私に残るもの
「バイト、探さなきゃな……」
さよ子さんの家に居候させてもらっている以上、少しでも自分で稼いで、早く自立しなければと思う。
「チェーン店、本屋、カフェ……私って何が向いてるんだろう」
スマホでバイト募集のサイトを眺めながら、ぼんやりとつぶやいた。
私にできることって、なんだろう。
昔から、誰かに自慢できるような特技なんてなかった。
勉強も運動も、何をやっても平均かそれ以下。
でも──出会ってしまった。
バドミントンという存在に。
それは、まるで世界が変わるような出会いだった。
気づけた。
なにもなかった私に、ひとつだけあったもの。
それは──バドミントンを「好き」でいる気持ちと、「続ける」こと。
だけど今の私は──
空っぽだ。
「どうすればいいの……」
枕に顔をうずめたまま、気づけばそのまま眠っていた。
──────
「おはようございます」
「まあ、おはよう。早いわねぇ。えらいえらい」
パンを買い忘れたあの日から、毎朝キッチンを借りて自分でお弁当を作るようになった。
「私が作るのに〜」
そう言ってくれるけれど、食費を出してもらっているだけで十分すぎる。
それに、朝早く起きるのは平気だ。
……以前は朝練がてらランニングをしていたから、体が覚えている。
「そういえば唯ちゃん、部活は? 入らないの?」
「部活……ですか?」
「たしか、バドミントンやってたわよね。前にね、かよ子が動画を送ってきてくれたのよ。すごかったわ。あんな速いの、よく打てるわねぇ」
かよ子──それは、私の母。さよ子さんの妹にあたる。
強くて、優しくて、温かい人だった。
「あの子ね、親戚の集まりではいつも唯ちゃんの話ばかりしてたのよ。『うちの子すごいでしょ』って。ほんとにあなたのこと、誇りに思ってたのよ」
「……そうなんですか。私も、お母さんのこと、尊敬してました」
「いい子ねぇ〜。あの子、ほんとにいい娘を持ったわ」
「バイト、しようかなって思ってて。今、探してるところです」
「バイト? 何か欲しいものがあるの?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
お世話になっている以上、これ以上甘えるわけにはいかない。
早く大人になって、自立して。
大学にも行きたいから、奨学金を借りられるように勉強して、成績も上げなければならない。
今のままじゃダメだ。
私には、時間がない。
だから──
バドミントンをしている暇なんて、ない。
「……なるほどね」
さよ子さんは何かを察したように、静かにうなずくだけだった。
それ以上は、なにも聞いてこなかった。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね。それと……自分の気持ちには、嘘をつかないこと」
「……はい」
──────
「〜であるから、この公式を──」
授業中、先生の声が耳に入ってこない。
さよ子さんの、あの言葉がずっと心に残っている。
──自分の気持ちに、嘘をつかないこと。
私は自分に嘘をついているのだろうか……
いやもうわかっているはずだ。
バドミントンをしたいっていう、
その気持ちをに──