序章という名の説明
※短編集から独立させました。
ある女の子の話をしよう。
その女子生徒は溺愛されていた。女子生徒は転校生で、天真爛漫な少女だった為、一部の男子生徒には魅力的に映ったのだ。尤も、その一部以外の生徒達からは不評を買っていたが。不評の理由は態度が大きく変化するからだった。相手が男子や地位の高い人だったら、良い子に。相手が女子や気に入らないらしい人だったら、蔑ろに。
そんな女子生徒が連れ回している女の子が「ある女の子」である。
何時も通り、女子生徒は男子を侍らせていた。そんな時の事。
「・・・もう、耐えられない」
ある女の子が呟く。そして、呟きに続いたのは怒涛の文句だった。
「何で、この私・・・があんたみたいな醜いのと一緒にいなければならないの?この私がだよ?こんなに美しい私があんたと一緒にいるなんて・・・汚らわしい!」
女子生徒は女の子の変貌ぶりに呆然とした。
「ふふふ・・・」
豹変してしまった女の子を見たある生徒が笑い出す。その生徒は見た人全員が美人だと言う外見を持っている。彼女こそナルシストに相応しい顔立ちだが、彼女が女の子のナルシストを悪化させたのだ。
「可愛いわぁ」
呟かれる甘い声と言葉。それを聞いた周囲はまたかと溜息を吐く。
紅茶の入ったカップに口を付けながら、彼女は女の子を観察した。そして、女の子の豹変ぶりに慌てる女子生徒を嘲笑う。その笑みに甘さは一切無い。彼女が優しいのは女の子に対してだけなのだ。
彼女は女の子と出会った日を思い出す。あれは運命だったのだと・・・彼女は信じている。
運命の日は突然だった。
その日は入学式だった。彼女は新たな日々に心踊らせていた。そんな時、出会ってしまった。その摩訶不思議な存在に。
彼女は目前で眠る少女に目を向ける。彼女は新入生であろう少女を起こす為に近付く。何故なら、彼女は先輩になったのだ。先輩なのだから、後輩の世話をしなければ。そんな使命感での行動だった。
だが、その使命感はパンと弾ける。
少女がガバリと起き上がり、叫んだのだ。
「この世は私の物!」
彼女の思考は止まった。いや、思考を拒否したのだ。
そんな彼女を余所に少女は鼻歌を歌いながらスキップで何処かに旅立つ。何処かは少女自身でさえ不明である。何となく呼ばれた方と言ったのは、遅刻に遅刻した入学式での発言。
取り残された彼女は呟く。
「可愛い・・・」
その一言が彼女の人生を変えてしまった。そして、少女の人生も。
これは、彼女による彼女の為の少女のナルシストへの序章だったのだ。