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かわいいは幸せ

作者: 夜空タテハ

 女の子なんだからかわいいお洋服を着なさい。そう母親に言われた。

 母親が言うかわいいお洋服を、私はかわいいとは思えなかった。

 私は私が心の底からかわいいと思えるお洋服を見つけた。それはいわゆるロリィタと言われるものだった。

 フリルやレース、リボン、かわいいモチーフ、装飾がたっぷりで、キラキラと輝いて見えた。

「そんなものどこに着て行くの」

 母親は信じられないものを見るような目で私にそう言った。私がかわいいと思うお洋服は、どうやら母親にとってはありえないもののようだった。

 それでも私はそれを着たいと思ったけど、いわゆるロリィタブランドのお洋服は、値段も高くお店も近所にはないので、子供にはなかなか手が出せないものだった。ブランドのものよりはるかに値段の安いものをネット通販では見かけたけど、そういうものは粗悪品や模造品などで評判の悪いものらしい。

 そうして、私は私が本当にかわいいと思うお洋服を買うことができないまま、年を重ねていた。

 大人になれば、母親に縛られず自由に欲しいものを買えると思っていた。でも、日々の生活を回すことで精一杯で、なかなかブランドのお洋服には手が出せない。

 少しずつ生活に余裕ができる頃には、年齢を重ねて、もういい年をした大人が、かわいいお洋服を着たいなんて言っていいんだろうか、なんて気持ちもうっすらと芽生える。

 ファッションに年齢は関係ないとか、好きなものを着ていいとか、そういうことを言われているのはたまに見かけるけど、自分にはかわいいお洋服は似合わないんだという気持ちも自分の中にあった。

 本当に心の底から憧れて、着たいと思ったお洋服を、母親に否定された言葉は、私の中で呪いのように残っている。

 街中で、インターネットで、時々かわいいロリィタを着ている人を見ながら、私はとても羨ましいなと感じていた。

 私はいつまでこの気持ちを燻ぶらせておくんだろうか、と、三十歳の誕生日を迎えて、そう思った。

 三十歳にもなってかわいいお洋服を着たいのは、おかしいんだろうか、とも思ったが、着たいお洋服を着ることの何が悪いんだろう。十代の頃に母親にかけられた言葉の呪いを、三十歳になっても引きずっている自分がとても惨めに感じた。

 思い切って、ロリィタブランドのお店に入ってみた。店員さんはとても優しく対応してくださって、私は、無事に欲しかったかわいいお洋服を買うことができた。

 そして、今まで行ったことがなかったけどインターネットで見かけて気になっていた喫茶店に行ってみた。かわいいお洋服を着て、街中を歩くだけでも、とても幸せな気持ちになれることを知った。こじんまりとしている素敵な、かわいらしい喫茶店で、おいしい紅茶とお菓子をいただいた。

 とても幸せだったと同時に、もっと早くこうしていればよかった、という後悔の念もあった。こんな素敵な経験を、どうして今までしてこなかったんだろう。何年も何年もずっと憧れていた、かわいいお洋服。何年もずっと憧れていたのに、ずっと着られなかった。

 でも、後悔もあるけど、これからはこういう幸せを重ねていければいいなと、そう思った。


〈了〉

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