エピローグ:フィン・ディアス
帰国したバルバール軍総司令官フィン・ディアスを、罵詈雑言の嵐が待ち受けてい。
いかに国王であるドイルの信任篤くその地位は揺るがないとはいえ、人の口に戸は立てられない。
『敗軍の将』『バルバール軍の栄光を地に落した男』さては『今までの信頼を一度の失敗ですべてを台無しにする見本のような男』といった、言われたディアスが、そんなに長くては言う方が大変だろう。と思うものまであった。
尤も言われた男は動じてはいなかった。動じたのは忠実な従者の方だった。
「今まで散々ディアス将軍をもてはやして居たくせに、それをあっさりと手のひらを返すなんて酷いですよ!」
自分の分まで憤慨するケネスに、ディアスは苦笑を向けた。
「まあ総指令は称賛を受ける為に戦うんじゃないからね。どうでもいい事だよ」
軍人の名誉。騎士の誇り。みなその為に戦うのではないのか。それをどうでも良いと言い放つディアスに、ケネスは思わず目を向けた。
「じゃあ、ディアス将軍は何の為に戦っておいでなのですか?」
「決まっているだろ? 総司令の役目は、バルバール王国とその民衆を守る事さ」
そうか。そうなのだ。
ランリエル王国、コスティラ王国、そしてカルデイ帝国。それぞれが倍の国力を有する三ヶ国を相手にし、バルバール王国の民衆の被害はただの一人もいなかった。
それに対し、3大国は民衆に大きな被害を出した。勿論それを行ったのはバルバール軍だ。
だが、バルバール軍の存在意義は、バルバール王国とその民衆を守る事。バルバール軍総司令フィン・ディアスは、それを完璧なまでにやりきったのである。
真に勝ったのはこの人なのだ。ケネスはそう思った。
「さあ、家に帰ろうか。今回の事でミュエルが私に愛想を尽かしていないといいんだが……」
「大丈夫です。心配いりません」
他の誰に何を言われても動じない男が、幼い新妻を気にかけていた。しかしそんな心配は不要だ。
ミュエルはバルバール一の花嫁だった。そしてその夫は、それに相応しいバルバール一の花婿なのである。
「間違いなく、ミュエルはディアス将軍を屋敷の外まで出て、笑顔で帰りを待っていてくれています」
確信をも超え、ケネスは予言した。