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海界の地  作者: 山澤幸花
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2話

「なかちゃん、陽奈。いらっしゃい」


「おじゃましまーす。あれ?お客さん?女の子の靴だね。彼女?」


「違うよ…」


クスリと笑って俺は2人を迎え入れた。陽奈はちょっと暗かったけど、なかちゃんがいたからか落ち着いてるみたいだ。


「ごめんね良樹君……急に…」


「ううん、いいよ」


2人をリビングに上げるとソファに座らせた。なかちゃんは一人暮らしだからいいとして陽奈はちょっと心配だな。おじさん達に伝えてるのかな?そんな俺の心配とは無関係に明るい声が響く。


「おー、イケメンのお兄さんじゃん!!……俺のタイプど真ん中!眼鏡スーツいい!」


ペットボトルのジュースを手に言う泉になかちゃんは顔をしかめた。はじめて見る顔だった。


「よしくん、彼は?」


「えーっと、待って、思い出すから」


「は?まさか名前覚えてないの?」


「字は覚えてる。泉……泉ちょっくら?」


「ちょっくらじゃねぇよ!直蔵!!なおくらだっつーの!」


「ハハ、ちょっくら…」


「だーもう…違うって」


陽奈が小さく笑ったことに安心したのも束の間、バスルームから国分寺が出てきた。肩にタオルをかけて俺のTシャツと下はジャージをはいていた。背が低い俺よりも更に小さい国分寺には大きかったのか裾を折り曲げている。


「お風呂…いいお湯でした…アヒルさん可愛かった……」


「国分寺さん?」


陽奈が驚いて国分寺を見る。そりゃそうだ。風呂入ってたんだから。女の子が一人暮らしの男の部屋で。


「……これにはタンポポより低い理由がありまして……」


「えっと良樹君、ツッコミ所たくさんあるんだけど…」


「よしくんアヒルさん置いてるの?」


「あーもういいでしょ!!ていうかなんでアヒル持ってきてるの?」


「可愛かったから……」


国分寺はちょこんと床に座った。シュンとうなだれた姿は犬みたいだ。


「由美子ちゃんはジュースをつごうとして零したんだよ。そんで制服にかかって今洗濯中。着替えもないし仕方ない、風呂入るかってな」


なぜか泉が答え国分寺はうんうんと頷く。


「アヒルさんが可愛かったので作っちゃいました……」


[やぁ!俺ガー君よろしくな!]


国分寺の手の上で風呂場にあったアヒルのおもちゃが喋っている。カタカタと揺れながら喋っている。


「へぇーこれがさっき言ってた由美子ちゃんの能力か」


「命を宿すって凄いね……」


カタカタと揺れながらアヒルはテーブルを動き回る。


「私が顔を書くと何故か動き出す……食べ物や植物は枯れたり腐ったら死んじゃうけど無機物は多分死にません………」


[ヘイヘーイ!!レディ可愛いねー俺と遊ぼーぜ]


うちにあったアヒルがチャラい。なかちゃんは目を輝かせ国分寺にたずねる。


「じゃあぬいぐるみも動くの?」


「はい。性格は決められませんが……あと顔を書く必要があるので汚れるかも……」


なかちゃんがカバンから手のひらサイズの犬のぬいぐるみがついたキーホルダーとペンを取り出して国分寺に渡す。


「この子に顔書いてもらっていい?」


「わかりました」


キュッとぬいぐるみに顔を書く。もともとついてた目や口をなぞるように。国分寺は出来上がったぬいぐるみをテーブルに乗せた。


[…………あら?あらあら?私どうしちゃったのかしら?おかしいわね。あらあら?私動いてる?不思議ねぇ?]


ある程度動ける造りだったのか顔を傾げたキーホルダー。なかちゃんはそれを陽奈に渡した。


「はい、陽奈ちゃんにお守り代わりにあげる。力を込めたのは由美子ちゃんだけどね」


「あ、ありがとうございます……」


顔を赤くして俯いた陽奈。泉はなかちゃんを見つめる。なんだか険しい顔で。


「やっぱりお兄さん俺のタイプだわ」


「僕は異性愛者だから」


「あ、じゃあ俺に抱きつくのは無しで」


「それとこれとは話が違うよ、よしくんは腕にすっぽり収まるから気持ちいいんだよね」


「なかちゃん、意味わからないんだけど……」


『ねぇねぇ良樹、変わって変わって!!』


希望が楽しげに言う。遥が止める声がしたけど俺の気持ちとは関係なく希望が表に出てきた。


「ウフフ、お兄さんカッコいいし素敵だけど良樹を困らせたら許さないわよ?」


「え?よしくん、どうしたの?」


「アハハ!!そんな話より、陽奈ちゃん、あっち行こ?女同士で話そう!!行こ行こ!!」


「え?良樹君!?ちょっと?!」


希望が表に出た俺は陽奈の手を掴み寝室へ入る。去り際に泉にウィンクした。泉はガシガシと頭をかくと片手を挙げる。


「……私は女の子には入らないのでしょうか?」


[レディは美女だぜ!俺が言うんだ間違いないよ!髪型変えてみたら雰囲気変わるかもな!!]


カタカタとチャラいアヒルが場違いな話をしながら揺れていた。

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