第36話:賢王と覇王
デル・レイ王国軍いまだ動かず。
テレス川を挟んでの対峙は、既に1ヶ月に及んでいた。にもかかわらずのデル・レイの鈍い動きに、もしや自分達は見捨てられたのかと、ケルディラ軍首脳部は気が気ではなかった。
計画では、ランリエル勢は14、5万程度と予想されていた。それが現実は20万。デル・レイが及び腰になっても不思議ではないのだ。
もっとも戦況は悪くない。テレス川を挟み膠着状態だ。ランリエル勢は数度の渡河作戦を決行したが、ケルディラ軍総司令コルマコフの老獪な指揮によりすべて弾き返した。テレス川上流域での陽動作戦はカルデイ帝国軍総司令ギリスに見破られたものの、老将コルマコフの戦術的手腕は、決してランリエル陣営の総司令達に引けを取るものではない。
デル・レイが参戦しない焦りもあるが、総兵力6万のケルディラ軍にとって僥倖ともいえる快挙に希望も出てきた。
「デル・レイなど当てにせずとも、我らだけで十分ではないか」
そう、勇ましく声を上げる者も多い。コスティラ人と同一の血を持つ勇猛な彼らである。一度勢いづけば目の前の困難を忘れる単純さもあり将兵の士気は高い。
もっともケルディラ軍の快挙は、ランリエル陣営の不遇である。芳しくない状況に、少なくとも外見は軽薄そうに見える副官が上官に問うた。その口調もやはり軽薄そうである。
「こちらも無理せず引き上げているのもありますが、なかなか上手く行かないものですね。ケルディラの総司令は結構な歳らしいですが、こういう地味な戦いは、やはり年の功がものを言いますか」
「まあ、そうとも限らんがな」
答えたサルヴァ王子の顔にも苦笑が浮かぶ。
「だが、このまま睨み合いを続けていても仕方が無い。一つケルディラ軍に動いて貰うとしよう」
「今度はこちらから陽動ですか? しかし、ただでさえ兵数で劣る彼らがそう簡単にその手に乗りますかね?」
「別に陽動などせん。ただ、彼らに動いて貰うだけだ」
ウィルケスが興味深げな視線を向ける先に、人の悪い笑みを浮かべる王子の顔があった。
コスティラ王国から内外に声明が発せられた。もっとも著名はコスティラ王国ロジオンであるが、実際はランリエルの主張だと誰もが理解している。その内容にケルディラ軍に激震が奔る。
「領土と主張するは、それを治める力があってこそ。ケルディラ王国軍はテレス川以西に引き篭もり、それより東は我らの意のままに任せている。それは領土権の放棄に他ならない。ならばテレス川を国境としタガンロ、トゥアプ、ジニータギルなど東はコスティラ領とする」
あまりにも一方的であり乱暴な主張である。だが、コスティラ、ケルディラ統一を了承した各国は、その主張を認めるまではいかなくとも黙認するのだ。皇国すらだ。そうなれば河東地域の領有権はどうなるのか?
各国の領土とて天地創造以来のものではない。奪い奪われながら現在の国境線が引かれたのだ。ランリエルの支援を受けたコスティラの河東地域支配が続けば、各国はコスティラの領土として認めはじめる。それを回避するには、河東地域を取り返さなくてはならない。ケルディラにとって防衛戦だったはずが、たった一遍の声明文によって攻守が逆転してしまったのである。
今までテレス川を盾に3倍の軍勢を支えてきた。それが、逆に川を渡り3倍の敵に突入する。成功すると信じる方がおかしい。その絶望的といえる状況に、ケルディラ軍総司令コルマコフら幕僚達は苦悶の表情を軍儀の席に並べた。
「彼らとて、いつまでもあの大軍勢を維持できまい。軍を引いたその時こそ奪還に動くべきだ」
「ですが、ランリエルは大国。大軍は置かなくとも2万、3万の軍勢は残すと思われます。それをテレス川に沿って展開されては……」
しかも敵軍は、対岸に強固な砦を築き始めた。それが完成しては領土奪還はさらに困難となり、だが建設を妨害する手段はない。
「大体、寝返るはずのコスティラの貴族どもはどうしたのだ! 今からでも良い。彼らが蜂起すれば、ランリエルは後方を遮断され、一旦軍勢を引くはずだ。その時こそ渡河すれば良い!」
ケルディラ軍部でも勇猛で知られる武将が不満を爆発させたが、それに答えた情報管理を担当する若い士官の表情は暗い。武将の怒声に恐れ戦きながら、これも任務と意を決する。
「それが……」
「なんだ!」
「計画では、彼らは病に伏せっているなどの理由をつけて出陣せず、領地に留まり蜂起するはずだったのですが、彼らの家紋を示す旗が対岸に見えるという報告が物見から上がっております」
「なんだと! どういう事だ。話が違うではないか!」
「わ、分かりません。ですが、出陣してきている以上、ランリエル勢の背後を突くのは期待できません」
そこに総司令コルマコフの白い髭に隠された口が動いた。ウィルケスがいう年の功なのか、この危機にも焦りの色は無い。
「敵陣内で、混乱を起こす気なのではないのか?」
「そうだとすればこちらに何かしらの連絡があるはずでが、それもありません。彼らが行動を起こしたその時、我らも突入してこそ効果が大きいのですから」
「そうか」
「いかが致しましょう。こちらから連絡を取って見ましょうか?」
「いや。何かしらの事情があるかもしれん。彼らが約束を反故にする気なら連絡を取っても意味はなく、彼らが他日を期す考えならば、下手に動いて我らとの繋がりが露見してはまずかろう。ここは自重すべきだ」
「分かりました」
「我らも今は耐えるしかない。ランリエルには防衛戦力を置く余裕はあるが、それでも現状よりは次の機会を待つ方が望みはある」
だが、ケルディラ軍総勢6万といっても、それは河東地域を含めての国力を背景にしたものだ。河東地域を領する貴族、騎士の軍勢も含まれており、それを失っては日々軍勢はやせ細る。最終的には精々4万を維持できるかどうか。領土奪還はさらに難しくなる。
そのケルディラにとって、暗い森の中を彷徨うが如き先の見通せぬ情勢の中、ついにデル・レイ軍が動く。ランリエルの声明文に対し、国王アルベルドは堂々の反論を行った。
「ケルディラ、コスティラ両王国統一の声明。その名義こそコスティラだが、それはランリエルの野心を覆う外套にすぎず、統一とは名ばかり。私はその非道を許す事は出来ない。我が軍はケルディラ王国に助力する」
デル・レイ王国国王アルベルドは、自ら軍勢を率い出陣した。その数6万5千。デル・レイは東の国境でも紛争を抱えており、その中でのほぼ全戦力の動員に人々は驚愕した。国内に残る纏まった戦力は僅か5千。だがアルベルド王は、大儀の為と事も無げに言い放った。
ケルディラの軍首脳部はその遅い動きに舌打ちしたが、デル・レイ参戦が前もって計画されていたとは知らぬ多くのケルディラ貴族や民衆は、自らの国を危険にさらしてまで他国を救おうとするその義心を褒め称えた。
これでケルディラ、デル・レイ連合軍は12万5千。ランリエル勢は20万。
3倍の敵に川を越えて攻撃を仕掛けねばならない暴挙からは開放されたが、1.5倍の敵に攻撃を仕掛ける非常識とは向かい合わねばならない。
そして、デル・レイ軍が合流すればその協議を行おうと待ち構えていたケルディラ軍本陣に、思いもよらぬ作戦がデル・レイより示されたのだ。
「我が軍はケルディラ軍と合流せず進軍し、ここより上流1ケイト(約8.5キロ)の地点に向かい渡河を行います。敵も油断はしていないでしょうが、我が軍がケルディラ軍と合流せずに直進し渡河を敢行するのは予想外のはず。僅かに対応が遅れましょう。その隙を突き、一気にテレス川を越えます」
「それでは、デル・レイ軍が敵中に孤立しますぞ!」
作戦を携えた、整った顔立ちの若いデル・レイ騎士に、ケルディラ軍幕僚達は驚愕の目を向けた。渡河した後、そのまま川を背に布陣するのは自殺行為に等しい。だが、川辺から離れれば敵が退路を立つのも目に見えている。どちらにしても危険極まりない。
「敵は大軍です。まともに戦えば渡河は不可能。他に方法がありません」
「しかし、あまりにも危険過ぎる。物資の補給とてままなりますまい」
危ぶむケルディラの幕僚達を前に、騎士は、
「デル・レイ国王アルベルドの言葉を伝えます」
と胸を張った。
「ゴルシュタット王国に不穏な動きがあり、その対応の為とはいえ我がデル・レイ王国軍の出陣が遅れたのはまことに当方の不手際。ランリエルの後手に回った責はすべて自分にある。我が命に代えても、必ずやケルディラの領土は回復する」
名君に仕えるは騎士の誉れ。主君と仰ぐアルベルド王の清廉たる精神に騎士の顔に誇らしげな笑みが浮かぶ。そしてその反対に、ケルディラの幕僚達の幾人かが顔を伏せた。デル・レイ軍の遅延に罵声を浴びせた者達だ。ギリッと、己の浅はかさに歯軋りの音が響く。
「アルベルド陛下にのみ危険を犯させる訳にはいかん! 我が軍も時を同じくして渡河作戦を行うのだ!」
「左様。ならばランリエルの注意はこちらに向き、アルベルド陛下の渡河も容易になろう!」
アルベルド王の誇り高き行為に胸を打たれたケルディラの将軍達は、我らも偉大なる王に続けと声を上げるが、若いデル・レイ騎士は首を縦には振らなかった。
「お気持ちは嬉しいのですが、大軍を擁するランリエルに正面から渡河を行うのはあまりにも危険。我が王はケルディラ軍の壊滅を望んではおりません」
危険なのは、単独渡河をするデル・レイ軍ではないのか! それを、我が軍をこれほどまで気遣ってくれるとは、なんと広き心なのか。ケルディラの将軍達は、自分達も彼のように名君を主君に仰ぎたいと若いデル・レイ騎士に羨望の眼差しを向ける。
「我がデル・レイ軍が渡河を行い敵の注意を引き付ければ、こちらも手薄になりましょう。その時を待つのです。ですが、ランリエルがここに十分な備えを残したのなら、ご無理はなさらぬように。これも我が王の言葉で御座います」
「しかし、それではデル・レイ軍が完全に敵中に孤立してしまいまする。いくらアルベルド陛下のお言葉とはいえ、聞けるものではありません! 必ずや、陛下をお助けに参る!」
ケルディラの将軍にもかかわらず、まるでアルベルド王が自分の主君のような物言いだ。だが、口を開かぬ者達も彼と同じ気持ちだった。拳を強く握り締め、熱くなった魂を抑えている。
「分かりました。そのお言葉、我が王に伝えまする」
デル・レイ騎士は頷き微笑み一礼した。彼らに背を向け愛馬の鐙に足をかけ、華麗に跨るその姿は爽快であり絵になった。整った顔立ちなのも相まって、苦しい戦いを前にそれを微塵も感じさせず微笑み旅立つ、物語の勇者が如きである。
偉大なる王とその忠実なる騎士に栄光あれ。走り去る勇者に、ケルディラの将軍達は深々と頭を垂れた。
デル・レイ軍はケルディラ軍と合流せず、テレス川を渡りそのままケルディラ北東部に進んだ。ランリエル陣営は裏をかかれた形になるが、油断し過ぎと断じるのは酷だ。やる方がおかしいのだ。渡河しそのままランリエル本陣に奇襲が出来るのであれば別だが、そこまでの油断はない。川を渡って北東部を固めるなど、自ら死地に飛び込む行為なのだ。
その報を受けたサルヴァ王子ら各国の総司令は唖然とした。皆、軍事に長けた者達だ。彼らの常識からすれば、考えられぬ愚行である。
「彼らは……死にたいのか?」
「アルベルド王は、聡明な方とお聞きしておりますが……」
王子に答えたカルデイ帝国軍総司令ギリスも歯切れが悪い。
「本隊が敵主力を引き付け、別働隊が敵主力の退路を断つ。という作戦もありますが、この場合、退路を断たれているのはその別働隊です」
そう続けたバルバール王国軍総司令ディアスも思案するように顎に手をやる。
「ですが、敵を殲滅する絶好の機会なのは間違いござらん。敵の意図が分からんからこそ、手をお招いていれば敵の思惑に乗りましょう。ここは敵が動く前に叩き潰すに限ります」
一刀両断なのは、コスティラ王国軍総司令ベヴゼンコだ。
ベヴゼンコの言葉も一見強引のようだが、理にかなっている。相手の思惑が分からないなら、こちらはこちらの思惑で動くしかない。とはいえ、相手の思惑を知ろうとする努力は怠るべきではなかった。情報担当の士官から報告を得ているウィルケスに、サルヴァ王子が言葉を向ける。
「デル・レイはランリエルの非道許すまじ、と唱え参戦したが、他に理由と思われるものは無いのか?」
「いえ。特には。以前にも、皇国にケルディラ出兵の不介入を申し入れた時にアルベルド王は難色を示しましたが、それで出兵までとは……」
その言葉に、王子は納得しかね目を瞑り腕を組んだ。
デル・レイ軍の行動は自殺行為だ。そしてよほどの狂人でなければ、命を賭けるにはそれなりの理由がある。だが、表に見える彼らの参戦理由では命を賭けるに釣り合わない。ならば、考えられる事は2つ。命を賭ける理由が裏にあるのか……、一見無謀なこの行動の裏に勝算があるかだ。
いや、勝算があったとしても、デル・レイがケルディラを救援するには相応の理由が必要だ。もしかして本当に、義憤のみで参戦したのか? しかも、国力では圧倒的に勝るランリエルに対してだ。
ランリエルに対する執拗なまでも挑発。それがケルディラ自身なのか、それとも他に裏で糸を引いている者がいるのか? ケルディラとの戦いが始まった今でも、その回答を王子は得ていなかった。
それはデル・レイなのか? しかし、デル・レイがそのような事をして何の益がある? もしかして、更に裏でうごめく者がいるというのか。
王子は思案を重ねたが、やはり、あまりにも情報が少ない。見えぬ影を警戒し過ぎては身動きが取れない。今は、目の前に敵に集中すべきか。とにかく、この戦いに勝てば裏で糸を引いている者とやらの目論みも崩れるはず。
「北東部に向かったデル・レイ軍のその後の動きは?」
「放棄されていたケルディラ貴族達の城々に向かい、そこに篭りました。我が軍も抑えに兵は置いておりましたが多勢に無勢。脱出するのがやっとだったと。近隣の民達は彼らを解放軍と称え食料などを提供しているようです。武器はともかく食料の問題はなさそうです」
「なるほど」
サルヴァ王子が憮然と頷いた。今回の戦いは、表立ってはこちらから仕掛けた事になっているが、王子から見れば執拗な挑発の元やむを得ず行ったものだ。それを一方的な侵略者として民から恨まれるのは、理性では分かっていても感情として釈然としないのも事実だ。
「さらにその城と城を繋ぐように砦を建設中。北東地域を固めております。砦の建設にも多くの民が手を貸しているとか」
「ベヴゼンコ殿の言葉通り、手を拱いていては敵に利するようだな」
サルヴァ王子は出陣を命じ、ランリエル軍本隊12万とカルデイ帝国軍2万がケルディラ北東部へと向かった。バルバール軍2万は、ケルディラ軍への抑えに残す。コスティラ軍4万はその後詰である。
コスティラ軍は名目上の本隊であり、極力戦いには参加させない。そして、帝国軍、バルバール軍のどちらかを連れて行くかとなると、今回帝国軍の方が士気は高い。バルバール軍は仕方なく出陣している面があり、その点、帝国軍を率いるギリスには職にあぶれた元軍人達を雇用して貰おうとの思惑がある。
だが、この布陣にディアスは眉をひそめた。バルバール軍はコスティラ軍を裏切り恨みを買っている。バルバール軍とて、コスティラの大軍に攻め続けられた遺恨がある。同じ嘗ての敵国同士でも、同等の立場で戦っていたランリエルと帝国との組み合わせとは感情の面で差があるのだ。だが、サルヴァ王子は気付いていない。
育ちが良い所為なのか、頭脳は優れているのだがそこら辺が無頓着で困ると、ディアスの顔に苦笑が浮かぶ。コスティラ軍総司令ベヴゼンコが、過去をいつまでも根に持つ人物ではなさそうのなのが救いだが、まあ、前後からケルディラ、コスティラ両軍に挟み撃ちにされないように精々気をつけよう。
アルベルドは、ケルディラ北東部に点在する城々の中でも、もっとも規模の大きなオレンブルク城にデル・レイ軍本隊を置いた。ランリエル軍が向かっているとの情報を得、軍勢の前に立った。
時は真夏である。その熱を反射させる為、全身を覆う甲冑は磨きに磨かれ光り輝いている。しかし両手の籠手のみは真紅に塗られ、脇に抱える兜にも大きな赤い羽根が飾られる。その羽が風に揺れた。
「暴虐たる侵略軍が向かってくる。敵は14万を数え、我が方はその半分以下である」
その現実に兵士達がざわめく。彼らはすべて訓練された兵士達だ。軍事についてまったくの素人ではなく、物語のように2倍の敵を打ち破るなど現実にはほぼあり得ぬと理解している。
「だが、我らには正義がある! 誇りがある! 然るに、欲にかられた彼らにあるのは野心のみ! 彼らの無法を許せば、罪無きケルディラが蹂躙されるのだ! 許されるべきではない。我が軍は、ケルディラを助けんが為立ち上がった! 我らは正義の軍である! しかし、戦いとは数である。それは紛れも無い事実だ」
自軍を褒め称えたとたん、頭から冷水を浴びせるアルベルドの演説に兵士達はまたもざわめき、アルベルドはそれが収まるのを待った。
「だが、彼らの軍に、勇者は幾人いるか! 義侠の士は幾人いるか! 士道を持った騎士は幾人いるか! 皆無である! 諸君に問う! 勇者であるか! 義侠の士であるか! 士道を持った騎士であるか! 慎み深き諸君に代わり私が答えよう。貴公らは、勇者である! 義侠の士である! 士道を持った騎士である! 諸君らが進むところ、いかな大軍もそれを阻む事かなわず。守るところ、破る事は出来ない。なぜか! 貴公らには正義がある! 貴公らには誇りがある! 貴公らには不屈の闘志がある! 馬が射られれば徒歩にて駆け、槍が折られれば、腰の剣を抜く。如何な敵も、我らを打ち倒す事は出来ない! 貴公らが真の戦士であるからだ! 真の戦士の数は我らが勝っている! 我らは正義の軍である! この戦い、必ずや我らが勝利する!」
「うおぉぉぉ!!」
大歓声が大地を揺るがした。彼らの魂が熱く燃えていた。その熱気を正面から受けたアルベルドの兜の赤い羽根が激しく揺れる。正義の軍を前に微笑を浮かべ胸を張るその姿は、まさに王の中の王であった。
「アルベルド王、万歳!」
「デル・レイ軍、万歳!」
「我ら正義の軍に栄光あれ!」
「賢王に神のご加護を!」
大陸暦632年夏。正義の賢王アルベルド・エルナデスと侵略の覇者サルヴァ・アルディナとの戦いが始まろうとしていた。