POSTHUMOUSLY
※この作品は作者の自己満足でお送り致します。
此処は何処なのだろうか。
そう思える程“彼女”は、空白とも呼べる、何もかもが真っ白すぎる空間を見渡していた。
自身の存在はしっかりと確認できるものの、影のひとつも見当たらない。
寧ろ不信感が募るばかりだ。
と、一瞬悪寒が走り数歩の距離を取る。
「へぇ…こりゃまた厄介な」
すう、と突然目の前に謎のイケメンが背景に自然に溶け込む様に彼女の目前に現れたのだ。
勿論、警戒は怠らない。
「あー…そんなに警戒しなくて良いよ?」
申し訳なさそうな口調で、右手で頭を掻きながら目の前の少女に語りかけてくる。
しかし、男性――――いや、女性は得体も知れない謎の人物から流れ出るプレッシャーを感じている様子なのか、解く事を諦めてはいない。
「まぁまぁ、お茶でも飲んで落ち着きなさいな」
ぱちん、とイケメンが指を鳴らすと彼を取り巻く空間が何処かの茶室と思しき内装へと変わる。
内装もそうだが彼女自身正座している事に驚いてしまう。
目の前には羊羹が懐紙の上にちょこんと乗っかっていた。
その横にちゃっかりと菓子切りも。
再び目の前に視線を戻すとしゃかしゃかと軽快な音を立てながら茶を点てている、着物を着たイケメンの姿がそこにあった。
自分の姿も着物なのだが、振袖で無かった辺りイケメン配慮が見て取れた。
「…あんたが誰なのか少し理解できた気がする」
溜息を吐きながらも羊羹の乗った懐紙を手に取り、菓子切りで切りながら口へと運んで行く。
菓子を全て胃の腑へ落した頃合いを見計らい、着物姿のイケメンは次に点てた抹茶を彼女の前に置いた。
――――この茶碗は焼けた土と釉薬が良い具合に融け合った色合いが、独特の渋みを与えている。
彼女は骨董品というものには疎いが、これが国宝とまではいかないものの、最高に出来栄えの良い物であると直感ながら感じていた。
抹茶は苦いイメージがあるが、先程菓子を口にしたので口内は菓子の甘さで完璧にコーティングされている。
女性は三回半碗を回し、飲む。
抹茶の苦みが先程コーティングされた菓子の甘さとが口の中で混ざり合い、何とも言えないふくよかな美味しさが広がっていくのが解った。
まるで至福、そう思える程湯加減・茶・水・点てに到るまで持成しの真心が感じられたのだ。
そこで漸く完全にイケメンに対して警戒を解いた。
飲み終わり、飲み口を懐紙で拭き取った後再び碗を二回転させ自身の前にことりと置いた。
「ご馳走様、結構なお手前で」
「お気に召した様でなにより」
イケメンが一礼した後でイケメンは真剣な顔付きで少女を見据えた。
「本題だが…つい先程僕の管理する世界に勇者が召喚された」
勇者が召喚された、という事は何か危機的な状況に陥っているという事であろうか。
「が、問題は召喚された勇者何だが……勇者としてのポテンシャルが低い所か努力をしない天才型、及び甘過ぎる性格に加え壊滅的なタラシという事が発覚した」
「おもいっきり大問題じゃないか」
「屑思考ならまだ…いや既に屑思考か。最低の鬼畜思考なら救いはあっただろうに、何故世界はそいつを選んだんだ?」
「世界の意思曰く“イケメン”だから」
とんだ腐ったビッチ思考である。
「つまり、だ。アホ勇者に代わり、少しでも“伸び代のある”俺を派遣したいって訳か」
「概ねそう言う事」
――――断る、と言った所で今彼女はイケメンの想いを踏み躙る事は人道に外れると感じその案件を元の世界に戻すという絶対条件の元、呑み込んだ。
「早速だけど…はい、君の変身デヴァイス。向こうで戦える様に調整は済ませてるから安心していいよ」
油断も隙も、へったくれも無いな、と思いながらもデヴァイスを受け取る。
「さ、あの襖の向こう側が君の派遣先の世界『ドラゲリオンズ』だ」
少女は襖に手を掛け開く。
「そうだイケメン、アンタの名前を聞くの忘れてたな」
「僕の名は第九千九百六十五兆一千百十一億六千二百九十七万八千四百四十四世界管理神『テラ』」
「そっか。じゃあな、テラ」
少女は襖の向こうの光の向こうへと消えていった。
「…これから君は真のヒーローとして幾多の困難に遭遇する。でもそれが、これから歩んで行く運命なんだよ? 騎龍勇君」
その声は当然既に異世界へと渡った彼女――――騎龍勇には聞えなかった。