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朝、時計を見ると、1時間早く起きていることに、徳馬は気づく。
しかし、それでいながら、目覚めはいい。昨日早く寝たのがよかったかな、と振り返る。
大学へ行くまでの過程をすべて済ませると、徳馬は深呼吸をし、その後家を出た。
徳馬の胸は、ドクドクと鳴っている。試験でこれほどまでに緊張するのは初めてだ――今までを振り返り、徳馬はそう思った。
大学へ着くと、ぽつぽつと人が集まっている。そこにいる者も、皆ノートを片手に、最後の勉強をしているようだった。
徳馬も、教科書を手に、英語の勉強を始めていた。
「オースッ、徳馬。英語なんか勉強しちゃって。真面目だねぇ……」
茶化すような声が、後ろから聞こえてくる。振り向くと、そこには将司がいた。
「なんだ将司。俺は、英語もできる優等生になったんだよ」
徳馬がにやけながら言う。
「おぉ!すげぇな!じゃ、期待してるぜぇ~。あ、低得点だったら、飯おごれよ!じゃなー」
「お、おい、待てよ!」
将司は、それだけ言うと、逃げるように走っていく。これで、さらに徳馬は英語を頑張らないといけなくなった。
『あいつ、かなり食うんだよなぁ……』
徳馬は、以前将司に飯をおごったときのことを思い出した。
たしか、あのときは10000円が消えてったよな、と少し涙を浮かばせながら振り返る。
『いや、ここは試験に向けて集中だ』
少し関係ないことを思い浮かべたことを反省し、徳馬は集中しなおした。
そして、ついに試験が始まる。試験は、英語が最後だ。
最初は、国文学。これは、徳馬の得意科目だ。
始まるや否や、ペンをスラスラと動かしていく。そこには、迷いがなかった。
結局、国文学は、余裕で終了。手ごたえがあったな、と徳馬自身感じていた。
その後も、スラスラと試験を終えていく徳馬。英語以外には、まだまだ余裕があるようだ。
「では終わりです。次は外来語。テストは20分後です」
試験官の声を聞くと共に、みなが立ち上がる。そして、笑い話をするものや、テストへ向けて、簡単な準備をしているようだ。
だが、徳馬は、立ち上がる気にもなれない。
『あぁ、来てしまった。何で来るんだよぉ』
1人弱気になっている徳馬。そんなところに、1人の女子が近づく。
「さ、徳馬。勉強の成果、出そうね!」
そう言っているのは、勿論沙紀だ。何処までも優しい笑顔で、徳馬に話しかけている。
「あぁ、そうだな」
その言葉を聞き、どこか自然体になった徳馬。緊張が抜け、リラックスしてきたようだ。
徳馬がそうなるのを待っていたかのように、その直後試験官が、もうすぐ始まる、と告げる。
『絶対高得点とってやるぜ……』
密かに燃えながら、そのときを待つ。
「始めっ!」
そのとき、試験官の声が、響き渡った。それは、宴の始まりを告げる。