凄惨な拷問と、何事にも反応がおくれがちなキアン
拷問吏はため息をついた。
今まで行ってきた数々の凄惨極める拷問でも、これほど気乗りのしない相手は初めてだった。
その相手とは、単なる少年である。
そのへんの街角にいるような少年が、この熟練の拷問吏を悩ませていた。
少年は本当に普通の少年だった。あくまで普通だった。どこまでも普通の少年だった。
例え恐ろしい悪党でも泣き叫んでしまうような拷問にかけても、ちょっと困った顔をするくらいでごく平常運転なのだ。
これが敵に情報を漏らすまいと虚勢を張っているなら拷問吏にも分かるのだが、少年は聞かれたことにはごく普通に答えた。媚びるでもなく、かといって反抗的でもなく。
道を聞かれたような気軽さで答えられてしまっては、情報の吟味もしようがない。
少年から聞き出して報告した内容は誰かが裏を取りにいっているはずだが、今のところ拷問吏へ真偽の通達は無かった。
となると拷問吏の仕事はさらに少年から情報を引き出すことだったが、あらかたの質問は既に出尽くしている。
毎度毎度同じ質問をし、気のない同じ回答が返ってくるのが、この拷問吏と少年の日課であった。
キアンは普通の少年であった。少なくとも、本人は今までそう思って生きてきた。
しかしここにきて、その認識は改める必要が出てきた。
キアンは何の因果か全く関係ない事件の関係者として疑われ、拷問に掛けられてしまったのだ。
もちろん単なる少年キアンにとって、その過酷な仕打ちはとても耐えられるものではない。
激しい痛みと苦しさ、また精神にくるような辛い目に追い詰められ、もう死んだ方がマシだと思っている。
だがその苦しみは拷問吏には全く伝わらなかった。
タイミングが掴めないのだ。苦しさを訴えるタイミングが。
まず最初に衝撃が来て、少し置いてから痛みや苦しみが来る。
そしてキアンが耐えがたい苦痛に襲われる頃には「思わず悲鳴をあげて自然なタイミング」は既に去っており、彼は碌に表情も変えられずに痛みに翻弄されるか、意識を遠のかせるかくらいしか出来ないのだ。
したがってキアンは限度を見誤った拷問吏により、とりかえしがつかなくなるまで痛めつけられることとなった。
この拷問吏及び拷問吏に指示した者は社会的に大顰蹙を買い首を切られる羽目になったが、死んでしまったキアンにとっては何の関係もないことである。