第十一話 「私達の第一回戦 早苗の場合」
今回コメディ成分なるものが殆ど無いです…なんかすみません。
「早苗、可愛すぎ! 手足白っ!」
「ほんとに可愛いです! やっぱり早苗さんは可愛い服がとても似合います!」
美和、佳奈美からかけられる賞賛の嵐に思わず赤面してしまう。面と向かって『可愛い、可愛い』なんて言われるとやはり照れる。2人とも興奮したように色んな方向から私を見て言ってくれるので、思わず勘違いしてしまいそうだ。
今、私が着ている服は赤を基調とした所々に白の意匠が施された、いわゆるチアユニフォームというものだ。学校指定の服よりもはるかに短いプリーツスカート、白の長袖インナーを着た上にVネックのノースリーブベスト、そして同じく赤のシュシュで耳より上に作ったポニーテールの付け根を飾っている。そして、手にはお定まりのポンポンが握られていた。
そう、いわゆるチアガールという奴だ。
「……やっぱりものすごく恥ずかしい」
平素こんな服は着ないから、なんというか着せ替え人形にでもなった気分だ。
特に殆どギリギリ状態のミニなんて、いくら下にアンスコ着けているからと言っても非常に恥ずかしい。思わず手に持ったプラスチックカラーフィルム製のポンポンで足を隠すようにしてしまうのは仕方が無いことだろう。
いや、本当に恥ずかしいんだよ? 学校でも今のスカートをそれ位にしている人を見かけたりするけれど、私は未だそこまでの境地に至れておらず、精々頑張っても膝上15cmが限界です。
「大丈夫! ものすごく似合ってる! ってか、可愛すぎだよ!!」
「ですね。私じゃちょっと無理ですからね……体形的に…」
「美和はいーじゃん。その胸とかあたしに対する挑戦かっ! 挑戦だな!?」
「あ、ひゃ! やめ、ちょ、佳奈美さん、やめてっ! あはははは!」
目の前でじゃれ合う美和と佳奈美をみて、思わず笑みがこぼれ自然と緊張が解けてくる。ちなみに目の前の2人はチアユニフォームではない。
さて、なぜ私がこんな格好をしているかと言うと、話は5月連休にさかのぼる。
◇
G・Wは前に話した通り水族館へ3人で行った。
実はこうして一緒に街に出たのは今回が初めてだったりする。たまたま土日の予定が3人上手く噛み合わず、結果1ヶ月たってからのみんなでの外出となったのだが、予定前日はまるで初めての遠足前日の子供のように非常に興奮してなかなか寝付けなかった。
そして当日、興奮した気分のまま予定よりも30分も前に駅に着いて2人を待っていた。
待ち合わせに最初に現れたのは美和。淡いグリーンののペプラムトップスとスカパンのセットアップ。ネックラインにレースがあしらわれて、大きなリボンがデザインされたパンプスも可愛かった。
続いて現れた佳奈美はパンツスタイル。ロールアップジーンズにスニーカー、白のTシャツにデッキパーカーを羽織って、カラーをネイビー系でまとめて来た。ランダムに着けられたリベットがポイントのワークキャップもバッチリ似合った、ボーイッシュなスタイルだった。
私はフリル付きのチェック柄キャミと、おそろい柄のフレアシルエットスカート。その上にライトブルーのGジャンを羽織って、ライトブラウンのスカラカップバッグという出で立ちだ。個人的にキャミフロントのレースアップデザインが気に入っている。
こうして皆や自分の服装について色々と思えるようになったのは最近勉強した成果だと思う。初めての一緒のお出かけだった事もあってお値段的にもちょっと頑張った一品だ。だけど出かけ際に勇一郎と出会ったのに「お、出かけるのか。気をつけてな!」だけだったのは肩透かしもいいところだった。……負けないもん。
まぁ、それはともかく。
やってきた水族館は4月末のG・W初日で、公開日から未だ日が経ってなかった事もあって人は多かったけれど、それでも三人揃って大いに盛り上がった。野生を失ったようにだらしなく横になってるホッキョクグマや、ぼーっと水中を泳ぐジュゴンは可愛かった。
特にお目当てのシャチの子供やイルカショーを前にはしゃぐ美和は、まるで遊園地に初めて来た子供のようで、気が付けば私も佳奈美と一緒に「すごい!」「かわいい!」「賢い!!」「おいしそう!!」「え?」等と盛り上がり、始終楽しく過ごす事ができた。
そうして思わず衝動買いをしてしまったシャチのヌイグルミを手にした帰り。ファミレスでドリンクバー片手に足を休めて居た時の事だ。話題は最初、水族館の話だったのだが、2杯目を取りに席を立った境に私と勇一郎のものに変った。原因は私。朝方の事を思わず話してしまったからだった。
「ええい、生方の目は節穴かっ! こんなに可愛いのに!!」
「まったくです! こんなに可愛いのに!!」
2人してぷんすか怒ってくれるのは嬉しいのだけど、可愛いを連呼するのはちょっと恥ずかしいから止めて欲しい。それに2人も私から見ると十二分に可愛いのに。ともかく可愛いは判ったからと話を進める。
「勇一郎ってそういう事には目敏くないというか、あまり気にしない方なの。自身の服装もなんだけど、飾るのが好きじゃないみたいで」
アイスティーを混ぜながら、過去の記憶を掘り起こす。
私の台詞が指す通り、勇一郎は服についてであれこれと人を褒めた事が余り無い。
これは勇一郎の所為ではなく、そもそもの判断基準が姉さんなのが問題なのだ。姉さんは昔から余り着飾ることをせず、どちらかと言うと本体?の方のスペックアップに力を注ぐ方だった。
だから、勇一郎も自然とそういう風に外見どうこうというのではなく、異性に限らず内側を見るように育ってしまったのだ。それにさち枝お祖母ちゃんの『男なら上っ面だけを気にしてちゃ駄目だよ』という薫陶も多少ならず影響があったと思う。で、私は中学時の友人からの影響が大きかった事もあって、ファッションについてはそこそこ知識はあった。確かに姉さんと同じく私も余計な装飾は好まない方だったけど、それでも多少なりとて小物とか気を使った服装をしていた。
にも関わらず並んでみると平素のラフな格好の姉さんの方が栄えて見えるんだから、これが戦力(主に身長とBとWとH的な)の差かと半ば諦めていた分野でもあった。
だけど最近になって、姉さんが外見や服装に気を遣い始めたという一大事が発生している。こういう事も勉強も、結局は積み重ねだ。姉さんは努力の人で、しかもその努力は並大抵ではない。今までの知識量で言えば、私は姉さんより多少リードがあるかもしれないけれど、本気になった姉さんの前には多分何の意味も無い。なにより先日の取り交わした約束があるので、この方面に対しては以前よりも時間を割くようにしてきた。
ただ、唯一救いなのは、私と姉さんとでは服装の方向性というか好みが違うという事だろう。
私はどちらかと言うとガーリッシュ系が好きで、姉さんはコンサバ系だ。この辺りの系統というのは多少曖昧なところはあるし、流行によって左右されるので当て嵌めるのが難しい。けれど、姉さんが私の服をそのまま着て似合うかと言うとそうではないように、人によっての好み、似合うに合わないがあるのだ。だから方向性で被ることがない分、私は私の道を進むのが一番だろう。
だけど姉さんは以外と何でもイケるタイプだ。あの身長、メリハリの利いた体、ストレートの黒髪。フリルたっぷりゴスロリ系みたいなのも全然OKな気がする。振袖も姉さんの雰囲気と相まって似合いそうだし……むぅ、美人は得だなぁ。
ただ、姉さんも努力しないでその体形を得た訳ではない……はずだから、僻むのは筋違いというものだ。だから最近は私なりにストレッチとかこっそりやってたりする。数年後には実を結んでいると思いたい……主に胸あたり…。
そんな事を考えつつも、三者三様の勇一郎に対しての服装のあり方についての考えが取り交わされ、何時の間にやら殆ど対策会議状態になってしまっていた。
「冬桜の制服を初めて見せた時は、何か言われなかったのですか?」
「……そういえば、何も言われなかった」
「それじゃあ……ニッチな所で体操着姿とかには?」
「ドジして怪我すんなよって撫でられただけ」
「……生方、意外に堅物?だな。ってか剣道やってるとそういう境地に至るのか?」
先日の私の独白以降「何時でも力になる」と二人は言ってくれた。でもあまり甘えてばかりは居られないから極力自分でとは思っていた。だけど、こうして話をする相手がいると言うのはやっぱり非常に心強い。私一人ではやはり限界はあるし、相手は姉さんなのだ。言い方は悪いかもしれないけど、どんな手を使ってでもと思う位になりふり構わなければ、絶対に追いつくことは出来ないのだ。
といっても殆ど私の愚痴大会になってしまっているが、それでも2人はこうして嫌な顔せず聞いてくれて、もう何というか神様ではなかろうかと思ってしまう。
「ふむぅ……生方は服とかそういう系のアプローチじゃ駄目そうだなぁ」
「内面を大切にしてくれるのは嬉しいですが、でも折角可愛いのに張り合いが無いのは……ちょっと寂しいですね」
「服装的な面では余り効果が望めないって言うのはあるけど、メイクとかは意外と効果在りなんだよね。姉さんの時凄かったから」
「え、マジ?」
「うん。表面上全く何も無かったように振舞ってたけどね。メイクした姉さんを見た日の夜、日課の夜間練習が何時もより2時間も続いてた」
姉さんが激変して帰ってきた日。
あの日の夜は勇一郎の家にお呼ばれしていて、訪れた先で出迎えてくれた勇一郎は姉さんを見た瞬間固まった。が、数瞬後には普通に戻っていた。中々の精神力とは思ったけど、ご飯の間チラチラ姉さんを見てたし、ご飯食べ終わった後に庭で例のブツを手渡した時、「今日の千鶴子さん、なんか凄く綺麗じゃないか?」と小声で聞いてきたくらいだ。
そしてその夜の日課は、何時もより遅くまで竹刀を振り下ろす風切り音が続いていて、「いい加減切り上げて入ってきなさい」とおば様に怒られてた。
「……それはちょっと話が逸れるんだけど、練習として無茶し過ぎじゃない? 過剰な練習って絶対良くないって」
メロンソーダを片手に佳奈美が心配そうな声を上げる。自身の事があってだろうか、その表情は本当に心配そうだ。だから私はそれを打ち消せるよう、軽く笑って言葉を続けた。
「ずっと素振りとか続けてる訳じゃないの。夜の練習ってパターンが色々あるんだけど、なんか落ち着きたい時は、試合の始まりの礼、打ち込み一回、剣をおさめて礼。この一連の動作をゆっくり丁寧に繰り返してるの」
「なんだ、ずっと素振りだけ続けてるのかと思ったよ。てか、なにその『剣道に感謝!』的な音を置き去りにしそうな練習方法……」
私の言に安心したように言葉を漏らす佳奈美。あ、でも姉さんだからなのかなぁ…。
その後も色々と話題は出るも、結局出てしまった結論は視覚的アピールは難しいのではないかと言うものだった。そうして流石に3杯目はちょっと飲み過ぎかなと思いつつ、手にしたグラスの氷をカラカラと回していると、2杯目を飲み終えた美和がずずいと身を乗り出しきた。
「こうなっては、やはり攻め方を変えないと駄目だと思います」
「ほほぅ? 西ヶ谷殿には妙案があると?」
何時に無い美和の積極的な態度に、佳奈美も同調するように身を乗り出してくる。
「今は行動によるアピール、つまり存在感の拡大が大事かと思います。視覚的なものは、意識をある程度こちらに向けてからでもいいかと」
「確かに。『おっ?』って違う形で目を向かせないと、いくら服装とかに気を遣ってもスルーされちゃうしね」
つまりは脱幼馴染アピールって事なんだろうか。でも実際のところアピールといっても、私なりに結構やってるつもりなんだよね。
「掃除に洗濯、夕飯に呼んだり呼ばれたりでご飯作ったり、一緒の登校、一緒に夕飯の買い物に出かけたりする事以外で何かあるかなぁ…」
やっぱり只のお節介の域から出てないのかなと思っていると、正にその通りと美和からその考えを一刀両断されてしまった。
「言い難いですが、それは小さい頃から続けてこられた事なので新鮮味に欠ける為、アピールと言う点では効果が薄いかと」
「…むぅ」
どうも私の行いは幼馴染の延長らしい。確かにお世話になっているという事もあったし、入り浸っていてそれが日常の一コマと化してしまっているから、そういった意味では確かに目を引くことではない。でも、それ以上の事となると何だろう? お風呂にでも一緒にって誘って……って何考えてるんだ私っ! まだ早いっていうか駄目駄目駄目。脳内に思わずピンク色な情景が浮かびかけたが、頭を振ってそれを追い出す。でも、ちょっとアリかも…。
「だから、何時もと変わった事を行う必要があると思うんですが、その為にも何よりも先ずやっておくべき事があります」
「やっておく事?」
脳内に浮かんだピンク色な光景を隅に追いやるのに集中しすぎて、いまいち要領を得ていない私が?マークを浮かべるように首をかしげる。一方、佳奈美は何となく察しが着いているのか、目を輝かせ美和の言葉を待っている。
「彼を知り己を知れば、ってやつですよ」
孫子だっけ? 相手と自分の長所短所を見極めて事にあたれば、どのような場合でも失敗することはないっていう諺だったと思う。ちょっと興奮したような面持ちで美和が話を続ける。
「戦いでは情報が命です。つまりですね、東条先輩の情報を集めて分析、そして薄い所を突くんです!」
「攻撃するときは出し惜しみなし。相手が未知数であってもポイントが絞れるなら、全戦力を持って一点集中が基本だな!」
2人とも示し合わせたかのようにうんうんと肯き合う。
「私が聞く限りの情報を総合すると、正攻法では東条先輩の牙城は崩せません」
なんかこう眼鏡でもかけて気難しい表情をした参謀役が似合いそうな台詞をスラスラと2人が述べる。今の台詞なんてクイっと眼鏡を持ち上げながら言うと絵になりそうだ。って2人とも眼鏡してないけどね。何時ものぽわんとした美和の雰囲気とは真逆の方向にビックリしている私を置いて話は加速していく。
「となると、相手の防御が薄い部分からのアプローチじゃないと戦況を覆すには難しいんじゃないかと思います」
「うむうむ! となればやる事は1つしかないな」
「ええ。第三種接近遭遇です!」
そうして勢いに飲まれて状況を見守っていた私に一つ提案をしてきたのだった。
「早苗さんの家でお泊り会しましょう!」
「お泊り会?」
まぁ、ようはするに姉さんの情報を集めて、姉さんに無い方向でアプローチをすれば良いんじゃないかという話だ。
G・W明ければ中間テストも近いことだし、勉強会と銘打って幾度か私の家でお泊り会を行う。で、そうして至近から観察し、平素の状況から姉さんの情報をまずは得る。現状、人から見聞きした情報だけでは判断できないから、そうして実際に目の当たりにして得た情報から判断して方向を決めるべき、というのが2人の意見だ。
確かに姉さんは近しくなった人には世話焼きだから、アレコレ割って入ってくるようなことはしなくても泊まりに来た美和、佳奈美をもてなそうとする筈だし、それを歓迎するだろう。それに私自身としても勉強の仕方を2人から得ることが出来るし、こうして誰かが遊びに来ることはあってもお泊りなんてことは無かったから、姉さんの情報はともかくとして、勉強会は良いんじゃないかと思ってしまった。
それに2人とも言ってくれたのだ。「確かに情報云々とも言ったけど、普通にお知り合いにもなりたい」って。
だから私は2人の提案を了承した。
その夜。
勉強会を兼ねたお泊りをしたいという話を姉さんにしたところ、返事は「一向に構わないぞ」との直答だった。
◇
そうして事が実行に移されたのがG・W明けの最初の土日。
スマホのお陰でばっちり大丈夫だから家で待ってて、なんて言われたけど、私の事でも来てくれるんだからと迎えに行った。
前は早めに行き過ぎたので今回は10分前程度でお迎えに行ったら、既に2人とも到着していた。今日は勉強メインのお泊りという事もあってか、落ち着いたシンプルな感じの服装だった。美和はレースデザインワンピにニットカーディガン。佳奈美は細身のオーバーオールにミリシャツ。ちなみに私は七部袖の柄無しのシンプルチュニックとレギンスだ。
2人とも早かったね、と声をかけると、初お泊りということで2人ともテンション上がっちゃって早く着すぎたらしい。ちょっと恥ずかしそうに笑いながら教えてくれたが、前も私がそうだったから「実は私も前は…」と皆して笑ってしまった。
そうして歩くこと20分程で私の家に到着した。そういえば家の事を言ったことがなかったんだけど、ウチは最近にしては珍しい平屋建て。敷地自体が普通の1軒屋2つ分あるので実は無駄に庭が広い。枯山水的なものは無いけど竹垣も庭石もあり、草花一杯という訳ではなく、草木配置も適度な合間をもって配置されている、いわゆる日本庭園風な造りになっている。生前庭弄りが好きだったお祖母ちゃんのそれを私と姉さんが受け継いで、休日は庭弄りを良くしていることがある。
「おっじゃましまーす!」
「お邪魔致します」
玄関口で元気良く挨拶して玄関扉をくぐる2人。
「おおぉ! 純和風で良いね~!」
「ええ。お庭も広くて綺麗でいいですね」
「築何年だったかな……結構古いから和風っぽく見えるだけだよ」
玄関口でそう言いながら客用スリッパを出して2人を迎え入れる。ちなみにうちは殆どが畳部屋ばかりなのでスリッパを使うのは台所回りや廊下位だ。勇一郎のところは総フローリングなので基本スリッパなんだけど、こういう時、他の家とかどうなんだろうって思う。
ちなみに綺麗~って言われたけど、それは姉さんの仕業だ。姉さんに来客の話をした次の日、夕飯の買い物当番ついでに他の買い物と合わせて数時間ほど出かけて帰ってきたら、家の中が冗談抜きで輝いてた。「おかえりなさい」と、お祖母ちゃんが良く着ていた割烹着と三角巾を着けた姉さんが奥から出て来る。額の汗を拭う姉さんは、いい仕事をしましたと言わんばかりの素敵な笑顔を浮かべていた。
「お友達が来るならと思ってざっと掃除したんだ。水周り系とお庭は明日やるから」
いや、ざっとっていうレベルじゃないし、まだ先の事なんですけど……。自分の家なのに思わず見回しながら居間まで戻ってくる。いたる所が確りと掃除され、塵1つ無いとは正にこの事と言わんばかりの状態。障子に穴が開いてた箇所も葉っぱ形に切り抜かれた障子紙で補修されてたり、客間の柱までピカピカになっていた。
一瞬うちでお泊り会をする事に不安が押し寄せた。私の事になると直ぐに暴走する姉さんだから、なんかまた起きそうで、思わず早まってしまったのではないかと不安がこみ上げたのだ。でも掃除するなとは言えないし、綺麗になるのはいい事なので次の日は私もお手伝いしたのはいいけれど、年末の大掃除並みに一日掃除する事になった。お陰で次の日筋肉痛になったけど、姉さんはケロリとしてたっけ……。それも平素の鍛錬の結果だろうけれど、相変わらず姉さんはやっぱり何かしら違ってた。
そうして私の背後から誰かがやってくる気配。といってもこの家には2人しか居ないのだから、無論やってくるのは姉さんだ。
「いらっしゃい」
そうして出てきた姉さんはグレーのマキシ丈ワンピのみと非常にシンプルな出で立ちだった。だけど首周りが大きめに空いているので鎖骨のラインが綺麗に見え、少し胸元が覗いて色っぽい。体のラインがとても綺麗に出ていて、五分袖から覗く手も服との対比で白く綺麗に見える。あ、美和と佳奈美が固まった。
「今日は泊まりに来てくれてありがとう。大層なもてなし等は出来ないが、ゆっくりと寛いでいって欲しい」
「いえ、こちらこそお邪魔してしまいまして…あ、こちらつまらない物ですが」
「ご迷惑をおかけしますけれど、よろしくお願いします!これお土産です!」
「これはご丁寧に」
柔和な笑顔を浮かべ頂いた手土産を持って戻ると、「お荷物は客間へ運んでおくから、さなちゃんはお客さんをご案内してね」と言い、玄関に置いた美和と佳奈美の荷物をさっと運んで行ってしまった。
後に残されたのは呆気に取られた二人。
「……制服姿ではそこまで判らなかったんですが、凄いですね」
「……なんと言うかズキュン!バキュン!ドキュン!だね。……何食べたらああなるんだろう」
2人して姉さんを見た感想を述べた後、自分の体に視線を落とし、肺の空気を全部出すくらいの勢いで同じように溜息をついた。そういえば2人とも私服の姉さんに会うのは1度目だったっけ。私は流石に慣れてるんだけど、あそこまで均整の取れた体付きを目の当たりにすると、やっぱ同性でも溜息出るよね。ちなみに同じもの私も食べてるんだけどね、佳奈美……。
しかし、口調は男っぽいのはさておいてだけど、2人で居る時なんか歩調を合わせてくれたり、戸を開けてくれたり、さっきみたいにササっと荷物を持ってくれたり、歩く時に車道側が当たり前で、そういうところは無駄に男らしいというか凄く気遣ってくれる。それでいて物腰は静かだし、あの体付きだし、要所要所の所作は静かで大人しいから上品な女性にも見える。文武両道家事万能で、男らしくもあって女性らしくもある姉さん。実は私の姉は新種なのではないかと思ってしまうのも無理からぬ事だよね。
「ともかく、2人とも先ずは部屋に行こう?」
こうしてちょっとした一騒動あった後、客間へ移動して荷物をちょっと整理し、まずは当初の予定通り勉強から始めた。
まずは今までの範囲のおさらいから始めて、漏れが無いかをチェック。勉強法はそれぞれスタイルがあるから同じやり方をしても駄目なので、後は個人個人で判らないところを互いに質問し合いながら進めていった。
美和は最初に言ってた通り英語がやっぱり苦手らしい。「構文暗記」と「長文読解」が英語の肝だと私は姉さんに言われ、それに合わせて勉強していたので今のところ引っかかるところが無かった。話を聞いてみるとどうも単語暗記自体は問題ないのだけど、長文になった途端つまづいてしまうようだったので短文暗記からおススメしてみた。
佳奈美は勉強が好きと豪語していたこともあり、今のところ詰まっているところは無いらしかった。ただテスト本番になると数学とか計算系の試験でケアレスミスが多いと言っていたので、先ずは全体を見て設問順に解かず、出来るところからやってみたらって時間配分的な面でのアドバイスしてみた。
ちなみに数学で言えば私は問題文を1回音読する、解く時間を決めて時間が余ったら見直す、同じ問題は3回以上やると言う勉強方をやっている。無論これが全てに有効という訳ではないし、みんなに同じことが言える訳ではないのでお勧めはしないけれど、姉さん曰く『勉強は遅れても焦らず、ともかく反復して正しく理解するのが一番だ』よのお陰で何とか好成績は収めてこれている。
そうして勉強を始めて2時間ほどしたところで一度休憩を挟んだ。っていうか気が付いたら2時間経ってた。勉強は1人でやるのが効率がいいと良く言われるけど、私は緊張感を持たせるためにも意外とこうして集まってやる方が効率がいいのかもしれない。
ふぅと軽く伸びをしていると、まるで合間を見計らったかのように姉さんから声をかけられた。
「さなちゃん、ちょっといいか」
「どうしたの、姉さん」
「お茶を用意したんだが、どうかと思ってな」
戸越しにそう返事が帰ってきて2人を振り返ると、佳奈美がノートに『計画第一弾!お茶しながら情報ゲットだぜ!(あと、ここでボケて)』と書いて見せたので、どこのバラエティのカンペよって笑いそうになった。勉強に集中していたから忘れそうになったけど、そういえば姉さんの情報収集も今日の目的だったのだ。
「よかったら、姉さんも一緒にどう?」
「……いいのか?」
多分前の事を気にしてか、途惑いがちな少し硬い返事が姉さんから返ってくる。目的がちょっと不純ではあるけれど少し休憩したかったのは事実だし、あの時二人が言ってくれた言葉もある。
「もちろん。2人もいいよね?」
「是非に。私も東条先輩とはもっとお話したいって思っていました」
「あたしも!あたしもっ!」
戸の向こうの姉さんにも聞こえるように2人が返事をしてくれる。
そうしてちょっと間を置いて「ありがとう」という返事と「自分用を持ってくるからさなちゃんも手伝って」と言って台所の方へ戻っていった。
◇
「おいしっ!」
「もち米の塩味加減がほんのり効いてて美味しいです!」
「そうか。喜んでもらえてホッとしたよ」
目の前に置かれているのは緑茶とおはぎ。
昔からうちのおやつの定番だ。
私も姉さんもあまりスナック菓子のようなものは食べず、羊羹とかおはぎとかわらび餅とか、和菓子系を良く食べてた。どれも手軽におうちで作れるし、さち枝お祖母ちゃんがよく作ってくれたから買い食いする必要は無かったのだ。よく口周りを餡子だらけにして勇一郎と縁側で食べたものだ。プリンとかアイスも好きだけど、一番好きなのは?って聞かれたらやっぱりおはぎかな。
そうしておやつに舌鼓を打ちつつ、穏やかに笑いながら話に花が咲く。
「勉強の進み具合はどうだ?」
「今のところは順調」
「そうですね。でもやっぱり中学の時とは違いますから、気を抜くと置いていかれそうで」
「だね。でも早苗先生がいるから、安心して中間迎えられそうです!」
勉強の話。
「そういえば前に約束していた勇の楽しい話と言えばだな……」
「ほほぅ」
「実はああ見えて勇は涙脆くてな。南極物語の映画を見たときは、ワンワンがーってさなちゃんと大泣きしてな…」
「ね、姉さんってば!」
「2人とも可愛くてな…そういえばその時の写真が」
「だ、駄目ってば!」
「あれは泣くなと言う方が無理ですよ…」
昔の話。
「そういえば千鶴子先輩って最近告白されまくりだそうで……」
「されまくりという事は…無いぞ……というより、一体どういう話が下級生には伝わっているんだ?」
「告白してくる猛者をちぎっては投げちぎっては投げの無双してると」
「私の聞いた話だと2桁は確実だそうです」
「え、姉さん、それホント!?」
恋の話。
「そういえば何故生徒会長になられたんですか?」
「私自身が思い描く高校生活を送るため、だな。言い方を悪くすれば酷く自己中心的とも言える理由だ」
「でも好意的な意見が多いようですよ?」
「それなら良いのだけどな。私の独り善がりに巻き込んでしまっているのではないかと、少々ビクビクしている」
学校の話。
「由梨絵先輩と一部で『冬桜の双璧』と謳われてるそうですが……フッフッフ、そこの所どうなんですか、千鶴子先輩?」
「なんか佳奈美が黒い笑みを……」
「その話は無しにしよう」
「えー」
「私もちょっと気になりますね」
「姉さん、まだ他にも二つ名があるの? 前も『鋼鉄の生徒会長』とか呼ばれてたみたいだし、一体何やったの?」
「あ、いや……一部が勝手に盛り上がっているだけだから、さなちゃんは気にしなくて良いぞ」
ちょっとした噂話。
「千鶴子先輩! どうやったらそんなバンキュッボンな体になれますかっ!?」
「か、佳奈美さんってば……でも私も気になります!」
「姉さんだけズルイ」
「いや、特に何かしたわけではないが、昔から朝夜の走りこみのようなものとストレッチは続けている」
「運動はあたしもしてるんだけどなぁ……」
「成長期はまだこれからだし、あまり気にしない方がいいと思うが…」
「それは持てる者だから言える台詞なんだよ、姉さん……」
楽しい時間があっという間に過ぎるかのように、お喋りの時間は過ぎていく。
その後の夕飯時にも話に花が咲いた。夕飯メニューの考え方とか、作り方のコツとか、得意な料理は何だとか。
献立はご飯と春キャベツと豚肩ロースのサッパリ胡麻ダレ和え。あと春雨のスープ。「余り気取ったような料理は出来なくてな」と言う通りメニューは至って普通だったけど、胡麻ダレは一手間のかかった手作りでポン酢との合わせタレだった。2人とも美味しいって言ってくれて、姉さんも満更ではなさそうだった。
そうして夜。
「じゃあ、あまり夜更かししないようにな。おやすみ」
「おやすみ、姉さん」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
そういって姉さんが客間の戸を閉めて自室に戻っていく。私たちは客間一杯に布団を並べ、3人川の字で天井を見ながら今日を振り返っていた。
「なんか途中から普通に楽しんじゃったね」
今日一日を思い出し、苦笑しながら私が言う。2人も同じ感想だったのだろう。それに続くような言葉を口にした。
「普通に楽しかったしね。やっぱ千鶴子先輩って言われるほど硬い人じゃないし、親しみやすいよ」
「はい。東条先輩は素敵な人ですね。人から又聞きする話はどうしても色々とベクトルが加わりますし」
学校で私が生徒会長の妹だとバレた後、やはりそう言う話題には耳聡くなってしまったし、良い物も悪い物も耳に入るようになってしまっていた。私に対して直接的に何かしらされることはなかったけど、やはり影は出来る。
ああ、生徒会長の妹さんの、と前置きが着く事もある。
それにまだ一回だけど、私のほうから生徒会長に口を利いて欲しいと言われて、やっぱり部活には入らないで正解だと思ってしまった。
だからこそ普通に知り合いたいと言ってくれた2人の言葉が嬉しかったし、今の言葉も嬉しかった。
「で、参謀長的にどうだった?」
「そうですねぇ…」
美和的な分析結果はおおよそ以下の内容だ。
・学年主席で勉強も出来る
・美人で告白が後を絶たない
・高身長でスタイル抜群
・運動能力も高い
・でも努力は怠らない
・それに驕ることなく性格は真っ直ぐで、可愛いところもある
・生徒会長として人気もある
・料理も出来るし家庭的でそつが無い
姉の事ながら改めて挙げられると、なにこれって感じだった。ここまで来ると突っ込む気が起きすらせず、清々しいまでの突出っぷりには目を覆いたくなる状態だ。
「でも、これだけ美点が有っても気取らず、物腰も穏やかでとても良い方でした」
「んだね~。前学校で会った時は鋭いって雰囲気だったけど、今日はそんな事無かったし。公私の切り替えがキッチリしてるっていうか、ギャップが魅力というか。攻守共に隙が無いね」
敢えて粗を探すとしたら男言葉位ですねーと結ばれたその内容に、改めて姉さんは何か1つ抜けておかしいと思ってしまった。
「本当に私たちと同じ女性なんでしょうか。正直な話としては、恋の鞘当なんてしたくないですね」
「ここまで完璧だとねぇ……ってか、それじゃ駄目じゃんか」
当初の目的が全く達成されていない回答だけど、美和も佳奈美は笑っていた。それが姉さんに対して好意的な印象を持ってのものだと、電気を落とした部屋の中でも声の感じで良く判った。確かに先ほどの内容だけを聞けば嫉妬の1つや2つ抱きそうなものだけど、そういったものは感じられず素直に2人とも感嘆の声を上げてくれていたのが嬉しかった。
「ただ気がかりと言うか、1つ感じたことが」
「ん?」
「多分東条先輩はとても正直な人です。良い意味でも悪い意味でも。だからきっと相手によっては誤解してしまう元になるのではないかと」
「その通り、だから余計に腹が立ち。って奴?」
「はい。それに近いかと」
美和に言われたことが何となく今までの行動を正しく物語っている気がした。大切なものを護るに従って素直に行動した結果。大切なものは私であり、勇一郎であり、私たちを取り巻く環境だ。だから生徒会長にもなったし、私の事を心配し過ぎというくらい心配するし、勇一郎に振り向かれたいと思うけど私の事も考えて敢えてぶつかる方法を選んだ。
結局、姉さんは変らず姉さんだっただけなのだ。たったこれだけの事なのに、やっぱり私が少しばかりひねてるだけで、気が付くのに時間がかかってしまった。
「でも状況はハッキリしました」
「そうだね」
いつの間にか暗闇に慣れた目が布団の上で何時に無く真剣な表情して座している美和の姿を捉える。
「相手はどう見てもゲームで言うラスボスです」
「なんというか、アレだね。紅白の小○幸子?」
バァンと効果音でも着きそうな美和の発言は、今更何をいわんやという内容だった。無論、呆れている訳ではない。私が常々似たようなことを思っているから、こうして近くで見る人が変ったとしても同じなんだなと変に感心してしまった位だ。それに佳奈美の例え方はちょっとアレだけど、言いたい事も良く分かった。
「賞味な所、防御が薄いところなんか見つかりませんでした……」
「ラスボスだもんね……ラ○ブラと効かないのは当たり前だよ……」
「2人とも、そんな落ち込まなくても。っていうかなんで2人が落ち込むの」
ずーんという擬音が似合うようなポーズで、起き上がった2人が落ち込んでいる。それを見て思わず苦笑が漏れた。
「豪語した割にただ遊びに来て楽しんだ挙句、やっぱり駄目でしたなんて結論しか出せないなんて、お節介というよりも只の邪魔としか……失礼なことばかりですみません、早苗さん」
「ミイラ取りがミイラにとは、この事なのかな……ごめんね、早苗」
真面目な2人の事だ。色々と提案してくれた結果が芳しくないものだから、私達が競うことに要らぬ手を出して下手に邪魔をしてしまったと思ったのだろう。
でも了承したのは私。だから言うべき事は分かりきっている。
「来て欲しいって言ったのは私だし、2人とも姉さんとあんなに話してくれた。楽しかったって言ってくれた。そして私は楽しかった」
前の年は受験だったし、色々と大きな出来事もあってこうして遊ぶような事は殆ど無かった。だからこうしてまた友人と楽しく遊べることが嬉しいし、それにこんなにも私の事を考えてくれるのだ。これで文句なんか言おうものならきっと罰が当たってしまうに違いない。
「私はそれで十分嬉しかったんだから謝らないで」
だから私は笑いながら、そう2人に声をかけたのだった。
元々私が1人挑むべき戦いだった。それでも隣にいてくれると言ってくれただけで十分過ぎるのだ。それに姉さんと私に共通の知り合いが増えるのだって願っても無いこと。だから尚も何か言おうとする2人を止める為に続けた言葉はいつかと同じ内容だ。
「ありがとうね。私、2人とお友達になれて本当に良かったよ」
そう感謝を伝えると急に左右から抱きつかれてサンドイッチ状態になってしまった。
「あーもう! 早苗はかーいいなぁぁもう!」
「ええ! 早苗さんはかわいくて素敵で正義です!」
夜だから小さくだけど、感極まったように2人は声をあげて私を揉みくちゃにする。無論不快感など抱くことなんてありえない。こうして伝わる二人の体温と声が身に暖かく感じられて、なんだか幸せな気分だった。
そうして、5分ばかりしてようやく落ち着いた3人で改めて円陣を組む。
「でも、となるとやっぱり正面切って戦うしかないねー」
「ですね。お互いの長所を活かしてやりあうしかないですね」
「そっか…まぁぶつかる気でいたし、いずれそうなると思ってたしね」
結論としてはそこになってしまう。判っていたとはいえ、正面でぶつかり合うことに勝算が見出せ難く、どうしても声が少し沈んでしまう。それを感じ取ってくれたのか、2人とも励ますように声をかけてくれる。
「悲観することはありませんよ。確かに先ほどはああいいましたが、今日拝見させて頂いた限りでは、東条先輩と早苗さんとでは長所の方向が被っていません」
「あ、それは確かに。早苗は可愛い。千鶴子先輩はカッコいい。だから早苗は可愛いを磨いて生方をイチコロにするんだ!」
可愛いを磨くっていってもなぁ……対抗馬がアレだけ優駿なのだから、どう考えてもサラブレッドと、可愛く言ってもポニーじゃねぇと、思わず呟き腕組みをしてしまう。だけど美和には何かしら考えがあるようで更に身を乗り出してきた。
「ちょうど早苗さんの可愛さをアピールできる絶好のイベントあったじゃないですか!」
「あれか! 確かまだ締め切ってなかったよな、アレ!」
「ええ。月曜日でも未だ間に合いますよ!」
「アレに立候補…するの…?」
アレというのは6月に行われる体育祭の事だ。学年入り乱れて3軍に分かれて競い合うのが主だけど、それだけではなく、各軍所属のクラスから有志を募って応援団を結成し、午前と午後の合間に応援合戦のようなマスゲームが行われるのだ。私たち4組は赤軍。そして、今年の赤軍はアメリカンフットボールでよく見かけるチアリーディングが行われれることになっているらしい。なので女子募集の話が先日クラスであったのだけど、その時は手が上がらなかったのだ。
「ダイジョーブだって。早苗ならやれるっ! っていうか今やらないで、いつやるの? 今でしょ?」
「私たちもサポートに回りますから、ねっ!?」
別にやる事はいいかもって思うんだけど、やっぱり人前に出て注視されるというのは恥ずかしいので思わず及び腰になる。そうして躊躇していると美和から切欠となる情報がもたらされた。
「それに私が聞いた話なんですが、今年は各軍応援団とは別に生徒会単体で何かイベントが行われるそうなんです」
「実行委員会とは関係なく?」
「ええ。慣例化してダレてしまっている体育祭を盛り上げる為、生徒会自らが先陣切って行うのだとか」
「となると千鶴子先輩が表舞台に立つのは確定だね!」
「です!」
姉さんが表舞台で何かやる。
その事が及び腰だった私を奮い立たせた。
私は姉さんとぶつかると決めた。だったら同じ舞台に私も立つべきだ。姉さんがやるという以上、この上なく目立つことになるに違いない。今のままでは姉さんの影に隠れてしまい、ここで怖気づいていてはぶつかるなんて夢のまた夢だし、存在感の拡大なんて出来やしない。それに何時もの私と違うことをすれば、勇一郎だって……。
少しの逡巡の後、私は覚悟を決めた。
「わかった。やってみる!」
そうしてこの日、2人協力体制の下で6月の体育祭に向けての、私達姉妹の第一回戦が幕を開けることになったのだ。
◇
「ほら、そこ。遊んでないで、ちゃんと服に無理が出ていないか確認しなさい」
「はいっ!」
そうして話は冒頭に戻る。
今までの練習は体操着だったけど、今日はユニフォーム合わせの為に教室の一室で試着を行っている。なので本当はポンポンを手に持つ必要もないし、シュシュまで着ける事はなかったのだけど、美和と佳奈美に乗せられて全部身に着けてしまった。毎年の事なのでユニフォームは基本使い回し。といっても本番前の通し練習の時と、本番時にしか着用しないので汚れている感じはない。それに毎年縫製部の人たちが手直しなどを行ってくれているし、何年か毎に作り直しが行われているのだそうだ。
「後ろとか、変に皺寄ってない?」
「全然大丈夫ですよ」
「しかし早苗ってほんと色白いよなー。ってか太ももがおいしそうです」
「ひゃっ! へ、変なところ触んないでってば」
練習は思ったよりも結構厳しく、チアリーディング部の部長さん直々というのもあって結構ハードだ。流石にアクロバティックな事はせず、どちらかというとチアダンス的な方向だ。佳奈美は足に負担が大きい運動はあまり出来ないから、雑務とか色んな事をサポートしてくれている。美和も同じく雑務的な面でサポートしてくれているし、何よりも差し入れ的な方面でのサポートが非常に好評を博している。
一矢を報いるという表現はちょっと似つかわしくないけれど、これなら何とか姉さんとぶつかれそうだ。それに、こうして皆で何かをするのは楽しいし、確かに衣装は可愛いから、今日の衣装合わせで少しは勇一郎も見てくれるかなって、淡い期待とちょっとだけ自信も出てきた。
初戦は6月。
だけど勝ち負けとかは深く考えず、今を楽しもう。
そう思いつつ、私はその場でくるりと回ってポンポンを掲げて見せたのだった。
ちょっぴり応援のはずが、がっつり応援状態になっている罠。
まぁ若いときは暴走するモンなのです、きっと。
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2013/4/21 誤字脱字修正
2013/4/25 後半の流れを一部改稿
2013/10/12 呼称間違いを修正修正。ご指摘ありがとうございます!!
閑話
「佳奈美、おいしそうって感想は女子としてちょっとアレじゃない?」
「そう? だって普通においしいじゃん、イルカ」
「地方によっては食べるって聞きますけど、ショーを見ながらの台詞ではないかと……」
「でも大型水槽で泳ぐアジの大群とかみて、お刺身食べたくならなかった?」
「うっ…」
「まぁ、お刺身が美味しいのは否定しませんけど……」
「おいしい物に罪は無いんだよ。ということで私の感想は正しいのだー」
「佳奈美ってば動物園に行っても同じ事言いそうだね……」
「いや、あたしだってそんなに食い気ばかりじゃないってば」
「本当ですか?」
「じゃあ、他の感想をどうぞ。3・2・1、ハイ」
「そういえばアザラシもクセがあるけど美味しいんだって」
「佳奈美さんは血も涙も無い悪魔ですね」
「ちょ、美和、それ酷いよ~」




