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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
263/443

第172:世界大戦

 衛星上位国家たるベルグラードとバリドットは皇国の改革に従わず混乱を引き起こした。その責を両国王に求める。皇国では副帝アルベルドを中心にそう論議していたが、それが決定する直前、親しい皇国貴族から知らされた両国王は皇都にいた。国王達は驚愕、唖然としだらしなく口を広げたが、我に返ると抗議と弁明を立て続けに吐き出した。しかし親切な皇国貴族は諦めの表情で老いた首を振った。


「ほとんど決まっているとの事です。皇国は一度決めた事を覆さない。それは貴方もご存じでしょう。今は一刻も早く皇都を脱し、お国にて迎え撃つのです」

「迎え撃つ? しかしそれでは、それこそ皇国の怒りを買おう」


「皇国も今は国内を固める時。身内同士して争っている場合ではありません。強硬姿勢を取れば皇国も折れましょう」

「し、しかし、そうは言っても皇国が折れるなどと言う事があるか」

「では、座して死を待たれるのですか」


 いや、待たない。死にたくはないのだ。この程度で衛星国家の王が死罪になるのか。そう考えぬでもないが、つい最近、元皇国宰相が処刑されたばかり。確かに罪の重さは違うが、身分が盾にならぬのも事実。


 皇国は前言を撤回しない。ならば、強硬姿勢をとっても覆さない。その可能性も高いが、やってもやらなくても同じなら、少しでも命が助かる可能性が高い方を選ぶ。


 両国王は深夜領国を目指した。目立たぬように衛星国家の国王ともあろうものが地味な黒塗りの馬車に身を任せた。他国を攻めれば滅ぼしつくす皇国軍だが、身内である衛星国家にはそこまではすまい。という甘えもあった。しかし、皇都にあるペオニア宮を副帝府と定めたアルベルドは、副帝府の椅子で両王が逃亡、迎撃態勢を取るとの報告を受け激怒した。


「もはや、改革に従わぬではすまされぬ。明確な反逆である! それに対するすべは唯一つ!」


 青い瞳を怒りに燃やし堅い樫の肘掛を叩く。元々ドゥムヤータ胡桃の最高級品の家具が揃えられていたが、贅を尽くす為に副帝になったのではないと、全て樫の家具に取り返させた。しかし、身内同士の争いに苦言を呈する者も居る。衛星国家の王は、このような時の為に皇国貴族に娘を嫁がせているのだ。アルデシア王家の血を引く娘を息子の嫁に持つ貴族が進み出た。


「確かに皇国に対し軍勢を集め抵抗の意志を見せるは言語道断。ですが、まずは懐柔を考えるべきではありませんか。軍勢を発するはそれからでも遅くはありますまい」

「確かに両王だけの問題と見れば、それは正しい。しかし、今、甘い顔をし許せば、強硬姿勢を見せれば皇国は矛を収めるのだと見る者も多くなろう」

「で、ですが、これだけの事で討伐とはあまりにも厳しかろうと存じます」

「では、どれほどならば許し、どれほどならば罰するというのか。皇国とは何か。皇帝とはなにか。この大陸の神ではないのか。この大陸に秩序をもたらすものではないのか。その芯が揺らいでは大陸が揺らぐのだ」


 皇国内で皇帝の威信を盾にされては、それを打ち破る言葉は無い。老貴族は、どうやって息子を離婚させるかを考えつつ退席した。


 その他にも多くの貴族が嘆願したが、アルベルドは全てを論破した。両国王のみを罰し、縁戚にある貴族達の罪は問わぬと宣言した事もあり、やがてそれらも収まった。


 諸侯は軍勢を整え出陣した。しかし、皇国も改革の途中。大軍は動かせぬ。他の衛星国家の軍勢を合わせても、バリドットとベルグラードとに、それぞれ7万程度だ。それは両国の軍勢を上回るものだったが、勝負にならぬ規模でもないのも事実。国王を裏切って降伏を考え始めていたそれぞれの国の貴族達も、これならば要塞に籠って戦えば持ち堪えられるのではないか。そう考え、戦端は開かれたのだった。


 その間隙をぬって動く勢力があった。ドゥムヤータが前回のロタとの和睦案を不服とし、再度ロタに宣戦布告。ドゥムヤータの同盟国たるバルバールも参戦を表明した。ランリエルは、ドゥムヤータとは無関係。バルバールが参戦するのはバルバールの独自外交。その立場を明らかにした。


 ドゥムヤータからの戦線布告を受けたロタでは、迎え撃つ準備を整えつつデル・レイ王アルベルドに援軍を求める使者を送った。アルベルドは皇国の副帝となったのだ。衛星国家の討伐に軍勢を向かわせているとはいえ、こちらにも相応の軍勢を差し向けてくれるはず。その期待に胸を膨らませる彼らの元に返答の使者が訪れた。謁見の間でロタ王リュディガー・サヴィニャックに跪く。


「我が主デル・レイ王アルベルドの返答をお持ちいたしました」

「お待ちしておりましたぞ。して、アルベルド王は援軍を送って下さるのであろうな」

「は。我が主アルベルドは貴国に対し3万の軍勢を派遣なされるとの事で御座います」

「3万……」


 ロタ王は我が耳を疑った。臣下達もざわめく。副帝は皇帝に準じると聞いた。皇国は100万の軍勢を有する。十分の一でも10万。その期待に比べあまりにも少ない。臣下の列に落胆の溜息の幕がかかり、リュシアンも眉を潜める。


「何を言う。アルベルド王は、グラノダロス皇国の副帝の座にお就きになられた。3万という事はありますまい」

「我が主は清廉潔白なお方。地位を私とは致しませぬ。副帝に就いたはあくまで皇国の改革の為。他国に軍勢を送る為ではありませぬ。3万の援軍は、ロタ王の友人であるデル・レイ王としてデル・レイ王国軍を派遣するのです」


 理屈は、間違ってはいないな……。リュシアンもそれは認め、臣下達も顔を見合わせた。


「あ、うむ。確かに仰る通りなのだが……。もう少しどうにかして下さらぬか。デル・レイはもう少し軍勢を蓄えて御座ろう」

「現在、皇国では改革を進め衛星国家は賦役を負担し、更に衛星上位国家たるバリドット、ベルグラードの討伐にも軍勢を派遣しております。その中で3万を割くのがどれほどであるか。それを理解して頂きたい」

「あ、う、うむ……。そうであるか」


 確かに正しい。しかしアルベルド王には、何かロタを救いたくない理由があるのではないか。その考えがリュシアンの頭を過った。


 アルベルドは議論に強い。しかし、実は多くの場合で理屈では動いていない。無論、自分に有利な理屈が存在するならば、それを前面に押し出す。しかし、理屈で不利ならば、とたんに理屈を放棄するのだ。情などと言った、あやふやなものを持ち出し、むしろ、それを理屈で封じるなど冷酷な、とするのである。そして、まるで自分が正しいかのように世論を操作するのだ。


 それをリュシアンは見抜いていた。リュシアンは論客の1人である。主君の前で、弁論を持って戦い自らの主張を認めさせる。そしてリュシアンが弁論の相手として一番嫌なと思うのが、この理屈と情を使い分ける輩≪やから≫だった。理屈で追い詰めると、とたんに情を持ち出し決して敗北を認めない。やりにくい事この上なく、それだけにアルベルドのやり方が気に食わない。


 理屈でいうならば、ケルディラ東部の領有権はランリエルだ。確かにランリエルが攻めたが、東部の領有権放棄を条件に停戦を申し入れたはケルディラなのだ。それを、なんだかんだと理屈にならぬ理由でランリエルと敵対し、ロタを巻き込んだのはアルベルドだ。ならば、ロタを救うのにも理屈を超えてみせろ。


「う……ううっ」

 使者が突如、床に手を付き泣き崩れた。

「如何なされた!」


 元々王族ではなく、名声好きではあるが、それだけの男だったリュディガー王だ。腰が軽いところがあり、慌てて玉座から降り使者の元に駆け付けた。使者が刃物を携帯していないのは事前に調べているが、この世には素手で人を殺せる者もいる。警護の騎士も反射的に動きかけ、甲冑がガシャガシャと鳴った。国王の軽挙に責任者の騎士が、兜の下で苦虫を頬張る。


「申し訳ありませぬ。我が主もデル・レイの全軍をと。どうにかならぬかと軍務大臣に詰め寄ったのですが……。初めは1万の予定だったのです。それをデル・レイを限界まで絞り切りどうにか3万……。我が主は、リュディガー王に合せる顔が無いと。申し訳ないと、繰り返し申しておりました。それを思い、つい……」

「そうであったか……」


「失礼致しました。王の前で泣き崩れるなど使者失格。この責は如何ほどにもお受けいたします」

「何を言うか。我が方こそ、アルベルド王の苦しみを知らず、無理難題を言って申し訳なかった。アルベルド王の援軍3万。ありがたくお受けいたしますぞ」


 王と使者は手を取り涙した。臣下の中にも貰い泣きをする者も多数いるが、醒めた目の者も居る。リュシアンもそうだが、彼に伍するとも言われるバルバストルもだ。常にはリュシアンに対しライバル心を隠さぬバルバストルだが、この時ばかりは視線が合うと、余りにも見え透いた小芝居だと苦笑を投げてきた。


 だが、王が納得してしまったのなら仕方がない。今ある戦力で戦うしかないのだ。ロタ王の部下達が集まり、軍議が開始された。幸先悪く、まず漏れたのは愚痴だった。


「しかし、デル・レイの援軍が少ないだけではなく、ケルディラからの援軍が無いとはな……」

「何が反ランリエル同盟だ。いざとなれば何の役にも立たぬ」

「ケルディラの言い分としては、ランリエルが攻めて来たのではないので、反ランリエルとしての同盟は適用されぬという事だが……」

「ちっ! バルバールが参戦しているではないか。裏にランリエルが居るのは当然だ」


 あちこちで上がる声をリュシアンは聞き流した。ケルディラの援軍は不要だ。むしろ来て欲しくない。ケルディラが参戦しては、逆にそれによってランリエルらに参戦の口実を与えかねない。しかし、ただの愚痴を論破するなど無駄。収まるのを静かに待った。


 愚痴が終われば、状況確認が始まる。リュシアンはそれも他に任せ静かに待つ。


「我が軍は5万。それにデル・レイ軍3万を加え合計8万。敵はドゥムヤータ軍が6万。それに従属するブランディッシュは多くて3万。バルバールは多くて2万。合計11万ほどだ」

「ブランディッシュの総兵力はもう少し多かろう?」


「確かにそうだが、ドゥムヤータに従属していると言っても、ドゥムヤータが現国王の後ろ盾になっている。その程度の関係だ。現国王に心から従っていない貴族も多く、ドゥムヤータの戦に多くを負担すれば、その者達の反感を招く」

「なるほど。それではバルバールはどうだ? 奴らこそ2万ではきくまい」


「ドゥムヤータに加勢するは、あくまでバルバールの独自外交。他のランリエル勢力は関わり無し。その建前だ。その意味では前回と同じで、バルバール軍はコスティラ経由の陸路は取れない。海路を取るしかなく、前回バルバール軍は1万を上陸させた。今回の2万は多めに見てだ」

「今回に限ってコスティラ経由で大軍を送ってくる可能性はないのか?」

「ない。と見るしかない。そうなれば、もはやランリエル勢力全体の参戦。その兵力は……」


 戦力差は絶望的であり、勝敗を論じるまでもなく、考えても仕方がない。


 状況認識が終われば、次は如何に迎え撃つかだ。傍観していたリュシアンが端正な顔に緊張を浮かべながら進み出た。


「デル・レイ軍にはブランディッシュに当たって頂こう。援軍同士だ。ちょうど良かろう」


 本当は、客人同士と言いたいところだ。どうせ双方戦意は低く、睨みあいが続く。戦意の低い者に戦力を集中し撃破する手もあるが、窮鼠猫を噛むという事もある。追い込み過ぎれば思わぬ害になりかねない。逆に、戦意ない者を戦意ある者にぶつけても、戦果が上がらない。戦意の低い者同士、仲良くして貰う。


「そうなると、後はドゥムヤータ6万。バルバール2万をどうするかか」


 バルバストルがリュシアンの案を是とし、自然に話を進ませた。彼も優れた男だ。この危機に、無駄な足の引っ張り合いはしない。それどころか、緊張した表情の中にも、この状況を楽しんでいるかのように口元が吊り上る。文官の礼服より、軍服が似合う男なのだ。


「それには、まず基本方針として、守りきるのか、撃退するのか、それを決めねばなるまい」

「撃退する、と言いたいところだが、守りきるのが現実的だ」


 口を開くのはリュシアンとバルバストルばかりだ。現状、王政の1番手2番手の彼らである。取り立てて貰うにはまず目立たなくてはならず、多くの者が口を挟む機会を窺っているが、叶わずにいた。


「そうだな。ならば、我が軍3万5千をドゥムヤータ、1万5千をバルバール。そんなところか」

「今回、奴らはおそらく皇国の動きに合わせて動いている。つまり急遽出陣を決めた。蓄えはそう多くは無いはずだ。守りを固め、敵が撤退するのを待つ」


 いうなれば国ごとの籠城だ。とはいえ、デル・レイからの更なる援軍は望めない。まことしやかに、援軍無き籠城は死を待つだけとも言われるが、現実問題、籠城する方が守るに有利なのには違いない。籠城して負ける状況で野戦を挑めば、なおさら勝ち目はない。


 援軍無き籠城をするくらいなら打って出る、というのは、多くの借金を持つ男が、真面目にコツコツ返していたがそれでもやっぱり返しきれず首を吊る寸前に、こうなるくらいだったら博打でもすれば良かった、と死ぬ間際に漏らす愚痴のようなものだ。その博打に勝つ者も居るが、地道に返して居れば返せていたものを、博打に手を出し全てを失う者はもっと多い。


 無論、敵を撃退できる策があるのに籠城するのは馬鹿げているし、敵の蓄えがこちらの蓄えを上回っているのが確実ならば籠城も考えものだが、籠城していたら攻め手の主将が病死して撤退したという事例すらある。


「問題は、ブラン殿をどこに置くかだな。ブラン殿の騎兵隊が、我が国の最強部隊だ」


 ブランか……。望みを言えば、バルバールと戦い、猛将グレイス、そしてディアスとの決着を付けたい。しかしそれは私事。今は戦局全体を見る必要がある。


「以前、バルバールと戦った時は、ブランの存在が知られぬ事を逆手に取った。しかし、今は名が知られている。今回はそれを利用するべきだ」

「バルバールのグレイス殿は大陸でも名を馳せた猛将。ブラン殿はそのグレイス殿と互角と見られている。ブラン殿のあるところ、敵は恐れ味方は士気上がる。ブラン殿並みの武将が2、3人欲しいところだな。そうなれば、守るどころか撃退も出来るのだが」


 その無茶な言い分にリュシアンが苦笑を浮かべる。勿論、バルバストルとて本気ではない戯言だ。口元に笑みが見える。


「まあ、それはともかく。それより先に防衛拠点をどこにするかを先に決めよう。ブランをどこに置くかはそれからだ」

「確かに」


 国内には、王家直轄の城塞や貴族達所有の城など数多くある。全てを守れるならそれに越した事はないが、その数は50を超える。5万の軍勢で全てを守れば単純計算で1城1千。それでは兵力分散だ。主要拠点は10城程度に絞り、他は出来れば破却したい。


「城塞の堅牢さ。交通の要衝としての重要さ。それを考慮して選ぶ必要がある。ブラン殿には、その中で要となるところを守って欲しい――。どうなされた? 何か心ここにあらず、に見えるが」


 地図を指さし語るバルバストルが目を向けると、リュシアンの視線は地図に向いてはいるものの、その視線はバルバストルの指を追わず話を聞いていないのは明らかだった。


「あ、ああ。すまない。拠点とする城には貴族達が所有する物も多かろう。まず、その者達から城の構造について話が聞きたい」

「確かに構造に欠陥がないとも限らんが、それは敵が来る前にある程度は修復出来よう? 他に何か気にかかる事がおありか?」


 1日の余裕もないという状況ではない。無論、作り直す必要があるほどの欠陥なら間に合わないが、それほど極端な例を想定して作戦は立てられない。現実的なのは、複数の候補を選びつつ城主達にも話を聞く事だ。しかし、彼らは、更に2、3言葉を交わした後、バルバストルもリュシアンの言葉を了承したのだった。



 ドゥムヤータを出発した6万の軍勢は、ロタ王都ロデーヴを目指し北上した。軍勢を率いるのは選王侯の1人リファール伯爵だが、今回は、シルヴェストル公爵も着なれぬ甲冑に身を包み馬を進ませていた。軍の指揮に口を出す気はなく、今後の参考の為だ。


 かなり悠長な話ではあるが、以前の戦いでは圧勝に近かった。ロタの情報操作によりデル・レイ、ケルディラの参戦があると信じていた時は劣勢だったが、それを看破してからはドゥムヤータは怒涛の進撃を行い、ロタは皇国に泣き付き和平を申し入れて来たのだ。デル・レイからの援軍はブランディッシュが抑え相殺され、実質、ドゥムヤータ、バルバール連合がロタを攻めるのも前回と同じ構図。しかも、現在のロタはその時よりも国力は落ち、こちらは上がっている。順当に考えれば負ける要素は見当たらない。


 ただ、順当にといえば、ブランディッシュとの初戦でドゥムヤータが敗北するのもありえなかった。しかし負けた。その事もあって、軍の指揮に口を出す気はないが、無茶の歯止めはする。程度の考えは公爵にもある。


 公爵の隣には、甲冑を着なれた騎士が居る。元情報士官で、今では公爵の軍事的生き字引となっているジル・エヴラールである。


「この先にあるアブヴィル城はロタの重要拠点。多くの兵で守っているのは間違いありません」


 ドゥムヤータからロタに続く街道はいくつもあるが、そのほとんどがこの先にあるアブヴィル城付近で交差する。もし、ドゥムヤータがここを無視して進めば、ロタこそがここからドゥムヤータに逆侵攻をしかけ、本国が危ないとドゥムヤータ軍は撤退するしかない。ドゥムヤータが必ず攻める場所であり、ロタが必ず守るべき場所である。


 しかし、アブヴィルが近づいた時、ドゥムヤータの先頭集団は停止し、どうしたのかと2人は馬を駆けさせた。先頭集団の士官から報告を受けていたジルに公爵が説明を求める視線を送ったが、その先にあるのは愕然とした顔だった。


「そんな……まさか。ありえない」

「やはり、おかしいのか?」

「おかしい、どころではありません。ここで我らを迎撃しなければ、戦力差が響いてくるはずなのです。数に劣るロタがなぜここを守らない」


 城を攻めるには3倍、時には10倍の兵が必要と言われる。アブヴィルはドゥムヤータが必ず落とさねばならぬ城だ。ロタもここに全兵力は集中する訳には行かないが、それでも1万も置けば、戦況は有利となる。逆に、ドゥムヤータ軍は、ここを通り過ぎれば行動の自由が得られる。そうなれば、どこを攻められるか分からぬロタ側は、ただでさえ少ない兵力を分散して守らなくてはならない。


 にもかかわらず、アブヴィル城の城門は破壊され、城壁は突き崩されていた。そして城内の物資も全て運び出されていた。ロタは重要拠点を放棄したのだ。


 そして、ロタ、ドゥムヤータ、そしてデル・レイらの動きを見届けたかのように動く者が居た。コスティラが、ケルディラへの再侵攻を宣言したのである。


 大陸全土が揺れ動いた。ケルディラの後ろにはランリエルが存在し。ランリエルが動けば東方諸国もだ。皇国とその衛星国家は言うまでもない。タランラグラを除くほとんどすべての国が戦う。世界大戦。


 その中で漏れている2つの国、いや、1つの勢力があった。ゴルシュタット=リンブルク二重統治。彼らだけが不気味な沈黙を守っていた。

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