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第二話・下 「私の友達×2 早苗の場合」

少し書き方を変えてみました。


改行を多めにして、文章の塊を分けたら読みやすいかなぁと。

あと発言を文章の中に入れ込んだり。


何かご指摘が在ればお気軽にお願い致します。

 入学式が終わり、今また教室に戻ってきていた。


 今日はこれからH.Rで数日間の行事内容説明とその資料配布、あとは教科書受け取りがメインで、大体昼前くらいには終わる予定だ。選択科目なんかは明日らしい。現在の時刻は10時過ぎ。45分からH.Rなので、ちょっと長めの休憩を、皆思い思いに教室で寛いでいた。


 私はというと、先ほどの衝撃から多少頭が冷め、何分入学式前がドタバタとしていたので、席に座り改めて教室を見回していた。教室内はそんなに新しいわけでもないし、古臭い感じや汚れた感じもしない。ただ、これから1年ここで過ごすのだなぁと思うと、ちょっと傷がついた自分の机も何となく愛おしく思えた。ちなみに1年の教室は4階にあり、学年が上がるに連れて下に下がるような教室割りだ。


 一つ階が下がる頃にはどうなっているだろうか。今見えている景色は何か変わって見えるだろうかと考え、気が早過ぎと内心苦笑する。まだ始まったばかりなのだから、しっかり腰を据えないとどう転ぶか分からない。


「あの…」


 そうしてふと物思いにふけっていると、声を掛けられた。辺りを窺うと、すぐ後ろから声の主が隣へとやって来た。


(さっき入学式で隣だった子だ)


「緊張しますね~」「うん、昨日寝付けなかったから寝ちゃうかも」なんて軽く話してたけど、その後のインパクトが大きかったので、声だけでは直ぐに誰かなんて解らなかったのだ。体育館ではちょっと暗めで分からなかったけど、明るい教室で良く見れば、春の陽気のような優しい笑顔を浮かべる、居るだけで雰囲気を暖かくさせるような子だった。


「さっきは自己紹介もしてなかったな~って思いまして」

「あ、そういえばそうだったね」


 にこにこと嬉しそうに彼女は「さっきもお話した縁もありますし、席もちょうど東条さんの後ろなので、是非に友達になって欲しい」と私へ手を差し出してきた。突然の申し出ではあったけど、私は席を立つと改めて彼女と向き合った。


「私は西ヶにしがや 美和みわ。美和って呼んでください」

「私は東条 早苗。早苗とか、さなとかで良いよ」


「「よろしくね」」


 お互い出した手をしっかりと握りあう。いきなり良い友好関係を築けそうな子と出会えるなんて、今年の1年間は幸先よさそうだ。そうしてほっこりしていると乱入者が現れた。


「お、良いね~。青い春だね~。私も加えてよ!」


 美和と握手をしている間にニュッと手が差し出されてきた。横合いからいきなり手を差し出してきたのは、ベリーショートの髪型で、私よりも若干背の高い、顔立ちの鋭い子だった。私達を向日葵が似合いそうな明るい笑顔で見つめている。というか、よくよく見るとなんか見覚えがある気がする。


「…あ!」

「お、その様子だと思い出してくれたかな?」


 妙にニコニコしながら私を見ているなと思ったら、今朝、私と勇一郎のやり取りを目撃していた中に居た!しかも思いっきり例のシーンを目撃されて笑われてた!


「あたしの名前は五所川原ごしょがわら 佳奈美かなみ。苗字は長いから佳奈美でヨロシク!」


 そう名乗ると、美和と握手している私達の手を上から握り、勢い良く上下させてきた。見た目の外見と中身がぴったり一致したような『元気』という言葉を体言したような子だ。ただ、本人には全く悪気はないのだろうが、今朝の恥ずかしい場面を見られていたという事だけが思い出されて、思わず声のトーンが下がった。


「ちょっと、乱暴にしないでよ」

「あ、ごめん。ちょっとやり過ぎた」


 美和も驚いているのか、目をぱちくりさせて私と佳奈美を見ている。


「早苗さん、佳奈美さんと知り合い?」

「あ、いやぁ…その何ていうか……」


 まさか恥ずかしいシーンを見られた人ですとか説明する訳にも行かず、言葉が濁る。そう私が口篭っていると、佳奈美があっさりと今朝の経緯を話し出した。思わず彼女の言葉を遮りそうになったが、それは無用の心配だった。


「いやね、今朝登校してたらさ、早苗さんが凄く楽しそうに登校しているところを見かけてさ。ああいう子と友達になれたらなぁって思ってたんだ。そしたらさ、同じクラスでさ!更に優しそうな人と楽しそうにしてるもんだから、これはもう友達になるしかない!って、ちょっとテンション上がり過ぎちゃったんだ」


 矢継ぎ早に喋りながら、ちょっとバツが悪そうに自分で頭を小突いて「ごめんね」と言いながら、私に軽くウィンクしてきた。


(なんだ。いきなり話に割り込んでくるから思わず警戒しちゃったけど、色々と気遣いできる人じゃない)


 今朝のやり取りをちゃんと覚えていてくれたのだろう。経緯の内容は私が恥ずかしいと思っていることに言及はなく、差し障りが無い、純粋に自分の興味からのように説明してくれた。


「そっか。いきなりだったから、ちょっと素っ気無く言っちゃった。私もごめんね」

「いやいや、あたしが暴走しただけなんだからさ」


 うん、この人ともいい友好関係が築けそうだ。初日から友達が二人もできるなんて、私の高校生活は出出し最高だ。心の中でぐっとガッツポーズを決め、改めて佳奈美の方を向き手を差し出した。すると美和も「優しそうだなんて褒めすぎですよ~」と笑いながら同じように手を差し出した。


「それじゃ改めて。よろしくね、佳奈美」

「私もよろしく、佳奈美さん」

「あ、ありがとうぅ~!!」


 何がそんなに嬉しかったのか、いきなり佳奈美に抱き付かれてしまった。佳奈美のあげた大きな声でクラス全体から注目されてしまい、思わず美和と苦笑してしまう。そんな私達を勇一郎も見ていたらしく、私と目が合うとにっこり笑ってサムズアップを返してくれた。


 こうして高校での新しい友達が、なんと初日に二人も出来たのだった。


 美和は趣味がお菓子作り、佳奈美はスポーツ観戦が大好きで、特にスポーツ用品へのこだわりがあるのだそうだ。私も勇一郎のおかげと言うわけではないけれど、そこそこ栄養的な方面を考慮した料理の作り方とかを覚えていたので、お菓子作りにスポーツにと会話に花が咲いた。

 意外にも美和はスポーツ関連の話題にも着いてきた。なんでも、お菓子作りが高じて一時期スポーツ栄養士になりたいと思ったことがあるらしく、佳奈美とその方面ですっかり意気投合していた。


 佳奈美は話していて最初に感じた通り、暗い表情とは一切無縁のような晴れ晴れとした笑顔が似合う子だ。身振り手振りでスポーツの良さを語る姿は彼女の一途さを現していて、素直に眩しいと感じた。

 今の彼女のこだわりはランニングシューズに向けられているそうだ。お小遣いを貯めて買った初めてのシューズは今もお気に入りだそうで、写メで見せてもらった。そこには、今は家に飾ってあるんだーと、くたびれてはいたけれど、綺麗に飾られているシューズが写っていた。生き生きとそれを語る佳奈美は目をきらきらとさせていて、本当に好きなんだなと感心させられた。



 気がつけば二人の話ばかり聞いていたが、そうして「お前達席につけー」と担任がやって来る頃にはすっかり打ち解けていた。



(さち枝お祖母ちゃん。私、もっともっと頑張れそうだよ――)



 お祖母ちゃんに良い報告事項が増えたことを心から喜びながら、私は居住まいを正してH.Rに臨んだのだった。







 H.Rが始まり、自己紹介、資料配布、学校設備の案内と説明が次々と行われる。クラス委員を決めるときは揉めるかと思ったけれど、意外や意外、立候補する人が居てくれたおかげで始終スムーズに事が終わった。あれって一種の雑用係だよねと私は思うのだけれど。中学の時には毎回揉めてたし、なりたがる人がいるのはちょっと驚きだった。


 そうして共通科目の教科書配布時間になり、意外と量のある教科書を持って教室に戻って本日の行事は全て終了した。


「初日にこれを一気に全部持ち帰るって、結構大変だよね」

「そうですね~。でも教科書ノートの類は持ち帰り義務がありますから…っと」


 よいしょと可愛い掛け声をかけながら美和がスクールバックを肩にかける。一方佳奈美は荷物の重たさを感じさせないような軽快な動きでスクールバックを片手に持っていた。


「置き勉してたら没収だってさ。ゆるい所もあるけど、流石進学校。反省文書かないと返してくれないとか、結構厳しいね」

「佳奈美は昔は置き勉してたの?」

「うん。実は中学2年くらいまではいくつか置いちゃった。でも今はそんな事しないぜ?こう見えても、今は勉強好きだからな」


 失礼な考えだけど意外だった。佳奈美は勉強は苦手なほうかと思っていたけど、そんなことは無かったらしい。「私は未だ英語系がちょっと苦手なんですよね~」「あ、それわかるよ。でも喋れたらかっこよくない?そう考えたら意外と頑張れるよ」美和と佳奈美が勉強談義に花を咲かせる。


 私自身は今の所変な苦手意識がある教科は無いけれど、これが得意だという教科も無い。勉強にこの表現が合っているかはちょっと疑問だけど、オールラウンダーに近い状態になれたのは、姉さんという超強力な家庭教師が居てくれたからである。


 千鶴子姉さん、実はこの高校で数少ない学費全額免除者の一人なのだ。「さち枝お祖母ちゃんに負担ばかりかけられない」と言って、あっさりと高校受験時に設けられた、入学金含めた学費全額免除枠内入りを達成してしまった。それは当時まだそういう意識の無い私にも非常に衝撃的なことだった。さち枝お祖母ちゃんは「そんなの子供が気にする事じゃないよ」と言いながらも、姉さんの合格祝いの席で嬉しそうにしていたのを覚えている。

 ちなみに私はそこまでの結果は出せる自信が無く、実際結果を出すことが出来なかった。頑張りが足らないと思うかもしれないが、中学在学時の成績と入学試験成績で実績率94%以上なんて数値はそうそう出せるものでは無い。昔は気にしたことが無かったが、今では心の小さな棘の一つになってしまっている。


(っと、いけない、いけない)


 どうにも最近姉さんと比べる癖がついてしまったように思う。

 頭に浮かぶくだらない考えを振り払うよう、少し勢いをつけてスクールバックを肩にかけると、私は大きく伸びをして二人を促した。


「じゃ、帰ろっ!」

「はい」

「おー!」


 そうして3人で教室を出ようとした所で「おい、早苗」と声をかけられた。振り返らなくても分かる勇一郎からの呼び声だった。


「ごめんな、一緒に帰ろうとしてるところを邪魔しちゃって」

「あ、いえ。それは全然構いませんが…」

「ん?どしたの?」


 美和と佳奈美に謝りながら私達のところまでやってきた勇一郎は、いきなり私のおでこをぴしっと指で弾いた。


「何するのよ、勇一郎。痛いじゃない」

「早苗、忘れてるだろ」


 ちょっと真面目な顔付きで私をじっと見る勇一郎。はて、何か忘れ物をしただろうか?と肩にかけたスクールバックの中身を確認しようとして、直ぐに思い出した。


「……あー…ごめん、忘れてた」


 昨夜姉さんとした『入学式記念で写真を一緒に撮ろうね』という約束を思い出し、思わず天を仰いだ。別に嫌とかそういうのではなく、ちょっと先が思いやられるというか、恥ずかしかったのだ。私の気の抜けたような声に、勇一郎はちょっと怒った風に再度私のおでこを弾く。


「お前、それ千鶴子さんが聞いたら泣くぞ?」

「うっ…」


 佳奈美は今朝一緒に登校していた姿を見ているから気にならないのだろうけど、美和はいきなり親しげに男子と話している状況が飲み込めてないらしく、私と勇一郎を交互に見ている。そうしておずおずと手を挙げ「何か取り込み事ですか?」と質問してきた。それを見た勇一郎が姿勢を正して二人に向き直った。


「そういえば面と向かっては未だだったね。さっきクラスの自己紹介もあったけど改めて。『生方 勇一郎』です。好きなように呼んでください。あと、こっちの東条早苗とは昔馴染みなんだ」


 よろしく!と相変わらず子供のように元気良く挨拶する。


「なるほど。では私も改めて。西ヶ谷 美和です。よろしくお願いしますね、生方君」

「私、五所川原 佳奈美。てか、あたし知ってるぞ。全中剣道大会で8位だった生方君っしょ?」

「お、知ってるんだ。剣道なんて地味なのに」

「いやいやいや!剣道カッコいいじゃん!私、大江戸夢日記とか風来坊将軍とか大好きだよ!」


 相変わらず佳奈美はスポーツの話になると一瞬で会話がトップギアに入る。「剣道はあの刹那の攻防が凄いんだよ!時代劇だとオーバーな殺陣になるけど、それでも……」「私はどちらかというとMHKの大河シリーズですね~。前年の『甲陽軍鑑』で山本勘助が……」「おおっ、すげー!じゃあさ、今再放送してる超必殺流浪人…」と会話が盛り上がり出す。


 なんというか会話を見ていて美和も佳奈美も凄い、と思った。だって私と同い年なのに知識量が半端ない気がするのだ。勉強とか出来ても目立ったコレというものがない私と比べ、二人は凄く生き生きとしている。改めてこの二人と友達になれてよかったと三人を眺めていた。


「ってごめん、話し脱線させちゃった。で、何かあるの?」


 流石気の利く女、佳奈美。私が会話を眺めているのを見て、さっと話を戻してきた。


「え、うん。実は今日学校が終わった後、約束事があったの忘れてた」

「そうだったんですか。じゃあ約束事が終わるまで待ってましょうか?」

「そだね~。まだ家に帰るには早い時間だし!」


 うう、二人ともいい人だ。だが、事が姉さんに関係するという事もあり、直ぐに終わるとは思えなかった。思い出すのは昨夜、真剣な表情でデジカメを手入れしていた姉さん。どう考えても1枚2枚で終わるとは思えない。なので私は「時間かかる事だから、ちょっと残念だけど今日は二人で先に帰っちゃっていいよ」と断りを入れた。


「…ふむ」

「…そうですね」


 二人とも思案顔を見せたが、私が「ほんといいよ。それに明日からも一緒に帰ってくれるんでしょ?」と言うと、二人とも「そうだね」と笑いながら同意してくれた。


「それじゃ、また明日なー!」

「お二人とも、また明日」


 そうして佳奈美はぶんぶんと手を振りながら、美和は静かに会釈しながら階下へと下りていった。


「美和ちゃんに、佳奈美ちゃんか。二人ともすげーいい子じゃん」

「うん」


 二人を見送りながら、勇一郎がそう感想を漏らす。私も間髪を入れず、それに同意した。知り合って未だ数時間だというのに、彼女たちとは本当に良い友人関係を築けそうだという予感があった。なんだかここまで来ると、この先妙な落とし穴があるのではないかと要らぬ危惧さえ覚えてしまいそうだった。それでも今は素直に二人に出会えた事を感謝した。


「よし、俺達も行くか」

「うん。確か1階の購買前テラスに、12時半くらいで集合、だっけ?」


 昨夜姉さんとした会話を思い出す。

 写真なんて明日撮影されるクラス合同写真でいいと思うんだけどなぁ…と言ったのだが、真顔で「何を言っているのか。一回だけしかない事なんだぞ?もっと一瞬一瞬を大切にするべきだ」と姉さんに返されてしまった。でも、明らかにあれは姉さんの趣味だと思う。


 昔から姉さんは私の事となると、妙にムキになる節がある。普段は落ち着いて静かな物腰の姉さんだけに、その時のギャップは半端ない。まるで孫か娘を可愛がるかのような親馬鹿ぶりなのだ。あれはきっと両親が早くに亡くなって出来なかったことを、姉さんが替わりに演じようとしているのだと思っている。



 だけれど、最近はそれが少し『煩わしい』。



 こんなことを考えるなんて、色んな事をしてくれる姉さんに対して失礼極まりない。けれど、それが『私はまだまだ手のかかる子だ』と言っている様で、素直になれないのだ。



 考えたくないのに考えてしまう。


 私は『姉さんのお荷物』なのではないか、と。

 私は『姉さんと勇一郎のお邪魔虫』なのではないか、と。



 そんな事はあるはずないと思うけれど、それを完全に否定しきれるモノはない。だから、私は自分で、一人でも歩ける大人になる為にここへ来た。事の起こりは離れたくないという理由だったとしても、今は違う。

 そう。

 大人になりさえすれば、きっとこんな下らない事で頭を悩ますことはないのだ。


「早苗」


 いきなり頭に手が載せられる。

 視線を上げると、勇一郎が優しい顔で私の頭を撫でていた。どうやら考えていたことが表情に出ていたのだろう。うん、そうだ。今こんなことを考えているようじゃ駄目だ。きっと大丈夫。今日はこんなにも幸先良かったじゃない。


 先ほど分かれた二人を頭に浮かべると、心に溜まりかけた黒い靄がすっと消える。


「勇一郎」

「うん?」

「わしゃわしゃ禁止」

「りょーかい」


 何事もなかったかのように頭から手をどけてくれる。「まったく、いくら言っても聞かないんだから」と思わず心無い悪態をついてしまう。だが、勇一郎は全く気にせず笑っているだけだった。



(本当に、私だけがまだ子供だ)



 ちょっと自嘲的な笑みが出そうになる。

 それをぐっとこらえ、私は姉の待つだろう場所へ背を伸ばして向かうのだった。







 そうしてやってきたテラスには姉さんと、その友人の瀬尾野先輩が居た。

 どうやら在校生は休みのはずの入学式を手伝うために、ある程度の学生は通学してきているようだった。

 瀬尾野先輩は何度か家へいらした事があるので覚えている。姉さんと同じように物静かな、図書室とかで一人本をめくる姿が絵になりそうな麗人だ。あと非常にダイナマイッ!な人である。ワンスアゲインしよう。とてもダイナマイッでエクスプロージョンなのだ!チクショウ!!そういえば美和も結構あったように思う。どうしてこう私の知り合いはボンでキュッでボンな人ばかりなんだろうか。佳奈美は……うん、ソウルメイトになれそうだ。


「千鶴子さ~ん!」


 姉さんの姿を見つけた勇一郎がいきなり走り出す。ちょ、勇一郎、あんた犬か!ぶんぶんと振られる尻尾が幻視できそうなくらい、相好を崩して勇一郎は一直線に駆けてゆく。


「来たか」


 姉さんもこちらに気がついて、椅子から立ち上がる。穏やかな笑みを浮かべてこちらを見つめている姉さん。腰に手を当て立っているだけなのに、それだけで絵になるように感じるなんて卑怯すぎる。


「あ、瀬尾野先輩。お疲れ様です!」


 姉さんの傍まで駆け寄った勇一郎は隣に居る瀬尾野先輩に気が着いて、慌てて直立不動の姿勢をとって頭を下げた。見えてなかったんかい…ってかそれほど姉さんだけしか目に入ってなかったのか……


「うん、こんにちは。生方君、早苗君」

「はい、瀬尾野先輩。こんにちは」


 こちらの会釈にあわせ、ゆっくりと立ち上がる瀬尾野先輩もやはり絵になる人だ。マッシュボブの髪型が良く似合った小顔。背は姉さんと比べると低めに感じるけど、スラリとした手足をしている。姉さんと二人並んでいると、なんだか背景に花でも咲き乱れそうだ。

 これは少し後になってから聞いたのだけれど、姉さんと瀬尾野先輩は「冬桜の双璧」と一部で呼ばれているのだそうだ。それを話したら二人とも凄く微妙な表情をしていた。


 そうして二人から「入学おめでとう」の言葉を頂いた。知り合いから改めてそう言われると嬉しくて自然と笑みが浮かんだ。


「さて何処にしましょうか?」


 瀬尾野先輩が荷物を持ち直しながら提案してくる。一緒に写真を撮ることを既に知っているのだろう。手伝ってくださるようで、何処で写真を撮ろうかという話となった。

 体育館前に立てかけてあった入学式案内看板の前?それとも二人のクラスで?とか意見が出たが、「無論校門前に決まっている」との姉さんの一声で決まった。確かに桜咲き誇る正面校門は背景としては文句なしだったので、反対意見が出るまでもなく、皆でそこへと向かった。





「そういえば千鶴子さん。俺、感動したよ!」


 歩きながら、ふと勇一郎が興奮した面持ちで姉さんに話しかけた。言うまでも無く朝の祝辞についてだ。「ちゃんと先を見据えて、浮つかないよう、俺は頑張ります!」と興奮気味に話す勇一郎は、目に見えて解りやすい尊敬の目で姉さんを見ていた。


「勇がそう感じてくれて、私も祝辞を述べた甲斐があるというものだ。しっかり励むように。だが、全部が全部アレを真に受ける必要はないんだぞ?もっと自分の考えで……」

「いいや、俺、入学決まってちょっと浮かれてた。あの祝辞に在ったように有意義に過ごせるよう、ちゃんと頑張るよ!俺、あの祝辞を忘れない」

「い、いや、そのだな…あれは覚えなくてもだな…もっと他に覚えることが…」


 珍しく歯切れの悪い感じで、姉さんがそっぽを向く。でも良く見ると耳が赤い。…なぁんだ、勇一郎に褒められて照れてるだけじゃん……。


「ふふっ、生方君。あの祝辞は学内ネットに動画で掲載されるから、図書室などで閲覧できるわよ」

「マジですか!?」

「ええ、いつでも見放題。あ、残念だけど持ち帰りは出来ないからね」

「そうですか…」

「……由梨絵、面白がっているだろう」

「あら、人聞きの悪い。後輩に解り易く学内システムを説明してあげてるだけよ」


 夢に見た一緒に歩くという光景が今ここにあるのに、私は素直にそれを喜べないで居た。棘だ。チクチクと心を突き刺す。分かっている筈なのに。


「ん?どうした、さなちゃん」


 黙って着いてきている私を気にしてか、姉さんが心配そうな声をかけてくる。


「ううん、なんでもないよ。私も今日はちょっと緊張してたから、姉さんと歩いてて安心し過ぎちゃった」

「そうか」


 口から出るのは真逆の言葉。

 それでもそう言わないと姉さんが心配する。取って着けた嘘は薄っぺらい。私はそれを隠すように明るく言葉を続けた。


「そうだ、姉さん。私、もう2人も友達が出来た」

「…ほぅ」

「二人とも凄くいい子。機会があったら今度会ってあげて欲しい」

「あ、それは俺も保障しますよ。二人とも凄くいい子です」

「…そうか」


 穏やかに笑みを浮かべる姉さん。ふんわりと優しく、昔と替わらず私を撫でてくれる、少し冷たい手。


「よかったな、さなちゃん」

「うん」


(今だけだ。今だけ…)


 後ろめたさを隠しつつ、私は笑みを浮かべるのだった。

 それが今は一番いいのだと信じて。







「さぁ!ショータイムだ!」


「…あなた、さっきまでの雰囲気ぶち壊しよ」


 新入生たちはもうとっくに帰ったのだろう。今日は直ぐに帰るようにとも言われているから尚の事だ。人通りが殆ど無い校門前で門柱脇に荷物を降ろし、唐草模様の巾着からデジカメを取り出した姉さんは、先ほどの優しい笑みから一転、眩しさ溢れんばかりの笑顔を浮かべ、デジカメを振りかざした。


「……はぁ」

「相変わらず苦労するわね、早苗君」

「…ありがとうございます、先輩」


 私の事となるとテンションが高くなる事を知っている瀬尾野先輩が労わりの言葉をかけてくれる。嫌いではないんだけれど、ちょっと加減して欲しいと思う。


「それじゃ、さなちゃんから撮るぞ。ノルマは一人20枚だ」

「アホね、あなたは」


 ペシンと軽く頭をはたかれる姉さんに思わず笑いが出る。


 そうして始まった入学記念撮影会は、由梨絵先輩が居てくれたお陰か、当初私が考えていたほどハチャメチャなことにはならなかった。撮影枚数は10枚くらい。「次はそう、ラブ注入で!」とポーズを要求する姉さんに都度、由梨絵先輩が突っ込みを入れて始終賑やかに終わった。



 勇一郎と私。

 私と姉さん。

 勇一郎と姉さん。

 私と姉さんと勇一郎。

 勇一郎と私一人づつ。

 なぜか姉さんと由梨絵先輩。


 そして最後に通りかかったおじさんにお願いして4人で撮った。「私が入る必要が全くないんだけど」と零しつつも、穏やかな笑みで由梨絵先輩も参加してくれた。

 勇一郎が果敢にも姉さんだけの写真を撮りたいとお願いしていた。無論却下されていたので、私がお願いしたら「しかたないなぁ、さなちゃんは~」とアッサリ撮らせてくれた。


(勇一郎、貸し1ね)

(すまねぇ…本当にすまねぇ…)


 泣くなよ。



 そうしてその後、姉さん達はちょっと用事があるとかで私達と別れた。帰り道は勇一郎とこれからの学園生活の話で盛り上がり、家に着くまであっという間だった。


 なんだか色々とあったけれど、こうして私の高校生活はスタートしたのだ。


 どうなるかは神のみぞ知るかもしれないけど、やれることはやってみせる。

 頼もしい友人と幼馴染。

 万の援軍とは言わないけれど、心強い味方が増えたように思う。


 そうだ、明日は美和と佳奈美とで、帰りに何処か寄ろう。


 明日の予定を考えながら家の門をくぐると、どこからか『おかえり、早苗』とお祖母ちゃんの声が聞こえた気がした。

早苗側も何だか増量してしまった。

上手くキャラクターを制御できてないんでしょうね…


そして段々千鶴子がギャグキャラへ。


本当…心が痛むんだけど…もう、変える気はないんだ。もうプロットっちゃってさぁ…気の毒だけど…


――――――――――

2013/3/4 間違い、表現がおかしく感じた所を若干修正



閑話


「ねえ、何で私まで?」

「実は由梨絵の写真は高値が付くのだ」

「カメラ渡しなさい」

「冗談だ、冗談。だが、実際高値らしいぞ、体育祭などの写真が特に」

「頭が痛いわね…でも、それを言うならあなたの方でしょう」

「なん…だと…?」

「前年の修学旅行時の写真と文化祭の時の着物姿。プレミア価格らしいわよ?」

「…光画部だな。ちょっと潰してくる」

「馬鹿やらないの」

「ところで、由梨絵」

「なに?」

「試しに女豹のポーズを取る気は無いか?」

「やっぱりカメラ渡しなさい。砕くから」

「…ごめんなさい」

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