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DH・勇神(ドラゴンヒーロー・ユージーン)  作者: 沖 智美
THE NEW WORLD
3/5

D‐SOUL#1

ヒーローとは、誰もが憧れる存在。

 勿論、悪い奴等を蹴散らすのは当たり前だが、結局そんな役割だけで存在していると言う訳でもない。

 今の上層部のトップはそんな事を忘れている事すら気付かない、いや気付けない。

 大義名分だけ頂戴したら――――。


 「……」


 カーテンの隙間から洩れた光が、彼女――――イサムの顔に掛っている。

 窓の反対に体を向けながら、眠気の本能に従って朝の日差しから避ける様にすっぽりと頭まで布団を被り数分、じっと昨日の事について思い返していた。

 昨日助けた少女一行は今現在イサムがいる国『ドラゲニア王国』の姫で、魔王を倒すための隣国との連合の調停を結んだ帰りだったという事が判明した。

 魔王。

 役職としては安直で、一般的には勇者と対成す存在である。

 毎回勇者に討伐されるのがオチだが、その原動力は単純で、差して面白味も無い。

 それ故にその事を考える事を諦めた人間がいた。


 「はてさて、とうしたものか…」と心の隅に置きながら、イサムはぶつくさと森の中を歩きながら、今後の事を考えていた。


 (んん…勇者を動かす黒幕も、魔王を動かす黒幕も解らないまま、か。全く、何処のムリゲーだよ…)


 『主、一体何を悩んでいるのだ?』


 肩で喋る生命体――――いや、随分とデフォルメが利いた爬虫類が一匹。


 「お前にゃ解らん事だ」


 あの後、彼女にぶちのめされた雌竜――――イヴァン=オーニソガラムというらしい――――と、うっかりぶっ飛ばして仕事を増やしてしまった責任を取る形で使い魔契約をし、更に仔龍状態にさせて同行する破目となったのだ。

 少々理不尽ではあるが、今後イサムの手に負えない事態が起きた時にイヴァンの力がどうしても必要になって来る、だから何でもかんでも一人で背負いこんで無茶をせずに彼女を頼れ…と別れる前に王女様から約束されており、しかも他に選択肢が思い付けなかったのでしぶしぶながらそれを承諾せざるを得なかった、という訳なのである。

 その彼女(そう見えないが)も「面倒事に付き合いたくない」との理由から王女様一行と別れ、ドラゲニア王国の隣、『ヤマト皇国』と呼ばれる、和を基調とした国にこうして向かって、移動していると訳である。

 まぁ勇者(屑)が散々喚き散らした揚句駄々をこねていたのだが、王女様がどうにか捻じ伏せ、半ば強制的に引き摺りながら自らの変えるべき場所へと帰っていった。


 「ヤマト…か」


 道すがらイサムはヤマト皇国がどの様な国の外観か、想像していた。

 警護の騎士から聴いた話によれば(あやかし)と呼ばれる魔物らしき物と共生している国との事だ。


 (そーいや、同期のヒーロー見習い(ニュービー)仲間に退魔師が居たな。どうしてんだろあいつ、しょっちゅうヘマしてるイメージしか思い付けねぇけど)


 ………………

 …………

 ……


 「――へっくち!」


 「大丈夫?」


 突発的くしゃみに襲われた少女は、ずずっと鼻をすする。


 「ふにゃぁ、勇ちゃん辺り噂してるのにぃー」


 「何なの、その根拠」


 ぴこぴこと少女の頭の上で動くそれを、隣にいた女性が触りながら溜息を吐き、呆れ返った様な表情で台詞を飛ばす。


 「早く会いたいのにゃあ」


 「全く、あんな無茶っ娘の何処が良いのかしらねぇ…?」


 ………………

 …………

 ……


 イサム一行は先の宿屋を後にし、森の中を進み、漸く村と呼ばれる生活圏のある場所へと辿り着いた。

 あれから一週間経った、天候の良いある日の事である。

 ……いや、有ったには有った。

 が、今はどうだろうか?

 瘴気、なのだろうか…辺りを毒々しい濃い紫色の霧が立ち込めている。


 「むむ…負の感情が立ち込めて、かなり気持ち悪…うっぷ」


 イヴァンさえも、こればかりは堪える様である。


 「俺は平気だが…此処まで純粋な“邪”を感じたのは初めてだな」


 イサムはヒーロー業故にある程度の耐性はあるが、はっきりと肌で感じた事が無いために平静を装うことは可能である。

 しかし、内心は冷や汗が止まらない。


 「“邪”ならまだしも、“穢”まで感じやがる。一体どうすりゃ、こんなんなるんだ……?」


 「仕方無い」


 腕に装着されたデヴァイスを使用し、有る人物を呼び出す事にした。


 『もしもし?ああ、丁度掛って来る頃だろうと思ってたよ。で? 用件は?』


 「そうだな。嘗て村だった場所に“邪”と“穢れ”が観測された。取りあえず俺が連絡寄越したから、まぁ位置情報くらいは解るんだろ? テラ」


 『んー、どれどれ…あーりゃ…確かに、これは酷いね』


 「どうする? 祓おうにも今の俺じゃ勝手が解らんし、どうにもなんない」


 「はぁ!? ちょっと待て、俺様をあれだけぶっ飛ばしてくれた主でもか!?」


 「そりゃまぁ、ある程度なら出来るけど、さ? 流石に時間掛けても出来ないものは出来ねぇに決まってるじゃん…」


 それは未熟者だから解る事であった。

 圧倒的な経験の差から来る、悔しさの表れでもあったのだ。

 何も出来ない。

 神様さえも干渉出来ない、望めない。

 イヴァンは論外、自分自身も力を貰うには貰ったが、数日経ったとは言え未だに扱いきれていないのが現状である。

 仮に行ったとしても……その途端、ほぼ間違え無く、肉体が耐えきれずにお陀仏…最悪、血は残るかもしれないが、肉片の一片の欠片は全く残らず、精々木端微塵になるのがオチだ。

 そんなリスクは御免被る、此方から願い下げである。


 『あ、御免。誰か来たみたいだから一旦切るね? じゃ、また』


 人気(ひとけ)が出たのか、慌ててテラは通信を一方的に切ってしまった。

 余程、イサム達を不審者に思われたくないのであろう。

 宛てにならない物はどうしたって、どうにもこうにもどうもしようも全く無い、それこそ酷いくらいに。

 頭を抱えて溜息を吐くしか、他に出来る事が無いのだ。

 つまりは、何回挑んでも、何回挑んでも、序盤のステージさえ始める所か、開始直後に墜ちてしまう最悪で最低なユーザー・プレイヤー泣かせの鬼畜無双の無理ゲーをプレイして、すぐに投げ出しているのと同義なのである。

 それが続くと溜まってしまい所謂積みゲーと呼ばれる物にグレードアップ(?)してしまうのだ。

 そんな物、誰もやりたくない、やれる訳が無い。

 それが、現在のイサムに置かれた現状なのだから仕方が無い。

 ――――いや、彼女等からすればいっそ死にたいぐらい最低最悪で理不尽な状況なのである。


 ○ ○ ○



 さて話を戻すが、彼女等の前に現れた人影は一組の男女だった。

 どうやら二人は村の調査のためにギルドから派遣された人らしく、その身には動き易い軽鎧(ライトアーマー)を纏っていた。


 「成る程…つまり“邪”に加えて“穢”というものが存在している訳か」


 ギルド隊員の男性は顔を顰める。

 “穢”という未知のマイナスエネルギーを考慮しても、侵食度合いからしても汚染の濃度が異常に濃い事には変わりない。

 寧ろ、濃すぎるのが不自然にすら感じられるから余計にたちが悪い。

 現在、例の村から少し離れた宿にいるのだが、瘴気の影響からか宿の経営者・逗留者はいまいちと気分が優れない様だ。

 皆、不安気な表情である。


 「まぁなんだ、理屈が解っているなら後はその原因を探すだけだな」


 「確かに。が、その原因とやらの発生源が解らん以上お手上げだ」


 大まかな場所は判明している。

 寧ろ重要なのは、内部状況だったりする訳である。


 「……あー、取敢えず辛気臭い話は後、後。食事がてら自己紹介な」


 三人(と、一匹)の目の前に食事が次々と置かれていく。


 「俺の名は『アーノルド=クリスティーン』だ。こっから先にあるドラゲニア王国の王都“シュトルーフェ“のギルド『聖龍の息吹ブレス・オブ・ドラゴン』のAランク隊員だ。気軽に”アル“と呼んでくれ。こっちは相棒の…」


 「『アシュトレト=セルヴァーニャ』よ。“アッシュ”って呼んでくれたらお姉さん、嬉しいな」


 アーノルドは何処にでも居そうなありふれた好青年、と言った感じだが他と見分けるならば額には✕の傷跡があると言った所だ。

 逆にアシュトレトは如何にも『女騎士』と思わせる風貌である。

 その割に厳格…というよりは何処か気さくで取っ付き易い性質である。


 「俺はイサム=キリュウ…いや、『騎龍勇』と呼んだ方が良いかな?」


 「ぎゅぎゅ、ぎゅわわわわ(俺様はオーニソガラムの『イヴァン』じゃ)だ!!」


 『…『念話テレパス』!」


 「ハウス!」的な口調で、念話でぼそりと呟く。


 『……わ、解っておる!!おほん!ふはははははははは!俺様はイヴァン=オーニソガラムだ、良く覚えておけ、人間よ!!』


 「晩飯抜――――」


 『イヴァンだ。よ…ろしくた…たたたたのみます…………でしゅ…』


 「よしよし」


 『んぐ…まぁ、良い。以上だ』


 ぷい、とそっぽを向いてしまう。

 なまじ完膚なきまでコテンパンにされたせいか、イサムに頭が上がらず尻切れ蜻蛉になるも、きちんと言い切る辺りそれなりのマナーは弁えている様なので、そこ等辺は全くもって大したものである。


 「それにしても騎龍勇、か。もしかしてヤマト出身?」


 「いや。まぁけど、多分似た様な場所から来たな。うん、それは間違い無い」


 嘘は言っていない。

 事実、彼女の生まれた世界の地球という水の惑星には日本と呼ばれる国がある。

 その昔、隣国である中国から伝来された『漢字』と、後にそれを元に日本で独自に開発された『仮名文字』を使用する文化が今尚根付いているからである。


 「と…それで、だ。本文に戻ろうか。調査の方は明日にするとして、“瘴気”と“穢”に塗れた“聖域”を作り出してる原因を突き止めなきゃ何時まで経っても『浄化』が行えないってぇのはこっちとしても痛い。大した報酬は無いけどその調査、俺等にも手伝わせてくれないか? 勿論、俺等が妙な真似をしたら即刻斬り捨てても構わない…あー、まぁ虫の良い話ではあるけどさ、どの道損は無いと思うぜ?」


 『あ、主!?』


 イヴァンが、息を吐くよりも素早く交渉を掛けてきたイサムの台詞にぎょっとする。

あ のダークフィールドを“聖域”と称し、あまつさえそれに対して『浄化』を行える事を強調させる。


 「信じるも八卦、信じないも八卦ってか…ほんと、規格外というか、常識外れというか…。しかし、それでも手伝ってくれるのはこちらとしても願ったりだ…で?」


 「ある程度の金はあるが、大体路銀だ。とはいえそれじゃ交渉の意味が無くなる。有るとすれば…」


 にやり、と確信めいた様な笑みを不意に溢す。


 「イヴァンは使い魔とはいえ姓があるという事は名のある龍種と言う事だ。鱗数枚あれば普通に売るよりも、ちったぁ良い武具やアクセなんかの装身具の素材に転用できるんじゃないかな?」


 『ちょ…馬鹿者!!幾ら主とてお、乙女の体……を、い、弄られるのは…は、恥ずかしいのだぞ!?』


 「…悪い。俺は好きな女子の服を嗅ぐ程変態じゃないし、それに渡すのはここ数週間で抜け落ちた“抜け鱗”だっつーの」


 『同じ事じゃ!!』


 と、一人と一匹は平然と会話しているのだが、確かに竜素材は貴重だ。

滅多には手に入らない。


 (竜鱗…そう来たか。となると高価な素材を下手に売って換金。で、“そこそこ”の武具を揃えるよりも、その素材を利用し武具を作成、それを揃えた方が長い目で見れば確実に効率が良いな。この者の台詞からは悪意は感じられないし、そもそも目的は穢れた地の浄化と言っている。寧ろこの状況を利用しない手は無いな、纏う雰囲気から見ても実力派ある様な感じで戦力的にも申し分ない様だし、それに元より信頼できると俺も解っているしな)


 「……交渉、成立だ」


 お互いの利害が円滑に押し通った瞬間であった。

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