3話 部活
「ズバリ!唯ッピは運動部にいたでしょ!」
お昼の一口目、卵焼きを口に運ぼうとした瞬間───
瑠璃ちゃんの突然の一言に驚いて、お箸から卵焼きが落ちた。
「な、なんで!?」
「ふふん。実はあたし、おばあちゃんが占い師でね。その影響か、直感だけはホントに当たるのよ。ガチで!」
「瑠璃ちゃん、〇×クイズ得意だもんね」
「でしょでしょ!問題見なくても全問正解よ!」
「すごい……!」
まさかそんな特技があるなんて。
「クイズだけじゃなくてね、道に迷った時とかもだいたい当たる。感覚で行ける!」
得意げにドヤ顔を見せる瑠璃ちゃん。かわいい。
「じゃあテスト問題も余裕だね。全部当てちゃえばさ」
「い、いやぁ〜……それとこれはちょっと違うっつーか……」
「ん?」
視線を逸らす瑠璃ちゃんに、さっちゃんがため息をついた。
「瑠璃ちゃんね、2択は強いの。2択はね」
「2択……?」
「でもそれ以上は……」
薄暗いオーラをまとったさっちゃんがじりじりと瑠璃ちゃんに詰め寄る。
「ゔぅっ!」
さっちゃん曰く、選択肢が3つになると正答率50%、4つで25%、5つになれば“気持ちで答えるしかない”状態になるらしい。
「しかも文章は読まないし、全部勘で選んじゃうし……」
止まらない、止まらない。さっちゃんの愚痴マシンガントーク。
瑠璃ちゃんは勉強が本当に苦手で、いつもさっちゃんに助けてもらっているけれど──
癖は治らず、点数は下がる一方。さっちゃんのストレスもたまっていたみたい。
「ご、ごめんってばー!!」
「さくらちゃん落ち着いて、落ち着いて!」
二人がかりで説得し、ようやくさっちゃんの怒りは沈静化。
このままじゃ授業二時間分くらい話されそうだった。
「まあ、4択は無理だけどさ。テスト範囲の山は結構当たるよ?だから進級できたし、今ここにいる!」
「ギリギリだったけどね……」
直感を信じすぎて点が取れない。けど、直感のおかげで乗り越えられた。
───そんな矛盾を生き抜く瑠璃ちゃんは、ちょっとすごい。
「それより!唯は絶対部活入るべきだよ。あたしの直感がそう言ってる!」
瑠璃ちゃんは話題を変えるのに必死だ。
「確かに!唯ちゃん、イラスト創作部とかどう??」
「ち、近い近いさっちゃん……!」
どうやらさっちゃんはイラスト創作部の副部長らしい。
でも、たまに発動する本人無自覚の“天然”は誰にも止められないらしく、部室からは時々悲鳴が聞こえるんだとか。
過去には、部員全員で描いた大事な作品を間違えてシュレッダーにかけそうになったという逸話もある。
「バレー部は? 楽しいよ!」
瑠璃ちゃんは意外にもバレーのエース。他校から“点取り女王”と呼ばれているらしい。
体育の授業で見た時、確かに一人だけ動きが違ってた。
「二人ともすごいなぁ……」
この学校は部活が盛んで、何かしら所属している生徒がほとんどなんだとか。
「でも、私はいいかな。バイトしたいし」
「あー、なるほどね」
「けどバイトもいいけど部活も楽しいよ。だ!か!ら!イラ創にーー!!」
「いやいや!バレー部でしょ!!」
『ねっ!』
「か、考えとくね……」
正直、ふたりの勢いに押しつぶされそうだった。
でも───ふたりには悪いけど、絵もバレーも私には無理だ。
中学の美術のデッサン授業では、本物とあまりにも違う絵を描いてしまい、先生たちが「この子、心のケアが必要では」と会議したほど。
バレーはというと……ボールが腕に当たらず、トスを試みるも顔面にヒット。
鼻血で毎回保健室送り。
最終的には先生に「見学をおすすめする」と言われた。
そんな苦い記憶を反芻していた時、瑠璃ちゃんがふと呟いた。
「バドミントン部は? あそこ、人足りないって友達が言ってた。だから団体戦も出れないんだって、」
「私も聞いたよ。なんか、2年くらい前にできた新しい部活らしくて。部員が増えなくて廃部寸前なんだって。」
「へぇ……。団体戦出れないってことは、部員4人くらいか」
個人戦で好成績を残せば、廃部回避になったりするのかな?
部活を1から作るってすごいなー。
なんてことをボッーと考えていたらふたりが「意外」って顔をしてこっちを向いていた。
どうしたんだろう。顔になにかついて……
――しまった
時すでに遅し。
「……なんで分かったの? 部員が4人って」
「あたしは友達が“4人”って言ってたから知ってるだけだけど……唯ッピは、バド部に知り合いなんていないよね?」
「……あ、あー!いや、なんか……だいたいそうかなって!人数的に!団体戦って、5人くらい必要かな〜って!」
『……怪しい』
ふたりは顔を見合わせ、何かを悟ったように頷くと──
「唯のカバン、チェックだ!」
「えええ!?」
ごそごそと私のカバンをあさるさっちゃんが、ある物を見つけた。
「……あ!バドミントンのキーホルダーついてる!」
「ギクッ」
「ほら〜やっぱり!私の直感は正しかった!」
・友達にもらっただけ
・たまたま付けてただけ
・可愛かったから……
――色んな言い訳が頭をよぎったけど、ふたりに嘘をつくのは嫌だった。
「……うん。バドミントン部だったよ」
「へぇ〜!そうだったんだ。でもやらないの?」
「うーん……バイトもしたいし……」
「まあ、無理強いはしないよ。唯ちゃんが決めることだもんね」
「でもさ……」
瑠璃ちゃんが口を開いたところで
キーンコーンカーンコーン――
「あ、チャイム鳴った!授業始まっちゃうね、先行ってる!」
私はその場を足早に離れた。
逃げてるわけじゃない。
瑠璃ちゃんからでも、さっちゃんからでもない。
――私は、弱い自分から逃げてるんだ。