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第八話 「私達のこれからは」

 さなちゃんを守るつもりが逆に傷つけていた事にぐわんぐわんと世界が回る。



 倒れたという事実、もしかしたら単に今回だけが要因ではないのかもしれない。今まで私が同じ様なことをしてき続けたものが、溜まりに溜まって今日表面化した。でなければ一日で体に影響が出るものか。無意識であるにしても、それは許されざる行為だ。もはや私に生きていく資格などない。地獄でさなちゃんに詫び続ける事すら生ぬるい。


 神は言っている。ここで死ぬ運命だと。


 何の神様かはどうでもいいが、もう駄目だ。とりあえず服は着たけど、ガックリと跪き頭を垂れ立ち上がる気力すら湧かず、とうに始業のチャイムは鳴っているのに身動きが取れない。さなちゃんの心を踏みにじってしまった、その事実だけが心に重く圧し掛かっていた。


「チャイム鳴ったんだけど、何時までそうしているつもり?」


 由梨絵が先ほどと同じ仁王立ちのまま私の前に立つ。


「私なりに頑張ったつもりだったが、それは全て無意味だった……もう…私はここには居られない…」

「行き成り全否定とか、どれだけネガティブ思考なのよ。貴女ってほんと妹さんの事になると、見境が無くなるというか人が変わるわね」


 呆れ顔の由梨絵が今の私を見てそう感想を漏らす。


「…私にはさなちゃんしか居ないんだ。しっかり握っていれば零す事は無かったかもしれないのに、他のモノは手から零れて行ってしまった。いや、零してしまったんだ」


 前の人生では、私は祖父に育てられた。両親は物心着いた時には既にこの世の人では無くなっていた。寂しいと思ったが、祖父は優しい人だった。だけどその祖父も年には勝てず、自分を残して旅立った。そこからは一人だった。そうして最後まで一人で、次で得られたと思ったら、やはりポロポロと手から零れていく。


 でも、今回はなんとか残ったモノがある。だから私はそれを失いたくなかった。無論、私一人で全てやってのけた等と豪語するつもりはない。勇、さち枝お祖母ちゃん、勇のご両親に依るところ大で、そんな中で自分でできる限りの事でさなちゃんを護って来たつもりだった。



 でも、やはり私は、ダメだったのだ。



 そうして肩を落としていると、丸めたノートか何かで頭を叩かれた。


「しっかりしなさいな、千鶴子。今の貴女がするべきは自虐行為なの?」


 思わず短く呻くが、私はまだ動けない。確かにここで私が自分を責めていても何も変わらないが、先ほどの由梨絵の話は可能性上のモノとはいっても、非常に説得力があり過ぎたのだ。由梨絵の想像は合っていると思う程に。だけど次の一言はなによりも優先されるべき事だった。


「重要なのは妹さんが倒れたという話でしょう?ここで落ち込んでても事態は進展しないわよ」


 由梨絵のこの一言に呆けた頭に喝が入った。


 何をしているんだ私は。私の処断なんぞは何時でもできるが、さなちゃんは今現に倒れているのだ。であるなら、ここでこんな事してる場合じゃない!


 ようやく垂れた頭を上げると、少し安堵したような表情の由梨絵が目に入った。


「そう…だった。私の事はさておいて、まずはさなちゃんの容体の確認が先決だ」

「こういう時の貴女ってほんと面倒ね……ま、生方君も外で待ってるみたいだし、とりあえず廊下に出ましょう」


 ちらりと由梨絵が視線を流す方向を見ると、教室入口の擦りガラスに人影が見える。そういえば勇が来て伝えてくれたのだった。まずは彼に状況を詳しく聞かないと。先ほどは教室に来たけどすぐに出て行ったので、細かいことを聞けていない。



 あれ?……勇が、来て……教室……おや?



「由梨絵、そういえば先ほど盛大に見られてしまった」



 先ほどのシーンが脳内で再生され思わず声を上ると、併せて外でゴンッ!と大きな音が聞こえた。話に夢中で着替え途中のままのところへ勇が駆け込んできたのだ。上半身だけとはいえ裸を見られてしまうと言う、よくある主人公特殊技能がこんなところで私に対して発動するとは思わなかった。いや、別に私の姿恰好を見られたことはどうでもいいのだが、勇にしてみれば顔を合わせ辛い筈だ。っていうか私もどう対処するべきなのかわからない。「きゃーこのえっちー(棒)」とひっぱたいとけば良いのだろうか?てか自分のを見る分には全く何も感想を抱く事が無いのだが、他の人のを見ると恥ずかしく思うのはなんでだろう。


「あなたがグズグズしていたからでしょう?まぁ妹さんをいつも気遣ってくれる生方君へのサービス、とでも思っておきなさい」

「いや、サービスとかそういう物でもないだろう……」


 クスリと微笑を浮かべつつ入口へと向かう由梨絵。まだ多少の混乱は残っていたが、ともかく無理やり精神を落ち着けて私もその後を追った。そうしてガラリと教室の入り口を空けて廊下へ出てみると、額を赤くして窓際に移動していた勇が私の姿を認めた途端、流れるような無駄に洗練された無駄のない動きで土下座体勢に移行した。


「千鶴子さん!ごめんなさい!あ、慌てたんで、その確認を…忘れてしまいまして……」


 尻すぼみになる言葉で私に謝罪を繰り返す。なんとなく分からんでもないので、気の済むところまでやらせてやりたいが、廊下で上級の女生徒に土下座する下級男子生徒という、人に見られたら何と噂されるかわからない構図に私は慌てて彼の手を引き無理やり立たせた。


「グズグズしていた私が悪かったのだから謝る必要は無い。まぁ…忘れてくれると助かる」

「いや忘れるなん……はい、忘れます」


 とりあえず有体な事を言っておく。目の前の勇はそんな私の言葉を聞いているのか聞いていないのか、顔を赤くして視線が右に行ったり左に行ったりとまったく落ち着かない様子だ。前の自分にはあり得なかったことなので経験則に基づいた事を言ってやれないのが口惜しいが、ともかく今重要なのは私の事ではないのだ。そうして一呼吸おいて、私は勇に話しかけた。


「落ち着けと言っても無理かもしれないが、まず状況を教えてくれ。さなちゃんが倒れて、どうなったんだ?早退と聞こえた気がするが?」


 先ほどの驚きとか、目の前で広げられた珍奇な行いや、その他諸々の感情が一回りした所為か、妙に落ち着いた様に質問することができた。落ち着きがなかった勇もそんな表面上落ち着いた私を見てか、慌てて居住まいを正して状況を教えてくれた。と言っても勇も佳奈美ちゃんから聞いて、保健室で寝ている状況を見ただけなので、正確な原因は分からないらしいのだが多分寝不足と過労ではないかとの事だった。


 やはり私の言葉と行動が原因で、特に昨夜の事が心に負担をかけたのだろう。思わず握る手に力が籠る。


「ともかく私も保健室に行こう」


 保健室というワードが白いベッドを連想させ、そこから派生する最近のモノから過去のモノまで様々な記憶が頭を駆け巡る。私の第二の人生は何かと白いベットというモノが付きまとう。嫌な連想を断ち切るために早くさなちゃんの顔を見て安心したい。


 そうして一歩踏み出そうとした私を勇が止めた。


「どうした、勇?」


 私の腕を掴んで止める勇からは先ほどの落ち着きのない雰囲気は一瞬で消え去っており、真剣な面持ちで私を見つめている。こんな真剣な表情の勇を見るのは久しぶりだ。


「千鶴子さん。心配なのはわかるんですが、今回は俺に任せてもらえませんか?」

「…なぜだ」

「俺、前に言いましたよね?千鶴子さんと早苗を護れる男になるって」


 それは覚えている。あのお蔭で平素の心配事を勇に任せることができ、学校での環境整備に勤しむことができたのだ。あの時は少々自虐的になりかけていた事もあって、勇の力強い言葉に感動を覚え、今でも非常に感謝している事だ。


「昨日千鶴子さんに相談された時、俺がちゃんと考えていたらこうはならなかったと思うんです。俺がだらしなかったばっかりに。だから、汚名返上の機会を俺にください」

「いや、別に勇の所為では無い。むしろ私が原因……「そんなことはありません!」…」


 力強く否定してくる勇に思わず気圧される。そもそも勇が悪い訳ではなく、2人を振り回してしまった私が悪いのだ。事の原因たる人間が人任せにしてはダメだろう。だが、なおも反論しようとした私を由梨絵が制した。


「今回は彼に任せておいた方がいいんじゃないかしら?」

「由梨絵?」


 事の成り行きを横で見守っていた由梨絵が静かに会話に割って入ってくる。


「見た目は平静に戻ったけど、さっきまで動揺していた貴女が行ったとしても、あまり良いことにはならないと思うんだけどね?」

「しかしだな…」

「言い方は悪いのだけど、今すぐどうこうという状態でもないのでしょう?だったら少し落ち着いてからの方がいい筈よ」


 むぅぅぅ。確かに今の私は正直混乱から抜け出せていない。さなちゃんが心配と言う事が先立って見た目落ち着いているが、確かに今の心の中はいろんな感情がごちゃまぜで、こんな状態ではさなちゃんに何を言ってしまうかわからない。それに昨日無理を通した結果がコレなのだから、勇が自発的にやってくれるなら任せた方がいいのかもしれない。


 そうして腕組みをしてひたすら考える事1分弱。私は断腸の思いで言葉を口にした。


「……すまないが任せたぞ、勇」

「はいっ!」


 私の言葉を受け頭を下げながら力強い返事をする勇に、これなら任せておいても大丈夫だろうと安堵の気持ちが湧く。しかし、さなちゃんのしばらくの間の面倒と言う点ではこれで大丈夫だとしても、私が起こしたことに対する責任は別問題だ。これについては由梨絵の忠告もあって時間を多少取ることが許された。帰るまでに私自身の身の処し方を考えておかなければならない。


「ま、誰これの責任はさておき、生方君もさっき駄賃をもらっているのだから確りとやってくれるわよ」

「え!?あ、いやその……」


 からかう様な由梨絵の言葉に先ほどまでの真摯さがあっという間にどこかに消え、再度真っ赤になる勇。そうしてバタバタと来た時と同じ様に慌ただしく、「じゃあ、後は任せてください!」と言いながら保健室方向へ駆けて行った。


「由梨絵…」


 私のジト目にたじろぐ事無く、ワザとらしく肩を竦めながら由梨絵が答える。


「あら、怖いわね」

「……今の状況でからかうのは程々にしてほしいのだが」

「貴女が異様なほどに切羽詰ってるから、私なりに気を遣ってあげたんじゃない」


 気遣いなのか、あれ?


「とりあえず言っておくけど、深く物事を考え過ぎよ。思慮深い事と、思い込みは違うの」

「それは……言い返せない…な」


 今回の事が正にそれなのでぐうの音も出ない。確かに私自身由梨絵の指摘通りなのだとは思うのだけれど、もっと他にも考えるべき点があるかもしれない。先ほども言った通り、少し落ち着いて省みなくては物事を見失ってしまいそうだった。


「ま、間接的に私の言動が引き金のようだから、こんな面倒なお節介は今回だけよ」


 やれやれと頭を振る由梨絵は、やはりいい人だ。こちらのことを心配しつつも、感情に流されず事実を事実として述べ、客観的に物事を指摘してくれる。そして静かに側に居てくれるのだ。こういうのを“いい女”とでも言うのだろうか。恋愛経験のない元の自分であったなら、惚れていたかもしれん。まぁそんなありえない話は絵に描いた餅以前のお話だが、ともかく私が落ち着くための時間を設けてくれた彼女へ素直に感謝を述べた。



「何時も済まないな、ゆりえもん」

「…だれが狸か、誰が」



 ちょっとおどけた風に言ったらチョップ食らいました。



 ちなみに体育は見事に遅刻しましたが、一応家族の体調事ということで何とか遅刻扱いになりませんでした。











「進展はあったのかしら?」



 放課後、生徒会室で本日の業務を終え荷物を鞄に入れていると、由梨絵からそう声をかけられた。


 あの後、休憩時間等を用いて色々と考えたが、結局のところ“私が悪い”という考えにしか帰結しなかった。なので、まずは何よりもさなちゃん、勇へ謝る事。そして、昨夜の申し出は無かったことにしてもらうまでは考えがまとまった。ただ私が今後どうするべきかと言う所で考えがまとまらずに居た。


 手本で在れるように自分を磨くことも、環境を改善することも止めるつもりはない。それは必要な事だと考えているし、間違いではないと思っているから。しかし「どうやったら今回みたいな事を再発しないか」と言う所で引っかかっていた。


 ちなみにさなちゃんの様子は「今は落ち着いていて眠っている」というメールをお昼に勇からもらって一安心の状態だ。なので、いつもの夕飯の時間までに帰れば大丈夫だろうが、考える時間としてはそんなにない。今日中に出さなければいけない回答かと言えばそこまで焦る必要は無いのかもしれない。が、やはりこういったことは早急に考えておくほうが良い。


「その様子だと、まだなのね」


 荷物を手に片付けの途中で止まったまま考え込む私を見て、少々呆れ顔を由梨絵が浮かべる。


「私がしてきたことは間違っていないと今も思う。環境づくりにしろ、手本となれるように自分を磨くことにしろだ。だが、問題は起こってしまった。起きてしまった事は悔やんでも仕方ない。だから今後そういった事を起こさない為にどの様にしたらいいか、それを考えているのだが、いいアイデアが浮かばないのだ」

「至極当然ね。でも今日明日で答えが出る問題かしらね、それ」

「確かに。私単体で解決できる問題でもない気がしているから、一度さなちゃんと膝を交えて話をしなければと思っている。そこから対処策を模索するのは間違いでは無い筈なんだが、問題の先送りのような気がして、な」


 大きくため息をつきながら、一度立った筈の席に腰を落としてしまう。


「真面目ね……まぁそこが貴女の美点なのだけど。でも朝も言ったけど、深く物事を考え過ぎよ」


 由梨絵も持ちかけた荷物を机に置くと、給湯場へと足を向けた。「飲む?」との彼女の一声に私は短く同意を返すと、改めて事の起こりを考え直し始めた。



 事の起こりは私の浅慮による物だ。私の心配性?が先走った事で良かれと思ったことが裏目に出、人の心にズカズカと踏み込むようなことをしてしまった訳だから、問題は全て私に起因する。


 なら私はさなちゃんの事を心配するのを止めるのか?


 それは無理だ。私の唯一の身内なのだ。いくら人に心配するなと言われても、どうしても心配してしまう。過保護が生む先を私は見ているはずなのに、いざ自分に事を当てはめると同じ事をしてしまっている。せめてそうならない為にと、心配事を減らせるように環境改善を行った。それは正しく機能していて、学校の雰囲気自体は明るい。


 となればやっぱり周りより、私自身を改善しなくてはいけない。だが今以上に私に何ができるだろうか?あれこれと思い悩むが良い回答は思いつかない。


「なぁ、由梨絵」

「何?」


 給湯場でお茶の準備をしてくれている由梨絵につぶやくように声をかける。


「私がさなちゃんにしてあげれる事って何があるだろうか」


 自分の手をじっと見ても何も思い浮かぶ訳は無いのだが、意味もなく目の前で握ったり開いたりしてみる。無論良い考えは一向に浮かばない。そうして暫く黙っていると、由梨絵が何時の緑茶とは違う、リンゴに似た甘い香りのする液体を湛えたマグカップを私の目の前に置いてくれた。「カップもないし貴女の口に合わないかもしれないけど、意外と気分が落ち着くわよ」と、彼女の私品であるハーブティーを私にも淹れてくれたようだった。由梨絵の気遣いをありがたく思いつつ、私も自分を落ち着けようとゆっくりと頂いた。


 そうして一息ついて天井を仰ぎ見ながら考えていると、悩んでいる私を見かねてか珍しく由梨絵が自分の事を話してくれた。


「……私はね、教員になることが夢なの」

「ん?」

「教職にこだわる必要はないのかもしれないけど、人材育成と言うジャンルに興味があるのよ」


 別にこれからのこの国を良くする人材を育成するなんて大層なお題目を掲げている訳ではないのだけれどね、と手にしたマグカップを両手で抱えながら言葉を続ける。


「今の生徒会は私の夢に近い形をしている。貴女のおかげで規律正しい組織として機能し、学校側もそれを受け入れている。生徒自身にも自主性を重んじる風潮が出始めていて、急な変化であったけど学校全体の雰囲気もガラリと変わったわ。個人を育てる環境整備と言う点では非常に参考になっているわ。でも、未だに融通の利かない組織としても見られている。4月前までの貴女のイメージそのままね」


 ちょっと意地が悪そうに笑う由梨絵。


「貴女は自分が思っている以上に影響力が強いのよ。人はとかく見た目に左右されがち……だから私なりにイメージの払拭を試みた訳。化粧だとか衣服とか、まぁ3分の1くらいは私の趣味だけど」


 うぉい。あの語りは趣味だったんかい。


「人をけしかけておいて趣味とは…」

「いいじゃない。あなたは妹さんの手本となる。私にとっては現在の生徒会のイメージ払拭に繋がる。どこにも損は無いわよ?」


 いや、私告白されたりとか、貴女も私も同性愛的な人と噂されたりと思いっきり被害被ってますが…。私のちょっと睨め付けるような視線をサラリと受け流しつつ由梨絵が続ける。


「で、そういった私の観点から今回の事を見ると、一つ欠けているものがあるように思えるの」


 欠けているもの……?


「それは自己解決能力の育成、と言うべきかしら」


 言葉にしづらいのか、少々自分の言った単語に自信がなさそうに言葉をつづける。


「環境を与え、生徒たちに後に続けと手本を示す。確かにこれは間違いではないと思う。でも失敗してしまった、躓いてしまった者をどうフォローするか、と言う所が欠けているのではないか。せっかく生まれた自主性を殺してしまうことになりかねないから、何も全部が全部手を貸す必要は無いわ。あなたは失敗してしまってからの立ち直り方を知っているように見受けれるのだけど、他の人はどうかしら?」


 それは2重に人生を重ねている経験が役に立っているだけだ。前の自分は失敗ばかりだったし、職場で失敗しても自分で何とかするしかなかったから、そこは鍛えられた結果というべきか。そういう点で言えば、10代でそういう考え方をする人というのはちょっと珍しいのかもしれない。


「居心地のいい場所だけでは、その場所に適応しただけの人間しか育たない。失敗するにしても自主的に動かないのでは駄目。そういった意味では、ある種の刺激が必要だと思うのよね。部活動なんかは、その辺他校との練習試合とか交流会なんかをよく申請しているから良い傾向だと思うけど、それに属していない人たちは特に何もないのが現状」


 そこは先生のお仕事の範疇かもしれないのだけどね、と言う由梨絵の横顔には先ほどの意地の悪い感じは無く、なんだか少し歯痒そうだった。


「前の新入生歓迎の時、貴女は言っていた。見つけるのも立ち上がるのも自分の仕事だと。でも私は今は未だ手を差し伸べる時期ではないかと思うのよね」


 まぁ正味な話で言い方を悪くすれば、割とさなちゃんや私の友人以外がどうであろうと私には関係がない。環境は用意するけれど、何かを見つけて育つのは自分がするべきことだと私は割り切ってしまっている。実際そこまで私は責任を負ってあげる事はできない。だけど由梨絵は、その辺りにも心砕いているようで、そこに答えが未だ見出せていないようだった。それが真面目で良い人の彼女にしてみれば歯痒いのだろう。


「手摺やスロープを用意してあげるばかりでは駄目。厳しくても足を上げる力、踏ん張る力を持たせてあげなくてはいけない。でも差し伸べられる手も、時には必要。で、そういった意味で言えば今回の一件は発端に問題はあったとしても、経過で言えばそう駄目な所ばかりではないと思うのよね。だってそうでしょう?人は色々な事を経験し、そこから様々なものを吸収して育っていく。だから妹さんだって、生方君という手と今回の経験で、自分で思う所はあったんじゃないかしらね」


 そこまで一息に語ると手にしたマグカップを傾ける。私も少し温くなったマグカップに口をつけ、今言われた言葉を心の中で反芻していた。


「まぁ、ちょっと回りくどい言い方をしてしまったけど、簡潔に言うなら、自分の内面、自分の外面、そして取り巻く環境の全てが一緒に成長しないと駄目なんじゃないかってこと。貴女ばかりが気に病んでもダメなのよ」


 自分の口にした言葉が上手く纏まらなかったのが気になるのか、ちょっと苦笑を浮かべて再度カップを傾ける由梨絵。だけど言いたい事は何となく伝わった。


 外側ばかりでなく、内側も……内外のバランス……


 確かに考えてみれば、私の行ってきたことは外側ばかりと言えるかもしれない。差し伸べる手役は勇に任せるとしても、手本となるように身なりを整える事も、環境も取り巻くものも外側だ。そして今回手を出してしまったことは結果的に内面を傷つけることにはなったが、元を辿れば周りを気にしての結果なので外側の事と言えるだろう。


 内面……それは先日『女になる』と考えた時に後回しにしてしまった事だ。だけど、後回しにしてしまった結果がコレで、やはり後回しにしてはダメだったのだ。しかし後悔しても始まらないし、考えるなら今だ。


 しかし、と言う事は私はやはり内面的にも『女か男かわからないモノ』から『女』へジョブチェンジしなければならないという事になる。


 女になる…女になる……想像もつかない。そもそも前の人生の時、私は女とかいう以前に『大人』だったのだろうか?人に胸を張って大人だと言える人間だっただろうか?どうにも頭の中がゴチャゴチャになりそうで、深呼吸を一つして気持ちを落ち着けようとすると、そこへ由梨絵から思わぬ言葉が投じられた。


「あと、今回の事についてもう一つ気になることがあるのだけどね」


 ん?もう一つ…?思わぬ言葉に改めて由梨絵に顔を向けると、さっきまでの真剣な眼差しとは変わって、なぜかちょっと人の悪そうな笑みを浮かべて私の方を見ていた。




「あの入学式の写真撮影の時に思ったのだけどね。生方君、貴女の方が気になってるみたいよ?」




 …はい?私の方が気になっている?どういう事だ?


「写真撮ってたから家に帰って見比べてみなさいな。どういう表情を彼が浮かべているか、いくらこの手のことに鈍感なあなたでも、多分わかるわよ」

「いまいち意味が分からないが、携帯に入れてるから写真は今見れるぞ」


 鞄から携帯を取り出して、さっそく写真を呼び出す。さすがに全体は大きすぎるので、携帯用にと上半身以上あたりでトリミングした写真が表示された。こうした節目節目のイベント時の写真は出来るだけ肌身離さず持ち歩きたくて、こうして携帯にデータをコピーしているのだ。まぁあれです。初孫とか息子娘の写真を待ち受けにしている親御さんとかの心情みたいなものです、きっと。


 そうして映し出された写真を見るのだが、勇と私が写っている写真は入学式という気分に中てられたのかガッチガッチに緊張している勇が写っている。対してさなちゃんとの写真は、自然体で穏やかな表情だ。どうみても、さなちゃんと居る事が日常の一部で、一緒に居ると安心する、自然体でいられると言うことが分かる。一目瞭然と言えば一目瞭然だ。いつもの甲斐甲斐しさもあって、さなちゃんの事を大切に思っているとしか考えられない。


 そういえば中学卒業時の写真もこんなのだったような覚えがあるので「私には特にそういう風には見えないのだが……」と、写真を由梨絵に見せながら納得のいかない風を見せる。だが、私の考えは全く違うらしく、「全然違うでしょ」と由梨絵にダメ出しをもらってしまった。


「どう見ても生方君は千鶴子のことを意識していて、早苗君の時は普通に幼馴染として安心しているだけじゃない」


 そう…なのか?これは心根が元男と女の見え方の差なのだろうか?違うんじゃないかなぁという私に、なおも由梨絵は説明してくれた。


「一緒に居る事が長いなら、貴女も早苗君も変わりがない筈よね。だけど、こうも表情が違うのは何故かしら?」


 確かに私とさなちゃんと勇との付き合い年月で言えば同じだ。だけどそこは年齢の差っていうのがある。言えはしないが実年齢と精神年齢にも大きな隔たりがあるのだ。そう反論すると、まぁ聞きなさいと自分の言葉を続けた。どうやら前回の化粧品の時と同じく語りモードに入ってしまったようで、最後まで言わせないと止まらなさそうだった。


「生方君は確か一人っ子よね。だから兄弟の関係というものを知らない。貴女と早苗君を見て、そういうものだと理解している。つまり親しい人への付き合い方は、あなた達姉妹が手本になっている」


 まぁ確かにそう…かもだなぁ。


「千鶴子が早苗君の世話を焼くのと同じように、生方君も昔から早苗君の手を引っ張って世話を焼いていたのでしょう?」


 それは確かにそうだったので私が肯くと、我が意を得たりと満足げな表情で由梨絵も肯く。


「そう、千鶴子のマネね。だから貴女が早苗君を妹として扱っている以上、彼にとっても早苗君は妹と同じなのよ」


 そういうものなんだろうか?でも、それだけで「早苗の事は任せてください」なんて、さっきみたいに自分から買って出る筈はない。どう考えても身内への心配と言うよりも、特別な人への心配からくるものだろう。だけど自身の経験の無さから確証は持てないので、なんとも言う事が出来ない。そんな私を置いてどんどん由梨絵は言葉を重ねていく。


「でも、そうなら早苗君が千鶴子を姉として接するのを真似て貴女を見るはず。なら、向ける感情は早苗君とは同じになる筈よね?妹が姉に代わるだけね。でも写真が示す表情はどうかしら。姉相手に緊張する?」


 いつの間にか私の傍へ来ていた由梨絵が、私の手にあった携帯を奪うと、勇と私が写った写真を眼前に突きつけた。


「それは何故か。単純な答えね。緊張するのは相手を意識しているから。何かしら家族や友人に対するものとは違う感情を持つと言うこと」


 目の前にあるちょっと赤ら顔の緊張した勇と並ぶ私の写真。さなちゃんとは違う表情……だから恋愛感情?いや、まさか……ね。私の中の勇は何時でも折り目正しく、私を年上の人間として扱ってくれている。それは良くある年下の年上に対する、さなちゃんが良く言ってくれてた「ちぃ姉ちゃんすごーい!」と同じなんじゃなかろうか。


 ……あ。そういえば1つ思い当たる節がある。


 由梨絵から携帯を返してもらって「それは多分違うぞ」と、反論した。


「多分由梨絵が言う違う感情、私に対しての緊張感は、色恋的な特別な感情ではない。分類するなら…多分、憧れ?畏怖?…の方じゃないかと思う」


「はぁ?畏怖?なんで」


 ここだけの話としてくれると嬉しいのだがと前置きして、過去にとある事が原因で男相手に大立ち回りを演じたことを語った。内容がちょっと荒っぽいのでその辺りはオブラートに包みつつ、襲われたので返り討ちにし、更に行われたお礼参りを撃退したと語った。で、その時間近にいたのが勇なんだけど、勇が手酷くやられた後に、その目の前で私が返り討ちにした、と。


 勇は相当悔しかったんだろうなぁ。泣いてたし。でも、そのあと勇は顔を真っ赤にして「今度は俺が守ります」なんて宣言したんだよ。男としての矜持だろうね。男が女に助けられるなんてカッコ悪いと思うじゃない?その後、彼の剣道に対する取り組みは激変して、まさに破竹の勢いだったし。そうして今の勇ならばそんじょそこいらの相手に負けることはない位の猛者となっている。私の代わりにさなちゃんを守って欲しいと言う私の願いを彼は言わずとも受け入れて、そして実現してくれている。


 だから良く言っても認められたいとか、そういう憧れ的な物じゃないかなぁ。


「多分それを未だ意識してるんじゃないかと思う」

「ふぅん……まぁ確かにそれならある種の憧れに対する緊張とも考えられないことはないけれど……でも毎日顔を合わせる幼馴染に、ここまで緊張するかしらね」


 私の説明に尚も食い下がってくる由梨絵。メイクの時も衣服の時もそうだったけど、こういうことに興味津々なのはやっぱり由梨絵も女の子と言う事だろうか。


「で、私がこう思うと言うことは妹さんもそう思っている可能性があるわ。となると、今回の事は嫉妬から来ているとも取れるの。だってそうでなければ、あぁも体に変調を来すほどには成らないでしょ」

「いや、あれは多分今まで積もりに積もったものがだな…」


 私の言い訳に耳を貸さず、びしりと私の鼻頭を指差し、今日2番目に私を揺さぶる発言を由梨絵が行った。




「もしかしたら、あなたは妹さんにとって恋敵なのかもしれないわよ?」




 ま、またまたご冗談……を…!?




 まぁ、当て推量な面もあるから本気にする必要は無いわよと笑いながら由梨絵が言うが、内心で最近妙に告白なんぞをされて過敏になってた所為か、非常にドキリとしてしまった。なんか知らなくていい、知ってしまっては駄目なことを知ってしまった気がする。だけど、勇は初志を貫徹する男だ。だから、さなちゃんを裏切るようなことは絶対にしないだろう。




 んん?……恋…敵?




 あ、なんかティンと来た。




 恋愛は女を成長させると何ぞ最近本で見た。確かに私にはそういった経験は皆無だ。確かに私は2重の経験があるからこそ、色々と立ち回れている部分はあるが、私には恋愛経験が存在していない。憧れのようなものは抱いたことはあったかもしれないが、それはもはや記憶の彼方だ。


 となれば内面を『女』にジョブチェンジしなければならない私も色恋から知るべきではなかろうか。そして、今、現に目の前で恋愛事を行っている事例、さなちゃんと勇が存在する。さなちゃんは色々と勇にアピールを行っていて、朝の一緒の登校や、最近のお化粧とかについてもそれに収まる。つまりは対象がいて、自分を磨くこと=恋愛=自分の成長=女になる、に繋がると考えられないだろうか。


 と言う事は、私も対象を作って恋すればいい。といっても男とは付き合えないので、本気にはなれないかもだけど、そうすれば紛い物では在るかもしれないが、きっと私も近しい物を得ることができるはず!今の漠然とした進めば分かる的な物よりも、全然良い筈だ。



 そして対象だが『勇』!君に決めたぁー!!



 さなちゃんの事が好きな勇が、私の事も一人の『女』と認めるくらいに内面も外面も磨けば、きっと私は女だと言える人間になれるはずだ!恋とはちょっと違うし、あくまで勇はさなちゃんのお婿さんだ。それは忘れてはいけない。


 あー……主将君?ダメダメ。いや、明確な駄目という理由は無いけど、駄目だ。だって……知らない人怖い。


 でも、私の独断で勝手に行ったら、それはただの嫌がらせで今回の繰り返しだ。だから、さなちゃんと膝を割って話し合った上で双方同意の下であるなら、これなら私の独断にならず、かつ同じ目標を持って切磋琢磨しながらお互いを目標にして共に歩んでいけるはず!


 おおぉ、さなちゃんと一緒に成長する!?なんか姉妹っぽくて凄く良くない!?最近スキンシップも減ってたし!!


 まず、今までの事をちゃんと謝罪し、そもそものハッキリとさせていなかったことを明確にして、そしてお互い了解の上で追い抜き追い越ししながら成長していく。これはナイスアイデアかもしれない!


 そうして、ゴールとしては「俺、早苗の事が好きなんだけど、もし早苗を好きにならなかったら千鶴子さんの事を好きになってたと思う」とかそれに類する事を言わせたらOKだ。これなら今回みたいに無遠慮に人の心を踏みにじるような事にはならない筈。勇はほんのちょぉぉっぴり振り回してしまう事にはなるが……まぁ頑張れ男の子!持て囃されるうちが華だと思って諦めてもらおう、うん。これも鍛錬だ鍛錬。


 妙に晴れ晴れとした気分で、手にしたマグカップの中身を飲み干す。色々と悩みはしたが、向く先と活動に伴う内容も更に意味を増して明確となったことで、心の靄が晴れたようだった。



「答えが見えたみたいね」

「ああ、まとまった」



 私の言葉に、彼女が微笑みながらよかったという安堵の表情を浮かべている。時間として結構かかったが、それでも尚傍にいて励ましてくれた友人に感謝しつつ、私は高らかに宣言した。






「私も恋をするぞ、由梨絵!」






 何故か由梨絵が手に持ったマグカップを落としてしまった。慌てて拾い上げると、貴女の頭の中でどういう経緯でそうなったの、と目を白黒されながら質問されてしまった。時間も時間だったので生徒会室を後にしながら帰宅道中に考えを話すと、由梨絵は非常に形容しがたい表情をした後にこめかみを押さえ「……まぁ、生方君を壊さないようにね」とだけ言った。



 そんなに変な事を言っただろうかと思ったが、夕飯の時間も近かったので慌てて買い物をして変帰る頃には、気にならなくなっていた。











「さなちゃん、もう大丈夫?」

「ええ、いまもぐっすり寝てますよ」



 家に帰った頃にはもうかなり遅い時分になってしまっていた。勇は宣言したとおり、確りとさなちゃんの面倒を見ていてくれたようで、先ほど部屋を覗いた時は、顔色も良く、穏やかな寝息を立てていた。本来ならば勇にもアレコレと説明しなければ無いこともあったのだが、時間も遅いしあまり勇ばかりに頼るわけにも行かないので「後は引き受ける」と今日は戻ってもらった。


 そして帰り際、改めて今回私がしでかした事に着いて「本当に済まないことをした。G・Wの件は取り下げて欲しい」と頭を下げた。勇は頑なに千鶴子さんが悪い訳じゃないと言い張ったが、私にも譲れないので、ちょっと卑怯だけど「勇がッ!許してくれるまで!頭を下げるのをのをやめないッ!」ってやってたら、根負けして許してくれた。土下座でもして誠意を見せようかとも提案したが、半泣きみたいになって許してくださいと、どっちが悪いのか分からない状態になったので、それは見送りになった。


「でも、ほんと俺って千鶴子さんに情けない所ばっかり見られてますよね」


 ほんの10メートル程度の距離を送るすがら、勇がそうポツリと呟いた。今回の事についてもだけど、前の事も含め、彼は引きずってしまっているのだろう。すこし肩を落としてしまっている。勇は直向な分、間違いに直面するとちょっと長く落ち込むことがある。だけどその後は持ち前の明るさや集中力で、それを挽回できるよう進んで行く事ができる奴だ。


(そういえば手を差し伸べることも必要……だったか)


 由梨絵とした会話がふと蘇る。そういえば勇に対しては男だし、1人で頑張って欲しいと思ってあまり手を出すことはしなかった。だけど、これからも色々と頑張ってもらわなければならないし、たまにはちゃんと酬いてあげるべきだと思い、久しぶりにアレをやることにした。


「勇」


 そう声をかけると、私は勇の頭へ手を伸ばした。昔みたいな坊主ではないけど、ランダムに毛先をカットしたスパイキーショートの髪形を優しく撫でる。久しく勇の頭を撫でるなんて事をしていなかったから分からなかったけど、伸びた髪は意外と柔らかかった。そして、どうやら身長は既に私を少し越していたようで若干視線が上になった。そうやって少し見上げながらゆっくりと頭を撫でた。


「ち、千鶴子さん!?」

「勇は昔からずっと変らず頑張っている。それを情けないと言う人がいれば、私は声を大にして否定できる。見てきた私が保証するよ。だから勇は情けなくなんか無い。むしろ私はそれをこそ“格好が良い”と言うよ」


 暫くなすがままとなっていた勇だったが、慌てて私から一歩距離を取られてしまった。


「嫌だったか?やはりこの年でするべき事ではなかったか」

「いえ!いや!その、嫌じゃないっス!だけど往来では…」


 恥ずかしいから止めてくれと言われていたのを思い出し、慌てて私も手を引っ込めた。ちょっと年上っぽい所を見せようとしたのに、ダメと言われたことをやってしまって我ながら情けない。そうしてちょっと有耶無耶にするように、私は感謝の言葉を口にした。


「勇、本当にありがとう。勇が居てくれるおかげで、私も、さなちゃんも頑張っていける。どうかこれからも宜しく頼む」


 静かに最敬礼をして顔を上げ目を合わせると、わたわたと勇が落ち着きなさそうにしていた。


「ほんとに礼なんて良いですって!!と、ともかく、また明日!」

「ああ、又明日、だ」


 そうして、脱兎の勢いでそのまま家へと走っていってしまった。やはり頭を撫でられるのは相当恥ずかしかったようだ。次からは改めて気をつけないといけないと思いつつ、私も元来た道を戻り始めた。



 さなちゃんが起きたら、今日一番重要なことを話さなければならない。



 私の今日はこれからだ。











 見た夢は小学校の時。何時ものように三人で遊んでいる光景。


 いつもの帰り道、私の右手を勇、左手を姉さんが握って三人仲良く夕日を浴びながら帰る時間は、私にとって何よりの宝物だった。


 朝軽く食事した後1度眠り、次に起きて少し話をしているといつの間にか又眠ってしまっていた。そうして目が覚めると傍に居た勇一郎の姿は既に無く、「明日は元気に学校へ来いよ」とメモだけが残されていた。台所からは良い香りがしてきていて、どうやら勇は帰った後で、今は姉さんが夕食を作っているようだった。二度も寝たこともあって頭はスッキリとし、朝感じていたダルさはもう何処にも無かった。ただ、両の手のひらは何故かほんのり温かくて、それが妙に嬉しかった。


 パジャマのまま台所へ向かうと、姉さんが予想どおり髪を後ろで括ってエプロン姿で夕飯準備の真っ最中だった。


「起きたのか、さなちゃん」

「姉さん……おかえりなさい」

「ああ、ただいま」


 コンロの火を止めた姉さんはこちらへやってくると私の額手をに当ててきた。だけどその表情は幾分か何時もよりも硬いように見えた。朝アレだけ顔を合わせ辛いと思っていたのに、今は普通に姉さんを見ることが出来た。やっぱり安心して眠れたことが何よりの効果だったのだと思う。


「熱とかも無いし、顔色も良いな。ご飯、食べられそうか?」

「うん。大丈夫。寝たら治ったから」


 よかったと安堵の表情を浮かべる姉さんは、本当に心底安心した様子だった。


「ちょうどご飯も出来たところだから食事にしよう」


 打って変わって軽い足取りでキッチンへ戻る姉さん。やはり今日一日相当心配しながらだったに違いない。心配をかけてしまった姉さんに早く謝らないとと気が逸るが、寝起きのせいか眠る間に考えた謝罪の内容がすぽっと頭から抜け落ちてしまっていた。

 だからか口から出た謝罪は「姉さん、ごめんなさい」と、とても簡素なものになってしまった。そんな謝る私を見た姉さんは分かっているという風に肯くと穏やかに笑みを浮かべ、「まずはご飯。それからゆっくりと話をしよう」と夕食の準備へと戻っていった。


 夕食の内容は私の体長を慮ってか雑炊だった。部屋で食べるか?と言われたけど、流石にもう大丈夫だったので何時ものように居間で夕食を摂った。その間、先ほどはパッと謝ってしまったのでちゃんと謝らなきゃと、と気が急いてチラチラ姉さんの様子を窺ってばかりになり、「どうした?まだ体調が悪いのか?」と心配されてしまって慌てて食事に集中した。


 そうして夕食後、洗い物をした姉さんとテーブルで差し向かいに座っている。いざとなるとちょっと尻込みしそうになったが、私は改めて姉さんに背筋を正して向き直ると頭を下げた。


「姉さん、今日は本当にごめんなさい。私、朝から自分勝手に思い込んでおかしな事をしちゃった。その所為で姉さん、勇一郎、美和、佳奈美に迷惑をかけてしまった。だから、本当にごめんなさい」


 そうして顔を下げたままにしていると、姉さんから「今日の事はさなちゃんが謝るべきことではない」と言わた。思っても無かった返答に思わず顔を上げると、今度は逆に姉さんが頭を下げてきた。


「私は昨日、さなちゃんにとても酷い事をしてしまった。今回の事はそれが起因しているから、さなちゃんが謝るべきではない。むしろ私のほうが謝るべきなんだ。だって私はさなちゃんの心に土足で踏み入るような事をしてしまったのだから。無理やり割って入るようなことをして本当に済まなかった。昨日の事は勇にも言ってあるが、無しにしてもらえるだろうか」


 頭を下げたまま姉さんが言葉を続ける。顔の様子は見えないが、聞こえる声の調子から憂い顔を浮かべていることは容易に想像できた。私の勘違いのはずなのに、姉さんが謝っているというおかしな状況に慌てて頭を上げてとお願いしたが、姉さんは顔を上げることなく言葉を続けた。


「謝って済む事ではないと思う。だけど厚かましいとは重々承知はしているがお願いさせて欲しい」

「わ、解ったから!姉さん、顔上げてってば!」


 それでも尚頭を上げない姉さん。私の勘違いがどれだけ姉さんの心を真剣に悩ませたかと、非常に心が痛くなった。


「そもそも私がさなちゃんを子ども扱いしてしまったから…」と姉さんは一向に顔を上げる気が無いように言葉を続けている。まるで懺悔か何かの様な姿は以前の肩を落として泣く姉さんを思い起こさせ、何とか上げて欲しくて無意識の内に懐かしい言葉を口にしてしまった。


「あーもう、だから顔を上げてってば“ちぃ姉ぇ”!」


 途端にガバッと顔を上げる姉さんは、私の呼び方に驚いたのか目を丸くしている。私のほうは自分の言葉に恥ずかしさを覚えると同時に悔しさも心に湧き上がっていた。この呼び方はただ甘えることしか出来なかった情けない私の呼び方なのだ。だから『姉さん』と呼ぶことで、まずは形だけでも自分を変えようとした。ここに来て昔の呼び方をしてしまった事に、なぜだか自分が卑怯な気がして慌てて言葉を重ねた。


「と、ともかく“姉さん”、人と話をするときは目を合わせて、でしょ?」

「そうだったな…すまない」


 そうして改めて目を合わせて姉さんが話を再開した。


「私はずっと大切な人を護ることを考えてきた。確かに境遇として悪い時はあったけど、それは大切な人がいたから大丈夫だった。だから私は大切な人を護る、その人が居る場所を護ることを考えてきた。でも、それは閉じ込める囲いを作るだけだった事に気が付いた」


 ゆっくりと語る姉さんの表情はいつに無く真剣で、引き込むような目つきで私を見つめてくる。だが、姉さんの中で葛藤があるのだろう。少し眉根を寄せながらも話を続ける。


「私の大切な友人が言っていた。何事も過ぎれば毒だと。囲いの中では囲いの中に対応した成長しか出来ない。いつかは外に出なければいけないんだ。外に出るためには囲いを越えなければならないし、それだけの力をつけなくてはいけない。でも護るに執着して囲いを高くしてしまえば、誰も越えられなくなってしまう」


 姉さんの言う囲いというのは今の学校環境を指しているのだろうか。確かに姉さんが生徒会長になってから色々と学内改変が行われたと知っている。確かに否定的な意見もちらほらと聞いているが、大多数は歓迎しているらしい。最低限に敷かれたルールさえ守れば今までとは比較にならないほど過ごし易い生活になるのだから賛同者が増えるのは当たり前だ。

 だけど、いまの言葉そのままだと姉さんはその環境作りを後悔している事になる。確かに過ごし易いと言う事は優しいということで、外に出れば厳しい環境だって待っているのだ。でも、それは自分達で見つけるようにと入学式で姉さんは言った。だけど今回の事で弱気になっているのか、自分の発言を否定するような事を言っている。


 今回の事で姉さんが自虐的になってしまっている。そんなことをしてほしくなくて言葉を止めようとしたが、次に告げれた言葉で私は二の句が継げれなくなってしまった。






「さなちゃんは、勇が好きか?」






 静かな声と、真剣な瞳が私を射抜く。


 先ほどの話から一転して勇一郎の話になったことに考えがついて行かなかった。そして、ようやく言葉の意味を理解し、こんな風に直接的に私に聞いてくるって一体どういう事だと疑問で頭が一杯になった。救いだったのは昨日散々混乱した経験の所為か、今日1日寝て落ち着いたからかは解らないが、冷静に姉さんの発言を聞くことが出来たことだった。


 そもそも姉さんは勇の事が好きで、勇一郎も姉さんが好き。それは今までの言動から嫌というほど解っている。だけど勇一郎はともかく、言葉として口に出したことは、そういえば姉さんは一度も無い。

 しかも、ついさっきの“土足”という言葉が今になって気になった。美和、佳奈美たちとの外出に、勇一郎をつれて割り込むことが“私の心に土足で心に入る”と姉さんは言ったのだ。友人関係に割って入ることを土足でなんていうだろうか。もしかしたら私が体調を崩してしまった事でその考えを通り越し、姉さんが私が勇一郎を好きだ思っているという事に思い至ったのではないかという疑念が湧いた。確かに最近勇一郎と行動する事が多い私だ。敏い姉さんならそんな考えに至っても不思議はない。それなら心に土足で入り込むなんていう表現は確かに合っていると言えなくも無い。


 でも一体何故、いまここで、私にそんなことを聞くの?


 考え込んでも意図が読めない。ここで「いいえ」と言う事も出来る。けれど、それが何になるだろうか。「はい」といえば昨日勘違いしたみたいに、今の3人に戻れなくなってしまうかもしれない。でも、今の姉さんが聞いているのは、単純に好きとか嫌いとか、そういう事ではない気がする。どう答えて良いかわからないけれど、黙ったままでは居られない。勇一郎の事にこれ以上嘘をつきたくないし、「いいえ」と答えてしまえば折角生まれた星への道筋が消えてしまいそうな気がしてならなかった。


 そうして黙ったまま、時計の振り子が何十回目かの往復したところで姉さんの視線に耐え切れず、そのまま自分の思いを口にした。




「……うん。私は勇一郎の事が好き」




 私の返事にあわせ、まるで何かのスタートの合図のように、時計がカチリという音と共に鐘を打った。


 姉さんは私の返事を聞くと、瞑目して静かに肯いた。


「私はさなちゃんが大好きだ。幸せになって欲しいといつも願っている。だけど、幸せは私が与えようとして与えられる物ではない。さなちゃん自身が掴み取らなくては、本当に幸せになると言えない。だから、私は今日この時からさなちゃんを、ちゃんと大人として扱おうと思う。今まで子供扱いして済まなかった。これからはちゃんと一人の女性として扱うことを約束する」


 私の回答から得られた姉さんの言葉は、私が何時か言って欲しいと願っていた言葉だった。タイミング的なものはさておいて、私の事をちゃんと子ども扱いしないで、大人扱いしてくれると言うのはとても嬉しい。だけども、いきなり何故という疑問が沸いて素直に喜べない。その疑問が解消されないまま姉さんの言葉は続いた。


「でも、これからも私はさなちゃんの姉だということは覚えていて欲しい。だから、これからはよっぽどの事が無い限り、さなちゃんに手を貸すことはしないけど、さなちゃんが私に相談してくるなら万難を排してさなちゃんの力になる」


 ここまで語られて、私の中に回答らしきものが思いつき、確かに整合性が取れている気がした。



 それは、もしかして姉さんは勇一郎の気持ちに気が付いていないんじゃないか、と言う事だ。



 人の気持ちを知った上で想い人をつれて歩くのを見せ付けるのは厭らしい行為ということになるけど、姉さんは全く気が付いていなかったのだ。だから先日の行動が私の目に珍しく写った。結局これも私の勘違いだったと言う事で、前に言った家族って、本当にそのままの意味で、単に家族付き合いが多いからそう言ったのではないかと。



 そして、もう一つが、これは外れてほしい予想だけど、やっぱり姉さんも勇一郎が好きなのだと言う事。



 今回の一件で何かしらの思案が姉さんの中で生まれたのだろう。もしかしたら正々堂々とお互いに心の内を明かした上で告白する気なのかもしれない。私は勇一郎が誰が好きかを気が付いてしまっているが、姉さんからしてみればそれは知らない事だから、同じ環境で互いの心情を確認すれば、同じ土台に立つということになる。そうして私を対等の1人の女性として扱い、勝っても負けてもお互い恨みっこ無し、という訳だ。そう、囲いを作ることは姉さん、勇一郎、私にとっての多分護るのではなく、皆で成長するために姉さんが用意した障害というか、ボーダーなんだ。



 要は、皆同じ位置に立とうと言う、真面目な姉さんらしい考えの結果なのだ。



 確かに校則は甘くはなっているけれど、その分破った場合の罰則は重い。つまり自分を律することが重要で、その中で自分を如何に確立できるかがキーになるのだ。幸先が良すぎてて私は周りが見えていなかった。だから今回みたいな事を起こしたし、姉さんがしていたことの本質を見えていなくて、アッサリ自分に甘い考えに帰結した。その所為で姉さんは自分がして来た事を間違いと考えてしまった。

 今回みたいに憶測で疑う様なことを起こすようでは駄目で、自分を律して、ちゃんと見るべきところが見えていれば、今回のような一人芝居は起きない筈だったのだ。そして同じ位置というのは、飽く迄公平にということ。だから遊びに行く時にも“3人で”だったのだ。


 ようやくここにきて色々と合点がいった。結局姉さんは、みんなの事を考えて行動してくれていたのだ。


 自分の情けなさに頭が痛くなるけれど、なによりも一番嬉しかったのは私を対等に見てくれたと言う事だ。


 私自身姉さんの事は大好きだし、勇一郎のことも大好きだ。例えどんな状況になっても2人とはずっと繋がっていたい。結果が出たとしても、お互いの立ち位置が変わらないのは願ってもない事だった。


 だから私は姉さんに、さち枝お祖母ちゃんが亡くなってから胸の内に溜めていた自分の考えを素直に口にした。


「……私はずっと姉さんと並んで歩きたかった。ただ一緒にじゃない。後ろに着いてでもない。2人で並んで歩きたかったの。だってその為に、私は冬桜に入学したのだから。それに、私だって姉さんが幸せであって欲しいと、いつも願ってる」


 多分今の言葉を言いながら私は微笑んでいられたと思う。姉さんは私の言葉に驚いた顔を一瞬浮かべたが、その後花が咲くように破顔した。


「ありがとう、さなちゃん」


 結局の所、酷く遠回りしてしまったけれど、結局はお互い素直に言ってしまえば良かったのだと思う。私も、そしてきっと姉さんも。あれこれと相手を想うあまりに何も言えない、何も言わない、分かった気でいただけで今回のような事になってしまったのだ。それを姉さんも同じように考えて、こうして話してくれたのだ。いつの間にか距離が開いていたように考えていたけれど、それは何のことはない思い込みだった。


 だってこうして話せば、近くに居るとわかるのだから。


「私こそありがとう、姉さん。真剣に考えてくれて」

「いいや、こちらこそだ」


 どちらともなく笑顔がこぼれる。それは今年の春のような暖かさを伴っていた。



 だが、その暖かさは数瞬の間だけだった。



「安心できた。これで私はちゃんとお願い事をする事が出来る」


 何をそれほどに安堵したかはわからないが、心底安心したように珍しく姉さんが椅子の背もたれに体を預けるように座っていた。話しが終わったように思っていただけに、何?と思ったが、そういえば会話のはじめにお願いさせて欲しいと姉さんが言っていたのを思い出した。


 そうして姉さんは再度背筋を伸ばして、私の目を見て語りかけてきた。その目には先ほどと同じ真剣さが宿っており、会話はまだ終わっていないことは明らかだった。又先走って私の中で完結してしまったと、慌てて背筋を正して姉さんと相対する。


 そうして発せられた姉さんの言葉は、私の想像をはるか斜め上だった。






「と、いうことでだ。私はこの1年で、勇に振り向かれる女になって見せる」






 え。


 ちょっと待って?わけがわからないよ。


 なんか思考が色々と吹き飛んでない!?さっきと会話が繋がっていないように思うんだけど!?振り向かせる?あれ?


 てっきり私は皆で同じスタートラインから始めて、お互い悔いのない最後を迎えようという話だとばかり思っていたのに、なんだか全然違う方向へ話しが進んでいるような気がする。そんな私の動揺を他所に、姉さんは高揚した様子で言葉を続ける。


「さなちゃんが言ってくれた様に、私も一緒に歩いて成長したい。だから私はこの1年で私自身を磨いて、そして全力でさなちゃんにぶつける」


 待って待って!姉さんの全力全開なんて受け止められないっていうか、なんかぶつけるが物理的な意味を持ちそうだよ!?


「そしてさなちゃんも全力で私にぶつかってきてほしい。古来より言うだろう?恋は障害が多いほど燃えるという。だから互いに共通の目的を持って、一緒に色んな障害を乗り越えよう!」


 いや、姉さん、最近のアンケートだと7割の女性はそう思ってないよ!!っていうか、そこも姉さんの中で平等と言う事なのね。全然元が平等じゃないんですけど!?戦闘民族と一般人じゃベースが違いすぎるよ!!


 私の声にならない胸の内の叫びは無論届く訳もなく、私の手を取って握り締め、宣誓のように姉さんは言い放った。






「どちらが勇に振り向いてもらえるか。これからは私と競争だ、さなちゃん!」






 うん、忘れてたよ。姉さん、私の事となると暴走しがちだって事を。


 きっと今回の“私”の事が、私がさっき考えていた以上に、及びもつかない方面へ姉さんをフルドライブさせてしまったのだ。


 やっぱり忘れ物は……敵だ。






 そうして目をキラキラと輝かせながら語りかける姉さんを見て、「あ、私死んだかも」と、なぜかそう思ってしまったのだった。

きりの悪いところで終わりそうだと思って書いてたら増えた。

迷わず行ったらこのありさまだよ。


――――――――――――

2013/4/3 誤字とおかしい所を修正。相変わらずです…(T-T


閑話


お昼休憩

「なぁ、由梨絵」

「なに?」

「お弁当、もう一つ食べる余力はあるか?」

「…太れと言いたいの?」

「いや、違う違う。睨まないでくれ」

「じゃあ何?」

「いや、今日はお弁当が2つあるんだ」

「ああ、そういえばそうだったわね。でも流石に無理よ」

「私も2つ食べる事は無理だ。ということで半々でどうだろう?」

「半分でも多いわよ」

「ふむ、仕方ない。誰か男子にでも……ちょっと、A山君」

「ちょ!?」

「どーした?会長」

「お弁当を今日、作りすぎてしまってな。良かったら食べてくれないだろうか?」

「「「「「「「「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」」」」

「ちょ、待ちなさい!千鶴子!」

「何だ、由梨絵?」

「妹さんのを男子にって何考えてるの!?」

「私のを渡すんだぞ?さなちゃんのは私が食べる。流石に妹の食器を妹の知らない第三者に渡すことはしないさ」

「そーじゃなくて!」

「副会長!止めるな!俺全然むしろっていうか是非くれぇぇぇぇぇ、いや下さいぃぃぃぃぃ!」

「黙ってなさい!A山ぁぁぁ!!」

「ちょっと待て、なんでそんなヒートアップしてるんだ?」

「あんたね、自分の影響力を考えなさいってあれほど……ともかく男子にあげるのはダメ!!」

「う~~~~うううっ、あんまりだ……あァァァァァんまりだァァァアァァ!!」

「B田君、C川君、うるさいからA山を連れて行きなさい」

「「イエスマム!!」」

「何がなにやら……で、どうしたらいいんだ、このお弁当」

「別に男子じゃなくても、女子数人でつつけば良いでしょ…」

「あ、それもそうか」

「どうしてこう貴女は……」

「妙に疲れた表情になってるぞ、由梨絵。大丈夫か?」

「貴女の所為でしょ、あ・な・たの!」



一方別のお昼

「男の前で安心して寝るってどんだけ無用心なんだかな」

「……てか、まさか、なぁ。でも……う~ん」

「まぁ態度を変える必要は無いだろ。今の俺のままで行くしかない、よな。うん」

「そういえばメールで様子だけでも千鶴子さんに連絡しておかないと」

「って、手離してくれねぇ。どんだけ握り締めてんだよ、ったく……まぁ、いっか」


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