俺はただ事実をだな」

「でも、わざわざ口にする必要は無かったよね?」

「む」

「クラスの皆とは仲良くしないと駄目だよ?——って、私が言えた事でもないか」

 

 腰に手を当てて俺に注意をしてから、黒奈は自戒した。

 

「・・・・・・まだ、昔の事を気にしているのか?」

「ううん。ふと思い出しただけ」

 

 少し、複雑そうに笑う黒奈。

 その理由。

 遡る事八年前。

 当時、小学校四年生。

 茨井 黒奈(いばらい くろな)は、ボッチだった。

 教室内での視線はいつも机の上。誰とも話さず、誰とも遊ばず、一人で絵を描いていた。どんな声で話すのか分からず、授業中に先生から当てられて答える黒奈の様子を見て、ようやく声を思い出す程だ。

 当時の俺は、何故黒奈がいつも一人で居たのか分からなかった。誰かからイジメられている訳でもないし、誰かから嫌われている訳でもない。

 ただ、一人だったのだ。

 

「あの頃のお前は、本当に異質だった。誰とも仲良くせず、いつも絵を描いていた。笑った顔なんか見た事無かったし」

「それはそうだよ。面白くないのに笑ったりしないもん」

「・・・・・・」

「何?その目」

「何でもない。——それよりも、あの時のお前は何で一人ぼっちだったんだ?誰かから嫌われていた訳でもあるまいに」

「あー・・・」

 

 黒奈は苦笑いながら人差し指で頬を掻いた。

 

「・・・多分、お金持ちだったからだと思う」

 

 成る程。確かに、自分の事を金持ちだと言う時は、そんな顔もするだろう。

 黒奈の家は金持ちだ。

 何故金持ちなのかは知らないが、幼き頃の俺でも知っていた位には、その話は有名だった。町の一角に(そび)え立つ豪邸を見て、立ち止まってずっと呆けていたのは今でも覚えている。

 四年生という中途半端な時期だったからこそ、『お金持ち』というタグは黒奈の交友関係の邪魔になっただろう。

 

「近寄り難かった・・・とか、そんな感じか?」

「ううん。話し掛けてくれる子はいたんだよ?」

「なら友達は出来た筈だろう。お前は顔良し性格良しの今時は絶滅危惧種に認定されそうな位の良い奴なんだから」

「っ・・・!」

「どうした?」

「な、何でもないっ」

 

 一瞬会話が止まったので黒奈の顔を見てみたが、どうやら何でもないらしい。

 続ける。

 

「一緒に遊んだりしたんだけど」

「けど?」

「安全の為に、塀の陰とかからSPが見張ってて・・・。怖がらせちゃったんだと思う」

「何だその面白話。中々面白いじゃないか」

「笑わないでよー!」

 

 場面を想像してみたら、いつの間にか口角が上がっていた。ポカポカと隣から腕を叩かれる。痛くも痒くもなかった。

 

「見た感じSPは見当たらないのだが、今は居ないのか?」

「・・・居るよ?」

「どこに」

「ヒロ君の後ろに」

「は?————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!おい、黒奈!どういう事だ!!」

 

 突然訪れた暗黒の視界(暗黒の世界)

 柄にも無く慌てふためいていると、背中を押されて車(恐らくは)に乗せられた。それから、手足の首を何かで固定される。

 どうやら俺が思っていた以上に、視覚というモノは日常生活に貢献していたらしく。車内で何秒経過したのか、どこに向かっているのか、周りが見えない恐怖。思考を重ねる事しか出来ないが故の恐怖に、俺の身体は支配されていた。

 やがて車は止まり、何者かに担ぎ上げられる。どれだけ罵声を飛ばそうとも、どれだけ身体を捩よじろうとも地面に下ろされる事は無く、扉が開く音や足音だけを聞かされながらの移動。

 

「有難う。もう退出して結構よ」

「はっ」

 

 黒奈が何者かに指示。それから俺は柔らかな床に下ろされた。・・・いや、これはベッドか?

 

「ごめんね。怖かったよね」

 

 上から注がれる黒奈の声。それが俺に向けられたモノであるのは明確。

 

「怖いに決まってんだろ。大体、何のつもりなんだ?場合によっては出るとこ出てもらうからな」

「そんな事言わないでよ。これはヒロ君の為でもあるんだよ?」

「はぁ?」

「目隠し外すね」

 

 疑問が晴らされないまま、俺の視界を遮っていた目隠しが外される。光の刺激に目を細めながら、目の前に黒奈が居る事を確認。それから周りを見渡し、ここが黒奈の部屋なのだと気付く。

 

「・・・こんな形でお邪魔したくなかったな」

 

 目隠しは外されたが、手足首はまだ固定されたまま。そのせいで俺は大きなベッドの端っこに情け無く寝転がっている。チビの黒奈に見下ろされる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

「・・・俺の為って言うのは、どういう事なんだ」

「今日は何の日か憶えてる?」

 

 俺の問いに答えているのか、それとも無視しているのか分からないその言葉。少し苛付きながらも返す。

 

「秋分の日」

「・・・・・・または、ヒロ君の誕生日ね」

「そうとも言うな——で?だから何だよ」

 

 俺の誕生日だから、こんな誘拐紛いの事をしたのか?全く分からん。サプライズにしてはイカれ過ぎている。

 

「ヒロ君は今年で十八歳です」

「おう」

「十八歳になったら、何が出来るでしょう?」

「レンタルビデオ店のアダルトコーナーに入れる」

 

 ズドン、と頭頂部にチョップが叩き込まれた。

 先程のポカポカアタックとは比べ物にならない位の威力だった。

 

「ふざけないでよ」

「ふざけたつもりはなかったんだが」

「他にもほら、もっとあるでしょ?」

「あ、卒業か」

「違う」

「受験か?」

「違う」

「入学だろ」

「違う!何で分からないの!?」

「分からない事に理由を求められてもな。分からないからとしか言えないだろう。答えは何だ?」

「・・・結婚」

「は?」

 

 思いも寄らない答え。俺は間抜けな声を出していた。

 

「男の子は十八歳になったら、結婚出来るでしょ?」

「ま、まぁ。確かに出来るが。何故、今その話題を?」

「・・・・・・え?」

 

 話の流れで問うただけなのだが、黒奈の雰囲気が変わったような気がした。

 ・・・訂正。

 確実に変わっている。

 

「憶えてないの?」

「何がだよ」

「私にプロポーズしてくれたじゃん!」

「俺がいつプロポーズしたって言うんだよ」

「中学一年生の秋の帰り道『俺、将来はヒモになりたいんだよな』って言ってくれたじゃん!」

「そ、それのどこが——」

 

 言葉の途中に固まる。

 待てよ?と。

 冷静になって、考えてみる。

 黒奈の家は金持ちだ。

 そこらの上流階級の人間等鼻で笑える程の、超金持ち。

 その一人娘。

 そんな、〝金なんて腐る程持っている家の娘〟に、俺は何と言った?

 悪寒。

 というか、単純な自分への怒り。

 純粋な女子(黒奈)相手に俺は何を口走ってしまっているのだ。

 

「理解してくれた?」

 

 己の思考の世界から現実へと引き戻される。

 

「つ、つまりは?」

 

 トボけた振りをして、黒奈に問うてみる。

 黒奈はニッコリと笑った。

 

「結婚しよ?」

「だ、だg」

「私って、自分で言うのもアレだけど、ヒロ君の好みのタイプぴったりだと思うんだ。長い黒髪が好きって中学生の頃に言ってたからそれからちゃんと長めに揃えているし、何よりヒロ君を養ってあげられるだけの財力があるからね。ヒロ君の事は前から好きだったから、本当に嬉しかったよ。やっと想いが結ばれるんだって。やっと一緒にいられるんだって。

 私、あの日からヒロ君の事を〝色々〟調べたんだ。よく考えてみたら、ヒロ君のお家ってお邪魔させてもらった事無いし、お義父様お義母様にもご挨拶させてもらってなかったし。『どうやって調べたんだ』って?そんな野暮な事聞かないでよ。女の子には独自の情報網があるのっ。住所や家族構成や家系図、部屋の間取りや家具の配置、ヒロ君が部屋で何をしてるのかとか、色々見ちゃった。授業中とかもこっそり観察してたんだけど、気付いてないよね。暇潰しに消しゴムを指で挟んでグニグニしてる所とかちょっと可愛かったよ。

 あ、そうそう。結婚の事なんだけど、お義父様お義母様にはちゃんと許可をいただいているから安心してね?私のお父様お母様にも話はしてあるから、もうこれは事実婚って事だよね。いや〜、ヒロ君が誕生日を迎えるまで、私ドキドキしてたなぁ。まだかな、早く来ないかなって、ずっとず〜っと考えてたんだよ?それなのにヒロ君は何事も無いかのようにいつも通りだからビックリしちゃった。何でなんだろうって考えたけど、ヒロ君も顔に出さないようにしてただけだったんだよね。ヒロ君のそういう所も大好きだよ。これからも末長くこの部屋で一緒にいようね」

「ちょ、ちょっと待て!」

 

 嬉々として話し始めた黒奈の、阿呆みたいに長い台詞を中断させる。させざるを得ない。黒奈は「どうしたの?」と小首を傾げているが、俺にとっては超が付く程の重要事項なのだから。

 

「ツッコミ所は山程あるが、最後の方の『この部屋で』ってどういう事だ?」

「言葉のままだよ。私の部屋で、二人で一生を過ごすの」

「そんなの無理に決まってるだろ」

 

 鼻で笑って黒奈の主張を否定。

 しかし、黒奈は「出来るよ」と言い切った。

 〝自信有り気に〟というよりは、ただ事実を言っただけのようなソレだ。

 言い様の無い黒奈の迫力に、少し気圧された。

 

「この部屋を改築すれば、キッチンもお風呂もトイレも備え付けられるし、PCを買えばいんたーねっとっていうのでご飯とか衣服とか色々買えるんでしょ?ほらっ、何も問題は無いよ?」

 

 そこまで断言されると、本当に何も問題が無いように思えてくるのだから不思議だ。

 部屋云々についてはもう良い。どうせ言っても聞かないのだろうから、好きにさせてやろう。

 それじゃあ、次の問題。

 

「本当に、結婚するのか?」

「しないの?」

 

 自力では起き上がれないので、寝転がったままの俺の目の前にズイっと顔を近付けてくる黒奈。それに仰け反る事も出来ない。

 誓いの口付けも出来そうな距離だ。

 

「ねぇ、するでしょ?」

「取り敢えず、コレ外せよ。相手を拘束したまま結婚を求めるか?普通」

「あぁそっか。ごめんね、気付かなくて」

 

 気付けや。

 まぁ兎に角、固定されっぱなしだった手足が解放されたのだし、良しとしよう。

 ベッドに座る。黒奈はいつの間にやら隣に。

 

「・・・・・・はぁ」

 

 ガシガシと、乱雑に頭を掻く。すると、黒奈が恐る恐るといった声色で問い掛けてきた。

 

「怒ってる?」

「疲れてる。今日だけでいつもの数十倍の衝撃を受けたからな。特に、誘拐紛いのアレ。他に方法は無かったのかと問い詰めたくなるな」

「ご、ごめんね・・・」

 

 しょんぼりと項垂れる黒奈。その様子を見ながら微笑み、天使の輪のような光の反射をしている黒髪を少し荒っぽく撫でた。気持ち良さそうな顔をしたが、どこかまだ少し悲しそうで、いつもの調子には至らない。

 

「嫌、かな」

 

 弱々しく呟かれた黒奈の言葉。俺はまた鼻で笑った。

 

「嫌じゃないぞ」

「え?」

「黒奈は、今まで見てきた女の中では一番だ」

「えっと、何?どうしたのいきなり」

「そもそも俺は結婚自体は反対ではない。・・・・・・この部屋で生涯を終えるというのも、クソみたいな世の中から隔離されると思えば最高じゃないか」

 

 言い終えると、黒奈が飛び込むように抱き付いてきた。受け止め、そのままゴロンと横に倒れる。

 ・・・まぁ、何だ。

 俺も幸せ。

 黒奈も幸せ。

 中々のhappy endではなかろうか。

 いや、でも俺等の生活はこれから始まるのだから、happy beginか?

 まあ良い。

 これから先を文字に起こすのは野暮って事で。

 最後の一文は綺麗に締め括ろう。

 めでたし、めでたし、と。






この作品、ハーメルンにて募集したリクエストを元に作られています。

なろうに投稿する際に快く了承してくださった飽きっぽいニート志望。さんに感謝を。

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