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「えー、というわけで、文化祭が6月29日に決定しました。さっきも言ったよう、申請さえすれば、何をしてもオーケーです。
では、皆さん。しっかりと考え、有意義な文化祭にしましょう」
徳馬は、ボーっとしたような顔で話を聞いていた。
話の内容は、文化祭のこと。なにやら、10月の予定だったのだが、工事の関係で6月29日に行われることになったらしい。
しかし、そんな話の間、徳馬は上の空。何も聞いていなかった。
帰り道。キャンパスを出ようとしたとき、将司が後ろから走ってくるのが見えた。
「どした?」
振り向きざま、将司に問う。
将司は、ニヤリと白い歯を覗かせながら徳馬に言った。
「あのさー、文化祭あるじゃん? あれ、おめー何かすることある?」
「いんや、ねーけど」
徳馬がそう答えると、将司は1人ガッツポーズをしていた。
「じゃぁさ、俺と一緒に歌おうぜ! バンド特別参加、大沢徳馬さんでーす、ってことで」
将司の言葉を聞き終えたとき、明らかに徳馬は嫌そうな顔をした。
が、将司は続ける。
「おめーが作詞していいからさ。作曲は俺等でやっといてやるし。どう? やろーぜ」
だが、徳馬は中々オーケーサインを出さない。
そうして話してるとき、後ろから沙紀があわられる。
沙紀の姿を見つけると、先に徳馬が沙紀に話し掛けた。
「お、沙紀。帰り?」
「うん。徳馬どうしたの?」
沙紀は、徳馬が嫌そうな顔をしているのを見て、そのわけを徳馬に問うた。
徳馬は、これまでの話を、全て沙紀に話す。
話し終えたとき、将司が同意を求めるように沙紀に聞く。
「ねぇ沙紀さん。徳馬君の歌う姿、見たいですよね?」
その問いの意味を、沙紀は理解する。
そして、悪戯っぽく笑って、答えた。
「うん、見たいなぁ。見たいなぁ、徳馬」
聞こえているにも拘らず、徳馬は聞こえない振りをしている。
だが、一方の沙紀も引き下がらず、ひたすら見たいなぁと繰り返す。
「見たいなぁ。見たいなぁ。見たいなぁ」
「あーくそ、分かったよ」
何度も繰り返すうち、徳馬がついに根負けし、将司の話に乗ることが決まってしまう。
その言葉を聞いた直後、将司が徳馬に大きな声で言った。
「よし、じゃぁ、決定だな! 明日俺んち来てくれ」
明らかに不快そうな顔をする徳馬。だが、沙紀も将司も笑って喜んでいた。
ま、いっかな――。2人の笑顔を見て、徳馬は少し、少しだけやる気を得た。