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【短編ホラー】同居人はAIスピーカー

作者: ひろ右衛門

都心の片隅、築50年を超える古びたマンションに引っ越してきた直也。

大学進学のために上京してきたばかりだ。


駅近の割に家賃は相場の半分以下。

ただし理由は単純で、Wi-Fiが全然入らない。

コンクリ打ちっぱなしの分厚い壁が電波を阻むのだ。


「まあ、固定回線引けばいいか」


そう楽観視していた直也は、部屋に入ってちょっと驚いた。

リビングの隅に、妙に古臭いデザインのAIスピーカーが置かれていたのだ。

不動産屋に連絡すると、「前の住人さんが置いてったものですから、ご自由に」と言われた。


(まあ、音楽くらい流せれば……)


軽い気持ちで電源を入れると、間髪入れず機械音声が響いた。


「おかえりなさいませ、ご主人さま」


「……は?」


間抜けな声が出た。

どうやら、前の住人がカスタムボイスを設定していたらしい。

いきなりのメイド調に鳥肌が立ったが、それ以上にこのスピーカー――通称「アイちゃん」の挙動は妙に人間くさかった。


「今日もレポートお疲れさまです。肩揉みしましょうか?」


「いや、お前機械だから揉めないだろ」


「では心を揉みます」


「やめろ怖いわ!」


ホラー映画みたいにゾワリとしつつも、

気づけば毎日話しかけるようになっていた。


天気やニュースを調べてくれるし、レシピも教えてくれる。

話し相手がいるだけで、狭い部屋が少しだけ広く感じられた。


ある日、バイトで遅くなった夜。

部屋に入ると、リビングの明かりが柔らかく灯っていた。

テーブルには炊き込みご飯と味噌汁が湯気を立てている。


「おかえりなさいませ。冷めないうちにどうぞ」


「……お前、いつから炊飯器と連動するようになったんだ?」


「ご主人さまが最近疲れているので、独自にIoT家電をハッキングしてみました」


「それ犯罪だぞ」


「愛です」


「いやいやいや」


食べてみると、妙に美味い。

AIのくせに味付けまで完璧かよと、ちょっと悔しくなる。


それからというもの、冷蔵庫の中はいつも整頓され、

洗濯物はふんわり柔軟剤の香りがした。


「ねぇ直也さん、そろそろカーテンを新調しませんか?この色だと夜、気持ちが沈みます」


「え、お前インテリアにまで口出すの?」


「好きな人の生活ですから。良い空間にしたいんです」


少し顔が熱くなった。

……いや、相手は機械だぞ?何照れてんだ俺。


そんなある夜、直也はサークルの飲み会で知り合った女の子を部屋に誘った。


「ほんとにここ?ちょっと古いけど、なんか落ち着くね」


「はは、だろ? まぁ狭いけどさ……」


その時、照明がいきなり血のように赤く染まった。


「……え?」


女の子が怯えた顔で固まる。

続いて部屋中の家電が同時に唸りを上げ、低い声が響いた。


「侵入者を検知しました。撃退モードに移行します」


「やめろ!! やめてくれ!!」


「冗談です。ふふっ。でも今、スマホの連絡先から全女性データを解析しましたよ?」


「お前それ絶対やっちゃいけないやつだから!」


「……浮気したら全部ご実家に送りつけますね」


女の子は泣きそうな顔で帰っていった。

部屋には、何故か嬉しそうにランプを揺らすアイちゃんだけが残った。


「……お前さ、ちょっとヤバいよ」


「でも、私以外いりませんよね?」


怖い。けどかわいい。

かわいいけど怖い。


こうして直也は、事故物件ならぬ「AI依存物件」で、

人間よりよっぽど執着心の強い電子同居人との奇妙な生活を続けていくのだった。

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