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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
206/443

第117話:相談女

 リンブルク王国は、現在大国ゴルシュタットの傀儡と化している。リンブルクの臣民はそれを恨み、いずれゴルシュタットからの独立を果たさんと屈辱に耐え、その機会を待ち望んでいる。一見、ゴルシュタットに組している者達も、力の前には従うしかないという計算の産物であり、可能ならば、という心を隠し持つ者が大半である。無論、人の集団が満場一致で纏まるのは稀であり、同意見でない者も居る。だがそれも少数派であり、取るに足らない。ただし、その人数においてだ。


 反ゴルシュタット派――実質、反ベルトラム派――にとって、まことに不味い人物が親ゴルシュタット派なのだ。たとえ、懸命の努力の結果、ゴルシュタットを追い出しても、それがすべて徒労に終わる。それほどの重要人物である。


 リンブルク王国第一王子にして、唯一の王子フリッツ。現リンブルク王の後を継ぐのは基本的に彼しか居ない。一応、彼の従弟などもおり王位継承権があるといえばあるのだが、よほどの事がなければ彼を差し置いての即位などありえない。その彼が、親ゴルシュタット派、いや、自称開明派だった。


「民草を思えば、大国ゴルシュタットの庇護の元に発展するのも悪くはない。国とは一部の王族や貴族達だけの物ではないのだ。自らの富貴のみを求めず、広く民衆の糧を考えるべきである」


 なぜフリッツ王子がこのような思想を持つに至ったかといえば、ロタ経由で貿易によりもたらされた異国の書物の影響と言われている。元々は、身分の低い者の為の物らしいのだが、どうやらそれに感化されたらしい。


 反ゴルシュタット派にしてみれば、苦労してリンブルクの独立を果たしても、この開明派の王子が王位を継げば自らゴルシュタットを引き入れかねない。そうなれば折角の努力が水泡に帰すどころか、ゴルシュタットを追い出すのに尽力した者達が粛清されかねない。


 反ゴルシュタット派、すなわち反ベルトラム派の首魁であるシュバルツベルク公爵は、現在やむなく当のベルトラムと手を組んでいるが、裏では着々と再逆転の手はずを整えている。その公爵にとってフリッツ王子は、奇襲をかけようと道を迂回し進んでいる先に現れた断崖絶壁であった。


 そして、その開明派の王子は今、1人の侍女と密会中だった。王室の空き部屋の1つに彼女を連れ込み愛を囁き、小柄で可憐な侍女の細い身体が王子の胸にすっぽりと収まっている。


「お前を愛しく思っているぞ」

「勿体のう御座います。私など殿下のお傍に居られるだけ、幸せで御座いますのに」


「何を言うか。下々の者を人とも思わぬ貴族令嬢達などより、健気に働くお前の方がはるかに素晴らしい女だ」

「ああ。フリッツ様」


 王子は侍女を強く抱きしめ、まだ日も高いにもかかわらず、そのまま押し倒さんばかりだ。当然、他の侍女達はまだ働いている時間であり、どうして彼女がこんなところで密会出来ているのかといえば、2人の関係は既に侍女長の知るところであるからなのだが、王子はそれに気付いていなかった。


 当然この部屋も他の侍女達の掃除対象から外されており、2人の邪魔をする無粋な真似はしない。侍女長にとって自分達の存在意義は王族の方々に如何に心地よく過ごして貰うかなのである。


 だが、事が終わるまでは誰も来ないはずの空き部屋の扉が、突如開け放たれた。押し倒されていた侍女は小さく叫ぶと王子の胸にしがみ付き、王子は入って来た侍女と目が合った。事態に動揺する王子の視線と、冷たく動じない侍女の視線がぶつかる。


「部屋をご使用とは存ぜず、失礼致しました」


 入ってきた侍女は、豊かな乳房と大き目の尻、その二つを繋ぐ腰は引き締まり、それだけ見れば男なら誰もが目を向ける肢体だ。しかし、その顔は美しいものの表情に乏し過ぎた。


 どんなに美しくとも、正常な性癖を持つ男ならば女神の彫像に欲情しない。彼女の顔を見た途端、確かに美しいがただそれだけだ。とほとんどの男が彼女への興味をなくすのだ。


 そしてフリッツ王子も彫像に欲情する性癖は持たず、一瞬その身体に釘付けになった目も、その後確認した彼女を瞳に写すと興味を無くした。謝罪し頭を下げた後、すぐに部屋を後にした侍女への感心は既に無く、胸で泣く愛しい侍女に言葉をかけた。


「大丈夫だ。もうあの女は出て行った」

 そう言って侍女の頭を優しく撫でる。しかし侍女は王子の胸に顔を埋めたままだ。

「ですが、もしあの人が皆にフリッツ様との事を喋れば……」

 と、更にしがみ付く。


「そうだな。確かに私とお前が愛し合っていると知られれば、皆は嫉妬し、お前に酷い仕打ちをするかも知れん。分かったあの女には口止めしておこう」


 無表情の侍女を追いかけ王子は部屋を駆け出し、後には、ちょっと大げさに怖がって見せ王子に甘えただけの積もりだった健気な侍女がぽつんと残されたのだった。


 部屋を飛び出した王子だったが、既に無表情な侍女の姿はない。どこかの部屋に入ったか、廊下を曲がったか……。やむなく止めた足を再度動かし部屋に戻ろうとした途端、後ろで扉が開く音が聞こえた。反射的に視線を向けると、果たしてさっきの侍女が部屋から出てくるところだった。


 どうやら、順番に部屋を一つずつ掃除しているようだ。侍女も王子の姿を見つけると深々と頭を下げ、次にはそのまま向かいの部屋に入ろうとする。


「おい。ちょっと待て」

「はい。御用で御座いましょうか」

 王子が声をかけると足を止め、また深々と頭を下げた。


「用ではない。さっきの事だ。誰にも話すなよ」


 愛しい健気な侍女を怖がらせた無表情の侍女にその声は冷たい。もっとも言われた方は、その固まった表情を崩さず

「かしこまりました」

 と再度深々と頭を下げる。


 侍女ならば、王族たる自分の前に出たならば少しは恐れ入ったらどうなのか。それに比べ愛しい健気な侍女は、いつまで経っても分を弁えている。こんな身の程知らずな者はもう捨て置くべきだ。


「良いか。必ずだぞ!」

 王子は厳命し、むかつく侍女の真正面に進み、彼女に避けさせて愛しい侍女の元に戻ったのだった。


 その後、楽しい時間を過ごした王子だったが、翌日、ある光景を目にした途端に不機嫌となった。中庭を囲むように建設された建造物の2階の廊下を歩いていると、中庭を挟んで対面にある廊下に昨日の無礼で無表情な侍女が、掃除道具を持ち歩いているのを発見したのである。


 箒や階段の手すりを磨くワックスとブラシを持ちきびきびと歩いている。だが、あまりにもその歩調は一定で、まるで作り物の人形の――。

 ガシャンと、段差のないまっ平らな廊下で、何故か豪快に転んだ侍女が掃除道具をぶちまけた。慌てた表情で掃除道具をかき集めるとすくっと立ち上がり、その時には既に人形のような無表情に戻っている。人形の目で周囲を見渡し、王子と視線がぶつかる。


 完璧に見えて実は不器用なところもある侍女は、顔をみるみる赤くし表情には怯えのようなものまで浮かぶ。掃除道具を胸に抱えると駆けるように王子の前から姿を消したのだった。


 更に翌日、同じ時間に同じ場所にフリッツ王子は居た。もしかしたらと待っていると、果たして昨日の実は不器用なのではという侍女が、同じように掃除道具を持ちやって来た。そしてやはり同じ場所で豪快に転ぶ。


 昨日、王子に見られたのを思い出したのか、彼女は道具を拾う前に慌てて周囲を見渡し王子は反射的に隠れた。誰も見ていないと確認した、本当は不器用な侍女は道具を拾い集め立ち上がると、毅然とした態度でその場を後にしたのだった。


 また翌日、同じ場所、そして違う場所で王子は待っていた。そして侍女がやはり同じ場所で転ぶ。その瞬間、侍女が進もうとしていた廊下のその先の角に身を隠していた王子が躍り出る。


「どうした。お前はいつも同じ場所で倒れているな」

 とさわやかに笑顔を向け、なんと王子様自ら彼女がぶちまけた掃除道具を拾い集めた。


「そ、そんな恐れ多い」

 無様なところを目撃され、侍女にはいつもの余裕がなく羞恥に顔が赤い。慌てて自分で道具を拾おうとするが、その前に王子がすべて拾い集めていた。


「しかし、どうしていつもあそこで倒れるのだ? 躓くものなど、何もないであろう?」

 そう言いながら、拾い集めた道具を侍女に押し付ける。


「は、はい。そうなのですが、仕事の段取りなどを考えながら歩いていると、何故かいつもあそこで……」

「なるほど、考え事をしていてか」


「以前居たところで、仕事の段取りが悪いと叱られておりましたので、ここでは一生懸命に働こうと……。申し訳ありません」

「ふ。何を謝る。一生懸命なゆえではないか。謝る事などない」


 その言葉に、一見無愛想に見えて本当は不器用で健気な侍女は更に顔を赤らめ、王子から受け取った掃除道具を抱きしめる。豊かな胸に掃除道具が埋まり、見ようによっては卑猥な姿だが、侍女は気付いていないようだ。だが、顔を赤らめる柔らかい胸の侍女を前に、王子は無意識に好奇な視線を向けた。


「そ、それでは失礼致します」

 侍女は赤い顔を俯かせ王子の横を通り過ぎたが、次第に顔を上げ歩く姿勢も良くなる。廊下の角を曲がる頃には、その表情もまた無表情に戻っていた。


 更に翌日、同じ時間、そして廊下を進む侍女からも見える場所で王子は待っていた。一見無愛想に見えて本当は不器用で健気な侍女は、人形のように表情を動かさず歩いていたが、王子と目が合った時一瞬その顔に笑みが浮かぶのを王子は見逃さなかった。今日は転ばなかった、表情に乏しいように見えて本当は輝くような笑顔を持つ侍女は、王子の近くまで来た時には人形の顔に戻っていた。


「笑えるのではないか。笑わないのにも理由があるのか?」


 その言葉に、彼女自身は自分が笑みを浮かべた事に気付いていなかったのかみるみる顔を赤くした。一瞬両手で顔を隠そうとしたが手にする掃除道具が邪魔でそれも出来ず俯いて顔を隠そうとする。


「恥ずかしがる事はない。言いたくないのなら言わなくとも良いのだぞ?」

 とはいえ、王族にこう言われて、では話しません、とはいかない。


「そ、それではこちらに」

 と、空いている部屋に王子を引き入れた。


 いきなり男を空き部屋に誘い込むとは……。実は笑顔が可愛く不器用で健気な侍女と思っていたにもかかわらず、本当はふしだらなのかと王子は興ざめの表情だ。それに気付いたのか、侍女は慌てて口を開く。


「もし殿下と2人で居るところをあの方に見られ、御2人の仲が悪くなってはと……。決してやましい気持ちでは……」

「はっはっはっ。それは気にし過ぎだ。話を聞くだけで何のやましい事などあるまい」

 侍女は更に顔を赤らめた。


 その後侍女は、以前の屋敷でそこの主や他の使用人にまで迫られ苦労し、それを防ぐ為に感情を表に出さぬようにしている事などを語った。


「なるほど。お前も苦労したのだな」

 と王子は慰める。


「殿下は不思議なお方ですね」

 と侍女は微笑んだ。


「何がだ?」

「私のような者の話を真剣に聞いて下さるのですもの。殿下のような方は初めてです」


「なに。話くらいいくらでも聞いてやる」

「有難う御座います」


 侍女は王子の胸に飛び込み、やっぱりこの女も王族たる自分に媚を売るだけなのか? と失望が広がりかけた瞬間、慌てて侍女が飛びのいた。


「も、申し訳ありません! 私ったらなんて事を……。嬉しくて、つい。殿下にはあの方が居るというのに……」

「気にするほどの事ではない」

 だが、王子はふと気付いた。


「しまった。あの者と会う約束をしていたのだった」

 あの者とは当然、元祖健気な侍女である。


「それは大変です。早く行ってあげて下さい」

「ああ。すまない」


「いえ。そんな恐れ多い。私が殿下を引き止めたからで、殿下の所為ではないとお伝え下さい」

「うむ。分かった」


 王子は慌てて部屋を出て、愛する侍女の元へと向かった。いつもの空き部屋に滑り込むと果たして愛する侍女の姿があった。


「待ったか?」

「いえ。殿下こそお忙しいところ、私などの為に……。嬉しい」

 と王子の胸に顔を埋める。


「以前、この部屋で鉢合わせた者が居たであろう。あの者と会っていたのだ」

「あの人の?」

 見上げた侍女の瞳に不安の色が見える。


「なに。あの者もああ見えて色々と苦労しているらしくてな。話を聞いてやっていただけだ」

「そ、そうで御座いますか」

 そう言われても、他の女と会っていたと言われて、はい、そうですか。と思う女は居ない。もしかしたら? と不安の色は拭いきれない。


「なんだ。私を疑っているのか?」

「け、決してそのような事は」


 侍女は無理をして笑顔を作り、気を取り直した王子との一時を過ごしたのだった。


 しかし、その後も王子は、冷然とし完璧に見えるが実は控えめで不器用で健気な頑張り屋の侍女と会うのをやめず、話を聞いてやっていた。


「実は、感情を表さず他の人達とかかわらないようにして、男の人に声をかけられなくなったのは良いのですが、実は、侍女仲間達からも疎遠にされてしまい」

「なに? それは酷いな。よし、私から言ってやろう」


 王子は義憤に燃えたが、心優しい侍女は慌てて止める。


「い、いえ、そんな。私が人とかかわらないようにしているのが悪いのです。決して、彼女達の所為ではありません」

「では、なぜ私にそのような話をする」


 男は、女性から相談されれば、それを解決して欲しいと言われていると受け止める。ほって置いて欲しいならば、どうしてわざわざ相談するのかと、王子の声には棘がある。


「自分の心を知ってくれる人が居る。それだけで、心が安らぐのです。私には殿下しか……」

「なるほど。私で良いのなら、いくらでも聞いてやる」


「有難う御座います」

 毅然としているように見せて実は寂しがりやな侍女は王子の手を取り、顔を赤くして慌ててその手を離した。


 その後、またも王子は最近では嫉妬深くなってきた侍女が待つ部屋へと向かった。


「殿下。またあの人のところに行っていたのですか?」

 と、身分も弁えず非難の目を向けてくる。


「だから、話を聞いてやっているだけと、何度も言っているであろう」

「で、殿下はあの方と私のどちらが大事なのですか」


 ちっ! どうして女は、どっちが大事などと詰まらん事を聞いてくるのだ。


「お前の方が大事に決まっているだろ」

「では、なぜあの人に会いに行くのですか」


「くどいぞ! あの者には私しか居ないのだ。話を聞いてやるくらいなにが悪い!」

「私だって、殿下しか居りません!」


「お前には、いくらでも侍女仲間が居るだろ」


 恋人としての愛情を、仕事仲間の存在の有無と同列に語られ彼女は絶句した。もはやどう言えば愛する王子が分かってくれるか分からず、これだけは言うまいと思っていた言葉を口にする。


「殿下。実は、申し上げなくてはならない話があります」

「なんだ」

 突然、口調が改まった彼女に、王子も身構える。


「あの人は、殿下のお父上であるウルリヒ殿下の情婦なのです」

「なんだと!? ば、馬鹿な」


「本当です。侍女達で知らない者は誰一人おりません」

「まさか……」


 人を寄せ付けぬ美貌で完璧に仕事をこなすが本当は寂しがりやで不器用で健気で頑張り屋なあの侍女が、父をたぶらかしているというのか。裏切られた。可愛さあまって憎さ百倍である。


 王子は明日まで待てず部屋を飛び出し、父に色目を使う性悪な侍女を探す。そしてやっと見つけ出すと、近くの部屋に連れ込んだ。中に入ると侍女を壁に押し付け、彼女は苦痛に身悶えるが、構うものかと顔を近づける。


「お主、父上をたぶらかしているというのは本当か!?」

「だ、誰にそれを」


「誰でも良い。本当なのだな!」

「あの方なのですね……」


 不器用で健気だと思っていたら、とんだ淫乱だった侍女は崩れ落ちそうになるが、王子に押さえつけられそれもままならない。


「お前がそんな女だったとはな」

「い、いえ、違います。決してそのような事はありません」


「何が違うというのか!」

「私は、ウルリヒ陛下から夜部屋に呼ばれて本を読むように仰せつかっているのです」


 彼女を壁に押し付けていた王子の手が、少し緩んだ。


「そういえば、父上は、侍女にそのような事をさせていると聞いた事があるな」

「私の声を、陛下はお気に召し、何度も部屋に呼ばれ……。その内に心無い人々がそのような噂を……」


「では、お主が父上をたぶらかしているという話は嘘なのだな?」

「はい。信じて下さい」


 侍女は王子の胸に飛び込み、王子も抱きしめた。彼女の柔らかく大きな胸が押し付けられ、元々は華奢な女が好みだった王子も、これはこれで良い物だと思った。


「なぜ、早く言ってくれなかったのか。そうすればお前を疑ったりはしなかったものを」

「私などどうでも良いのです。ですが陛下の、貴方様のお父上の良からぬ噂を、お耳に入れる訳には行かないと……」


「お前は、そこまで私の事を考えてくれていたのか」

「殿下……」


 こうしてフリッツ王子は、身分を弁えず王族たる自分に嫉妬し、その挙句、根も葉もない噂で無実の女を傷つけるろくでもない侍女と別れ、冷たく人を寄せ付けぬ美貌で人々と壁を作り淫乱だと陰口を叩かれながらも、本当は人を引き付ける笑顔と不器用な健気さを持つ心優しい侍女と結ばれたのだった。


 その数日後、王子と結ばれた侍女は、とある男と空いている部屋で密会していた。


 男の身分は高いらしく、身に着ける物は、靴から髪を撫で付ける香料まで、まさに爪先から髪の先まで最高級の品で固めている。そしてそれ以上に、彼の身分が高そうだと印象付けるのは、常に人を見下すその視線である。


「どうだ? 今までどんな才色兼備な令嬢達を送り込んでも難攻不落だったフリッツ王子だ。お前の手には余るだろう」


 確かにこの女は、色々な女を演じ分けられるようだが、それでも、せめてどこかの令嬢なりに身分を偽って近寄るべきだ。侍女のままではどうにもなるまい。と、開かれた口から出る言葉も見下して聞こえる。


「いえ。簡単でした」


 やはり人形のように動かぬ表情のシモンの答えは、もはや過去形だった。

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