うみかいのち
この世界には100万人に1人能力者が生まれる。
能力者には体内に発光する虫がいることがわかっており、子供が5歳を迎えると施設に集められ能力者か判断される。
その虫は体内から取り出すと能力者共々消滅してしまい骨の一つも残らなかった。
能力者による事件も多発し一般人の恐怖はますばかり。しかし、それと同時に能力者への差別やいじめも増え、能力の無い加害者を復讐のため能力者が傷つけることも社会問題となっていた。
また、能力者だけの学校を設立する働きもあり、一般人はますます能力者を敬遠していた。
『良樹、来週どこか行こうか?』
『ほんと?!どうぶつみにいきたい!!』
『そうかそうか』
楽しかった数年間。5歳の誕生日を迎える年にどこかの施設で白衣を着た人間に体に異常がないか調べられた。その日のうちに検査結果は出される。
待合室で名前を呼ばれ母が封筒を受け取った。帰宅して開封し中の紙を見た時の母の顔が今でも頭に残っている。
悲しそうな、絶望的な母の顔。仕事を終えた父も同じ顔をした。
『あなた…』
『今日、検診だったろ?』
『えぇ……これを』
渋い顔をした母が父に渡した一枚の紙が俺達家族を壊した。
『馬鹿な……!!私の息子だぞ!?』
『でも事実なの!!私、どうすればいいか……』
『……良樹に会社を継がせるわけにはいかない……そんなことしたら…』
この国で知らぬものはいない大企業の社長を勤めていた父は、紙きれの文字と写真だけで息子を自分の元から手放した。
【能力者の疑いあり】
5歳から始めることになった一人暮らし。アパートの前で通帳とカードを手渡される。
『良樹、父さん達はお前といられないんだ。これにお金が入っている。お金は毎月ここに入る。必要な物はそれで揃えなさい』
そんなことを言われても子供には何もわからない。何も知らないまま遙か南へと追いやられた。その時はただ、ただ、ショックだった。
俺をアパートまで連れてきた父はすぐに出ていく。まるで顔も見たくないかのように。誰もいないアパートに1人うずくまる。
『おとうさん、おかあさん……なんで?』
【大丈夫よ、私がついてる】
ふと胸の中で聞こえた暖かい声。
『誰……』
【私は美幸。あなたの側にずっとついてる。ほら、目を閉じてまた開いてみて?】
言われるがまま目を閉じて再び目を開くと広い空間に立っていた。真っ白な世界に扉だけが5つ浮かび上がっている。
その扉には名前が無いネームプレートがかかっていた。その扉を1つずつ見ていく。
一番左端のネームプレートに《みゆき》の文字。
恐る恐るノックする。
「いらっしゃい、会いたかったわ」
出てきたのは背の中程まであるゆるやかにウェーブがかったミルクティー色の髪に緑の瞳をした女性。彼女はしゃがむと俺を抱きしめ頭をなでた。
「もう、大丈夫よ。私が、いいえ、私達があなたを1人にしない。あなたが私達を必要とするときあなたの側に現れる。だから泣かないで?」
そっと涙を拭われ幼い心に優しい母のような温もりが染み渡っていった。