第60話:逆転
戦況は一変した。ランリエル勢力が参戦したと、ロタ王国は慌てふためき大混乱に陥ったのだ。
時は、サルヴァ王子とシルヴェストル公爵との交渉の場へと遡る。
「ランリエルの支援が不要とは、随分強気ではないか。シルヴェストル公爵」
サルヴァ王子が卓に右肘を付き、拳に顎を乗せながら、醒めた、しかしその奥に怒りの炎を秘めた視線を向けるが、公爵は自信に満ちた目でそれを受け止めた。
「はい。不要です。サルヴァ殿下」
「だが、貴公がよほどの夢想家でなければ、他の支援が無くばドゥムヤータに待つのは滅亡だ。貴公は、もう少し計算出来る男かと思っていたが、買いかぶっていたようだな。これは我が国も、本気でデル・レイ、ケルディラと共にドゥムヤータを攻める道を考えた方が良いかも知れんな」
そう言った王子の目に嘲りの色が見える。だが、やはり公爵の瞳は揺るがない。
「ランリエルにそれが出来ますかな?」
「どういう意味だ?」
「貴方が5ヶ国からなるランリエル体制。我が国を攻めればそれが崩壊すると申し上げているのです」
「何を世迷言を。貴国を攻め、どうして我が体制が崩れるというのか」
「その一員たるバルバール王国と、我がドゥムヤータは独自同盟を締結いたしました。我が国を攻めるのはバルバールを攻めるのと等しい。ランリエル勢力同士で相打つお積もりですか」
このランリエル王都には会議の為バルバールの首脳部も揃っている。公爵にとって交渉相手には事欠かない。バルバールにはテルニエ海峡の通行税の全て。無論それはコスティラも権利を主張するだろうが、それはバルバールが請け負う。そして、テルニエ海峡の内側、内海に浮かぶバスティア島。このドゥムヤータが領有する島をバルバールに譲渡する。そして、同じく、内海に浮かぶロタ王国領有の島々はバルバールの切り取り放題という、破格の条件での同盟だ。
「馬鹿な。そのような同盟、私が許さん!」
怒りに燃えながらも余裕を見せていたサルヴァ王子が身を乗り出し叫んだ。
「許さない? どう許さないと言うのです。貴方は確かに言った。バルバールがドゥムヤータと戦うのを止める事は出来ないと。ならば、バルバールが我が国と共にロタと戦うのも止められないはず!」
「わ、我が国もバルバールとは同盟国だ。同盟国たるバルバールが、ロタ、そしてデル・レイ、ケルディラの3ヶ国に戦いを挑む無謀を、友人として止めるのは当然ではないか」
「友人ならば協力して頂きたい!」
「バルバールがドゥムヤータと同盟を結ぶので、ランリエルにも手を貸せというのか! ふざけるのもいい加減にして貰おう!」
「そうは申しておりません。ランリエルには、ただ傍観して頂きたい。ロタ、もしかするとデル・レイなどからも使者が送られてくるかも知れませんが、ドゥムヤータと同盟を結んだのかと問われても、それは機密なので答えられぬとお答え頂ければ結構。私から大量のドゥムヤータ胡桃の品がランリエル貴族に贈られ、彼らは同盟が成ったと沸き立ち、そこにバルバールの参戦。誰が見てもランリエルとドゥムヤータとの同盟が成立したと見るでしょう。そうなれば、彼らも迂闊には動けなくなる。なに、全てが終われば、同盟の申し出を正式に拒否し公表して頂いて構いません。同盟が成ったと勘違いした彼らが悪い」
「いい気になるでないぞ。シルヴェストル公爵。私がそれをロタに漏らせばどうなる。圧倒的不利になると、バルバールも同盟に二の足を踏むであろう」
「交渉を他に漏らすのは、信を失うのではなかったのですか。サルヴァ殿下!」
王子が呻き、口をつぐんだ。王子自身が公爵に言った台詞だ。
「ドゥムヤータとランリエルは、まだ交渉中です。同盟が成るも成らぬも、他に漏らさないで頂きたい」
「ならば今すぐ返答してやる。ランリエルは正式にドゥムヤータからの申し出を断る。 内外に大々的に発表してくれるわ!」
「バルバール王国とは、既に同盟の証として正式に誓約書を交わしております。今更バルバールは後には引けません。これで動かなければバルバールは信を失う。バルバールの友人として、ランリエルは協力すべきと考えるのですがどうですか? それとも、あえてバルバールの不利をするのが友情とおっしゃるか」
「バルバールを人質にでもした積もりか!」
「まさか。ただ、親しき者にも礼儀を尽くさねば愛想をつかされる事もあると申し上げているだけです。バルバールの不利をして、友情が保てるとでも?」
「たちの悪い性悪女に友人が引っかかるのを止めるのも立派な友情であろう。一時恨まれても、時が経てば感謝されるものだ」
王子と公爵。両者激しながら言葉を交わしていたが、突然、公爵は身を正し口調も改めた。
「ですが、我らは既に誓約書を交わした仲。伴侶の友人とは、私も仲良くあろうと考えているのですよ」
公爵の突然の方向転換に、サルヴァ王子が改めて視線を送った。鋭いものを含みながらも先を促している。公爵が数枚の資料を手渡し、王子がそれに目を通す。読み進める王子が上目遣いに公爵に視線を送る。王子の視線にも、激情の代わりに為政者としての冷静さが甦っている。
「これを分け前に我が国に戦いが終わるまで交渉内容を黙っていろとでも言いたいのか」
「分け前などとは。ただ、黙っていて頂ければ結果的にこうなると申し上げているだけです」
そうは言うが、実質同じ事だ。王子が漏らせば、手に入れられず、黙っていれば、手に入れられる。
「私が申し上げたい事はこれだけです。後はサルヴァ殿下が決断なされるかです」
後はそちらが決断する事。それは、サルヴァ王子が自分をドゥムヤータ王にしろと公爵に詰め寄った時に言った言葉だ。そして、バルバールとの友誼、そして利益を考えた場合、進むべき道は1つだった。
「返答は、改めてこちらから寄越そう」
王子はそう言って公爵を帰した。だがそれは、実質的に公爵の勝利を意味する。公爵の要求は、戦いが終わるまでサルヴァ王子が返答しない事なのだ。
公爵が姿を消した部屋に、ある男が入れ替わるようにウィルケスの案内で入ってきた。ただし、公爵が出て行った扉とは別の扉だ。公爵がその白い顎鬚を持つ男と顔を合わせていれば、驚愕に目を見開いたであろう。
「お疲れ様でした。サルヴァ殿下。公爵はかなりご立腹だったようですな」
「ああ、スオミ殿。私もかなり追い込んだからな、公爵が腹を立てるのも仕方がない」
それは、バルバール王国宰相スオミだった。
ドゥムヤータとの同盟で動いたバルバール軍は、ロタ王国東北部に上陸したディアスのみではない。海軍提督ライティラも艦隊を率い動いている。
ドゥムヤータ王国沿岸各地を攻撃していたロタ艦隊だったが、ランリエル勢力の総力を考えれば、艦艇数で大きく劣る。何せランリエル艦隊は勿論、バルバール、コスティラ艦隊もあるのだ。それを合わせればロタ海軍の倍を軽く超える。
ドゥムヤータ艦隊など相手にならぬとドゥムヤータ沿岸各地に分散し散っていたロタ艦隊だったが、体勢を立て直そうと慌てて海軍要塞ドーヴィルに向かったのだ。だが、それをバルバール海軍提督ライティラは見逃さなかった。バルバール艦隊の艦艇数はロタ艦隊の半数を超える程度だが、ロタ艦隊は分散している。
「先頭を押さえると奴らは別方向に向かいそこで集結する。そうなれば艦艇数で我らを上回る。あえて、半数ほどは要塞に逃げ込ませ、途中分断する。要塞に逃げ込めなかった残り半数を叩くのだ!」
要塞に逃げ込めなかったロタ艦隊は分散している為、組織的に動くバルバール艦隊の敵ではなく、次々と側面を衝角に突き破られ沈んだ。何とか逃げつつ残存艦隊を集結したころには、既にバルバール艦隊の3分の1の艦艇しか残っておらず、結局は降伏の旗を揚げたのである。
そして要塞に逃げ込んだ残り半数も、ランリエル勢力が総力を挙げられては手も足も出ないと縮こまっているところを、バルバール艦隊が返す刀で出口を押さえた。残存艦艇数はほぼ互角だが、出口を押さえられてはロタ艦隊の不利は否めなかった。しかし、万全の防衛体制を敷く要塞に攻撃を仕掛けるのも自殺行為。ロタ艦隊とバルバール艦隊は睨み合いとなり膠着状態となった。
だが、この大陸特有の問題があった。他の大陸との玄関ともいえるロタ王国である。そこが封鎖されては貿易が滞る。戦争をしているところに貿易とはというものだが、この大陸には巨大皇国が存在するのだ。
かつてバルバールとコスティラが争い、テルニエ海峡で睨み合って貿易船が通れないという事態が発生した。その時、貿易船の船長の一言で、両国は一時休戦し貿易船を通した。船長はこう言ったのだ。
「皇帝陛下がご注文なされた、東の大陸の水差しを運んでおります」
ロタ王国は貿易の利益で莫大な富を得ている。その意味ではロタ王国にとって皇国の存在はありがたかった。今までドゥムヤータと戦ってもテルニエ海峡が封鎖されず貿易を続けてこれたのも皇国のお陰である。今回も戦闘中とはいえ貿易船は通すのかと思われた。
だが、バルバール艦隊は、なんとロタの港に寄港できず海上で渋滞する貿易船の船長達にこう通達したのである。
「ロタ王国は現在我が艦隊によって封鎖中である。船を寄港させたいならば、ドゥムヤータ王国またはコスティラ王国の港へと向かい、そこから陸路で目的の場所へと向かわれよ。皇国へもドゥムヤータから西に向かえば不便は無いはずだ」
今までは地理的条件とロタ海軍の力で貿易の利益をほぼ独占していたロタ王国だが、海軍は封じ込まれ、それを妨害する力は無い。船長達もいつまでも海上を木の葉のように漂っている訳にもいかず、やむを得ずそれぞれドゥムヤータとコスティラに向かったのだ。こうして休戦の理由も無く、バルバール艦隊とロタ艦隊との睨み合いが続いた。
交渉を終えたシルヴェストル公爵は、バルバールの軍勢が動くのを確認してからドゥムヤータへと帰国の途についた。来た時と同じくテルニエ海峡をへてドゥムヤータの港へと向かう。
今回の交渉は、いや、何もかもが策謀が渦巻くという言葉では足りぬほどの大嵐である。公爵がバルバール軍が動くのを確認せねば安心出来なかったのも無理は無いが、その分貴重な時間を費やしたのは事実であり、休んでいる暇は無い。
公爵はドゥムヤータ王国王都ジョバールに入ると、自身の屋敷ですぐさま身支度を整えすぐにまた屋敷を後にする。選王侯達が集まるフランセル侯爵の屋敷へと向かったのだ。共は同名の武官ジル・エヴラールである。
いつも会議に使用される部屋には、すでに5人の選王侯が集まっていた。欠けている1人は、いつも愚痴ばかりのリファール伯爵だ。ドゥムヤータは全軍を7つに分け、選王侯がそれぞれを率いるのだが、実際は、お抱えの武官が代理で率いるのが常である。しかし唯一リファール伯爵は、自身で軍勢を指揮し会議には不在である。
シルヴェストル公爵は、異例にも選王侯でない武官ジルを会議に主席させた。ちょうどリファール伯爵の席が空いていたのでそこに座らせる。一介の士官でしかない自分が選王侯達と同じ席に座る緊張に、武官ジルの顔が強張った。
「シルヴェストル公爵。バルバールとの交渉ありがとう御座います。さすがは公爵。見事な手腕です」
フランセル侯爵が早速交渉の成果を褒め称えた。これで戦況は優位になる。だが、侯爵にはそれを置いてでも関心を向けざるを得ない事がある。
「しかし、先行して頂いた書簡に書かれた事。まことでしょうか。もしそれが本当であるならば……。我らはとんだ道化。奴らが奏でる舞曲に合わせて踊る操り人形でした」
「間違いないかと。我々は根買いの詐欺に引っかかる愚かな投資家のように、外観だけを見て立派な巨木に違いないと見ていた。だが、その実まったくの空洞。中身などありはしなかったのです」
なるほど、と選王侯達は頷き、フランセル侯爵が、ではこれからどうするか、と問いかけると、公爵に促され武官ジルが緊張しつつも身を正した。
「バルバール王国軍が、ロタ王国北部に上陸し牽制を行っております。万一デル・レイ王国軍、ケルディラ王国軍が動こうとしても、バルバール王国軍が居ては、南下する事は出来ません」
「彼らがまずバルバールの軍勢を叩けばどうなる? 1万程度と聞いているが、それではデル・レイ、ケルディラが出てきては対処出来まい」
「彼らはランリエル勢力の他の国々の参戦を恐れています。しきりにランリエル王国やバルバール王国に使者を送り、バルバール王国との停戦と、他のランリエル勢力の不介入の交渉を重ねているところです。その交渉が終わるまでは、彼らも動かないはずです」
「つまり我々は、それで稼いだ時間内で、ロタの軍勢を押し返さねば成らぬのだな?」
「その通りです」
武官ジルは頷き、ロタ王国軍と対峙し耐えに耐えていたドゥムヤータ王国軍の怒涛の進撃が開始された。ロタ王国軍も必死で防衛するが、やはり、ドゥムヤータとロタが5分の条件で戦えばドゥムヤータの優位は動かない。
前線からは、次から次へと勝利の報告がなされ、その度に、勝利の祝杯を挙げた。戦いの最中であり、油断といえば油断だが、実際彼らが軍勢を率いている訳ではないので戦況に影響は無い。もっともシルヴェストル公爵と武官ジルは、礼儀として形だけ杯に口を付けるだけだった。
そこに、選王侯の中で唯一自ら兵を率いるリファール伯爵の軍勢から急使の騎士が飛び込んできた。昼夜駆けて来たのか、息も絶え絶えに選王侯達の前に跪き、荒い息で肩が激しく上下する。
「リファール伯爵が、ロタ王国の勇将バダンテール殿と、い、一騎打ちを行い――」
と、そこで騎士は、疲労にむせ、立て続けに咳をする。
だが、シルヴェストル公爵はそれどころではなく青ざめた。選王侯という立場を忘れ何という軽挙。いや、選王侯で無くとも一軍を率いる者が一騎打ちなど暴挙である。折角勝っていたにもかかわらず、司令官が討ち取られては軍勢は大きな被害を出して敗退したに違いない。リファール伯爵が担当していた戦線は崩壊し、そこから全ての戦線が崩れかねないのだ。選王侯の会議で、愚痴ばかり言うだけしか能がないくせに、何をやってくれるのか。
交渉が上手く行き、他の戦線は連戦連勝。すでに勝利は手中にあると思われたその最中のこの報告である。シルヴェストル公爵が呆然としている間に、同席していた武官ジルが執事を呼んで水を持ってこさせ騎士に飲ませてやっていた。やっと一息付いた騎士が言葉を再開する。
「一騎打ちの末、リファール伯爵。見事、勇将バダンテール殿を討ち取り、士気高まる我が軍の攻撃により敵軍は崩壊。我が軍はロタ王国深く進軍しております!」
「なっ」
勝ったのか!? と、公爵は言葉も無い。唖然とするその後ろで、いつも会議では日和見ばかりの侯爵達の声が聞こえた。
「さすが、リファールの暴れん坊。腕は錆びてはおらんかったようですの」
「当主となってからは大人しくなったと思っておったが、いやはや、身に付いた技は朽ちぬものですな。いや、さすがに鍛錬は続けておりましたか」
「幾多の武芸大会に出ては並み居る強豪をなぎ倒し、選王侯の後を継がずに武官になると言い張るのを、先代のお父上から、もし戦≪いくさ≫になれば軍勢を率いらせてやると説き伏せられて、やっと後を継いだという御仁ですからの」
公爵は、日和見侯爵達の会話を放心状態で聞いていたが、日和見侯爵達の会話はそれだけでは終わらなかった。ドゥムヤータとロタの地図を囲み、リファール伯爵の軍勢がここまで進んだならと、にんまりと笑う。
「では、そろそろ仕込んだ者が動き出すころですかな」
「左様で御座いますな」
「何せ、仕込む時間はたっぷりと御座いましたからな」
血筋で言えば現ドゥムヤータ王から見て本家となるデュフォール伯爵の一族の領地を日和見侯爵達の軍勢が攻めていた。領地に点在する城砦は、硬く城門を閉ざし頑強に抵抗していたいが、突然、次々と落とされた。戦いの最中、城門が開けはなたれ、ドゥムヤータ軍を引き入れたのである。
デュフォール伯爵の一族がロタ王国からドゥムヤータ王国に鞍替えしてからすでに十数年。日和見侯爵達は、役に立つ事もあると、時には城の者を篭絡し、時には息のかかった者を送り込んだ。利で動く者達なのでロタが優勢の間は動かなかったが、リファール伯爵の一騎打ちの勝利にドゥムヤータの優位が決定的となり動き出したのだ。
次々と一族の城が落とされ、自身の居城にまで迫られたデュフォール伯爵は、自分の城にも内通者が居るのではと疑心暗鬼となり、そうなれば篭城など出来ようも無い。城と領地を捨て、一族を率いてロタ王国へと逃げ込んだのだった。
その状況に、ドゥムヤータの軍勢がロタ王国王都ロデーヴに迫る中、ロタ王国国王ランベールは、別の事に頭を悩ませていた。王国と称するが実際の王家の領地はその極一部。王都周辺30ケイト(約254キロ)四方と、東にある飛び地のテルサラ地区8ケイト(約60キロ)四方。それらはまだ無傷であるが、王家にとってもっと切実な問題が発生していた。
ロタ王家は貿易の利益により多数の歩兵を養い貴族達を抑えて強固な王制を敷いている。だが、その資金源たる貿易港はバルバール艦隊により封鎖され、内海の制海権はバルバールが握っている。貿易船はドゥムヤータとコスティラへと流れ、それは、領地よりも遥かに大きな問題だったのだ。
ランベール王から連日のように海軍要塞ドーヴィルへと勅使が向かった。バルバール艦隊を撃破し制海権を取り戻せというその王命に、ロタ海軍首脳部は困惑の色を隠せない。
「艦艇数はほぼ互角でも、要塞の狭い出口を飛び出したところを、バルバール艦隊に取り囲まれるのが落ちです。戦術的には圧倒的に不利。勝ち目はありません」
「例え勝てたとしても、こちらにも多くの被害が出るでしょう。敵はまだランリエル艦隊もありコスティラ艦隊もある。到底、我らに勝ち目は無い。いや、脆弱なドゥムヤータ艦隊にすら勝てるかどうか。彼らが出てきては、結局、制海権は奪えず、戦略的に意味がありません」
「それを経済的な事情で出撃しろとは、あまりにも馬鹿げている!」
まず始めに、馬鹿げたと発言した者が更迭され、それでも海軍首脳部は首を縦に振らず、次に、勝ち目が無いと言った者の首が飛んだ。結局、意味がないと言った者が渋々艦隊を率いて出撃したが、やる前から勝負は目に見えていた。
要塞を出撃したロタ艦隊は、予想通り開けた場所に出たところで多数のバルバール艦隊に囲まれた。命令だからとやむを得ず出撃した彼らである。戦意は低く、バルバール艦隊に囲まれたとたん降伏する艦艇も多かったのだ。ロタ艦隊は、多くの被害を出しての勝利どころか、バルバール艦隊にはほとんど被害を与えられず、大敗北を喫したのだった。