38話
「っ!」
嫌な予感でもしたのか、ジンの手から逃れるように、身を仰け反らせた少女。
ジンは、そんな事お構いなしに、少女の頭を握り、魔導具を発動させた。
「《契約魔術》発動」
「がっ!?」
盗賊の親玉などと同じく、悶え苦しむ少女。
しかし、今までの犠牲者達よりも、苦しみは少ないようだ。
涙を流しながら苦しむが、血は流れていない。
「うっ……うぅ……」
そして、魔導具の光が収まる。
ジンは、魂の回路とも言うべき物で、少女との繋がりを感じていた。
──契約完了。
「まさかの成功か……ダメ元でやってみるものだな」
奴隷とは、契約魔術によって作られる。
ならば、契約魔術を受け入れるだけの、土壌があるのではないか?
ジンはそう考え、どうせ失敗しても、失う物はないのだからと、試しにやってみたのだ。
結果は成功。
儲かってしまった。
「立て」
苦痛の涙を浮かべて、うずくまる少女に、ジンは命令を下す。
少女は、命令通りに立ち上がった。
その眼は、相変わらずジンを睨みつけている。
非常に根性があるようだ。
「名前は?」
その質問に、少女は答えない。
立てと言う命令は聞いたのに、何故か。
やはり、魔導具任せで、適当にかけた契約魔術では、どこか不備があるのかもしれない。
まあ、言葉を縛れなくとも、そこまでの問題はない。
「答えないなら、俺が適当につけるぞ」
そう言っても、少女は答えない。
もしかしたら、ショックか何かで、そもそも言葉が話せないのかもしれない。
代わりに、表情は豊かだ。
今のところ、怒りと苦痛の表情しか、浮かべていないが。
「奴隷だから、レイでいいか」
とても適当な名付け。
レイの表情に、不満の色が浮かんだ。
無視した。
◆◆◆
その後、レイ以外にも全員、契約魔術をかけた。
結果、成功はしたのだが、元々死んだような眼をしていた影響か、人間味の欠片もない、人形のようになってしまった。
今のところ、何の問題もないが。
レイ以外の奴隷は三人。
全員、レイよりは年上だ。
つまり、ジンよりも年上だ。
名前は聞いたのだが、三人の名前を一度に覚えるのは面倒くさかったので、アルファ、ベータ、ガンマと名付けた。
レイ同様、適当な名付けである。
反論はなかった。
とりあえず、裸のままなのもアレなので、収納から服を出して、「好きな物を着ろ」と命令した。
ちなみに、出した服は死体付きだ。
ガンテツに買取を拒否された死体の有効活用である。
レイは迷わず、女冒険者(前衛職)の服を剥ぎ取って、着た。
気に入ったのかもしれない。
それと、やっぱり肝が据わっているらしい。
普通の顔で、死体を弄っていた。
否、ちょっとおしゃれな服に、興奮していたような気さえする。
まともな倫理観など生まれないような人生を送って来たのかもしれない。
ジンは、自分の事を棚に上げて、そんな風に思った。
だから何だ、と言う話でしかないが。
残りの三人は、城で回収した、騎士の服を選んだ。
統一感があって、なかなかに似合っている。
見ようによっては、執事服に見えなくもない。
と、そこで
「(ぐうぅぅ)」
「っ!」
レイの腹から、盛大な音が鳴った。
腹が減っていたらしい。
考えてみれば、ジンがアジトを制圧してから、
最低でも半日の間、放置されていたのだから、無理もない。
何故か、睨みつけてくるレイを無視して、ジンは訪ねる。
「料理のできる奴はいるか?」
ベータが手を挙げた。
できる奴がいたらしい。
ジンは、ここに来るまでに狩った、魔物の死体をベータに預け、「これで五人分の料理を作れ」と命令した。
解体からやらなければならないので、助手にアルファとガンマを付け、ついでに、全員に、余っていたスキルオーブを与えておいた。
解体に力がいるなら、《闘気》を纏えばいい。
火種がなければ、《ファイアーボール》を使えばいい。
なんとも贅沢だ。
なんとなく、料理には向かないような気がしたレイを掃除に向かわせ、
ジンは、なんだかんだで消耗していた体力を回復させるために、一眠りさせてもらった。
さすがに、一月の間、森をさまよい、戦闘に明け暮れていた身体は、予想以上に疲れていたらしく、ジンはすぐに眠りについた。
◆◆◆
その後、レイは予想通り、料理には向かない、がさつな性格だったらしく、
ジンが起きた時には、掃除されたはずのアジトは、汚れきっていたのであった。
ジンさんに、配下ができました。
本人の認識的には、道具ですが……。




