第二十一話 「夏のお嬢さん達」
多分そういう活動もあるだろうなぁという想像で書いてますので、突っ込みは無しの方向でお願いします(・ω・;)
「そうだ、海に行こう!」
突拍子無く、いきなり佳奈美が声を上げた。
珍しく熱を出してしまった今日。
病気なんてしばらく無縁だったのだけれど、どうにもお風呂上りに外で話していたのが悪かったようで、運悪く風邪を引いてしまった。といっても熱が少し出ただけで、風邪と呼んでいいのか判らないほどだ。
なので家に残って私を看病する、と駄々を捏ねる姉さんを何とか説き伏せ送り出し、薬を飲んで暫く眠ったら体調は殆ど回復していた。
そんな所へ『お見舞いに行ってもいい?』と美和と佳奈美からメールが来た。断る理由なんて何処にも無く、寧ろ暇を持て余している所だったので喜んで来て欲しい旨を伝えたところ、学校が終わって直ぐに来てくれた。
「思ったよりも大丈夫そうだね。よかったよー」
「ええ。でも無理は禁物ですから、具合が悪くなったら直ぐに言ってくださいね」
ちょっとした事でもこうして心配してくれる2人。心配させておいてなんだけれど、素直に嬉しかった。無論姉さんや勇一郎も心配してくれたし、それも嬉しい……のだけれど、姉さんは自分の事を放っといてまで私の世話を焼こうとするので、流石にそろそろ妹離れしてはどうかなって思う。かといって私が姉離れできているかと指摘されると言葉に困るけれど。
そうしてやってきた2人と、お見舞いに買ってきてくれたプリンを3人で突く。
最近コンビニで売っているプリンでも、意外と美味しいものが増えているのは女子にとっては嬉しい限りだ。
で、どうして風邪なんか引いたのかと言う話題になったところで、勇一郎がなんか悩んでるっぽいという相談をしたところ、冒頭の台詞がいきなり出てきたのだ。
「どこからそんな話になるのよ。っていうかどっかのキャッチコピーじゃない、それ」
「Don't think. FEEL!」
「更に意味が判らないよ」
いきなりテンション高くなった佳奈美に思わずポカンとしてしまう。
稀に佳奈美は突拍子も無く結論だけを言う事が多い。その行動力と思いつきには感心すること度々だけれど、その突飛な行動には苦笑を漏らすしかない。
勇一郎の話から海に行くという結論に至るまでもそうだけど、一体何処からそんな自信満々な言葉が出てくるのか。4ヶ月経った友人付き合いでも、未だ謎多き彼女。
でもそれが佳奈美の魅力だ。
(魅力かぁ…私にもこう、ばーんと胸張って言える魅力があればなぁ)
相変わらず女の魅力というものが貧相な私の体。磨いて光ろうにも、何処を磨いていいのやら……。
「海に行くのは全然良いと思うのですが、一体どうしてですか?」
そんなどうでもいい思案に暮れていると、同じ様に呆気に取られていた美和が質問を返していた。
「いい質問だ、同志美和よ」
腕を組み自信満々に胸をそらす佳奈美。
っていうか、いい質問って、質問するしかないでしょ。
「剣道部は現在夏大会に向けて猛特訓中。つまり剣道一本。であるなら、リフレッシュが必要になるのは明白。という事で海なのだ!」
「なるほど! つまり大会終了後の心理的空白を狙って生方君を海に誘い、早苗さんの可愛らしさでその隙間を埋めてしまおうと、そういう訳ですね!」
佳奈美も佳奈美だけど、美和もなんでそう明確に意図が読み取れるの? 読み取れない私が変? そんな呆気に取られている私を前に、我が意を得たりと佳奈美が喜色満面で鞄をなにやらごそごそと探りだした。
「流石美和。そのとーり! と言う訳で、ジャーンジャーンジャーン!」
妙な掛け声と共に、机の上に広げられた数冊の雑誌。
どれもこれも水着特集ばかりのものだ。
「海と言ったら水着! アピールするには絶好の機会っしょ!」
「ですね!」
どうだと言わんばかりに胸を張る佳奈美と、それに同意する美和。
確かに遊びに行くのはいいんだけれど、流石にそろそろ突っ込んでおかないと話の本筋からどんどんズレていってしまいそうだ。
「あの、2人とも。私が相談したのは勇一郎の事なんだけど……」
興味が無いというか、俄然興味がある話題では有るのだけれど、今私が解決したいと思っているのは勇一郎の悩みなのだ。
昨夜も結局最後まで腑に落ちたようには見えなかった。
ということは、まだ勇一郎の悩みは継続中。といっても姉さん絡みだから、方向性として間違っていない気もするけれど、今は私のアピールよりも勇一郎の何かのわだかまりを何とかしてあげたいのだ。
「皆まで言わずともわかるとも、同志早苗よ。だからこその海なのだ」
でもそんなのはお見通しと、更に佳奈美はヒートアップする。
「生方が悩んでるのは、早苗が教えてくれた通り千鶴子先輩と金剛寺先輩の事に間違いはないと思うんだ。生方は千鶴子先輩の事が気になって仕方ない。だとするなら、それ以上の衝撃をぶつけて、意識を早苗に向けてやるしかないと思うんだよ。ほら、こんな感じで!」
言うや否や、既に折り目をつけていた特集ページを見開き、突き出してくる。
それを見た途端、勇一郎の悩み云々といった考えが吹き飛んだ。
「ええええええ! 無理無理っ! 私にビキニなんて無理っ!!」
流石モデルと思わせる、くびれも見事なスタイル抜群美人がポーズを決めているビキニタイプの水着特集ページが視界を覆う。どの人もボンと出てキュっと締まっている人たちばかりだ。どう考えても私の体形では無理がありすぎだ。
しかし、そんな私の否定を美和、佳奈美が揃って更に否定した。
「着ても無いのに無理なんて駄目だよ。それにスタイルアップビキニという魔法の装備があるから絶対大丈夫!! 幾ら服装に目敏くない生方だって、絶対に目が行くって!」
「そうですよ!! 早苗さんは可愛いし、それにフリルが着いたデザインとかでメリハリを着けつつも、可愛らしさをアピールできるんです! 早苗さんは絶対ビキニを着るべきです!」
何だか猛禽類を思わせるギラついた目つきで2人が私を見つめてくる。
「でも、私なんかが着ても絶対変だって……」
「そんなことない! 恋愛は戦争であるからして、故に装備で身を固めるのは当たり前! 千鶴子先輩撃破は星九つレベルなんだから!」
「でもでも、私ビキニなんて着たこと無いし……」
「大丈夫ですよ、早苗さん! チアユニフォームの時にも思ったのですが、早苗さんは色が白くてスラっとしてますから、絶対に似合いますよ!」
私の反論を言葉の勢いが塗りつぶす。
その勢いに思わず後ずさりしてしまうけれど、もはや2人にとってそれは決定事項のようで、退路なんて何処にもなかった。
確かに着てみたいという思いはあるけれど、主に体形的な問題でなんか目も当てられない結果になりそうな気がして気後れしてしまう。
でも海水浴なんて小学校以来だ。中学校になってからはプールにだって一緒に行った事も無いから、視覚的アピールに打って出てもいいような気が少しだけ沸いた。
ただ、流石にいきなり2人っきりと言うのはハードルが高過る。
「もし海に行くことになったら、ついて来てくれる?」
そう上目遣いで助けを求めると、2人とも「もちろん!」と返してくれた。
なら、自信はあまりないけれど、次の一手はこれで決まりだ。
「ちなみに2人は水着どうするの?」
「私は競泳用のを。前にちょっと良いの見つけたから!」
「私はタンキニで。ちょっとお腹周りが気になるので……」
「ちょ、酷いよ~。私だけ露出高すぎじゃない!」
何だか上手いように踊らされてしまった気がする。けれどこんなやり取りも楽しくすら思えるのは、やっぱり2人の人柄あってだろう。それにこういった事には積極的ではなかった私が、すんなり受け入れる事ができるようになったのも2人のおかげだ。
まぁ、それはそれとして私だけビキニなんて許せる筈は無いんですけどね。
一蓮托生と言う奴だ。
私達は引き立て役ですからと逃げる2人に、佳奈美はこれを着るべき、美和はこれ、とじゃれ合いながら、こうして第二回戦の下準備が始まった。
◇
「では当日のバス、宿、施設の手配とご要望については、先程の打ち合わせ通りに進めさせていただきます。後で改めて清書したものをお渡ししますので」
「いやぁ、悪いねぇ。本当ならこっちが準備する事なのに」
「いえ、お気になさらないでください。こうした経験をさせて頂けるだけでも十分な勉強になりますから」
「いやはや若いのに大したもんだ」
髪に幾分か白いものが混じった布袋様似の男性が、扇子でパタパタと扇ぎながら感心したかのように笑い声をあげる。私も書類をまとめながら、笑顔を浮かべてそれに応えた。
私は旅行代理店のスタッフじゃないぞ、まったくと悪態を内心でついてしまうが顔には出さないよう、努めて平静に応対する。
目の前の男性は、剣道部OB会会長を勤めている方だ。
話していた内容は、この夏休みに行われる剣道全国大会へのOB会応援参加について。久しく無かった大会出場に剣道部はもちろんのこと、OB会も喜びに湧いていた。
と言うことで、応援に駆けつけてくださることになったのだが、如何せん久方ぶりと言うこともあり、こうして段取りを相談されたので出向いてきた訳である。
本当は体調を崩したさなちゃんのお世話をしに早く帰らなければならないのだが、お友達2人がお見舞いに行っているらしいので、あまり早く帰っても気を使わせるだけだろう。
もっとも、先程男性が言ったようにOB会の方、もしくは剣道部の顧問の先生が本来することなのだけど、パイプや実績は作っておくに越したことはない。しかも応援と言っても、実質はそれを口実にした同窓会旅行みたいなものなのだ。要は大会後に泊まって飲めればよしと言う 、それほど気負う事でもない内容だ。
それに頼まれた事でもあるし。
その事を思い出し、一寸だけ溜め息をつく。
それはテスト前の事だった。
「応援に来ないか、だと?」
「ああ」
昼休みに成次君が私を訪ねて来て、ちょっとお願い事が有るのだがと切り出されたのが先の台詞だ。
あのアタック宣言以降、言葉通りに成次君は頻繁に声をかけてくるようになった。
たまに帰りに出会えば一緒に帰らないかとか、昼ご飯を一緒にどうだとか。お誘いだけかと思えば、他愛も無い普段の話しだったり。
想像していたよりかは押しが弱い内容だが、軽い内容だけに、何と言うか断り辛い。しかも誘いを断られれば素直に引く。あ、いや別に強い押しにして欲しいわけではないんだぞ?
色恋事に疎い……というか、前と合わせて一切そんな事が無かっただけに、食うか食われるかみたいな事を想像していた私としては、肩透かしもいいところだった。そもそもそんな経験なんて無いのだから、毎回内心『これも駆け引きなのか』とビクビクしているくらいなのだ。
ともかく、普通に友達感覚で接してこられているようで、強気に出て邪険にあしらうのも何だか心苦しく、あまり何度も断っていると、逆にこっちが申し訳ない気分にさせられてしまう。
正直な所、やりにくい。
クラスメイトの男子や生徒会の後輩の子達は、私と話すとき生徒会長と言う役職付きだからなのか、ちょっと緊張したように、一歩置いて話しかけてくる。ナンパ野郎共や付き合ってくれ等と言ってくる奴は論外として、成次君は本当に自然に話しかけてくるのだ。 平素女性として振舞う事は特段何とも無いというか、もう女なので当たり前なのだけれど、男同士特有の気さくさというか、普通に話せるのをちょっと嬉しく思ったりするのがいけないのかもしれない。
でも仕方ないじゃん?
前の自分の時がボッチだった事もあって、こうして同年代の男友達と普通に会話するという学生らしい日常に、ちょっと浮かれてしまうのは無理からぬ事だよね。だよね?
んで結局、話をするだけなら別に他の人と変わりが無いわけで、成次君だけ邪険にするのも角が立つし、どう対処したらいいのかさっぱり分からなかった。
そこのところを由梨絵とも話してみたのだけれど、バッサリ斬って捨てられた。
「そういう気遣いとか、貴女の公平性は知ってるけど、公平であることが常に正しいなんてことは無いのよ。事、それが男女の付き合いなら尚更。その気が無いなら深入りは止めて、金輪際私に話しかけないで下さいって、捨ておきなさい」
なんとも由梨絵らしいお言葉で返す言葉も無いのだが、千鶴子として交遊関係を拡げるのだって、幸せと言う観点で言えば間違いじゃないはずだ。成次君は経緯はどうあれ、友人となってくれるなら心強い人だと思うので、無碍にはしたくない。でも、それも搦め手なのかと邪推してしまったり、なんとも微妙な関係となっている。
で、結局。
なんだかんだで、徐々に外堀を埋められているような、内心はドキドキビクビクしっぱなしという、妙な日常が続いているのだ。
なんかもう、誰か助けてと言いたい。
……話が逸れた。
で、何の応援なのかと聞いてみれば、剣道の全国大会についてだった。
「開催地は小田原…開催日は8月6日から9日か」
「ああ。新幹線なら2時間って所だな。まぁ負ければ1日で終わるが」
「新幹線ならと軽く言うが、往復1万円位するんだ。宿泊代だって考えると、そう簡単に行きますと言える物ではないぞ?」
応援に行くことは良いんじゃないかと思う。男と言うのは黄色い声援を浴びれば、頑張ってしまう悲しい生き物なのだ。まぁ剣道の応援では黄色い声援なんてあげちゃ駄目なんだけどね。
ただ、成次君に誘われているという事が引っかかっていた。これもアタックの一環なのではないかと思うと、これも何かの策略なのかというか、要らぬ疑心が返事を躊躇わせた。
そう考え込んでいると、逃げ道を塞ぐように成次君が提案してくる。
「いや、剣道部の久方ぶりの全国大会参加に、OB会が少々お祭り状態みたいでな。有志を募って応援団を派遣するんだと連絡があったから、それに便乗してみてはと言いたかったんだ。一緒に着いて行けば個人費用は殆ど無いらしいぞ?」
費用はOB会持ちなのか。なら別に……ってそう言うことを気にしてるんじゃない!
「じゃあ良いじゃない、ついて行ってあげれば」
「由梨絵?」
何時の間にか傍にやって来た由梨絵が口を挟んできた。
「女子剣道部の方からも申請が上がっていたでしょ、他校との交流試合も兼ねた男子部応援について。生徒会からも人員が出れば話も通りやすいでしょうしね」
「確かにそうだが……」
前にも述べたかもしれないが、部活間の協力を行う事で活動評価が上がる仕組みを導入しており、こうした応援も立派な協力活動となる。それに試合を見ることも部活動としての意義もあるし、生徒会として問題なしと申請は通したので後は学校側の判断如何だ。
で、確かにそこに生徒会も加われば、こうしたときに懸念される、出先での規律有る行動云々という点について、学校側の判断をクリアし易くなるだろう。
「それに体育祭で協力してもらったのだから、生徒会としても生徒側の要望に協力してあげなきゃねぇ」
「顧問の先生もこういう事は初めてらしくてな。そう言うところをフォローしてくれるなら、両手を挙げて賛同してくれると思うぞ」
「ぐっ……」
痛い所を突いてくる由梨絵。
でもあれはちゃんとお弁当作ってあげたからチャラの筈だ。
が、あれだけ練習時間を割いてくれた事に対しての礼がお弁当1つというのも、確かに虫が良い話といえばそうだろう。
うぐぐ……。
むぅと唇を噛むが、諸々鑑みて駄目とは言えなくなってきた。
成次君だけかかと思えば由梨絵も一緒になって包囲を狭めてくるとは、獅子心中の虫だったか、由梨絵よ。
「金剛寺君の言う通りOB会頼ればいいじゃない。冬桜は大学と一緒で規模も大きいから相談に乗ってくれるでしょ。それに全国大会なんだから応援団派遣だって、生徒会業務として考えても別におかしくは無いわよ」
はぁ。仕方ないか……。
何だか妙な事になったけど、開催日は夏休みだし、高校最後の小旅行と思えば良いし、勇の応援にもなるからさなちゃんもつれて応援についていく事にしよう。
それに、つ、付き合うとかそういのOKした訳じゃないし、生徒会として応援に行くんだ。うむ、問題ない。問題ないはずだ……。
そう観念し、結論を口にした。
「わかった。一先ず顧問の先生と話をしてみる」
「そうか!」
「よかったわね、金剛寺君」
了承してしまった。
本当に嬉しそうに破顔してみせる成次君。
ちくしょう、嬉しそうな顔して。べ、別に成次君の応援に行くんじゃないんだからね! あくまで生徒会の仕事なんだから!
そう内心で言い訳してみるも、これから先の事に頭が重くなりはしたが、一度やると決めたからには責任を持ってやるしか道は無かった。
で、剣道部顧問に話をしてみれば「東条が手伝ってくれるなら安心だな」と、何の躊躇いも無しに申請が通ってしまい、かつ色々な手続き一切丸投げにされてしまった。
ちょ、仕事しろよ! と思わないでもないが、大会前の指導で手が取れないし、生徒会になら任せて大丈夫だろうと、と安心しきった顔をされてしまった。
生徒会として真面目に活動してきたことが裏目に出た。
そんなこんなで先生からOB会に連絡を取ってもらってみれば、あちらもあちらでどうしたらいいか悩んでいると言われ、企画立案から行程まで任されることになってしまい、纏めた資料を持ってOB会の方にプレゼンしてみれば、多少の要望は出されたものの、あっさりと通ってしまった。
(なんでこうなるのかなぁ……)
これから精一杯千鶴子として生きていく決意も新たに、さなちゃんと勇をめぐって競い合って行かなければならないのに、私が追われる身になった上に墓穴を掘るようなことをしなければならないんだか。
正直、運命の神様とやらを恨まずにいられなかったので、こっそり生徒会随行員に由梨絵の名前も書いておいた。
ふふふ。由梨絵よ、君はいい友人ではあるが、君の進言がいけないのだよ。
まぁぶっちゃけ連れていく人多いから、手が足りないだろうし、言いだしっぺの法則を身をもって体験するがよいわ。ぬはははは。
◇
「そう言えばさなちゃん、ちょっと話が……」
「そうだ姉さん。お願いがあるんだけど……」
話を切り出したのは同時だった。
生徒会の仕事を終え帰宅し、夕飯の準備をしているときのこと。
お見舞いに来ていたお友達は帰った後のようで、体調も良くなったさなちゃんは茶の間で雑誌を読んでいた。その時からチラチラと私の方を見ているから、何かあるだろうと思っていた。
私も私で話したいことがあったけれど、さなちゃんは今日は体調を崩しているのだ。だから様子を伺いつつ何時話そうかと思っていただけに、思わず発言が重なったことになんだか暖かさを覚えた。
まぁ、そんな私の心情はさておいて、お互い苦笑しつつ先を促した。
「姉さん、海に行かない?」
「海か?」
「そう。美和と佳奈美で、勇一郎も誘って夏休みに行こうって話になったの」
我が家では出掛ける前に、お互いちゃんと何処に行くか話してから行くことがルールとなっている。家族2人、もし何かあってはいけないので、ずっと昔からそうしているのだ。
「だからね、姉さんにも一緒に来てほしいなって」
雑誌で顔を半分隠しながら、上目遣いで訪ねてくる。
ああもう、可愛いなぁ。
でも心苦しいが、流石に今回は遠慮しないと。
佳奈美ちゃんに美和ちゃん。何度も家に来てはいるが、顔見知りの域を出ない、しかも上級生が混じっては楽しめないだろう。前にも言ったが、そういった集まりに私は踏み込まないようにしているのだ。
だが……本当はめっちゃさなちゃんの水着姿を見たいですけどね!
可愛いに決まっているその姿を目にする事が出来れば『生きてよかった!』と思えるだろうが、血涙を流してでも諦めざるを得まい。
そう思って申し出を断った。
「お友達と行くんだろう? 私が入っても気を使わせることになるから、3人で楽しんできなさい」
「そんなこと2人とも気にしないよ。それにね、3人じゃなく勇一郎も誘おうって話になってるから……その……」
さなちゃんから発せられた言葉に、思わず硬直してしまった。
なんと、さなちゃん自ら勇をデートに誘うとはっ!!
しかも水着でアピールする気ですね!
姉さん分かりますよ!
「勇一郎、最近ちょっと元気がないでしょ? だから気晴らしにもなればなぁって」
いやはや喜ばしい限りである。本当は競っているから喜んでは駄目なんだろうけど、こうしてさなちゃんから、言ってみれば勝負を挑まれたのだ。
「それにね、2人で約束したでしょ。その、勇一郎と……」
勇一郎のことを想ってだろう、白薔薇のような頬を少し赤くしながら、私達の約束事を口にするさなちゃん。
ああもう、何か抱きついて良い子良い子と撫で撫でしたい!
色々あったけど、どうよこの成長ぶりは!
自ら動いて、かつ公平にと私のことを気にかけるなんて!
なんというかさなちゃんは周りをいい意味でよく見るようになった。先日からずっと勇の事も心配しているようだし。思わずお節介を焼いてしまったが、不要だったな、これは。
しかしこの間の休みの時から思ってはいたが、さなちゃんが凄くしっかりとしてきている。
今まではその場に居ても多少遠巻きに見るかのようだったのに、自分から1歩踏み込んできたのだ。
ならば後押ししてあげずして何が姉か!
しかし海か。
この辺りだとこの間行ったレジャー施設のプールとかが有名だが、さて……。
あ、良い事思い付いた!
「なら、ちょっと良い話がある」
「え、なに?」
降って湧いた話だが、色々と骨を折っているんだ。ちょっと位それを利用してもいいよね。
「さっき私が話そうとした事なんだが、剣道部の大会の話は知っているな?」
「うん。勇一郎もメンバーだよね」
「その剣道大会なんだが、応援団を送ることになってな。もともと剣道部OB会が主体なんだが、まぁ色々あって生徒会がそのあたりを取り仕切っているんだ。そして有志の応援希望者も受け付けている」
手間だなと思っていた案件だったが、こうして思わぬところで役に立つとは。色々と手は出しておくものだなぁ。
多少職権乱用のような気もするけれど、気にしては負けだ。こちらに一切丸投げした先生が悪いのだから、多少は苦労してもらわなければ。
「そして、その行動予定の中にな、試合終了翌日に小田原市街散策があるんだ。名目は小田原城見学と歴史見聞館を巡って見識を広げるというものだが、まぁただの観光だな。
だがそれはOB会の話で応援希望者は関係ない。OB会との親睦を深める意味もあるので若干は随行する人員も必要になってくるが、そこは顧問の先生に任せれば問題ない訳だし、そもそも応援とは無関係だから希望しない限り行かなくてもいい」
「えっと、つまり……?」
少し回りくどい説明だったようで、さなちゃんが小首をかしげている。
「要するにだ。応援に参加すれば、ちょっとOB会の皆さんのお相手もしないといけないけれど、費用はOB会持ちで現地で自由時間が取れる。小田原駅の直ぐ傍に御幸の浜海水浴場という所があって、帰りの時間にさえ間に合えば行っても問題ないだろう、と言うことだ」
合点がいったのか、みるみるさなちゃんの顔に笑みが浮かぶ。
なので私も笑顔を浮かべて、それに応えた。
「剣道部が勝ち進めば2泊3日の、ちょっとした小旅行だ」
区切りがいいので投下~。やっぱり前置きが長くなった(´・ω・`)
もうちょっとだけ前置きが続くんじゃよ。
――――――――――――
閑話
「ちぃ~ずぅ~るぅ~こぉ~!!」
「どうした、般若のような顔をして。折角の美人が台無しだぞ」
「どうしたもこうしたも、これはなによ、これは!」
「剣道部応援団引率人員代表者名だな」
「それは判るわよ! なんで私の名前まで入っているのよ!!」
「それは生徒会役員だから」
「貴女がいるじゃないのっ! というか私は行くなんて一言も言って無いわよ!」
「言っては無いが、人には行けと言っといて、自分は行かないなんて酷いじゃないか」
「ぐっ……誘われたのは貴女でしょ!」
「だって人数も多くなりそうだし、私1人では手が回らないだろうし、その点由梨絵が居てくれれば安心だ」
「それなら書記や庶務の子に経験させるべきでしょ!」
「……由梨絵、私達はもう3年だ。一緒に遊べる機会なんて、もうあまり取れない。だから残りの期間で色んな思い出を作りたいんだ」
「別にこれからだって作ろうと思えば作れるでしょ」
「思い返せば高校の2年あっという間だった。色んなことを一緒にやって来たけれど、だからこそ私は由梨絵と、高校生だからこそできることを共有したいんだ」
「千鶴子……」
「それにOB会の人と話す事だって、色んな人生経験を聞けるいい機会じゃないか」
「……本当のところを白状なさい」
「むしゃくしゃしてやった。反省はしない」
「貴女ねぇ! ともかく此間の貸しでチャラにしなさい、いますぐ!」
「悪いな、由梨絵。もう学校の承認は下りてしまったんだ」
「あーもうっ!! 覚えてなさいよ!」
「と言いつつも、由梨絵はちゃんとやってくれるだから大好きだ」
「まったく……わかったわよ、もう。そのかわりベリーカフェのタルト、今度奢りなさいよ」
「ふと…」
「何か言った?」
「いや、何でもありませんわ。おほほほ」




