GET OF THE NEW FORCE
イサムの腕の先の向こうを良く見ると、そこには倒れ伏す汚染ドラゴンの姿があった。
イサムはイヴァンの方へ視線を向けると、ふっ、と気障に笑みを溢してきた。
「いやー、間に合って良かった」
「主殿、それは…!?」
イヴァンは汚染ドラゴンが吹っ飛んだ事よりも真っ先に、イサムの拳に存在する“それ”に驚いてしまった。
「んん、ああ、これ? こいつは――――」
と、態勢を取り戻したのか先程よりも汚染ドラゴンが激昂する。
「神器“ドラゴンファング“だ。『龍咆波』!!」
龍の頭部を模した“それ”から龍の頭部の、上顎と思しき部位より鏡の様な、球体をぶった切った様な形の宝玉からエネルギーが放出し、汚染ドラゴンにぶち当たる。
『グギャァォォォォォッォォォォッォォォォォォォォ!!!』
予想以上のダメージだったのか、汚染ドラゴンは苦しんでいる。
「さ、て、と…取り敢えずお前をその苦しみから解き放ってやるよ、“山上様”……いや、あらゆる地を統べる『世界竜』の魂片、“地精竜”様よぉ?」
「の、地精竜様、じゃ……と!? あ、在りえん! 俺様は…俺様は――――」
「残念だが、真実だ」
イサムの視界に映る事実に驚きを隠せず、狼狽えるイヴァン。
――――正体は解った。
しかし、今の自分自身では敗北しないが勝利も奪えない。
イサムは未だに困惑するイヴァンを傍らに、汚染地精竜に視線を向き直すと、デヴァイスを自身の眼前に翳し、“変身”へのプロセスを抉じ開ける。
『チェェェェェンジ!!ドラゴン・フォォォォォォォォォォォォォス・イィィィィッィィクス!!』
「トレェェェェイス・オン!」
そして、再び龍の英雄が地に降りた。
『ガァァァァァァァァァ!!』
地精竜と呼ばれた汚染ドラゴンが突撃を開始する。
「『ファング・ブレイク』!」
『ゴァ!?』
イサム――――ユージーンが右手を切り上げる様にアッパーを喰らわせると汚染地精竜の巨体は呆気無く上空へと勢い良く飛んでいく。
汚染地精竜は翼が退化し頑強な鎧となっているせいか中空ではその効力を失い身動きが出来なくなってしまっている様で、その隙を逃さず、汚染地精竜の懐に入ると切り下げを行う様に殴りつけて地面に叩き落とす。
「トドメだ! 『ドラゴンブレス・ハウリング』!!」
両拳のドラゴンファングを合わせ、浄化エネルギーを乗せた心魔力を収束させて一気に解き放った。
浄化エネルギーのブレスに抵抗できずに直撃を受けた汚染ドラゴンは、光の筋に飲み込まれ、“穢”と“邪”を消し去っていくのであった。
○ ○ ○
『――――ふぉっふぉっふぉ。 御仁達、済まなかったのぉ…』
汚染が奇麗さっぱり浄化され、解放された地精竜はイサム・イヴァン・アーノルド・アシュトレトを眼前に捉え、謝罪の言葉を投げかけた。
創世の竜から生まれ、世界の大地と共に都市を重ねた老齢の竜の姿は実に雄大で、それでいて何処か安心感を憶えた。
最も、アーノルド・アシュトレトの両者は最初のブレスで脱落してしまい、最後まで真実を知る事が出来なかったのだが。
『――――しかし、の。儂が幾ら耄碌した婆とはいえそれなりに対抗できる事が出来ると自負しておったが…今代の魔王め、自ら神を名乗り、他世界を掌握しようとしよった。主等が儂を止めとんかったら、未だに彼奴の尖兵としてこの世界を汚染し続けておったじゃろうな』
「え…」
両者は驚きのあまり目を剥いてしまう。
『しっかし…お主、そう、お主じゃ』
「…俺?」
『そうじゃ。お主からはこの世界の力に加え、別の力を感じるのじゃ』
地精竜はイサムを指してその疑問を投げ掛ける。
「…心力の事か?」
『ふむ、“イーマ”というのか、それは』
「あ、ああ。正式には“イマージネーション・フォース”…“ヒーロー”が悪と闘うために使用する力だ」
「“ヒーロー”…か。ほっほ、中々面白いのぉ」
「そうかい」
と、デヴァイスからアラームが鳴り、聞き慣れた声がそこから流れて来た。
『ふぅ…漸く繋がった。ああ、大丈夫だった!? 先程強力なエネルギーが通信を妨害してて…って、あれ?』
そう、その声の主は管理神・テラからだった。
○ ○ ○
「テラ…?」
突然の声の主に、ひやりと嫌な汗が流れた。
「えっと…誰だ?」
『えーっと…』
『ほほう…声から神の力を感じるの』
「へ? 神様、ですか?」
アーノルドが素っ頓狂な声を上げた。
それもそうだろう、相手は『神』と名乗っているのだから。
『ああ。僕の名は第九千九百六十五兆一千百十一億六千二百九十七万八千四百四十四世界管理神『テラ』、この世界…『ドラゲリオンズ』の管轄も担ってる存在さ』
改めて、テラはデヴァイスの向こうから自己紹介をする。
『ほうほう…管理神とは、興味深いの』
イサムを含む四者は四様に仰天しているが地精竜は逆の意味で驚いていた。
即ち、関心を抱いていたのである。
『初めまして、地精竜。僕は貴女に話があってね。この世界に召喚された勇者があまりにもお粗末だったんで、デヴァイスを所持する彼女…イサム君を先ず比較的汚染度が低い此処へ派遣したんだ』
「……は? じゃあ何か? イサムは勇者代理だって言うのか?」
『性格には派遣勇者、なのだけれども』
しかし、あの規模であの程度なのだ。
先程の戦いで最高位のドラゴンである地精竜に勝てたのはそのたぐいまれなる才能は兎を差し引いても本当に奇跡としか言い様が無い。
『成程…俺様に勝てたのもその影響って訳じゃな?』
『あれはまだ君が実力不足以前の未熟で、力に目覚めていなかったからだよ。完全に噛ませ竜』
『が、がーん!?』
完全に雑魚宣告を言い渡されてショックを受けてしまう。
『……まぁ、君もイサム君と似た『際限無き成長者』だから心配しなくても大丈夫だけどね』
『ほ、本当か!?』
『ええ。イサム君と出会ったのは想定外だったけど、その出会いは或る意味必然だったのかもしれないね』
『む…』
「それはつまり…イヴァンは俺と一緒に行動した方が伸びる、と?」
『端的に言えばそうなるのかな?』
「何だそりゃ?」
それは兎も角、と。
『イサム殿…』
「何だ?」
デヴァイスから地精竜に視線を戻すと、剣角無表情でイサムを見据えて言った。
『お主が龍魂を発動していなかったら、儂は何時か討たれておった訳じゃが…その礼と言っては何だが…儂の魂の欠片をお主に託そう』
そう言うと、地精竜の目の前に淡い光の球が現れた。
『『世界を創りし竜より産まれし竜がひとつ、地精竜=ドラゲリオンが託かる。彼の者に我が魂の祝福を授け、託す事を許可し、その大いなる力で以て穢れを討ち祓わん事を約束しよう』!』
地精竜がそう言うと、光の球はイサムの体の中にすう、と溶け込んで行ったのだった。
『これでお主は我が力の精竜術が使用できる様になった訳じゃが、テラ殿これで宜しいかの?』
『申し分無く』
計らずとも意に添う形となり、その声は満足げであった。
「それじゃあ、次は」
『火の国…つまり“ヤマト皇国”だね』
「火…という事は火精竜って所か」
『いや、不死鳥龍だね』
――――一瞬フェルト帽の似合うとある某漫画家の姿が脳内を過ったが、いちいち気にしていたらキリが無いので、流す事となったのは言うまでも無い。
『そろそろ儂は山へと帰るのじゃが…取敢えずお主等は今日、この村でゆっくり休んでから往く事を進めるぞい』
「有難うございます」
『良い良い。ではの、また会おうぞ』
そう言うと地精竜はねぐらのある山の方へと歩みをはじめた。
その晩、イサム等一行は村で休息を取るとい共に依頼の完遂を確認、それぞれ報酬を支払い、翌日それぞれの場所へと目指し、その村を後にして行ったのであった。