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DH・勇神(ドラゴンヒーロー・ユージーン)  作者: 沖 智美
THE NEW WORLD
4/5

D‐SOUL#2

 食事を済ませたイサム等一行は、再び汚染された“元”村を訪れていた。


 「目的はあくまで地の浄化。けど、油断は禁物だ」


 「「了解!」」


 『ギュ…』


 若干一匹はあまり班分けに納得いかず、乗り気では無い様だが。

 兎も角、それぞれアーノルドとイヴァン、アシュトレトとイサムに別れて移動する事となった。


 「――――それにしても、酷い荒れ様ね」


 村の惨状を見て回るアシュトレトはぽつりと呟いた。

 到る所に穢れた粘液でこびり付いており、また“邪”による影響か火山から絶え間無く吹きだしている硫化水素ガスの様に濃紫の(瘴気)を発生させている。

 既に顔面を浄化の魔力で覆ってはいるものの、追い付けずに独特の刺激臭が鼻腔・及び口腔内を突き刺してくる。


「ああ…下手したら『喰人鬼(グール)』の腐臭の方がマシに思えてくるぐらいだな」


 魔力と心力を練り合わせた微量の浄化のオーラを体外に放出させながらイサムは彼女の後をゆっくりと追い続ける。


 (銃は無し、コンバットナイフも無し。……元々の戦闘スタイル…とはいえ、武器無しは結構キツいな)


 元々、イサムには携行武器が配備されてはいない。

 苦虫を噛み潰した様な表情で思いつつ、イサム・アシュトレトペアは探索を続けて行った。

 ――――一方、アーノルド・イヴァンペアの状況もあまり芳しくは無かった。

 粘液が蠢くその姿は、同じ粘液生物であるスライム以上におぞましく思えた。

 何処から襲われるか解らない状況に、一抹の不安と恐怖・焦燥を憶えてており、最悪のコンディションとなっている。

 無理も無い。

 未知の領域に踏み入れた結果、例えベテランと言えども命を落としかねないプレッシャーを抱えているのだから。


 『ikachuelkcifikng vhjasg./k,xcjaimc+cbyrvutsrjfa―――――――――――――――!!!!』


 突如粘液が(おびただ)しい程の触手をうねらせ、対象者を蝕ま(おかさ)んと伸ばしてくる。


 「ギュルォオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン(この成り損ないがぁぁぁぁぁぁぁぁ)!!!」


 「せぇぇぇりゃぁぁああ!!」


 イヴァンの口から白焔のブレスが吹き出し焼き払い、アーノルドは片手半剣(バスタードソード)で薙ぎ払い、断ち斬っていく。


 「く…駄目だ。刃が腐っちまった」


 粘液の攻撃から防ぎきったものの、アーノルドの剣は普通の金属製、何の耐性も無いその鈍色(にび)に輝く刃は悪意に汚染され、呆気無く、その剣生を終えてしまった。


 (くっそ…剣が駄目になった以上、このドラゴンちゃんに守って貰うしかないか)


 己の不甲斐無さを怨むが、何時までも引き摺っている場合では無い。

 今自分がすべき事は、此処の聖域の原因となる障害物を発見する事だけ。

 幸い剣は失ったが魔法がある。

 魔力で剣の形を創り上げ、一閃。


 (先程は油断してしまったが……大丈夫だ、まだ俺は呑まれてはいない)


 魔力の刃は再び襲ってきた粘液の触手を斬り裂いた。


 (全く…主様なら兎も角油断しおってからに…しかし……)


 先程の一戦を傍らで観察していたイヴァンは、アーノルドをそこ等辺に存在する有象無象だと侮っていたのだが、冷静に対処する行動に感心した。

 魔力で作られた(ソレ)は質も量も一級品、それでいて尚安定している。


 (まぁ“それなり”に、じゃな)


 減点から一転、若干彼の評価を上げると最深部へと進んで行くのであった。


 ○ ○ ○


 「――――異常らしい異常は、今の所は無しね」


 「ああ」


 絶えず蠢く粘液は未だに変化する兆しは無い。

 寧ろ此方をじっと観察している様に思えてならなかった。

 たまに感じる強い視線。

 それこそ(くさむら)から獲物を見定める狩人の様な。


 「――――!?」


 一瞬、ぞわりと悪寒が走り咄嗟に縮地で後退する。


 「どうしたの?」


 どうやらアシュトレトは気付いていない様で、イサムの行動に首を傾げていた。


 「…あ、ああ…何でも無いさ」


 「そう?」


 「此処で最後か」


 と、背後で声がしたので振り向くとイヴァンとアーノルドが近付いてくる。

 合流したイサム達は此処までの様子を報告し合ったのだがこれと言って目ぼしい情報は無く、結局は空回りに終わったのであった。


 「そう言えば…ここ等辺に伝わる謂れは無いか?」


 「謂れ、と言っても…あいや、そう言えば……何でも此処の辺りの山々は“山神様(やまがみさま)”の(おわ)す霊峰だと、確か聞いた事があるな」


 「“山神様”ですか?」


 「ああ。年に二度、祈年祭と収穫祭に山に登って其処にある祠に供物を捧げ豊作を願い“山神様”に祈る風習がある、と以前地元のギルド員が話していたからな、確かなんだろうさ」


 まるで日本みたいだな、と感じたのも束の間、再び刺す様な視線がイサム等四人を襲った。

 先程とは違う。

 そしてその視線の原因が轟、と地響きを立ててその姿を露わにした。


地竜アースドラドン!?」


 現れた“穢”の粘液に塗れたドラドンは咆哮を上げると敵意を剥き出しにし、言葉を発する。


 『ニン、ゲンッ…サ、レ…ココカラ、タチサレェ…!! ガァァァァァ!!!』


 粘液を撒き散らし、怒号が一行を巻き込んでいく。

 地面に落ちた粘液は異形の生物へと変貌遂げ、突如として襲い掛かって来た。


 「くっそ、なんて厄日だよ」


 アーノルドは悪態を吐いて魔力の剣を振い次々と斬り捨てていく。

 イヴァンは白焔のブレスで焼き払い、アシュトレトは剣を魔力でコーティングし、断ってゆき、イサムは魔力と心力を練り合わせた魔心力で肉体を包み込んで格闘術で屠って行った。

 しかし、倒した所でドラゴンから粘液が際限無く撒き散らし、その度に増殖していくのでキリが無い。


 『ニン、ゲンッ…サ、レ…ココカラ、タチサレッ…!! イノチ、ガ、オシケレ、バ、サ、レ!!』


 かぱり、と大口を開けたと思いきや、エネルギーが集束していく。


 「ギャグゥ(いかん)!!」


 イヴァンは咄嗟に口元にエネルギーを集束させた。


 そして二体から同時に解き放たれる魔力光線。


 「イヴァン!?」


 『来るな!!』


 光線がぶつかり合う。


 『ジャマ、ダ!!』


 『しまっ――――』


 ぐん、とドラゴンの光線の勢いが増し気押されたイヴァンは、その場に踏み止まろうと威力を上げたが時既に遅し、幼竜形態の力不足が災いし抑えきれずに直撃、イサム・アーノルド・アシュトレトを巻き込んで爆発を起こしたのだ。


 「ぐ…ぁっ」


 爆発の直撃を受けてしまったイヴァンは数メートル吹っ飛び、六度程地面にバウンドし民家の壁へと激突して漸く止まったが、防御が間に合わず思わぬ大ダメージを喰らってしまった。

バウンドした拍子に肺に溜まっていた空気が一気に吐き出され、それが更なるダメージを与える。

 イサムを含めた三人もまた、ただでは済まなかった。

 直撃を免れたとはいえ、その余波は凄まじく、彼女等も吹っ飛ばされてしまった。


 「ぐ、う、くぅ…」


 イサムは何とか中空で体制を立て直し、着地に成功するがアーノルド・アシュトレト両名は防具の重さ故か、地面へと叩き付けられてしまい、その衝撃で既に虫の息の状態である。


 (くっそ…最悪じゃねぇか)


 心中、悪態を吐きながらも彼女等の前に躍り出、何時でも汚染ドラゴンの攻撃を防げる態勢に移る。

 運良く助かった……とはいえ先程の爆発のダメージは酷く、ボロボロの状態である。


 (にゃろーめ…ただの魔力と心力じゃまともに防げる術が全く無ぇな…せめて無理にでも心法覚えときゃ良かった)


 今の今までイサムは良く回る頭と拳、そして脚だけで戦いを切り抜けてきた。

 だから法術系を覚える事を放棄し、それだけを磨き上げてきた。

 二度目の悪態を吐きながら、汚染ドラゴンを見据えた。

 彼女の瞳に映るは再びブレスを放たんと大きな口を開ける汚染ドラゴンの姿だった。


 「ええい、どうとでもなれ!!」


 背には死に体となった仲間。

 背に腹は代えられない、と腹を括り上段構えの態勢へと移行する。

 そして、放たれる汚染ブレス。


 『う…う…あ、主、殿!!?』


 意識を取り戻したのかイヴァンが叫んだ。

 しかし、彼女の体はダメージのせいで動けない。


(あるじ)っ、主殿(あるじどの)ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 叫ぶと同時にイサムは心魔力でコーティングした拳を突き出し、ブレスを殴る。

 禍々しい光の奔流は拳の前に抵抗する。

 謂わば拮抗状態の様なもの。


 『駄目じゃ! それ以上は、主殿っ主殿!!』


 「くっそ! 負けてたまる、かぁ!!」


 気合いでブレスが木っ端微塵、四散する事無く、悉く砕け散った。


 『にげ――』


 「――へ!?」


 イヴァンが次に見た光景は、イサムが“二度目”のブレスに飲み込まれた瞬間であった。


 『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』


 轟音が、暴虐の光が、何もかもを消し去っていく。


 『主殿っ、主殿っ!!』


 涙が溢れ、嗚咽交じりに泣き叫ぶ。


 『…………』


 『……イ、ノ…チガ、オ、シケ、レバ…コ、コカ、ラ…タチ、サレ…』


 エネルギーの集束。

 三度目のブレスのブレスが今度はイヴァン等を消し去るために放たれ様としていた。

 アーノルドとアシュトレトは未だ意識は戻らず、イヴァン(自身)も体の自由が利かない。


 (ああ…もう、終わり、じゃ)


 彼女の網膜で放映され始めた走馬灯。

 其処には、絶望の嵐が吹き荒んでいた。

 ――――ブレスが放たれる。


 「――――」


 一瞬、何かが聴こえたと感じた瞬間にずどんと鈍い音が何かを吹っ飛ばしたのだ。


 爆発の霧が急速に逆巻き、そして一気に晴れた。


 『――――!!』


 其処に居たのは、先程の攻撃で死亡してしまったと思われていた女性――――イサムーーーーが背に輝きを放ちながら立っていたのだ。

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