表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

幕間 「俺の幼馴染」

 俺には二人の幼馴染が居る。


 事の始まりは小学校2年生のゴールデンウィークだ。

 初日。

 本来なら家族揃って遊びにと言うのが一般家庭における標準的な過ごし方なのだろうけど、我が家は両親共に『ゴールデンウィーク?なにそれ、食べれるの?』状態で、目覚めてみれば二人とも書き置きを残して仕事に出掛けた後だった。


 断っておくがブラック企業勤めとか言うわけではないし、家計が苦しいわけでもない。単に根っからのワーカーホリックと言うやつだ。俺が生まれた事で自重し、5時過ぎには母さんは家に帰ってきていたが、父さんは何時でも帰りが遅い。昔は二人とも終電間近というのはザラだったらしい。高校生になった今では俺の事を信用してくれてか、帰りは結構遅めになることが多い。それに俺自身としても『好きな事をして良いよ』と伝えているので、気にはしていない。


 俺の両親の話はさておき。で、その日は隣の家が朝から何やら騒がしく、昼食のシリアルを不貞腐れながら突いていると窓の外でトラックが走っていくのが見えた。よく宣伝している引越し業者のトラックみたいだったから、てっきり隣のばあちゃんが引っ越すのかと思って慌てて外に出た。


 隣のばあちゃん、飯綱さちいいづな さちえさんは隣で一人暮らしている最近にしては珍しい平屋に住んいる人だった。広い庭をいつも綺麗に手入れして、たまに夕飯に呼んでくれたりする自分にとっては祖母同然の人だった。

 これは後から分かったことだが、どうにもうちの両親がよく不在なのを見かねて、世話を申し出ていてくれたらしい。それに甘えている両親もどうかと思うのだが、子供の頃はそんな難しいことは考えないので、無邪気にばあちゃん、ばあちゃんと呼び慕っていた。

 何時も紬姿で穏やかな人だったが、行儀作法には滅法厳しく、俺も行儀が悪ければ容赦なくはたかれたものだ。箸の持ち方から、挨拶、色々とよく怒られたが、それについては恨み言どころか感謝すらしている。

 まぁ、小さい頃は怒られた記憶ばかりだから、それでも慌てたのは単に寂しくなるのが嫌だったからだと思う。そうしてばあちゃんが居なくなると慌てて駆け込んだ家の先には、想像とは全く違った光景が広がっていた。


 そこに居たのは、ばあちゃんと、気の強そうな目をした黒髪ポニーテールの女の子、その女の子のスカートの裾をつかんで背に隠れるようにしている栗色の髪をした気弱そうな女の子だった。


「おや、勇ちゃんじゃないか。どうしたんだい?そんなに慌てて」


 ばあちゃんの事を気にして出てきたくせに、何時もと変わらない様子で声をかけてくれる声を無視して、自分の興味は二人の女の子に向いていた。

 小さい方の女の子は、じっと見ている俺を訝しく思ったのか、さっと黒髪の女の子の背中に隠れてしまった。それを見た黒髪の女の子は何故か怒ったような顔で自分を見つめ返してきていた。

 そうして無言で見つめあうこと数十秒。

 俺は二人を指差してばあちゃんに「これ、だれ?」と聞いた。


 容赦なく拳骨が落ちた。


「人を指差すんじゃないよ。それと人様をこれ呼ばわりするんじゃない」

「ご、ごめんなさい…ばあちゃん」

「人を指差すのは相手を見下したことになるんだよ。あと人はモノじゃないんだから、これなんて呼んじゃ失礼なんだよ。わかったね、勇ちゃん」


 涙目になって謝る自分はさぞかっこ悪かったのか、その様子をみた黒髪の女の子がくすっと笑った瞬間、女の子の頭にも見事に拳骨が炸裂した。


「痛い、お祖母ちゃん…」

「初めて会う人には、ちゃんと挨拶と自己紹介をしなさい。あと、人が謝っている姿を見て笑わない。失礼だよ」

「ごめんなさい…お祖母ちゃん」


 そうして改めて向き合い自己紹介をしたその日、高校になっても鮮明に思い出せる、二人の幼馴染「東条千鶴子」と「東条早苗」との初邂逅だった。





 その後は至って普通だった。自己紹介が済んだ後、ばあちゃん家に上げてもらって一通り説明を受けた。といっても子供相手だから簡単に『今日からこの家に住む。同じ小学校にも通うから仲良くして欲しい』程度だったが。


 そうして、ちょこちょこと話しているうちに、引っ越してきたなら町を案内してやろうという流れになり、女の子二人を連れて近所を案内することになった。学校の友達連中は皆旅行に行っていたし、特に遊ぶ予定も無かったので軽い気持ちで引き受けたのだが、結局、ゴールデンウィークは全てこの二人に付き合わされることになった。


 学校へ行く道筋や、お気に入りの空き地、公園、神社、商店街等など。知らないことを教えるのは何だか偉くなった気がして、朝の機嫌の悪さはあっという間に消え去っていた。

 その内姉の方が慣れてきたのか色々と話すようになり、朝から昼までばあちゃん家で二人相手に学校の事なんかを話して、昼からは案内という町内探検がゴールデンウィークの過ごし方になった。地図を引っ張り出して、ここが何だとか、ここには行ってないだとか、ここはどうなっているんだろうかだとか。なんだか探検隊になった気分で、俺は始終上機嫌だった


 気の強そうな姉、千鶴子さんは思ったよりも接しやすく、何だかしゃべり方も男っぽくて半日も経たず普通に話せていた。が、問題はもう一人の小さい方、早苗だった。


「……さ、さなえ、です」


 そう最初に自己紹介したきり、学校の話しの時も、町の案内の時も一言も喋らなかったのだ。ずっと千鶴子さんの後ろに隠れながら付いて回り、俺と一度も目を合わさなかった。最初のうちは俺の話しかけてみたが、返事は一回もなかったから途中からは殆ど無視してしまっていた。

 文句の一つも言いたかったが物理的に痛くて言えなかった。物理的にというと、実は一度言うには言ったのだ。「なんで付いて来るんだ、お前」と。そうしたら千鶴子さんからやたら鋭い踏み込みの右ストレートが飛んできたので、二度と言わないようにした。多分このときの記憶が元で今でも頭が上がらないんじゃないかと思う。


 でまぁそんな事がありつつ迎えたゴールデンウィーク最終日。


 この数日と同じように何時もの時間にばあちゃん家に行くと、玄関から早苗が縁側に一人で座っているのが見えた。何時でも千鶴子さんの後ろに引っ付いて離れなかった早苗が一人で居るなんて珍しく、まともに全身を見たのは初日以来だったので思わずまじまじと見つめてしまった。


 栗色のくせっ毛を左右でまとめ、脚をぶらぶらさせている様は、なんだか小動物を連想させられた。だが、このときの自分にとって早苗はどうでもよくて、千鶴子さんと冒険する事だけ考えていた。なので目的を達成すべく無遠慮に玄関を空け、庭へズカズカと入り込んでいった。


 その物音で気が付いたのだろう。早苗が顔を上げてこちらを素早く見つけた。だけれどその顔には明らかな不安が見て取れた。だからだろうか、自分のかけた声は非常にぶっきらぼうなものだった。


「…千鶴子ねーちゃんは?」

「…ひっ」


 短く悲鳴を上げられてしまった。目が合った瞬間、所在なさ気にぶらぶらさせていた手脚と背筋をピーンと伸ばし、肉食獣に見つかった草食動物みたいに早苗は硬直していた。何も悪い事はしていないはずなのに、なんか苛めたみたいで妙にカチンと来たのを今でも覚えている。


「……あ、う」

「え、何?」

「…うぅ」


 目に涙が溜まりだしたのを見て非常に居心地が悪くなったと共に、イライラが湧き上がってくる。声をかけただけで何でこんなに怯えられなければならないんだと。我ながら程度の低い餓鬼だったと思う。親が家に居ない事が多いのを良いことに勝手気ままにやっていた訳だから、自分の思い通りにならない事があると直ぐに癇癪を起こしていた。まぁ都度ばあちゃんに叱られていた訳だが、その時はばあちゃんも居ないので歯止めがかからなかった。


「なぁ、俺なにかしたか?」

「……」

「何もしてないだろ?何で泣くんだよ?」

「………」

「何か言えよ。俺が苛めたみたいだろ?」

「…………」


 無言のまま見つめあうこと数分だっただろうか。あっさり俺が切れた。

 黙って早苗に近づくと、手を乱暴に取って立ち上がらせた。


「へぅ!?」


 情けない声を上げながら、わたわたと周りを見て俺を見て落ち着きのない様子になる早苗。多分あの時は助けを呼ぼうとしてたんだと思う。俺はそんな早苗に益々イラついて、そのまま手を引いて走り出した。


 うん、自分でもどうかと思う。強引に引っ張りまわして苛めるだなんて。無論早苗も抵抗はしたが、俺は有無を言わせず強引に引き摺るようにして飯綱家を飛び出した。とにかく早苗に何でも良いから喋らせたかったのだ。案内してやってるのに何も言わないのはなんだか腹が立って、せめて一言二言くらい感想が聞きたかったのだ。


 近所の良く吠える犬の前に連れて行ったら何か喋るだろうか?

 全速力で走ってやれば何か喋るだろうか?

 人通りの多いところで手を離したら何か喋るだろうか?


 他に何処か良い所があっただろうか考えながら、後ろで何か「やっ!?え!?」とか変な声を上げている早苗を無視して走り続ける。なんとまぁアホなことを考えていたものだとつくづく思う。そんな事をしても後で待っているのは千鶴子さんとばあちゃんの鉄拳制裁だと言うのに。だが当時の俺はそんなことに思い至ることはなく、意地の悪い笑みを浮かべ、早苗を連れて町へ繰り出したのだった。





 だが、まぁ、結局始めてしまえば何時もと変らない町内探検だった。今まではどちらかと言うと何処に何があるといった確認のような事ばかりで、千鶴子さん主導だったが、今回は俺が主導権を握っている。なので、近くの川ッ縁だったり、公園傍の雑木林の中だったり、倉庫跡地だったり、橋脚の下だったりと、ちょっと冒険心がくすぐられる様な所ばかりに足を向けた。


 最初のうちは何度か抵抗しかけていた早苗も、その内黙って手を引かれるようになっていた。やっぱり何も喋らなかったが、俺が得意げに場所の事を語りながら反応を見るように顔を覗き込むと、目を合わせてくれるようになっていた。それが何だか感心されているようで、最初のイライラはいつの間にか何処かへ消え失せていた。一体当初の目的である『早苗を喋らせる』は何処に行ったのやら。あまりにも単純過ぎだ。


 そうして気が付けば陽は真上をとうに過ぎ、子供の脚でも結構な距離を駆け回っていた。さて、次は何処に行こうかと思案していると、お腹が鳴った。後ろを振り向けば同じようにお腹に手を当てた早苗と目が合った。


「お腹減ったな」


 声に出した言葉に返事は無かったが、小さく同意の肯きがあった。周りを見回すと丁度コンビニが目に入った。ポケットには百円玉が二つ。ゆらゆらと引き寄せられるようにコンビニに脚が向かった。





「気をつけてねー」


 やたら笑顔がまぶしいおっちゃんに手まで振られながらコンビニを後にする。

 200円じゃ買えるものなんて知れているはずなのだが、店を出るときには何故かパックジュース二つ、菓子パン二つが入った袋が手に握られていた。今になって思うが、結構色んな所を回って汚れてて、そんな子供だけで買い物に来て「200円で買えるジュースとパンください」なんて言うのだから、何か勘違いされたような気がする。すまない、バイトらしきおっちゃん。騙す気は無かったんだ。頼んだのだって商品棚に手が届かないからなんだ。


 適当な公園を見つけ、早速パンを食べるため手を洗おうとして今更ながら早苗と手を握りっぱなしだったことに気が付いた。急に気恥ずかしさに襲われ、ちょっと乱暴に握った手を離す。


「…あぅ」


 小さくうめくような声が聞こえたが気にしない。そうしてちょっと気恥ずかしいまま遅まきのお昼ご飯を胃袋に放り込み、さて次は何処に…と考えていると、ふと俺たちに影が差した。


「こんにちは。僕たち、二人だけかな?」


 公園の砂場の縁に座り込んだ俺たちを覗き込むように現れたのは知らないおじさんだった。今にして思えば帽子とか腕章と特徴的なベストとか身につけてたような覚えがあるから、多分子供老人パトロール隊か、防犯パトロール隊か何かの人だったのだと思う。だが、いきなり知らない人に声を掛けられ、しかも目線を合わせるわけではなく見下ろされているのだ。無論笑顔を浮かべてはいるようだが、子供心に訝しさが先に立った。早苗も見下ろされるのが怖かったのか、俺にくっついてきた。


「少し前から見てたけど、ご両親と一緒じゃないよね?そんなに泥だらけでどうしたの?なんでお外でご飯を食べてるのかな?」


 見下ろされ、矢継ぎ早に掛けられる質問に、急に『早苗を無理やり連れ出した』ということが思い出され、思わず目を逸らしてしまった。それが何か核心を突いた気になったのだろう。おじさんは更に踏み込んできた。


「ああ、ごめんね。怖がらせちゃったかな?心配しなくても良いよ。おじさんはね…」


 そこからは内容はあまり覚えていない。多分パトロールの説明なりしていたのだと思うが、小学2年生にそんなことを懇切丁寧に説明されてもさっぱりだ。早苗などはきゅっと目を閉じて俺にすがりついたままで、聞いてないことは明白だ。


「それじゃ、おじさんと行こうか!」


 説明を終えて多分警察か、児童相談所か、それに類するような所へ連れて行くつもりだったのだろう。おじさんが早苗の肩に手を掛けた。


「…いやっ!」

「…何するんだよ、おじさん!」


 早苗のあげた拒絶の言葉に、俺は頭に血が上っておじさんの手を強引に払った。どう考えても自分勝手極まりない子供の俺。理由は今日の冒険をこんな所で終わらせるのは嫌だから。だが、冒険と言っても早苗を勝手に無理やり連れまわして好き勝手して、それに水を差した大人に腹を立てているだけだ。その場に戻れるならその自分勝手さを殴りつけたい位だ。


「ああ、ごめんね。急に手を置かれたらびっくりするよね」


 おじさんはきっと丁寧に話しかけてくれていたのだと思う。だが子供の俺はそんなことには気が回らない。このおじさんは『敵だ』と決め付け立ち上がり、おじさんと早苗の間に割って入った。そして早苗の手を握ると、目の前のおじさんの脛を思いっきり蹴り付けた。


「行くぞ、早苗!」

「へ?」


 痛みに蹲るおじさんを放置して、今朝と同じように駆け出す。「待ちなさい」と後ろから声が聞こえるが無視して公園から逃げ出した。そこからは無茶苦茶に走り回り、息が上がるのを無視して走り続けた。


 そして気が付くと自分ちの近所まで戻ってきていた。どうやらおじさんは追いかけてこれなかったらしい。走り続けて息が上がっていたのと、家の近所ということで気も緩んで俺は道端にへたり込んだ。荒くなっていた息が段々と落ち着いてくる。そうして何とか一息ついたところでようやく『早苗は?』と考えが至り、繋いだ手の先を見やると同じようにへたり込んでいた。顔を真っ赤にして荒い呼吸を繰り返し、目許には涙を浮かべている。ゼェゼェと荒い息をして顔を真っ赤にしているのを見て、事ここに至ってようやく早苗に酷い事をしてしまったのではないかと罪悪感を感じた。


「…だ、大丈夫か、早苗?」


 我ながら情けないことこの上ないが、どう見ても大丈夫そうではないのにどう声を掛けて良いか分からなかった。無論返事は無く、上がった息を落ち着けるのに必死なようだった。次の言葉を紡げず、そのまま待つこと5分ほど。漸く荒げていた息を落ち着けて早苗がこちらを向いた。双眸に浮かべた涙は相変わらずで、罪悪感が大きく膨らんでいく。


「あー、その…なんだ」

「……」

「…だ、大丈夫か?」

「……もう、平気」

「そっか……いつの間にか家の近所まで来たみたいだから、そろそろ帰るか?」

「…うん」


 早苗は普通に返事をしてくれていた。当初の目的である『早苗を喋らせる』は達成していたが、そんなことはもう覚えていなかった。走り疲れたというのもあるが、一番は『俺なにやってんだろう』という自責からだった。

 結局の所、早苗が返事をしてくれるようになったのは、別に何がきっかけというわけでもなく単に人見知りがあるというだけだったのだ。それを自分勝手な解釈で無視されたと思い込んで強引に引っ張りまわし、挙句泣きそうになる位無理をさせてしまった。心に溢れた罪悪感で何だか優しくしなければいけない気になる。子供の感情はコロコロ変ると言うが、さすがにこれは今でもどうかと思う。


「…じゃ、行こうか」


 だけど露骨に態度を変えるのはなんか恥ずかしくて、明後日の方向を向きながら早苗に手を差し伸べた。早苗は一瞬逡巡する様子を見せたが、直ぐに俺の手を握り返してきた。だから俺も今度は荒っぽくせず、ゆっくりと早苗を起こしてやると、一緒に並んで家路に向かった。


 そうして帰り着いた飯綱家の玄関で、俺は全身から怒気漲らせた千鶴子さんと遭遇した。


 まぁそこからは想像に難くない話だ。


 千鶴子さんから鼻っ柱めがけて助走をつけた渾身の右ストレートをもらった。呆気なく俺は倒れ、千鶴子さんは馬乗り状態で俺の顔を殴打した。だが、2度ほど殴られた後、不意に手が止まった。何時までも来ない衝撃に目を開けてみると、千鶴子さんの手を早苗が止めていた。


「ちぃ姉ちゃん、手痛いからだめ。ゆーくんも、痛いからだめ」

「…さ、さなちゃん」


 涙目になりながら、両の手でしっかり千鶴子さんの手を抱き止めていた早苗。

 その行動に何か思うことが在ったのか、あっさりと千鶴子さんは俺の上から退くと「もうしないから大丈夫だよ」優しく早苗に声をかけ、俺に手を差し伸べてくれた。


 その後は思い出すのもアレなのでダイジェストとさせて頂きたい。

 いや、ほんと勘弁して下さい。


 俺と早苗が二人で冒険していた時間はおおよそ5時間ちょっと。その間、ちょっとした騒動になっていたらしい。普通は子供が遊びまわるのにそんなに心配することは無いのだろうが、庭に居るはずの早苗が居なくなったのを見て千鶴子さんが大層慌てたらしい。暫くして戻ってきたばあちゃんに拳骨一発もらい、「遊びに出かけるのは良いが、人様に迷惑をかけちゃいけない。どれだけ心配掛けさせたか」と怒られた。さらに両親までもがやってきたのは驚きだった。両親はばあちゃんに頭を下げまくり、千鶴子さんと早苗に「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。そうして飯綱家でばあちゃんを交え、両親にもこってりと絞られ、改めて千鶴子さん、早苗に「ごめん」と伝え、俺のゴールデンウィーク最終日の冒険は終わった。





 そしてその夜。

 ちょっと気まずい気分を抱えながら珍しく早い晩御飯を三人で食べている時、両親から意外な言葉をもらった。


「勇一郎、まずは最初に言っておく。済まなかった」


 ぽかんとしている俺を置いて、両親は更に言葉を続けた。


「確かにお前は悪い事はしたが、それは何もお前だけが原因ではない。父さん、母さん達もゴールデンウィークなのにお前をほったらかして悪かった。これからは父さんも母さんも出来るだけお前のために時間を取るようにする」


 なぜにそうなったかは分からないが、父さんも母さんも家に居る時間を増やしてくれるという。一度家に帰ってきた後、二人とも飯綱家に再度出かけていった。その時に何か言われたのだろうか分からないが、素直に嬉しかった。


「そして今日の事だが、確かにお前は悪い事はした。だが、ちゃんと怒られた。そしてそれの何が悪かったかもちゃんと分かっているようだから、これ以上は父さん母さんは怒らない。それに、そこから生まれたものもある。今は気が付かないだろうが、ともかく二人とは、ずっと仲良くするんだぞ」


 そうして優しく俺の頭を撫でてくれた父さんは何故だかとても嬉しそうだった。そしてその横で見ていた母さんも嬉しそうだった。多分俺も笑っていたんだと思う。その後は久しぶりに父さんと一緒に風呂に入り、すっかり忘れていたゴールデンウィークの宿題をちょっと怒られながらも母さんと一緒に終え、抗えない眠りに誘われてさっさとベットに入った。


 だが、ベットの中で今日一日の様々な事を思い出して気分は又沈んでしまった。泣いて怒った千鶴子さんの顔。最後は「さなちゃんが許してあげてって言うから許してやる」と言ってくれた。千鶴子さんの陰に隠れることなく俺と喋ってくれた早苗は「またね」と言ってくれた。謝りはしたけれど、果たして次の日からどういう顔をして会えばいいのか分からなくて、ベットの中で云々呻りながら、いつの間にか眠りに落ちていた。


 ちなみに夢の中では、お約束のようにひたすら手に金棒を持った千鶴子さんに追い掛け回された。


 そうして次の日の朝。夢の所為かダルい体を引きずるように、もそもそと朝食を食べていると呼び鈴が鳴った。こんな朝に家を訪れる人なんて一体誰なんだと玄関に向かい扉を開けると、予想もしない人物が立っていた。


「おはよう、勇」

「お、おはよう、ゆーちゃん」


 真新しいランドセルを背負った、昨日とは違って髪を下ろした千鶴子さんと早苗だった。


「え、あ…おはよう」


 いきなりの事で全く頭が付いていかなかった。何でうちに?学校は同じってのは知っているけど、なんで?え、昨日のマウントポジションの続きですか?混乱する俺は相当おかしな顔をしていたのか、千鶴子さんがちょっと笑いながら説明してくれた。


「今日が転入初日なんだ。ゴールデンウィーク中は一度しか実際の道筋を辿っていない。だから未だ自信が無いんだ。それに折角隣同士、一緒に通うくらい良いだろう?それとも嫌か?」

「あ、いや……そんな事はない…けど…」


 どういう風の吹き回しやら、昨夜悩んだ自分が馬鹿みたいに二人は普通に接してくれていた。確かに「許す」とは言ってくれたし「またね」とも言ってくれたけど、昨日の今日じゃないか。普通は数日引っ張るものじゃないのか?と、状況が全く整理できず、女の子ってのはこうもさっぱりしているものなのかと、そんな感想だけが頭に浮かんでいた。


「それにな…ほら」


 千鶴子さんに軽く押されて早苗が俺の前までやってきた。何故か恥ずかしがるように顔を赤らめて、俺の前であっちこっちと視線をさ迷わせて落ち着きが無い。だが、意を決したかのように顔を上げると、俺の手をいきなり取った。


「…えっと、その…ゆ、ゆーちゃん!」

「な、なに?」


 赤らめた顔で見つめられると、昨日の息絶え絶えの姿が思い出されてうまく早苗の顔が見れない。だけど早苗はそんな俺にお構いなしにギュッと手を握り、真剣な眼差しでこう言ったのだ。




「わたしと…わたしと、おともだちになってください!」




 意を決して発せられた早苗の言葉に、俺はただ無言だった。


(ど、どういうことなんだよ…)


 頭の中は疑問符で一杯だった。だってそうだろう?アレだけ昨日無茶させられたのに、友達になろうなんて言ってくるのだ。一体何が起きたのかさっぱり理解できなかった。

 混乱して返事が出来ない俺を見て否定と受け取ったのか、瞬く間に早苗の表情が曇ってゆく。目から涙が零れ落ちそうな段になって、はたとそれに気が付き慌てて俺は了承の返事をした。途端に零れ落ちんばかりの笑みを浮かべる早苗。何故だか恥ずかしくて、誰か助けて欲しくて周りを見回すが、救いの手は何処からも差し延べられなかった。


 そうして金魚みたいに口をパクパクさせながら千鶴子さんを見ると、とても優しい笑みを浮かべて俺達を見ていた。昨日とは打って変わった表情に思わず心音が跳ね上がったのを今も覚えている。


 そして千鶴子さんは表情と同じ優しい声音でこう告げたのだ。




「これで今日から私達は“友達”だ」




 そうしてお友達宣言から状況を把握できないまま、いつの間にか手を繋いで朝の通学路を3人で歩いていた。

 通学路を覚えているか自信が無いとか言っていたにもかかわらず、足取りはしっかりしていた。


「千鶴子ねーちゃん…俺、何が何だか分からないんだけど…」

「何、気にすることは無い。昨日のように何も言わないでは困るが、ちゃんと言ってくれれば二人でいくらでも遊びに出かけても良いぞ」


 なぜだか嬉しそうに俺と早苗を見やる千鶴子さん。

 同じように嬉しそうに俺の手を握り「また探検しようね」と笑いかけてくる早苗。


 結局俺の混乱は学校に着いて授業を受けて家に帰っても収まることは無かった。だが、それも毎日続けば日常として定着し、何時しかそれが当たり前になっていた。


 そしてそれは、高校生となって尚、俺の日常として在り続けている。


 今にしてよく思う。出来事自体は大袈裟なことではないし、実際ちっぽけな事だったが、あの出来事が無ければ自分はきっとこうして笑って過ごせなかったかもしれないと。だから二人の幼馴染には感謝しているし、二人の為に何かしてやりたいと思っている。これは多分ずっと変らない俺の気持ちだ。だが、あの時の罪悪感が残っているというのも、その思いを構成する一つだ。いつかはちゃんとしなくてはいけないと思っている。


「なにしてるのー?勇、こっちこっちー!」


 中庭の渡り廊下でぴょんぴょん跳ねながら早苗が俺を呼んでいる。

 早苗は昔から相変わらず小動物のイメージが変らず、見ていて微笑ましいというか危なっかしい。

 だが、もう一人は今では全く違っている。

 脳裏に鮮やかに蘇る姿。追いつけるだろうかとふと不安が過ぎる。

 だが追いつく為に許された時間は1年だ。


「…これからが本当の勝負だな」


 誰か言う訳でもなく一人呟き、冬桜に着いてからやたらとハイテンションな早苗に苦笑しつつ後を追いかけた。


 あの日、父さんが言っていた「生まれたもの」とは何なのか分かっていないが、きっとこの高校生活で見つけ出せる。そんな気がするのだった。

話が全く進んでませんね…。

次はお友達編です。

そしてまた誤字脱字…何故に投稿してから色々気がつくのか…


2013/3/3 サブタイ修正

2013/4/16 脱字修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ