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エピローグ


 人魔大戦の終結から数年。

 ジンの指示によって最後の戦いに参加せず、生き残ったレイは、とある場所を目指して歩いていた。

 ティアラはアジトで留守番だ。

 ジンによる魂の支配がなくなった今でも、ジンの配下だった者達は行動を共にしていた。

 他に行くあてもないからというのが大半の理由だが。



 ジンの物語はガンテツによって都合の良い真実だけが広まり、魔王を倒して愛する姫君を救い出した真の英雄として、人類全体から称えられている。

 ジンの実態を知っている者達からすれば失笑ものだ。


 そんな人類は今、魔王の残した魔物達との戦いに必死になっている。

 魔王という絶望的な脅威は去ったとはいえ、魔王の存在によって活性化した魔物の群れまでは消えず、その対処に追われているのだ。

 最後の戦いによって前線の砦全てが崩壊し、各国のリーダーのような存在であった大国、アークセイラ王国の国王が戦死。

 王国自体も多大なダメージを受け、人類はまともな連携が取れなくなった。

 現在は両腕を失いつつも生き残った勇者が、魔道具の義手を付け、仲間達と共に魔物を倒して回っているらしいが、平和への道のりはまだまだ遠そうだ。



 そうこうしている内に、レイは目的の場所にたどり着いた。

 蔦が巻き付き、罅が入り、手入れをされずこのまま少しずつ古びていくのだろう巨大な城。

 かつての魔王の本拠地、「魔王城」と呼ばれていた場所。

 そして、魔王城が出来る前は「始まりの街」と呼ばれていた場所だ。

 

 そんな魔王城の庭先に、一つの小さな墓がある。

 寄り添うように倒れていたジンとアイリスの亡骸を埋葬し、レイ達が建てた墓だ。


 ジンが死力を尽くして闘った最後の戦い。

 レイ達は魂のラインを通じて全てを見守っていた。

 故にジンが飛び去った先がここだとわかり、野生の魔物に二人の亡骸が汚される前に埋葬する事ができたのだ。


 そして現在。

 ここは強力な力を持った魔族であるルナと、彼女の一族である魔狼族の縄張りとなっている。

 英雄の配下と魔王の配下。

 二人が死んだ今、レイ達と彼女に戦う理由はなかった。

 両者は和解し、ルナはこの墓を守る事を約束してくれた。

 人間達が他の魔物の対処に手一杯になっている今、しばらくの間この場所の平穏は保たれるだろう。

 そこに、レイ達はこうしてたまに墓参りに来るのだ。


 

 レイは墓に向かって祈りを捧げる。

 だが、別に安らかに眠れとか思っている訳ではない。

 多分、彼らはここに眠ってはいないのだろう。

 よく口にしていた地獄とやらで仲良くやっている筈だ。

 だから、こうしてレイが墓参りに来る事のはただの感傷に過ぎない。

 ただ、せっかく墓まで作ったのに墓参りの一つもしないのは少しもったいないと思っただけだ。


 そうして形だけの祈りを捧げ、レイは転移の魔眼を使ってアジトに戻った。

 後には大きな城と小さな墓だけが残される。


 

 この墓が人間達に見つかる頃には、人魔大戦など過去の出来事になっている事だろう。

 更に時間が経てば、古の勇者と魔王の物語と同じく、おとぎ話のように語られるだけの存在になるのだろう。



 魔王を倒した英雄と呼ばれ、愛する魔王を殺す為に非道に手を染めた狂人の物語は、そうして静かに終わっていった。











 愛する人と共に地獄に堕ちた英雄がどうなったのか。

 それは誰にもわからない。


英雄と呼ばれた狂人 『完』

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白く読ませていただきました。 最後に見たらポイントが思った以上に入ってなくてびっくりしましたが、主人公とヒロインが特殊だからしょうがないのかもですね、、。 地獄があれば確実に地獄に行ってい…
[一言] 逆行の英雄から虎馬チキンさんの作品に興味を持ち始め、処女作に興味が湧き、拝読させて貰いましたが、倫理観が崩壊している人物が主人公な筈なのに、最期に涙腺が崩壊しました。本当に感涙しました。戦闘…
[良い点] ストーリーの進み方、心情描写がよく表現され面白かったです。虎馬さんの作品を今3こ読破したところです。欲をかくとすると、魔王たちの地獄での再開、勇者のその後がきになります。 [一言] これか…
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