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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
88/443

第3話:皇国の皇子

 グラノダロス皇国は、大陸中央部の更に中心に覇を唱え軍勢100万を称する比類なき巨大帝国である。無論、100万とは誇張だが、他の国々が敵対出来ぬのは事実であり、それが50万でも100万でも同じだ。それだけの勢力があればさらに領土を広げ、大陸を制覇する事も不可能ではない。だが初代皇帝エドゥアルドは賢明だった。


 皇祖エドゥアルドが軍勢を進めた面積は、実は皇国の領地を遥かに超えるのだ。ではその皇国国境外はどうなったかと言えば、功績ある君臣に分け与え、それぞれに王冠を被せ新たに8王国を配したのである。だがそれに納得できぬ者達も居た。


「せっかく得た領土の大半を、家臣に分け与えるとはどういうお積もりなのです!」

「家臣達にも恩賞は必要でしょう。ですが、あまりにも過分なのではないでしょうか」

「お父上の血を分けた我ら兄弟に与えて下されば、見事お父上を、いえ後を継ぐ兄上を見事支えて見せまする!」


 次男以下の息子達はそう主張し猛反対した。彼らも覇者の息子として各方面の司令官に任じられ、戦場を駆け巡り功績を立ててきた。皇祖には妃、側室に生ませた10名を超える息子達が居たが、7名の息子が亡くなっていた。1人は病死だが、残り6名は戦死、または戦傷が元で亡くなっており、決して血に頼って安穏とし、権利ばかりを主張しているのではない。にも関わらず、彼らの下で働いた家臣が王となる。到底納得できるものではないのだ。


 エドゥアルドはゆっくりと首を振り、息子達に言い聞かせる為口を開く。その声は静かだが重く、大帝国を作り上げた男の自信と威厳に満ちていた。


「お主達ならば、兄を盛りたて皇国の盾ともなろう。しかしその後はどうする。何もお前達の息子が暗愚になると申しているのではない。むしろ兄の子を超えるほどの俊才であったらどうするのだ。才に見合った野心を持ち、その野心を支える力を持っていたらどうなるか」

「お父上のご懸念も分かります。ですがそれを申せば、一族が国内に集結していても権力争いは起こるのではないでしょうか」

「いや、それぞれ一国の主として争えば双方軍勢を出しての戦いとなる。それでは皇国の弱体に繋がろう。だが国内での権力争いならば、それは最後の手段。精々競争相手の暗殺止まりよ」


 父の言葉に息子達は絶句した。権力争いは身内同士の暗殺で留めておけ、とはあまりにも冷徹な仰せである。だがそれでも自分がかぶれぬ王冠を家臣が頭に置く事に、息子達は引き下がらない。


「しかし父上。ではなぜ家臣達に領地を分け与え、王とするのですか。分け与えず、すべて皇国の領地となせばよろしいではないですか」

「あまりにも広大な領地は統治しきれぬものだ。数代後には散り散りに分裂しておろう。今定めた領地が、永きにわたり治められる限界。そして我が皇国の防波堤として、逆らえぬ程度の規模の属国を周囲に配するのだ」


「ですが、そのようにして周囲を囲まれては、万一彼らに背かれ一斉に攻め寄せられれば、それこそ国は滅びましょう。家臣に領地を与えるにしても、いくつかは信頼出来る血族である我ら兄弟に与えられてもよろしいのでは」

「彼らはすべて皇室の家臣として同格の者達だ。我が皇国を攻めるとしても、次に皇帝を名乗るのはどの王か。まずそれが問題となろう。だがお主ら皇族が君臨する国があれば、それが盟主となる。それではいかんのだ」


 その後も息子達の反論は続いたが、皇帝はそのすべてを論破し、こうして周囲に8王国を衛星とする巨大な惑星、いや恒星とも言うべき、グラノダロス皇国が誕生したのだった。



 半分ほど欠けた鈍い月明かりの下を1人の男が馬を奔らせていた。長い金髪が風になびいている。


 騎手の名はデル・レイ王アルベルド・エルナデス。前皇帝の第5皇子である。歳は24。国中から集めた名馬を更に選りすぐった名馬中の名馬を乗り潰すように酷使していた。その視線は戦場を駆けるが如く激しい。近習すら置き去りにし一騎駆けた。馬体は汗に濡れアルベルド自身も砂塵に塗れる。一国の王にあるまじき姿だ。


 日も暮れようとする頃、義母≪はは≫が病に倒れたと報告を受けた。そのまま厩に急ぎ馬丁が手を出せぬ勢いで自ら鞍を乗せ手綱をつけ城を飛び出した。その後に慌てて近習が続いた。


 アルベルドの母へレナは前皇帝の妃の1人だ。ただ一度皇帝に抱かれアルベルドを身に宿し、故郷のゴルシュタット王国でアルベルドを産み育てていたのを皇国が見つけ皇都バルスセルスに連れて来られた。母は故郷での平穏な暮らしを望んでいたが皇帝の子が片田舎の小さな領地で貧しく暮らすなど皇国の沽券にかかわる暴挙である。許されるはずもなかった。


 皇帝の妃達は皆、将来我が子を次の皇帝にと望んでいる。それでは我が子可愛さに他の皇子を暗殺するという手段に出そうなものだが、ヘレナ以外の妃は大貴族の娘達。それぞれが相手を暗殺する手段を持ち、やってはやり返されると何とか均衡を保っていた。唯一狙われるとすれば反撃の手段を持たぬヘレナ母子である。それゆえにヘレナ母子が生き残る手段は一つだけだった。


「アルベルド。皆に愛される良い子であるのですよ。それが貴方の身を守るのです」

 ヘレナは涙に頬を濡らし我が子を抱きしめた。優しい息子も、それが母の身を守る事になると

「分かりました母上。私は良い子になるようにがんばります」

 と心に誓い母の胸に顔を埋めたのだった。


 その後、9歳で母へレナを病で亡くしたアルベルドは、後に皇帝となるパトリシオと宰相となるナサリオの母である皇后イサベルに引き取られ養子となった。実の息子と分け隔てなくとは望むべくもないが、イサベルはアルベルドに対し必要な物は全て与えた。一つ問題があるとすれば、ゴルシュタット風の名前であるアルベルドを皇国風にアルベールと呼ぶくらいであり、それについては周囲の者達も苦笑しつつ特に害はないと放置していた。


 聡明な少年だったアルベルドだが所詮はまだ9歳。愛する母を失った心の痛みに笑顔も忘れ、日々放心し無気力に過ごした。それは、母を守る為誰からも好かれる良い子であれと心を縛っていた鎖からの開放でもあったが、母を失った今、解き放たれた心はどこに羽ばたけば良いのか。


 通常の子供ならば心のままに過ごす時期を、母を守るという使命を心に刻み育ったアルベルドだ。目的が無い状態に心が不安定になった。結果的にイサベルがその心の隙間に入り込んだ。本来さほど知恵に優れた女性ではないが、偶然を司る神が気まぐれを起こした。


「良いですかアルベール。パトリシオは次の皇帝になるでしょう。ですが素質はナサリオが遥かに上。真に皇国を取り仕切るのはナサリオでしょう。貴方を引き取って育てた私の為にも、ナサリオを助けるのですよ」


 ありがちな事に、長男よりも末の息子を可愛がる母は引き取ったばかりの義理の息子に言い聞かせ、アルベルドも自らの精神の安定の為、それを新たな使命と心に刻んだ。


 そして事実、ナサリオは親の欲目を抜きに見ても優秀な男だった。天才的な閃きは見せないが、時間をかけてでも正しい答えを出した。アルベルドは天才的な閃きで瞬時に答えにたどり着くが、稀にその閃きにも間違いはある。だがナサリオは、9歳年下の腹違いの弟の才能を褒め称えた。


「兵は拙速を尊ぶという。時には正しい答えを出すのに時間を掛けるより、素早い行動が必要な時もあるのだ。アルベルド。お前には私に無いその才がある。お前が大きくなったら、その才で私を助けてくれ」

「はい! ナサリオ兄上」


 優れた兄に認められ、アルベルドは心から兄に尽くそうと力強く頷く。皇国も興ってから十数代を経て、そこかしこに歪みも出ている。だが、この2人が力を合わせれば皇国はその歪みを正し、中興の功のあった宰相とその補佐役として名を残しただろう。そしてその2人を登用した皇帝パトリシオも名君の称号を得たはずである。


 深夜駆けたアルベルドは、途中デル・レイ貴族や皇国貴族の屋敷に立ち寄り皇族の紋章が入った剣をかざし叫んだ。

「私は皇弟アルベルド。義母の危篤を知り駆けつけんとしているところだ。人の情を知るならば、是非とも馬を貸して頂きたい」


 皇帝の弟にそう言われて断れる者などおらず、馬を借りては代え先を急いだ。馬の疲労を考えぬ疾走に、軍勢なら1ヶ月は掛かろうという行程を3日で走破した。


 皇都に入ると、一国の王にもかかわらず到着の届出すらせず義母が住む屋敷へと向かった。汗と砂塵にまみれ異臭すら放っている。国王どころか流浪の騎士すらもう少しましな風体であろう。


 屋敷の敷地に入ってもそのまま駆けた。途中、警護の兵に遮られる度に、アルベルドだ! と叫び、強引に押し入った。


 兵は最近雇われた者でアルベルドの顔を知らず、この小汚い男が本当に皇帝の弟かと一瞬疑ったものの、アルベルドが続いて紋章の入った剣を見せると慌てて通す。馬を下りても走るような早足で義母の寝室の前にまで進むと、扉の前に義母の御付の若い執事が立っていた。長い金髪を後ろに流し、執事というには艶かしい色気があった。


 高貴な者達にとって婚姻とは跡継ぎを残す為のもの。逆に言えば跡継ぎをさえ出来れば義務は果たした。パトリシオとナサリオを生んでその役目が終わったイサベルは密かに愛人を囲み、この若い執事もその1人だった。夫たる皇帝に知られればただでは済まぬが、もし皇帝に知られれば、それを止めなかった屋敷の者全てにその責があると罪を問われかねず、それゆえ外部に漏れる事は無かった。もっとも、跡継ぎを産んだ後の妻に用が無いのは皇帝も同じで、彼の方こそが外部に漏れなければ老いた妻が浮気をしても構わぬと鷹揚に構えているという噂もあった。


「義母上のご容態は! 義母上はご無事か!」

「ご安心下さい。アルベルド様には大げさに伝わってしまったようですが、医者は言うには少し風邪を拗らせただけで薬を飲み数日安静にしていれば問題はないとの事です」


「そうか……」

 アルベルドは、高ぶりに忘れていた強行軍の疲れが一気に出たのか、義母の情夫の前で崩れ落ち膝を付いた。


「義母上がご無事でなによりだ」

 アルベルドは心の底から言った。


「義母上にはお会い出来るのか?」

 立ち上がりながら言うと、若い執事は軽く一礼しながら義母の寝室へと通じる扉を開けた。執事は金の為に義母を抱いているが、その彼から見てすら、義母を心から思いやるアルベルドの振る舞いは感動的にすら見えた。


「アルベール。よく来て下さいました」

 アルベルドの姿を認めたイサベルは、絹の寝台≪ベッド≫に横たわらせた身体を僅かながら起こした。その時すかさず両脇に控える侍女が手で支える。


 皇族の血が流れる者達と同じく青い目と金髪を持っている。皇族は金髪碧眼であるべきという風習があり、皇族と婚姻関係を結びたいと考える貴族達も自分達の結婚相手には金髪碧眼を選び一族を金髪碧眼で揃えている。黒髪の女を愛した大貴族の跡取りが、その女性と結ばれる為に門地の継承権を放棄したという話まであるのだ。


 イサベルは、皇帝から選ばれ正室とされただけあって若き頃はその美貌を讃えられ、今もその美しさは権力と財力にものを言わせ大陸各地から集めた美用品、技法で老いの影を薄れさせている。病床にあり化粧をせず髪も整えては居ないが十分に鑑賞に堪えた。アルベルドの姿に、その時の流れに逆らう美貌を曇らせる。


「ですがどうしたのです。そのなりは? 埃まみれではないですか」

「申し訳御座いません。義母上が倒れたと聞いていてもたってもいられず国を飛び出し……。ここまでも休まず駆けつけて参りました」

 アルベルドはそう言いながら義母に近づき手を取った。義母の手は60を過ぎたとは思えぬほど滑らかで白い。それを両手で包み込む。


「おお。そうでしたか。貴方のその心根。義母は嬉しく思います」

「いえ。義母上から受けたご恩を思えば当然です」


 アルベルドは義母の白い手に口付け、イサベルは微笑み満足げに頷いた。容姿端麗な息子と容姿衰えぬ美貌の義母。それは一枚の絵画の美しさであり、左右に控える侍女達もその親子愛に胸が熱くなる。


 アルベルドが義母の手から唇を離すと義母は侍女達に

「アルベールと少し話があります」

 と言い、侍女達は礼儀正しく一礼すると無駄の無い動きで部屋から姿を消す。その途端、義理の息子へと優しげに微笑んでいた瞳が、まるで部下を見るように鋭いものへと変貌する。


「デル・レイの王となったとはいえ、貴方の役目はナサリオを支える事なのですよ。よもや忘れたのではありませんか?」


 またか。アルベルドが幼少の頃から何度も言い聞かされていた言葉だ。もしかして病状を深刻に自分に伝えここに来させたのもイサベル自身の指示かも知れない。とアルベルドは思った。まったく迷惑な話である。


「分かっております。しかしデル・レイの王位に就けとはナサリオ兄上からのお言葉でした。それを断ってはナサリオ兄上の顔を潰す事になると思い……」

「まったくあの子は。出来過ぎるというのも困ったものです。少しは自分の事を考えてくれば良いのですが」


 イサベルはそう言って自分の自慢の息子を非難しつつ微妙に褒め称える。


「義母上ご安心を。ナサリオ兄上のお傍を離れたのは私の落ち度ですが、兄上は優れたお方です。私などが居なくとも立派に皇国を支えております」


 忠実な義理の息子の言葉に安心したのかイサベルの口から大きな溜息が漏れた。しかしそれでも不安をぬぐい切れず

「それは、そうなのでしょうけど」

 と不満げだ。アルベルドは、ご安心を、と再度義母に言い聞かせた。


 義母の容態についてまったく無駄足だったアルベルドだが、義母を無碍には出来ない。それから更に義母を宥めたアルベルドは部屋を後にした。廊下を進み、扉の前に立っている若い執事の姿が見えなくなるとアルベルドの手が胸元に置かれた。そこにはある薬品が入った小瓶を忍ばせている。もし、義母が瀕死の重病でありその死の間際に間に合ったのなら、その薬品を無理やりにでも義母の口に放り込んでいた。



 義母に引き取られしばらく経ったある日。深夜目を覚ましたアルベルドは魔がさしたのか部屋を出て屋敷の内を歩き回った。いかな大貴族とて深夜の屋敷内は閑散としたものだ。それでも時折巡回する警備の兵士の目を掻い潜り、ちょっとした冒険気分で探索する。


 そしてそれは魔が誘った行いだった。知らなければ幸せだった。ある部屋の前を通り過ぎると男女の話し声が聞こえた。その前を忍び足で通り過ぎようとした時、不意に自分の名を呼ばれた。


 見つかったかと思わず声を上げそうになった。叱られる覚悟をしてそのままそこに蹲っていたが、しかし一向に叱られるどころか誰かが近づいてくる気配も無い。そのうちアルベルドも落ち着いてくると、男女の会話の中で自分の名が呼ばれただけなのに気付いた。自分に関係がある話なのかな? と耳を澄ます。


「アルベルドは素直で良い子ですね」

 そう男の声が聞こえる。アルベルドはまだ理解していなかったが、この頃から既にイサベルの男漁りは始まっており、彼は情人の1人だった。

「ええ。本当に」

 と答えるイサベルの声も聞こえる。


 義母上が自分を褒めてくれている! アルベルドは喜び、これから更に良い子になろうと心に誓った。本当に心からそう思った。


「ナサリオとも仲が良いですし、立派にナサリオの役に立つでしょう」

 義母の言葉に、うんうんとアルベルドは頷いた。それに気付かず義母の言葉が続く。

「それでこそ、あの女を殺した甲斐があったというものです」


 殺した? 義母上が誰を? そんな恐ろしい事を義母上がしたのだろうか? しかも自分をナサリオ兄上の役に立たせる為に?


 自分を認められたと喜びに満ちていたアルベルドの心が一瞬にして凍りついた。義母が殺したあの女とはいったい誰なのか。少し考えれば分かりそうなその答えを、アルベルドの精神がその答えを出す事を拒否していた。


「しかしわざわざ母親を殺してまで引き取って育てる必要があったのですか? 貴女があの母子の後ろ盾になってさしあげれば、それで十分感謝してナサリオの役に立ったと思いますが」


 アルベルドは声もない。やはり母なのだ。義母に殺されたのは母なのだ。


「念の為ですよ。引き取って育てた方が、意のままに出来るでしょう」


 念の為!? そんな事で母は殺されたのか! 身体が震え、目の前が真っ暗になる。気を失わなかったのは奇跡だった。


 気付けば自分の部屋の寝台の中だった。一瞬悪い夢でも見たのかと思ったが、間違いなく現実だ。義母の言葉が耳から離れない。念の為ですよ。義母はそう言ったのだ。それだけの理由で、母が。誰よりも優しく大好きだった母を奪ったのだ。化け物だと思った。どうしてそんなに簡単に人を殺せるのか。とても人間が出来る事とは思えない。


 義母と一緒に居た男が言っていたように、義母が母と自分の後ろ盾になってくれれば、もう誰かに命を狙われる危険は無いと母は涙を流して義母に感謝し、自分にもこのご恩に報いるのですよと言い聞かせ、自分もその言いつけを忠実に守ったはずだ。


 なのに! 念の為と母は殺されたのだ! ナサリオの役に立たせる為に! 念の為で人を殺すほどナサリオが大事なのか。ナサリオの役に立たせる。念の為にと。自分にとってかけがえの無い母の命は、それよりも軽いのか。


 必ず。必ず復讐する。義母の命を奪うだけでは許せない。それほどナサリオが大事なら、義母からナサリオを奪ってやる。ナサリオを奪えば次にパトリシオへの愛に目覚めるかも知れない。念の為にパトリシオもだ。いや、それでも皇族としての地位は残りそれを拠り所とするかも知れない。念の為にはそれも奪うべきだ。念の為だ。全てを奪う。皇国自体をだ!


 義母はそれから殺す。全てを失い絶望の奈落に落としてから殺すのだ。殺し方は既に決めてある。


 アルベルドの懐にしまわれた小瓶。その中に入っている薬品は義母が母付きの侍女を買収し、母に飲ませていたのと同じ物である。義母はそれを極薄くして使用していたが、アルベルドが隠し持っている物はそれを数百倍に煮詰めた物だ。母にはじわじわと効き衰弱して死んだが、これは一口飲めば十分効く筈だ。


 必ず義母はこの手で殺す。別の誰かの手に掛かって死ぬなど許さぬ。ましてや自然死、病死など論外。それくらいだったら死ぬ間際に義母の口に無理やり薬を放り込んでやる。後がどうなろうと知った事か。

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