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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
265/443

第174:深い闇

 その日アリシアは、大きくなり始めたお腹を抱え途方に暮れていた。妊娠6ヶ月を越え安定期に入ってその意味では一安心だが、別の心配も出てくる。さすがに、少し太ってしまって、と言って誤魔化せるお腹ではない。ほとんど外出せず部屋に籠ったが、今まで気付かなかったのが不思議な侍女が、やっと気付き大騒ぎだ。


「アリシア様! お腹のお子の相手はどこの誰なのですか! 教えて下さい!」


 身を乗り出すエレナの目が輝いている。彼女もアリシアがそう簡単に身体を許す女性ではないと知っている。ならばたとえ寵姫の身でも、これは不義ではない。真実の愛だ! 侍女である自分にすら気付かせず主人の寝所に忍び込み夜ごと愛し合っていたのだ。これは是非、聞き出さなくてはならない。


「それは……。それは言えないわ。でも、信じて。決して殿下を裏切るような事はしていないの」


 苦し紛れだったが、結果的に上手い言い回しだ。嘘は言っていないが、相手がサルヴァ王子ではないように聞こえる。それに、言いながら思い出したが、ナターニヤは相手はウィルケスと寵姫達に嘘をついていた。ここは自分もそれに乗るべきだ。


「ですが、もし殿下がお知りになれば……」


 心配そうなエレナだが、微妙に口元に笑みが浮かぶ。


「大丈夫よ。エレナ。相手の男性は殿下も知っている人なの」

「それは誰なのですか!」


 サルヴァ王子の後宮の寵姫が、その王子の許可を得て男と会っている。思ったより複雑そうだ。詰め寄る侍女は興味津々だ。


「それは……言えないわ。殿下のお立場もあるし」


 ここでウィルケス様の名前を出したら、きっとこの子、みんなに言いふらしちゃうわよね。と、幸運にも危険を回避した。もしここでウィルケスの名前を出そうものなら、自称ウィルケスの真の恋人である侍女は狂乱しただろう。


「いい。エレナ。これは絶対に秘密なの。分かるわね?」

「はい。勿論です」


 言われなくてもそれくらい分かっている。これはすごい秘密なのだ。是非ともウィルケス様に相談しなくてはならない。


 侍女の考えが分からぬアリシアは、頷く侍女に取りあえずは一安心と息を漏らした。しかし、ここまで来ては王子に黙っている訳には行かない。


 こんな事ならもっと早く言って置けば良かったわ。いきなり出陣なさるんですもの。

 とは言っても、出陣の前夜、部屋に来た王子に伝えなかったのは彼女自身だ。なぜかと問われれば彼女自身分からず、妊娠で精神が不安定だったとしかいいようがない。自分の口から伝えたかったのに……。と、仕方がなく王子に手紙を出す事にした。


 そしていざ筆を動かすと、貴方とのお子を授かりました。という内容を、その情緒不安定さからか心が高揚し、便箋7枚に渡って書き連ねた。その中で、貴方の子がお腹にいるのは凄い喜びだ、貴方に愛されて幸せだ、私も貴方を愛していますとの言葉が、何度も出現し、手紙を出した後に正気に戻って寝具ベッドの上で頭を抱え身悶えるのだが、それはまた別の話だ。


 その数日後、後宮にぴりぴりとした空気が張りつめていた。部屋に籠るアリシアや、自分が夢中な事以外には意識が向かない侍女は気付かなかったが、ナターニヤらアリシア派の御令嬢達は気付いた。とはいえ彼女達もそれがなぜなのかは分からない。


「フランカ様。貴女、ベオーニ派のヨランダ様と最近、親しいらしいですわね。何かお聞きになってはおりませんの?」


 ベオーニ派とは、ベオーニ侯爵家令嬢アンネッタを筆頭とする後宮の第二勢力だ。とはいえ後宮は、アリシア派の一強状態。第二勢力とは名ばかりで他の勢力とどんぐりの背比べだ。その一員であるヨランダが、どうにかしてアリシア派に潜り込もうと、フランカに接触して来ていた。彼女の部屋は、ヨランダから贈られた友情の証の高級品であふれている。


「それが……。急に私に話しかけてくるようになったのですけど、私も何がなんだかさっぱりで」

 さっぱりな割には、貰う物は貰っている。くれると言うのだから、断る必要は無いのだ。


「それって、ここ数日でですの?」

「ええ。そうです」


 ここ数日ね……。それは、つまり、ここ数日で何かが起こったって事よね。となると、やっぱり、あれか……。


 彼女も、アリシアからサルヴァ王子に手紙を出したとは聞いていた。寵姫の手紙は役人が検閲する。王子は寸鉄付けず裸となって寵姫を抱くのだ。もし、寵姫が他の者達を手引きなどしようものなら、王子を害するのは難しくは無い。それを防ぐ為だ。手紙から、他の男との子供を王子との子供だと偽った寵姫を見破った事もある。


 役人が手紙を検閲しているのを知る寵姫は少ない。知るのは一握りの大貴族の御令嬢だけだ。そしてナターニヤはコスティラの公爵令嬢。国が違えど後宮に変わるところは無い。


 でも、王族への手紙は検閲されないはず。とナターニヤは首を捻ったが、露見したのは事実だ。部屋に籠り出したアリシアの様子から、何かを察し役人に金を握らせたのだ。


 アリシアが王子の子を妊娠しているのがばれた。それは間違いない。そうなると、彼女の身が危ない。無論、令嬢達も、全てがアリシアを害そうとしているのではない。フランカに近づいたヨランダなどは、アリシアが王子の子を産むのなら、おこぼれにあずかろうとしているのだ。


 しかし、害そうとする者も多いはず。このアリシア派の令嬢達も信用出来ない。彼女達がまだアリシアの味方なのは、お腹の子の父親がウィルケスだと信じているからだ。


 アリシア派以外の令嬢達は、アリシア派が妊娠の相手が王子と知らないとは夢にも思っていない。ヨランダ嬢も多くの贈り物をフランカ嬢にしているが、言わなくても分かりますわよね? と、要求をはっきりと口にしないのが、貴婦人のたしなみである。


 しかしこうなると、下手にアリシア派に動かれて真実を突き止められても困る。いったいどうしたのでしょうね。とナターニヤは言葉を濁し、何の手も打たず解散するしかなかった。


 翌日、ナターニヤはアリシアの部屋を訪ねた。いつも通り、あいさつの後、扉を潜ろうとした彼女の前に、立ちはだかる者がいた。


「アリシア様は、誰ともお会いなされません!」

 小さな身体に腰を手に当てナターニヤを見上げる。


 流石にこの子も気付いたのね。今更だけど。とナターニヤに苦笑が浮かぶ。


「大丈夫よ。私はアリシア様のお腹の事は知っているの。だから、通してちょうだい」

「信用出来ません!」


 あら。意外と頑固。そういえばこの子、最近何かと私を睨んでるのよね。何か嫌われるような事をしたかしら? それともアリシアが言う通り、この部屋に来た時の私の行儀の悪さに幻滅したのかしら。でも、この子にかかわっている時じゃないわよね。


「アリシア様。いらっしゃるの?」

 と、大きめの声で部屋の奥に声をかけた。するとアリシアが、思いの外大きなお腹を抱え顔を出す。


「ナターニヤ。いらっしゃい。エレナ。彼女は大丈夫だから通してあげて」

「で、でも……」


 侍女が主人に顔を向け、不満顔を見せている間に脇を通り過ぎた。

「ちょ、ちょっと!」

 と侍女が慌てて追いかけてくるが、相手にしていられない。この部屋に来た時の指定席の長椅子にどかりと腰掛けた。


「不味い事になってるわよ。貴女の妊娠、後宮中に知れ渡っているみたい」

「え! ど、どうして! 誰にもばれないようにずっと部屋に籠っていたのに」


「貴女がサルヴァ殿下に出した手紙が見られたみたいね」

「そ、そんな……。あの手紙が他の人に読まれたなんて」


 アリシアが、この世の終わりのように愕然とした。問題はそこではないのだが、彼女にとっては死ぬほど恥ずかしい手紙だ。しかも、王子が読むのならともかく、他の者が見たなど、眩暈がしそうなほどだ。


「それでどうする? 部屋に籠っていても危険よ。貴族達が本気になれば、王宮の兵士から侍女、執事まで全員が敵になるわ」


 無論、誇張だ。しかし、実態なき虚言ではない。王宮で働く者は身元確かな者達ばかり。逆に言えば、どこかしらの貴族と縁ある者達ばかりだ。貴族に恩ある者も多く、その貴族にやれと言われては断れない者もいる。そしてそれが誰かは見分けがつかない。全員が敵と警戒するしかないのだ。


 信じられるのは、自分の屋敷から連れてきた侍女のみ。その意味もあって、寵姫達は自分の屋敷から侍女を連れてくるのだが、当然アリシアにはそんな者はいない。故郷の村長の娘を侍女とするのが精一杯だ。そしてその娘も頼りになるとは言い難い。


「どうしたらって……。どうしたら良いかなんて分からないわよ。どうにかして欲しくて、殿下に手紙を出したんだから」


 困惑するアリシアに、やっとナターニヤも気付いた。サルヴァ王子はセルミアの事をアリシアに伝えていない。なぜ伝えていないかは分からない。しかも、今更セルミアに行っても意味は無い。あれは、妊娠がばれる前にセルミアに行って、そこで密かに産んでしまおうという計画だった。皆にばれた今、セルミアに行っても貴族達の刺客が追って来るだけ。それならば、男は立ち入り禁止の後宮に居る方がまだマシだ。尤も、後宮の役人が敵に回っているならば、それも意味をなさないが……。


「とにかく。部屋からは一歩も出ないでよ。良いわね?」


 まったくあの馬鹿。と思いつつ、取りあえず王子の失態は黙っていた。言えば、アリシアも激怒しお腹の子に障りかねない。


「え、う、うん」


 強い口調のナターニヤに、アリシアが頷く。サルヴァ王子が不在の今、頼れるのはナターニヤのみだ。


「じゃあ、また来るから。本当に気を付けなさいよ」


 アリシアに背を向け扉に視線をやると、会話を聞いていたエレナが、とっとと出て行けと言わんばかりに扉を開け放ち待ち構えていた。腕を組み不満そうに頬を膨らませている。はいはい。と扉へと向かうと、開け放たれた扉から2つの影が駆け込んで来た。エレナの脇を通り抜け、ナターニヤの横も駆け抜ける。


「逃げて!」


 言いながら反射的に振り返って腕を伸ばし1人の襟首を掴んだ。今更ながら侍女の制服だと気付く。もう1人の侍女がアリシアへと駆ける。ほっそりとしているが身長は平均より高く、しかもコスティラではお転婆で鳴らしたナターニヤだ。襟首を掴んだ侍女を力一杯引き寄せ足をかけ床に叩きつけた。しかし、アリシアに向かった侍女の手に刃物が光る。エレナは呆然と立ち尽くす。


 きらめく凶器に、アリシアは反射的に両手でお腹を庇った。侍女が体当たりする。左腕に刃物が吸い込まれるのが見えた。思ったより痛くないな。と場違いに考えた。反射的に右手で刃物を持つ侍女の手を握る。刃物を引き抜こうとする侍女と揉み合いになる。刃物が刺さる左腕から血が溢れた。


 ナターニヤは床に叩きつけた侍女には目もくれず、アリシアと揉み合う侍女を後ろから羽交い絞めにした。それを見て気が緩んだアリシアが手を放し、左腕から刃物が引き抜かれた。吹き出た鮮血が飛び散った。絨毯を赤い血が点々と彩る。


「加勢しないなら、早く人を呼んで!!」


 ナターニヤがエレナに怒鳴った。我に返って慌てて人を呼びに行った。しかし、その時、ナターニヤは背後に気配を感じ、羽交い絞めにしたまま振り返る。床に叩きつけられた侍女が、頭を押さえゆっくりと起き上がっていた。少し探した後、床に落としていた刃物を拾い上げる。


 まずい! ナターニヤは侍女の1人を羽交い絞めにしている。アリシアは妊婦。初めの突進を防げただけでも奇跡だ。起き上がった侍女が、目を血走しらせ刃物を構えた。まるで何かタイミングを計っているかのように肩で息をしている。アリシアを睨み、アリシアはまたお腹を庇う。左腕から血が滴る。


 その間にも、ナターニヤが羽交い絞めにする侍女も暴れ刃物を振り回し、羽交い絞めにされたまま全力でアリシアに近づこうとする。ナターニヤが少しずつ引きずられていた。


「貴様ら! 何をやっている!!」


 それが合図のように刃物を構えていた侍女が飛び出した。エレナが呼びに行った衛兵だ。ナターニヤが羽交い絞めにしていた侍女を放した。突然、放された侍女は勢い余って倒れ、床に身体を叩きつけた。刃物が飛び床に転がる。それには目もくれずナターニヤは横を駆け抜けようとしていた侍女に身体をぶつけた。脇腹に冷たい物が当たった。そのまま倒れ込んだ。その時になって脇腹に痛みを感じた。少し刃物が掠めただけで、深い傷ではなさそうだ。


「あんた! 何やってんのよ!!」


 その声に目を向けると、アリシアが倒れた侍女の顔を踏みつけていた。興奮状態で痛みを感じないのか、左腕の傷を気にした様子はない。


 彼女は既に母である。自分の子を殺そうとした者に慈悲の心など持たない。ゲシゲシと踏みつけ、端正だった侍女の顔がみるみるつぶれた。だらしなく開いた口に白い歯が見えると、反射的にそこを狙う。歯並びが美しい口に爪先がめり込み、粉砕された赤く染まった歯が絨毯に散らばった。


 一瞬の出来事に出遅れた衛兵が、その失態を取り返すように駆け寄り侍女達を改めて抑え込んだ。衛兵がアリシアを羽交い絞めにするが、アリシアは懸命に足を延ばして、侍女の顔を蹴ろうとする。


「放して! 私の赤ちゃんを殺そうとしたのよ!」


 怒りに我を忘れている。正気に戻った時には覚えていないかも知れない。


 その後、衛兵に事情を説明した。もはや、アリシアの妊娠を隠し通す事は出来ない。しかし、その後に分かった事では、アリシアを襲った侍女達は、どうやら騙されていたらしい。


「私の父がアルファーノ伯爵様の屋敷でお世話になっており、アリシア様のお腹の子を始末しないと、父に罪を被せ処刑すると……」


 ナターニヤに組み敷かれた侍女が証言し、アリシアに顔を潰された包帯だらけの侍女も同じような事を筆談で証言した。しかし仰天したのは、当のアルファーノ伯爵家から来ているコリンシア嬢だ。


「わ、私、そんな話知りません! 確かに彼女達の父親は屋敷で使っておりますが、断じてそのような命令などしておりません!」


 サルヴァ王子のお子を殺そうとしたなど、間違いなく死罪。コリンシア嬢は泣き叫び否定した。では、誰から命じられたのかと改めて侍女に聞くと、初めて見る男だった。彼女達自身はアルファーノ伯爵の屋敷で働いた事はなかったのだ。後宮に入る時に伝手を頼りに雇われたのだ。伯爵の屋敷の者だと名乗られ、それらしい話をされ信じてしまったのだ。結局、誰が命じたか分からずじまいだ。


 コリンシア嬢は管理不行き届きで後宮を追い出された。彼女は泣きじゃくって懇願したが、侍女の管理、躾は、主人の責。罰せられなかっただけでもよしとすべきだ。そして、騙されたとはいえ侍女は当然、死罪である。その頃には既に正気に戻っていたアリシアが、騙されたのなら死罪は可哀想だと言ったが、王族を殺そうとしたのを可愛そうで見逃す訳がない。


 そうだ。王族なのだ。アリシアは王族ではないが、お腹の子は王族だ。サルヴァ王子の子だ。男の子ならば、正式な王妃が居ない今、跡取りでもある。国王夫妻は狂喜乱舞した。


「そのアリシアという娘を何が何でも守るのだ!」


 生真面目な王子が、流石にここまでは出来ないと考えていた、アリシアの部屋を数百の騎士が取り囲み警護すると言う厳戒態勢もクレックス王の命令で行われた。厳選した騎士達は不審者とすり替わられないように兜も被らず、文字通り隙間なく並んでいる。


 アリシアが口にする物は全て毒見がされ、運ぶのはアリシアの専属侍女エレナのみだ。王妃マリセラなどは、これでは逆にアリシアが負担に感じ、お腹の子に悪いのではと危惧するほどだった。


「何を言う。やっとサルヴァに子が出来たのだぞ! 何が何でも産ませるのだ!」


 女性蔑視にも聞こえるが、クレックス王としては散々待たされた待望の孫だ。アリシアの身分が庶民であろうと問題ではなかった。王子が身分の差を重く考え過ぎていたと言うより、親心というものを理解していなかった。散々待たされたクレックス王の心境の変化、状況の変化もある。


 これが5年前ならば、また違っていた。クレックス王は、王子が女性を妊娠させられるのだと安心し、それでは、もっと身分の高い女性にと、更に大量に寵姫を宛がっていた可能性も高い。しかし今では、男女にも相性というものがある。王子の子を妊娠出来るのは、このアリシアという者だけではないのか。そんな迷信めいた考えすら頭に浮かんでいた。


 それに、アリシアが妊娠するまで隠し通せたのも幸運だった。単にサルヴァ王子とアリシアが愛し合っている、というだけでは、他の寵姫とどう違うのか。ここまでの警護は付かず、命の危険は高かった。王子の心配も間違いではないのだ。


「もし、アリシアの身に何かあれば、手を下した者だけではなく、草の根をかき分けてもそれを命じた者も探し出す! 必ずや処刑してくれる! いや、次は責任者もだ。知らぬでは済まさぬ!」


 普段は温厚なクレックス王の気迫に、貴族達は震えあがった。父を尊敬する長女のチェレーゼがアリシアに嫉妬し、母のマリセラに愚痴を漏らしたほどだ。小姑として、アリシアをいびりかねない勢いだったが、マリセラ王妃にたしなめられた。


「お父様は、貴女が産む子供も待ち望んで居るのですよ。貴女が子を宿せば、お父様はきっと同じように心配してくれます」


 チェレーゼは尤もだと頷き、早速、結婚相手を探し始めたのだった。


 やっと訪れた王子のお子の懐妊の知らせに民衆も湧いた。それと同時に、彼女とナターニヤとの美談も持てはやされた。


 かつてサルヴァ王子が愛し凶刃に倒れたセレーナ様の御親友だったアリシア様が、サルヴァ殿下のお子をお産みになる。セレーナ様は凶刃に倒れたが、アリシア様はナターニヤ様が身を挺して庇った。セレーナ様と同じ悲劇は回避されたのだ。


 そうなると、実はナターニヤは以前から王子とアリシアとの関係を知っていて、自らが寵姫にもかかわらず2人の関係を陰から支えていたとの話も広まった。これも、セレーナがアリシアと行った賢婦人の険路行と重ねられ、ナターニヤの人気は、アリシアを上回るほどだ。


 そして、次のような冗談を飛ばす者も居たが、さすがに不謹慎だとたしなめられた。


 これでもう一度アリシア様が襲われ亡くなったら、次にはナターニヤ様がサルヴァ王子と結ばれるのだろうか。

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