練習
「白雲!ダブルス組まないかい?」
ある日、部長が団体戦に向けてダブルスの練習を提案してきた。実力のバランスも考えて、経験者3人はペアを組んで男子と試合形式の練習をすることに。
「今日は私と組もう!」
「はい!」
先輩が連れてきた相手はいつかの五十嵐先輩と、石橋くんだった。五十嵐先輩は私の顔を見るなり青ざめて、石橋くんの後ろにさっと隠れた。視線が全然合わない。
そんなに怖がらなくても……
「作戦どうする?」
部長が私に声をかけてきた。
「部長の最大の武器はスマッシュの威力とスタミナです。なのでコートを自由に動き回ってもらえれば、空いたところは私がカバーします」
自分で言っておいて、先輩にこんな指示していいのかと一瞬戸惑う。けれど、勝つためには遠慮していられない。部長はにっこりと笑って
「実は私もそう思ってたんだよ。流石白雲だな〜!」
と、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。まるでお姉ちゃんみたいなその仕草に、思わず笑ってしまう。
「ラブオール・プレー!」
審判の声で、試合が始まった。
作戦通り、部長がコートの隅から隅まで駆け回り、相手の動きをかき乱す。その隙を見て、私が前後左右のスペースを埋めてシャトルを拾う。試合は拮抗していたが、最初の中盤は11対8と私たちがリードしていた。さすがはインターハイ出場の二人。簡単には点をくれない。特にラリーが続くようになってからは、部長の呼吸も少し荒くなってきた。
いくら体力おばけの部長でもきついか。
長期戦は不利かも……
「先輩、今から私も前に出て攻めます。動き方を変えましょう。きっと相手も戸惑います」
「いいね!のった!」
それからの私たちは、攻めだけでなく守りにも転じた。ドロップ、スマッシュ、フェイント……に加え、レシーブにロブ。持てる技術を総動員して、攻守を切り替えながら相手に揺さぶりをかける。
点差は15対11。リードは広がった。
だが、そう簡単には終わらせてくれない。
今まで後ろでスマッシュを打ち続けていた石橋くんが、急に前に出てきたのだ。
「背……高っ!」
思わず漏れた言葉に、彼は少し笑った。私の視界の半分を占めるような長身。その背中にコートの奥が隠れてしまい、ボールの行方が読みにくくなる。
それに、立っているだけでプレッシャーがすごい。
「ぶ、部長ーー!」
「どうした!?」
「作戦変更、お願いします……」
毎日一緒に練習してきたからこそ、彼は私の弱点を知っていたのだろう。やられた……と思ったが、今は後悔より対処が先だ。
19対17。
あと2点──。ここからが勝負だ。
───────────
「あーーまた負けた。やっぱ白雲には勝てねーや」
試合後、座って水を飲んでいると、隣に石橋くんが腰を下ろした。五十嵐先生と部長は奥でまた睨み合って口論をしていた。
「やった。また勝てた」
「あと少しだったんだけどな」
「最後の追い上げ、すごかったよ。粘り強さがあって、正直焦った」
実際、最終スコアは21対18。勝ったものの、激しい試合だった。
「やっぱ楽しいな」
彼がポツリとつぶやく。
「わかる。てか、石橋くんの前衛めちゃくちゃ威圧感あったし。あれ絶対作戦でしょ?」
「威圧感?あー……まぁな」
「あー、やられた〜」
シャトルの音、体育館に響く応援の声。
その中でも、彼の声だけは妙に鮮明に響いてくる。まるで、自分の中に残ってしまうような。
もっと話したい。もっと知りたい。
どうして、そう思ってしまうんだろう。
「そういえば、大会の日程見た?」
「え?出てたの?」
「ああ、日程は一緒だけど、時間帯は違った」
「じゃあ応援行けるね。差し入れもいる?」
「……あると嬉しい」
石橋くんはまたそっぽを向いて言った。
「OK!期待してて!」
新人戦まで、残り──2週間。
このまま気を引き締めて頑張ろう
「その前に期末テストのこと……忘れてねえよな?」
「…………へ?」




