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3話


 冒険者ギルトにたどり着いたジンは、そこで思わぬ顔を見つけた。


「おお! ジンじゃねぇか!」


「バロン……」


 そう言ってジンに声をかけてきたのは、顔に横一文字の大きな傷のある、二十代後半くらいの美丈夫。

 遊び人のような姿をしているが、面倒見の良さで知られる人格者だとジンは知っている。


 彼はS級(・・)冒険者のバロン。

 ジンの師匠でもある男だ。


 S級冒険者とは冒険者の頂点であり、人類トップクラスの実力者、つまり英雄級・・・の戦力だ。


 A級やS級の冒険者は、本来国が独占している筈のスキルオーブを依頼の報酬として賜る事ができる。

 そのため兵士になる前、バロンに冒険者に誘われた時、ジンは相当迷った。

 迷った結果、どちらも似たようなものだという結論に達し、バロンへの苦手意識を理由に兵士の道を選んだ。

 ……スキルオーブの件が流れてしまった現在、少しだけ後悔していたが。


「なんだぁ? 冒険者に転職でもするのか? だったら俺の所に来いよ。たっぷり可愛がってやるぜ!」


「断る。……止めろ。流し目を送るな、気持ち悪い。それに転職に来たんじゃない」


 ジンがバロンを苦手な理由。

 それは修行時代にさんざんボコボコにされたというのもあるが、バロンが同性愛者、所謂ホモだからというのが最大の理由だ。

 ジンが十二歳くらいになり、少し大人びてきた時期に、ぼそりと呟かれたバロンの言葉、


『やべぇ……好みかも』


 その言葉はジンにトラウマとなって刻まれている。

 今はともかく、当時はバロンに襲われたら抵抗できない状況だった事も苦手意識に拍車をかけている。


「なんだ、違げぇのかよ。てか久しぶりに会った師匠に対して冷てぇんじゃねぇかジンよぉ。イイ男になったなケツの一つでも揉ませろ」


「断る断る断る断る!」


 肩を組もうとしてくるバロンに身の危険を感じて飛び退く。

 普段は性癖を隠している癖に、ジンに対しては既にバレているからか、開けっぴろげにセクハラまでしてくるのだ。

 

「ちぇっ、つれねぇなぁ。つーか転職じゃねぇなら何しにきたんだ? 見たとこ魔物の素材も持ってねぇし、換金って訳でもねぇだろ」


「別に。ちょっと噂の確認に来ただけだ」


「噂ぁ? あっ! 遂にお前の特殊性癖がバレて出回ったか!」


「違う違う違う違う!」


 バロンはジンの魔王ラブという特殊性癖の事を知っている。

 彼の顔についた傷は、うっかりジンの前で失言をしたバロンに対して激高したジンがつけた傷だ。

 バロンがジンを気に入っている理由の一つでもある。

 特殊性癖持ち同士のシンパシーだ。

 

 一方、ジンが慌てて否定したのは、今朝の砦の様子を思い出し、次に来る時にはバロンの言った通りになるかもしれないという最悪の未来予想図を描いてしまったためだ。

 ジンは休日に狩った魔物の素材や盗賊の首をよく換金しに来る。

 つまり冒険者ギルトの連中はジンの事を知っているのだ。

 兵士達の噂がこっちにまで飛び火する可能性は確かにある。


「その慌て方、非常に怪しい。でもまあ、俺も人の事言えねぇ性癖の持ち主だからなぁ。俺は理解してるぜ兄弟!」


「お前といっしょにするな!」


 尚、性癖の特殊さで言えば、ジンの方が酷いのは言うまでもない。


「で、結局、噂ってなんの噂だ? もしかしなくても、


 ──勇者の事か?」


「知ってるのか?」


「おうよ! 俺が今日ここに来たのも、勇者関連の特殊依頼を受けたからだしな」


「特殊依頼?」


「おっと、ここから先は仕事だから秘密だ。どうしても知りたければケツでも揉ませて……」


「くっ……、仕方がない。必要経費だ。必要経費なんだ……」


「待て待て! 冗談だ! 冗談だから! そんなこの世の終わりみたいな顔するなよ! そんなに嫌か!?」


「嫌に決まってるだろう。俺を性的に食べていいのは魔王様だけだ」


「……身持ちが固いと言うべきか、一途と言うべきか、やっぱり変態と言うべきか」


 バロンが呆れ顔で失礼な事を言っていた。

 最初の二つで機嫌を良くしたジンに最後の一つは聞こえなかった。


「まあ、どうせすぐにわかる事だしなぁ。ここで言っても別にいいか……。

 俺が受けた依頼は、勇者のパーティーメンバーとして助けてやれって依頼だ。かなり長期の依頼だが、その分報酬はすげぇ。なんせ依頼主が国だからなぁ。S級の依頼何十回分てレベルだ」


「……ということは、勇者の噂はやっぱり真実だったのか」


「お前、存在自体疑う程の情報しか持ってなかったのかよ。情報収集は基本だって教えたよな俺?」


 自分の世界に入ったジンに師匠の説教は聞こえなかった。


「お前の事だから、恋敵とか言って勇者殺しかねないけどよぉ、それだけはやめてくれよぅ。弟子を殺したくはないし、弟子に殺されたくもねぇからな俺は。……おいジン、聞いてる?」


 当然、聞いていなかった。






 ◆◆◆






 ハルトマンから報告を受けてから数日後、レオナルド二十一世は勇者召還の儀式が執り行われている場所、アークセイラ王城地下、勇者の間に来ていた。

 この数日間、勇者を迎え入れる為の準備に奔走し、ようやく、ここに来る時間が取れたのだ。


 なんとか勇者を迎える準備、勇者パーティーの選出が終わった。

 金と権力にものを言わせてかき集めた、最適と思われる精鋭達。




 アークセイラ王国、最強の騎士、『剣聖』タクト・レオノーラ。


 旧ラオルート帝国、元筆頭宮廷魔導師、『大賢者』セレナ・ブルーアンファ。


 S級冒険者、『天道』のバロン。



 全員が正真正銘、英雄級の人材だ。

 よく数日でこれだけの人材を集められたものだと、レオナルド二十一世は自分で自分を褒め称えた。

 相変わらずの頭痛と疲労で、若干ハイになっているのかもしれない。


「おお! 陛下! ようこそおいでになられました!」


 この頭痛の原因となった男、ダーヴィット・シュミル侯爵がレオナルド二十一世を出迎える。

 反射的に殴り倒したくなったが、グッと堪える。

 こんなアホでも宰相。

 今消えられると、流石に困るのだ。


 だか、よくよく観察してみると、ダーヴィットの顔に泣きはらしたかのような跡があり、大分やつれているように見える。


「ダーヴィット、その顔はどうした?」


「申し訳ありません……。陛下にこのような見苦しい姿をお見せしてしまい……」


「よい。それで、どうした」


 叱る気力もないレオナルド二十一世は先を促す。


「実は先日、我が息子が下町で、見るも無惨な姿に……うぅ……」


 ダーヴィットは堪えきれなかったのか、再び涙を流し始めた。


 ダーヴィットの息子と言うと、現実の見えていないバカ貴族の一人だった筈だ。

 アホより酷いバカ貴族の。


「そうか。其方そなたも大変だったな」


「もったいなきお言葉

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