期末テスト
「やばい……」
夜10時半。
机の上には開きっぱなしの問題集と、赤ペンと、眠気と焦り。
時計のカチコチという音が、妙に大きく耳に響く。
夜の静けさが、プレッシャーを増幅させる。
「あと2日……間に合うかなぁ……?」
高校二年生の期末テストは9教科。
どれもこれも範囲が広くて、しかも内容が難しい。
つい最近まで部活のことしか考えてなかったツケが、今どっと押し寄せてくる。
「なんで証明なんてしなきゃいけないのー!」
机に突っ伏してぼやいたところで、問題は解けない。
───
「はよ〜〜って、唯ッピどうしたの? そんな暗い顔して」
朝。教室のドアを開けるなり、瑠璃ちゃんがいつもの明るい声で迎えてくれた。
くっきり決まったアイラインに、ふわっと巻かれた髪。今日も可愛い。
それに比べて私は、睡眠不足のクマと死んだ目を携えて、もはやゾンビ状態。
「テストがぁ〜〜」
「……あー、がんば」
「瑠璃ちゃんは、勉強してるの?」
「してるわけないじゃん!」
「……」
「そんな目で見ないでよ!」
少し安心してる自分がいるのが悔しい。
でも彼女は教科書さえあれば、ヤマを当てて点を取る一夜漬けタイプだ。
「まぁ教科書貸してくれたら、ヤマくらい教えてあげるよ」
「ほんと?!女神!!」
ただ、私はとにかく数学が大の苦手。
できる教科とできない教科の差が激しすぎて、勉強してるつもりでも頭に入らない。
───
「やっぱわからない……」
放課後。部活はテスト期間中でお休み。
仕方なく、教室に残って1人で勉強をすることにした。
「Xを……ここに代入……あれ?なんか違う?」
ノートにぐちゃぐちゃと書いた文字を消しては書いて、また消して。
目の前の数式が、暗号にしか見えない。
「もう無理……」
机に突っ伏して、ふて寝を決め込んでいると──隣に誰かが座る気配がした。
ちらりと横を見ると、石橋くんだった。
「わぁ、びっくりした!」
「勉強してんの?」
「うん……でも全然進まなくて」
彼は一瞬ノートをのぞき込んで、すぐに察したようだった。
「数学か、教えようか?」
「……いいの!?救世主!!」
思わず身を乗り出す。
「お願いします!」
───
あれから30分。
石橋くんは丁寧に解き方を教えてくれている。にもかかわらず、私はまだ3問しか進んでいない。
「……ボロボロだな」
「ごめん……」
教えてもらっているのに全然理解できなくて、申し訳なさすぎて肩身が狭い。
「気にすんな。得意不得意は誰にでもあるだろ。
いつもバド教えてもらってるし、そのお礼だと思って」
その言葉に、少し心が軽くなる。
「教科、変えてみるか? 他にやりたいのある?」
「理科もよく分からなくて……でも、石橋くんは自分の勉強しなくていいの?」
「へーき。こう見えて俺、学年10位以内だから」
「……え?うそ!?」
「ほんと」
「すご……いつも授業中寝てるのに?」
「余計な一言だ」
彼が少し笑うと、なんだか胸の奥がきゅっとなった。
勉強もできて、スポーツもできて、イケメンで、それに優しいって……
完璧すぎない?
「……声漏れてんぞ」
「えっ!?ご、ご指導よろしくお願いします!!」
顔が熱い。熱すぎる。
これはきっと頭がパンクしているからだ、きっと。
──────────
「な、なんとか終わったぁ〜」
下校時間ギリギリまで勉強に付き合ってもらったおかげで、理科もなんとか理解できた。
あとは自力で解けるかどうか……それが勝負。
「頑張ったじゃん」
「ほんとありがとうね。今度お礼させて」
「……じゃあ、地区大会のとき、差し入れ欲しい。白雲の手作り」
「そんなのでいいの? ならいくらでも作ったげるよ。何がいい? こう見えて意外と料理できるんだよ」
ちょっとドヤ顔で言ってみた。
「へぇ。意外だな。じゃあ、白雲がもらって一番元気出るやつ」
「元気……OK!任せて!」
「楽しみにしてる。あと、明日土曜だけど空いてるか? 勉強、教えてやるよ」
「えっ!? いいの? それは……ぜひお願いしたいけど、本当にいいの? 自分の勉強大丈夫??」
「心配ねぇって。人に教えるのも自分の勉強になるから。
じゃあ、明日学校の図書室。朝8時に集合な。下校時間までびっしりやるから覚悟しとけ」
「長っ!……でも、そんなこと言ってられないよね。わかった!
じゃあ、お弁当持ってくよ。あ、よかったら石橋くんの分も作ろうか?」
「まじ? じゃあお願い。楽しみにしてる」




