第44話:決戦(6):来る者、逝く者(3)
「ディアス総司令! お下がりください!」
帝国軍からの一斉射撃に生き残った数名の騎士とその従者、兵士達が駆け寄ってきた。
「ああ。分かっている」
ディアスは立ち上がろうとしたが、足の傷の為上手く起き上がる事が出来なかった。そこに矢の雨の第二波が襲う。とっさに倒れた乗馬の影に隠れ、難を逃れたディアスの目に、駆け寄ってきていた者達が倒れるのが見えた。そして第三波。それも馬の影でやり過ごす。
第四波は来ず、その代わりに地を鳴らす馬蹄の響き。ディアスが僅かに頭を上げ目をやると、騎兵を先頭に敵が突進してくるのが見えた。ディアスの手勢もそれぞれ身を隠していた場所から躍り出て、改めてディアスの周辺に集まった。
敵は2千ほどか……。即座に敵の軍勢をそう推し量った。それに比べディアスの手勢は5百にも満たない。それに集結しきれてもいない。
後陣と合流しなくてはならない。前方の軍勢はランリエル軍への追撃に駆け続けている。合流するのは難しい。
「道々に散っている軍勢を集めながら後陣まで退く。後陣と追撃に向かっている軍勢には、敵襲があったと伝えてくれ。追撃の軍勢は一旦軍を纏めるんだ。その上で敵の伏兵を警戒しながら再度追撃を。こちらは何とかする」
危険が大きいのを覚悟の上での猛追撃とはいえ、その可能性が確実なものとなった今、軍勢を纏めるのもやむを得ない。犬死が目的では無いのだ。
すでに敵とディアスの手勢との間で戦闘が始まっている中、伝令の騎士を奔らすと、ディアスは主を失った馬を、手の者から受け取り跨った。矢傷が痛むが、重要な腱は傷付いていないのか、痛みにさえ我慢すれば動かすには支障はなかった。
「若! 早くこちらへ!」
36歳にもなるディアスを若呼ばわりして近寄って来たのは、一族の重鎮といわれるアスモ・ディアスだった。アスモはディアスの父の叔父である。ディアスの曽祖父の後妻が産んだという事もあり、ディアスの父の叔父というには意外と若くまだ60歳過ぎだった。
それでも頭髪の殆どは白くなっており、一族内では現役最年長な事もあって、影響力は大きい。
アスモの言葉に素直に従って、ディアスは馬首をそちらに向けた。ディアスが軍勢の中に紛れ後退を始めたのを確認すると、帝国軍を防いでいた者達はさらにしばらく敵を防いだ後、その後を追う。敵が追撃の勢いを増してくると、引き返しまた防いだ。
ディアス達は、確実に追撃の手を逃れて行った。
「ディアス将軍!」
後陣と合流すべく馬を進ませていると、後ろに置いて来ていたケネスが軍勢の中にディアスを発見し近寄って来た。
「引き返してくるなんて、どうしたんですか?」
懸命に駆けながら言うケネスに、ディアスは厳しく言い放った。
「敵の襲撃に合った。後陣と合流する。敵が追いかけてくるから、お前は左右の森の中にでも逃げていろ」
「敵襲! ですが、ならば僕は将軍の盾になります! ディアス将軍もそれが従者の役目だって仰ったじゃないですか!」
「後陣に合流する為に全力で駆けているところだ。盾になるといってもお前は付いてこれないだろう。行軍をお前の足にあわせる訳には行かないんだ」
「それじゃ。ここに残って、敵を防ぎます!」
だが少年従者の決意に、ディアスは再度厳しく言った。
「従者が1人こんなところで踏みとどまっても、敵の馬蹄に踏み潰されるだけだ。何の意味も無い。犬死しろとお前に教えたか?」
「でっですが!」
「ですがじゃない! 私は今敵から逃げている。私の死はバルバール軍の敗北だからだ。今死ぬ事が、お前にとって勝利なのか? 今、お前が死ぬ事に意味はない。お前にとっても死なない事が勝利なんだ」
死ぬ決意をしても、何の役にもたたない。その現実に、ケネスは俯き唇を噛んだ。顔を上げた時、その顔は涙で濡れていた。
「分かりました。……仰るとおりにします。将軍もご無事で」
「ああ。お前は生き残って、立派な将軍になって他国に名を轟かせるんだ。それがお前の勝利だ」
ケネスは頷き、森に消えていった。ディアス自身も身を守る為だけならば同じように森に姿を消せば良いのだが、それでは指揮系統が混乱する。戦況が絶対的に有利であり、ディアスが不在でも勝利が硬いというならともかく、現状総司令が姿を消してしまっては、それは討ち死にしたのと同じである。
総司令は、指揮できる状態を確保する必要があるのだ。
その為、後陣との合流を急ぎ指揮系統を建て直す。そう考え懸命に馬を走らすディアスの前に、またも帝国軍が表れた。しかも退路を塞いでる。
「敵軍。およそ1千です!」
「突破する!」
状況を鑑みれば、他に命令を出しようが無い。北側の森を抜けてきた為だろう、敵は歩兵と弓兵ばかりだった。騎兵はいない。歩兵が作る槍衾の後ろから、弓兵が矢を射掛けてくる。
「騎兵突撃! その後ろから歩兵も突撃せよ!」
ディアスの命令の元、騎兵が突進する。矢は真っ直ぐ飛ぶのではない。弧を描き落下しながら飛ぶのだ。射手はその落下を計算して上向きに矢を放つのだが、馬上身を屈め素早く突進する騎兵に当てるのは難しい。矢による被害を殆ど受けず、敵前まで突進した。
しかし槍衾に突撃するのは自殺行為。騎兵は敵の直前で左右に分かれ、さらに向きを変え後退する。さすがに目の前に居るのなら矢も当たる。数騎が打ち落とされたが、その間にバルバール歩兵も敵前に到達していた。
敵味方、歩兵同士の槍が絡み合う。たちまち乱戦になった。一旦は引き返した騎兵が、再度突撃を開始した。敵の槍衾は大きく乱れている。そこに騎兵が突入し、敵軍を蹴散らしていく。
しかしやはり連日の不眠不休の戦い、そしてランリエル軍への追撃に駆け続けていた事により、軍勢は疲れきっている。優勢ではあるが、にわかには打ち破れない。もたついている間に、一度は引き離した背後の帝国軍も追い付いてきた。
バルバール軍は、道々集めた軍勢を含めても1千に満たない。それが前後を1千と2千の軍勢に挟まれたのである。戦術能力でどうにかなる状況ではない。ディアスは決断を強いられた。
強引に突破を計るか。軍勢を固めて時間を稼ぐか。前者なら話は早い。決死の覚悟で敵を突破し逃げるというだけの話だ。後者ならいずれ来るシルヴェンらの後陣の来援を待つ事になる。
シルヴェンか……。後陣へと先行させた伝令は待ち伏せていた帝国軍に討ち取られているだろう。何の情報もない状態で、シルヴェンが前方の異変を察知し、軍を急行させて来ているとは考えにくい。ディアスはそう判断した。
「突破する!」
ディアスが檄を飛ばすと、ディアス家一族の者達に緊張が奔った。そして小さく頷く。今までも散々突破しようとして防がれていたのだ。それがさらに劣勢の状態でそう簡単に突破出来る訳がない。先ほどまでとは、突破の意味合いが違う事に彼らは気付き、覚悟を決めたのである。
軍勢を突破させるのではない。ディアス1人を突破させるのだ。ディアスを中心に騎兵が固まり、その外側をさらに歩兵が固めた。そのまま敵軍に突っ込んだ。
歩兵達は敵を倒す事よりも、左右に押しのける為に槍を振い、騎兵が通る道を作った。騎兵はその馬体を敵の隊列に捩りこみ穴を開ける。歩兵も騎兵も足を止め身体で敵を防いでいた。その左右から敵軍が殺到し作った道を押しつぶそうとしている。
道が閉じる寸前ディアスが駆け抜けると、背後でぐしゃりと何かが潰れる音がした。その音を背に受けディアスは駆けた。森をかき分けての奇襲に、帝国軍は騎兵が少ない。一騎駆けるディアスに追い付くのは難しいはず。
突然ディアスの乗馬が棹立ちになった。敵兵が放った矢が馬の尻に突き刺さったのだ。振り落とされ地面に叩き付けられたディアスは、その衝撃に気を失った。
そこに帝国軍が矢を放ちつつ殺到してくる。ほとんどの矢が地面に突き立ったが、一本の矢がディアスの右足に当たり、その痛みでディアスは目覚めた。上体を起こすと、ほんの10数サイトほど前に、殺到してくる敵兵が見える。
剣技の鍛練などほとんどしていないディアスだが、たとえしていたとしても、それで切り抜けられる状況でもない。
サルヴァ王子さえ討てていれば。そうすれば自分が今死んでも、何とかなる。もし王子を討ち漏らしていれば、バルバールにはもう後がない。自分が居なくてはバルバールを守るのは難しい。しかし、それもここまで。と、ディアスは目を瞑り、覚悟を決めた。
「ざまぁないな。ディアス!」
その声に目を開け、聞こえる方に顔を向けると、ディアスの頭目掛け、大斧を振り落とさんとするシルヴェンの姿が見えた。
「続け!」
剣を抜き放ち、騎兵数百を率いてサルヴァ王子は飛び出した。敵陣に向かって右端から突撃する。歩兵はそれより前に敵陣の左側に向かわせていた。
駆ける王子の目に、敵兵が矢を構えようとしているのが映る。矢が届く距離まで後50サイト(約40メートル)。駆ける。後30サイト。敵兵が矢を弦にかけ引き絞る。後15。弓を上に向けた。5サイト。
一斉に矢が放たれた。騎兵が突進してくるのを見越して上向きに放たれた矢は、弧を描き飛び騎兵が居るべき場所に降り注ぐ。だが強引に、先頭を駆けるサルヴァ王子は馬首の左に向けていた。後ろに従う騎兵も続く。数名が付いていけずに直進し、騎士、馬とも全身に矢の雨を受け地面を転がった。
すかさず敵兵は次の矢を番える。サルヴァ王子は敵陣前を左斜めに突っ切っている。敵から第二波が放たれた。騎兵の速度、距離と方角。すべてを計算せねばならぬ斜めに進む敵への射撃に、殆どの矢が大きく的を外した。それでも速度だけを見誤った矢が、王子の後を駆ける数騎を、地面に叩き落とした。
王子の視線の先、敵陣の左側では、先発させていた歩兵がすでに敵陣に到達している。柵と槍衾。それでランリエル軍の突撃を迎え討たんとしていた、敵陣の槍衾は大きく乱れている。後は柵である。
王子が駆け、敵陣に近づくにつれ、上に構えていた射手の矢が下がっていく。水平に近くなるほど、その精度を増し、サルヴァ王子の身を掠めるように、矢が降り注いだ。その中を、馬体に身を伏せ駆け抜ける。
王子は身を乗り出して手を伸ばし、愛馬の目を塞いだ。訓練された軍馬は、それでも速度を落とさず駆けた。
「すまんな」
自分を、ここまで運んでくれた者に呟く。柵を挟み、槍を切り結ぶランリエル兵士と、敵兵との間に割り込み、突っ込んだ。目を塞がれた馬は、そのまま柵にその巨体をぶつける。王子はその直前、自ら地面に転がり落ちていた。
地面に叩き付けられた痛みに耐えながら起き上がる王子の目に、地面に横たわり苦しげに喘ぐ愛馬の姿が映った。一瞬痛ましげな目を向けた後、サルヴァ王子は視線を動かした。敵陣の柵が数サイトに渡り倒れている。王子の後に続いていた騎兵が数騎、勢いにまかせ切り込んでいた。
「突撃せよ! 騎兵の突撃で敵陣は乱れている。体勢を立て直す前に切り込め!」
サルヴァ王子の蛮行に唖然とし、動きを止めていた歩兵が我に返って突き進んだ。王子も改めて剣を構え、敵陣に切り込もうとしたが、足が縺れた。自らすべるように馬から落ちた為、さほどの高さからではなかったが、それでも重い甲冑を身に付けての落馬は身に堪える。
「サルヴァ殿下! 貴方は何をやっているんですか!」
怒鳴り声と共に、ルキノが騎馬のまま王子の前に立ち塞がった。選りすぐった名馬を駆る王子に、やっと追いついたのだ。
「御身にもしもの事があったら、どうなされるお積りですか! それこそ全軍崩壊し、我らは負けるのです!」
「分かっている。だが敵陣を破らなくても負けではないか。ここで我が身を庇ってなんになる」
身体を支えるように、ルキノの馬に手をやって王子は言った。そしてそのまま横を通り過ぎるが、体中の痛みに、見るからにその動きは緩慢だった。怒鳴ったルキノも思わず馬から降り、王子を支えた。
「無茶をし過ぎなのです。そんな身体で敵陣に切り込んでどうしようというのですか」
ルキノは後ろから王子を羽交い絞めにし、そのまま王子を引きずって馬体の影に隠す。サルヴァ王子も抵抗したが、傷めた身体ではそれもままならない。
「殿下はもう十分やりました。後は兵士達が敵陣を打ち破りましょう。折角敵を打ち破っても貴方にもしもの事があれば元も子もありません」
そう言いながら、羽交い絞めにしている手を放さないルキノに、サルヴァ王子は諦めたように抵抗を止めた。落ち着いて辺りを見渡すと、ランリエル軍は王子が空けた穴から敵陣に続々と突入し、敵陣の傷口をさらに広げている。
このまま行けばこの敵軍は破れる。そう判断したが、問題はその時間があるかどうかだ。後ろからはバルバール軍の追撃部隊が迫ってきている。ララディがどれだけ敵を防ぎ、時間を稼ぐ事が出来たか。自ら残った配下を悼みサルヴァ王子は目を閉じた。
貴族達が反乱を起した時、ララディは自分に背いた。そして今、そのララディが身を挺し自分を逃がした。変わったのは自分なのか。ララディなのか。
いや、そうではない。どちらかではない。
「殿下あれを!」
その声に目を開け、ルキノの指差す先に目を向ける。敵陣のさらに先に軍勢が突き進んでくるのが見えた。敵の新手か!?
王子の背に冷たいものが流れた。この状態で敵の更なる襲撃などあれば、今度こそ我が軍兵士達は戦意を喪失する。これほどやってもすべて無駄。その思いに将兵は耐えられまい。
いや、諦める訳には行かない。兵士達を生きて帰さなくてはならない。そして……生きて帰るとの約束もあるのだ。生者と、そして死者との。
セレーナ。心の中で呟き。静かにルキノの手を振り解いた。王子を羽交い絞めにしていたルキノも、この状況に王子を止めるのを忘れていた。剣を地面に突き立て身体を支え進んだ。将兵を鼓舞する為、前線に立たなくてはならない。それは身の危険を意味したが、そうしなければ戦いには勝てない。勝てなければどうせ命は無いのだ。
「何!?」
その時、王子の目に思わぬ光景が映った。敵陣の後ろから現れた軍勢に敵軍も大きく動揺したかと思うと、軍勢は敵軍に突っ込んだのである。合流ではなく、間違いなく突撃だった。ならばあの軍勢は味方という事になる。だが、どこの軍勢だというのか?
思案を巡らす王子の眼前で、敵軍は瞬く間に敗走を始めていた。
「危ないところでしたな」
突如表れた軍勢。帝国軍7千を率いたカルデイ帝国軍総司令エティエ・ギリスと、サルヴァ王子は顔を合わせていた。
「しかし、どうやってここまでこれた? 帝国軍が我が国内を進軍などすれば、すぐに私の元に伝令が来るはずだ。しかも、帝国国境からここまで来るには、あまりにも速かろう」
「サルヴァ殿下。先の戦いの後、ベルヴァースのグレヴィ将軍からこう言う事を聞いていたのです。『サルヴァ殿下は、味方にも作戦を語らず胸中に収める傾向がある』と。そして周囲も、それが殿下のやり方なのだと、認識していると」
「それで?」
自分の性格が見透かされて何か手を打たれたらしい事を察し、王子は幾分不機嫌そうな顔で先を促した。ギリスは苦笑を浮かべそうになったが、そうすると王子がさらに不機嫌になるだろうと、それを飲み込んで先を続ける。
「ランリエル国内の領主達に伝令を出したのです。『サルヴァ殿下の命により、進軍中である。極秘任務の為、他言無用』と。ついでに言えば、兵士達の飯の用意もするように言いました。おかげで輜重隊を率いらなくて済んで、早くここまで来れましたよ。野営する資材もないので、夜は野宿でしたが。勿論、最後の最後、国境付近の領主には、輜重自体を用意させました」
ぬけぬけと言うギリスに、サルヴァ王子は苦虫を噛み潰したような表情を向けた。兵糧、輜重を提供した貴族達は、間違いなくランリエル王室にその請求をするに違いないのだ。
「しかし、来るなら来るでこちらに連絡すればよかろう。なぜ寄越さなかった?」
不機嫌な顔のまま、尤もな質面をぶつける王子に、ギリスは悪びれず答える。
「我々が来なければ、貴方ならそれはそれで何か手を考えるでしょう。そこに我らが来れば、圧勝です。尤も本当はこちらに来る積りはなく、北に戦場を迂回して敵の背後を突く計画でしたが、放ってあった斥候から、どうやらバルバール軍らしき軍勢が、街道を封鎖しているという情報を受け、3千のみをそのまま向かわせ、本隊はこちらにやってきたのです」
言わんとする事は分らぬでもない。しかし、それでも帝国軍がやってくると自分が知っていれば、対応の選択肢も増えたはずだ。それを、来ると伝えなければそれ相応の対応をしていたはずとは、子供じみたとも思える理屈である。そのような事を、紛れない名将であるギリスがなぜしたのか?
そうか!?
「ギリス将軍。これで借りを返した積りか?」
鋭い視線を浴びせる王子に、ギリスは微かに笑みを浮かべた。
「殿下から送って頂いた海岸線防衛の援軍。民達は喜んでいましたよ。しかもその為に、我が国を攻めたバルバールとの戦いに苦境に立たされているとあっては、ここでランリエルに敵対する事もままなりません」
貴族達に兵糧、輜重を提供させたのと同じ手で、ギリス率いる帝国軍はランリエル王都に突入する事すら可能だった。無論それをしたところで、即ランリエルが滅びるものではない。しかし現国王のクレックス王を討ち取る、ないし捕虜にする事は出来る。ランリエルの威信は地に落ち、捕虜に出来ていれば交渉の材料にもなる。その事にサルヴァ王子は気付いたのだ。
無論、帝国の独立が簡単な訳でもないが、ベルヴァース王国も介入すれば、長い戦乱の末独立を勝ち取れる可能性も高い。ギリスはサルヴァ王子の考えを見通したかのように言った。
「せっかく長い両国の戦いが終わったのです。あまり波風は立たせたくないものですな」
そこに1人の兵士が、息も絶え絶えに駆け寄ってきて膝まずいた。
「バルバール軍です! 1万ほどが、我らが来た道をやって来ます!」
サルヴァ王子と、ギリスがその方向に視線を向けると、確かにバルバール軍がやってくるのが見えた。
「さあ、我らの敵を、共に打ち破ろうではないですか」
そう言ってギリスは、サルヴァ王子に顔を向けて笑った。