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愚者達の戦記  作者: 六三
皇国編
132/443

第44話:闇と影

 アルベルドが皇国につれて来られて2年目の春が訪れていた。少なくとも物質的には何不自由の無い生活に、アルベルドは身長も伸び健康そのものである。他の兄弟達との仲も良くその点は何の問題も無かった。


 問題は母へレナの健康にあった。別段、高熱を出すでもなく普通に生活していたのだが、なぜか日々身体が衰弱していく。そしてついに立って歩く事すらままならなくなったのだが、それでも熱は出ない。むしろ、身体は冷たいと感じるほど体温が低くなっているが、それも病状というより身体が衰弱した結果と思われた。


「とにかく、栄養をよく取り安静にする事です」

 宮廷に仕える名医すら病名を特定できず、平民の母親が熱を出した我が子にする程度の事しか言えなかった。それゆえ、宮廷内を憶測が飛び交った。


「ヘレナ様は、ゴルシュタットなどという辺境貴族の出だとか。もしや、辺境からなにか悪いものでも皇都にお持ちになったのではなくて?」

「あら、嫌ですわ。もし私にうつったらどう致しましょう」

「大丈夫ですわ。きっと辺境の者にしか掛からない病なのでしょう。それで、宮廷の医者達も病が分からないのです」


 別段、彼女達にヘレナを貶めている積もりは無い。皇国とその衛星国家以外の国々は辺境であり、それを辺境と蔑むのは当然なのだ。鵞鳥がちょうを白鳥より醜いというのに何の遠慮がいるのか。


 もはや皇帝と顔を合わせる事すらないが、ヘレナは妃としての待遇を受けている。不必要なほど広い寝室に象牙の寝台≪ベッド≫、上等な絹の寝具に身を横たえていた。元々細かった手足は白木の如く更に痩せ細っている。


 アルベルドは、出来る限り母の傍に居た。聡い少年の知性は母がもう直ぐ居なくなるのだと理解させた。だが、歳相応の心はそれを否定し、母を繋ぎとめようと自分より細くなった母の手を握り締めた。暖かかった母の手からは温もりが消え去り、滑らかだった肌はかさつきひび割れていた。


「お母様……」


 両手を添え母の手を暖めるようにこすった。母の身体が冷え切った時、それが母との別れなのだと理性によらず理解した。ならば、暖めれば良いのだと少年は思った。しかし母の手は一向に暖まらず、冬にするように、はあ、と暖かい息を吹きかけても、母の手は冷たいままだ。


 だが、母を想う少年は諦めず、考えられる全てを試そうと、時には母の手を抱え込み、時には自分の頬に触れさせた。


「アルベルド……。お外で遊んでらっしゃい」


 優しい息子に母は堪りかねた。息子の願いを叶えられられないのはヘレナにも分かっている。いや、聡い息子もそれは理解している。それでもせずには居られない。その想いがヘレナにも伝わってくる。その優しさに、まぶたの奥に涙が溜まるのを感じた。


「お外は良い天気ですよ。ずっと母の傍に付きっ切りではないですか。たまにはお外で遊んでらっしゃい」


 涙を見せれば息子を悲しませると、声を出すのすら重労働となった身体でことさら平然と言った。それだけで、背中に大量の汗が吹き出る。


「私は、お母様の傍に居たいのです」


 母の手を強く握り締める息子に、母も力の限り握った。アルベルドの手が、’僅かに’握り返された。


「花を摘んできて頂戴。アルベルド。花が見たいの」

「花ですか?」

「ええ。庭園の真ん中に咲いている白い花がいいわ」

「分かりました。すぐに摘んで来ます」


 母の傍に居たい。しかし母の願いも叶えたい。その想いに、すぐに摘んで来て母の元に戻って来れば良いのだと扉へと駆け出した。扉が勢いよく開けられ、強く閉じられる音に、息子が部屋から出るまで堪えられなかったヘレナの嗚咽は、幸いにもかき消された。


 早くお花を摘んでお母様のところに戻らないと。懸命に駆け広大な庭園の真ん中に着くと、母の言う白い花はあった。いや、むしろ何種類もありすぎて、どれが母の言う白い花か分からない。


 一瞬、母の部屋に戻りどの花か改めて聞いて来ようかとも思ったが、時間が勿体無いと考え直した。とにかく全ての種類の白い花を持っていけば良いのだと、地面にしゃがこみ花を摘み始めた。


「アルベルド。久しぶりじゃないか。どうしてたんだ?」


 声に振り返ると、次兄のナサリオが歩いて来ていた。アルベルドより9歳上で、母は公爵家から嫁いで来た皇帝の正妻、皇后イサベルである。長兄で次期皇帝に指名されているパトリシオとも母は同じだが、その才覚は長兄を遥かに凌駕していると噂されていた。もし長兄の母が正妻ではなく妃の1人に過ぎなかったら、間違いなくナサリオが次期皇帝に指名されていた。


「こんにちは。ナサリオ兄上」


 兄弟とは仲良くする。その習慣、いや鉄則がアルベルドにはある。摘んだ花を手にしたまま立ち上がり、急いで挨拶した。

「お母様が病に伏せっており、ずっとお母様の傍に居ました」

「随分とお加減が悪いと聞いているが……。それで、お前も最近見なかったのか」

「はい」

「そうか。それで今は何をしてたんだ?」

「お母様が、花を見たいと言うので摘んでおりました」

「花など、誰かに摘ませれば良い。そんな事より、お前と会うのも久しぶりだ。ちょうど遠乗りに行くところだったのだ。お前も一緒に来い」


 そんな事!

 今のアルベルドには、母の願いを叶える。それが一番大切な事だった。それを、そんな事と言われ、頭に血が上り眩暈がするほどの怒りがアルベルドを襲った。無論、ナサリオに悪意は無い。花を摘むなと言っているのではなく、他の者に摘ませれば良いと言っているのだ。だがアルベルドにとって、自分で摘む事に意味があるのだ。


 いえ、私は、お母様の花を摘みます! 毅然と答えようと口を開いた。


「分かりました。私も遠乗りは久しぶりで楽しみです」


 アルベルドは笑顔で答えていた。だが、心の中では激しく動揺した。自分は何を喋っているのか。母子の命をかけた、他の兄弟と仲良くするという演技が、彼の感情をも越え精神を支配していた。思った事すら喋れぬ恐怖に心が凍りついた。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 心は凍ったまま、口と身体は、兄弟と仲良くする為に動いた。だが、兄からは見えぬその背中に大量の冷たい汗が流れていた。


 日も翳った頃、やっとアルベルドはナサリオから開放され宮廷に帰り着いた。それでも皇国の庭園は、庶民どころか下級貴族の生涯収入に匹敵する費用を一夜にて浪費し煌々と明かりが照らされ、花を摘むのに支障ない。


 花を摘んだアルベルドは、ナサリオに付いて行った事に、母をないがしろにしていしまったとの罪悪感を覚えながら母の寝室に向かった。だが、部屋に入ると母は眠りについていた。寝台の傍のテーブルに摘んで来た花束を置き自分の部屋に戻った。


 昼間の事を思い出し、自分の心が自分の物でない事に改めて恐怖した。寝台の中で震えながら、自分の心を逃さぬように身体を強く抱きしめた。いつの間にか眠りについていた。翌朝、目が覚め寝台の横に花束が置かれているのに気付いた母は喜んでくれた。


 母が亡くなったのは、その2日後だった。




 退位を宣言したアルベルドは人払いをし私室に篭った。宣言の撤回を求め面会を申し出る者は長蛇の列を作ったが、取次ぎも不要と申し付け、執事が持ってきた白葡萄酒を1人口に運んでいた。グラノダロス皇国から取り寄せたヘレスと呼ばれるそれは、白葡萄酒でありながら琥珀色である。


 長椅子に寝そべり、横に備え付けた小さなテーブルに置いた酒壷から手酌で飲む。


「戦勝の宴にしては侘しい限りだが……」


 苦笑し、寝そべったまま酒で唇を濡らした。自分が勝者と知っているのが、当のアルベルド1人なのだからやむを得ない。


 アルベルドにとって、敵を多く殺せば戦いは勝ちと考える者など笑止の限り。いや、戦いに勝てば勝利と考える者すら、まだ足りなかった。いくさとは、目的があって始めるものであり、目的を達成すれば勝利と言えた。


 ならば、戦いに負ける事を目的に戦を行えば、勝敗や如何に。


 初めから、ケルディラ東部などランリエルにくれてやる予定だった。もしサルヴァ王子が状況も理解できぬ愚か者でケルディラ全土を求めるなら、皇帝に働きかけ声明文の1つや2つも出させる計画だった。ならば、デル・レイと国境を接する事が如何に危険かを理解し、東部のみで引き下がる。


 まあ、さすがに東方の覇者と称されるだけはあり、言わずともケルディラ全土を支配する危険に気付いたようだ。褒めてやろうと、アルベルドは皮肉に唇を吊り上げた。


 サルヴァ王子は領土を得た。だが、その代償に侵略者としての汚名を着た。それに対し、アルベルドは、失う物は少なく、得た物は莫大だ。


 3倍の敵を5000サイト(約4.3キロ)退かせたという武名。多くの被害を出してまで他国を救わんとした美名。それが大陸全土を覆っている。アルベルド自身が意図的に誇張して流した情報も多い。


 ケルディラ王に臣従を申し出たが、無論本気ではない。聡いケルディラの宰相が止めに入ったが、もしあのまま話が進んでも、正式な誓紙を交わす前に人をやって王に気付かせる手はずだった。デル・レイは皇国の衛星国家。その領地をケルディラ領にするなど、それこそ自殺行為である。


 ケルディラにも多くの人をやり情報操作を行った。更に大臣、閣僚に金を使って親アルベルド派を形成している。ケルディラでは

「アルベルド王は我が国に臣従を申し出たがもっての外。ケルディラこそがアルベルド王に臣従すべきではないか!」


 そのような声すら上がっている。無論、現実的ではない。言わせているアルベルド自身、分かっているのだ。領土を広げぬのが皇国の衛星国家。もし、本当にケルディラが臣従を申し入れてきたとしても受ける事は出来ない。


 だが、実質的に、もはやケルディラは反ランリエル同盟の盟主たるアルベルドの忠実な配下でしかない。デル・レイと交渉する大使フリストフォルは以前よりアルベルドの操り人形だが、交渉内容を国内で検討する大臣すらも、多くはアルベルドの臣下の如きである。そしてロタ王国。


 ロタはランリエルの勢力圏であるコスティラと国境を接していたが、それも僅かな面積であり、ランリエルの脅威を煽ってもそう簡単には踊らない。だが、サルヴァ王子はケルディラ東部を得、接する面積も広がった。しかも、コスティラ以西にも領土拡張の野心ありとの実績もある。ランリエルの脅威はもはや対岸の火事ではない。隣の家が炎に包まれているのだ。それに付け込み同盟に引き入れる。


 一度入れてしまえば、主導権はケルディラをも意のままに出来るアルベルドのもの。デル・レイ、ケルディラ2ヶ国の重みに、ロタ王国は従わざるを得ない。


 今回の戦で、サルヴァ王子はケルディラの3分の1ほどの領土を得たが、アルベルドはケルディラの残り全てとロタ一国。数を覚え始めた幼児すら理解する圧倒的な勝利だ。


 もっとも、それも実現せねば絵空事。早速、ロタにコルネートをやり交渉させねばなるまい。だが、考えていたよりも簡単な交渉になりそうだ。ロタはランリエルのケルディラ侵攻に当初態度を保留した。皇国が不問とした為、やむなくロタもランリエルの申し出を由としたが、実際、ケルディラがランリエルに支配されれば、次は自分との恐れを抱いていた証拠だ。


 軍勢に多くの被害を出したが、彼らの血の一滴一滴、命の一つ一つが、アルベルドの名声の糧となった。軍勢が消耗したままでは具合が悪いが、それも、勇気と慈悲、正義と献身を兼ね備えた稀代の賢王の名を慕い、デル・レイのみならず、大陸全土から名のある者が集まって来ている。軍の再建に時間はかかるまい。


 戦で人命を損ない、軍備に力を入れればデル・レイは疲弊する。だが、アルベルドの知った事ではない。皇位を望む男なのだ。彼の本来の領土は皇国であり、デル・レイなどそれまで持てば良いのだ。


 ついでに、自からを罰する清廉たる王の名声も得ておこうかと、退位を宣言したが無論本気ではない。貴族、庶民、国を挙げての懇願に断りきれずと、再度王位に就く。その間の数日は、ユーリに王冠をかぶらせる。


 まだ、8歳の子供には過ぎたる玩具だが、父としては、我が息子にそれくらいはしてやろう。



 大陸暦632年10月7日。アルベルド退位。同日ユーリ二世即位。その6日後、ユーリ二世退位。アルベルド即位。デル・レイ王国中の貴族、閣僚、庶民の懇願に、僅か6日の退位だった。


「これは、ユーリ二世陛下。ご機嫌麗しく」

 私室から、王の執務室へと足を向けていたアルベルドが、フィデリア、ユーリ母子と顔を合わせ大仰に一礼した。


「お、叔父上。からかわないで下さい!」


 一見美少女とも見える美貌の甥は顔を赤らめたが、その声にはどこか嬉しげな響きもある。デル・レイ王国の数代前に同じくユーリという国王が居た為、彼は数日間ユーリ二世だったのだ。叔父のような国王になりたいという甥の夢は、短い間とはいえ、早くも叶ったのである。


 義弟と息子のやり取りを、フィデリアは口元を手で隠し上品にクスリと笑っている。


「本当に驚きました。突然、国王の位を返上したいなどと」

「今回の戦、いくら正義の為とはいえ、多くの人命を失わせてしまいました。それを思えば、自身を罰するより他ないと考えたのです」


「ですが、デル・レイの全国民が、貴方を慕っております。貴方の代わりなど居ないのですよ?」

「はい。それも骨身にしみました。軽々と退位などと言った自分を恥ずかしく思っております。それすら分からぬ未熟な自分を皆は慕ってくれます。二度と彼らを見捨てるなど口が裂けても申しません」


「はい」

 フィデリアは微笑み頷いたが、笑みを収めると、少しの間を置き意を決し口を開いた。


「ユーリ。母はアルベルド様と少しお話があります。先に部屋に戻っていなさい」

 そう言って愛する息子を先に部屋に戻すと、碧い宝石のような瞳を義弟に向けた。黄金をも超える美しい金髪は、綺麗に纏められ一部の隙も無い。


「どうしてユーリなのです? デル・レイ王家には男子が居ない為貴方が国王として招かれました。ですから、貴方に子が無い今、次のデル・レイ国王も皇族の誰かから選ぶしかない。それは分かります。でもそれならば、甥で8歳のユーリではなく、貴方の弟のルシオ様やウルバーノ様がいらっしゃるではありませんか。あの方々も成人はなされておりませんが、8歳のユーリよりは……」


 女神もかくやと美しい義姉の視線を受け、アルベルドが微笑む。それは、義弟が義姉に向ける愛情を表すには、少し逸脱したものに感じられた。


「私と王妃の間には子がおりません。ですから、小さい頃から知っているユーリを我が子のようにも思っております。確かに軽率だったかも知れませんが、私の後を継がせるならユーリ。自然と口に出てしまったのです」


「アルベルド様……。ユーリをそこまで愛して下さり、あの母としてお礼申し上げます」


 フィデリアが感謝の言葉と共に頭を下げると、アルベルドも応え微笑んだが、不意に表情を引き締め、美しき義姉の耳に顔を寄せた。


「実は、義姉上にお聞かせしたい話があります。義姉上は、皇帝であるパトリシオ兄上とナサリオ兄上の仲が最近良くないという話を聞いていますか?」


 アルベルドの言葉にフィデリアの表情が曇った。その噂はフィデリアも聞いていた。だが、ついこの前まで皇帝と夫の仲は良好だったはず。ただの噂と考えていたが、その2人に近しい義弟が言うならば、信憑性も増してくる。


「やはり、噂は本当なのですか?」

「はい。そして、万一ナサリオ兄上の身にもしもの事があれば、義姉上とユーリにも塁が及びかねません」


「まさか、そんな……」

 義姉が驚きの表情を作った。だが、その表情すら彼女の美しさを損なわさせない。むしろ見開かれた瞳の碧さに吸い込まれるようだ。


「本当です。いずれお話しなければならないと思っていたのですが、実は、義姉上とユーリをデル・レイに招いたのも、お二人を守らんが為です」

「まさか、皇国を敵に? いえ、それはなりません。皇帝陛下と夫の諍い等一時の事。どうかアルベルド様は御自重下さい」


「分かっております。私も好き好んで皇国に敵しようとは考えません。あくまで、万一の時にはです」

「ですが、それでも皇国と争うなど」


 この大陸で、皇国に逆らうなど自殺行為。それを誰よりも知るはずの皇帝の弟の言葉にフィデリアは青ざめた。アルベルドは万一にというが、万一にでも争っては行けないのが皇国なのだ。


「私にとって、あね……フィデリア様とユーリは、命に代えても守るべき人なのです」

 見詰めるアルベルドの瞳をフィデリアも見つめ返す。義姉上ではなく、名前で呼ばれた事に、胸の鼓動が強くなるのを感じた。フィデリアとて鈍感ではない。14年前、初めて会った時から、義弟が自分を憧れの対象と見ていた事は薄々感じていた。


 フィデリアもアルベルドに家族として当然の愛情を感じ、優れた国王として尊敬もしているが、それでも義弟は義弟。その線を越える気は無い。しかし、命に代えてとまでと想われては、心が揺れ動くのは抑えきれない。


「ユ、ユーリが待ちくたびれておりましょう。部屋に戻らないと……」


 妻としての防衛本能が、この会話を続ける危険を感じ、兄の妻ではなく1人の女としての素肌に母という甲冑を纏った。フィデリア自身、ユーリの名を口にした事により幾分心を落ち着かせ、アルベルドがその甲冑にまで手をかけるのかと身構えた。


 だが、意外にもアルベルドはそれ以上会話を進ませず、

「そうですね。ユーリもしっかりとしているとはいえまだ子供。義姉上が居なければ寂しがりましょう」


 そう言って、一旦フィデリアから脱がせた義姉弟というドレスを再度纏わせる。フィデリアが、自意識過剰だったかと、内心顔を赤らめるほど自然な口調だった。


「それでは、失礼致します」


 皇室淑女のたしなみとして、内心の動揺をおくびにも出さず膝を折って一礼すると、義弟に背を向け自室へと足を向けた。その後ろからアルベルドが声をかけた。


「義姉上とユーリは必ずや、私が守り通して見せます」


 本来、頼もしく、安心をもたらす筈のその言葉に、フィデリアはゾクリとした。なぜか、とても恐ろしい言葉に感じられたのだ。

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