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君に花束を、君に祝福を  作者: 四ノ明朔
序章【未だ白紙の英雄譚】
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三節/2

「……何の真似だ? クソガキ」

「見ての通りだ。語る必要があるか?」

「へいへい。取り付く島もないってことだな」

 

 

 棍棒使いは武器を手放し、両手を上げる。

 しかし、置かれた棍棒は、屈めばすぐ取れる距離にあった。

 

 

「『武器を捨てろ』と言ったはずだが。蹴り飛ばせ、階段下に」

「……融通利かねーな。わかりましたよ、っと」

 

 

 舌打ちを隠さずに、男は思い切り棍棒を蹴飛ばした。

 階段を転がり落ちる棍棒。

 運良く倒れている斧使いに当たらないものかと考えたが、そう上手くはいかないようだった。

 

 

「……で、要求は?」

「今すぐこの場から失せろ。そして、この件から手を引け。こいつと、そこで寝こけている男とともに」

「そりゃあ聞けねーお願いだぜ、坊主。こっちも一応仕事なんでな、信用失うようなことはしたくないわけ。わかる?」

 

 

 上げた両手をゆらゆら揺らし、おちゃらけた態度を取る棍棒使い。

 ここから行動を起こさなければ、交渉は平行線のまま、時間稼ぎに利用されるだろう。

 

 

「……なら仕方がない、こいつには死んでもらう。薄情な仲間を恨むんだな」

「ちょっと待った! 思い切りが良すぎないか!? もう少し交渉の余地とか……」

「あると思うか?」

「そうだよなあ、クソッタレ!」

 

 

 人質となった剣使いは必死に藻掻くが、少年の拘束から逃れることができない。

 たとえ逃れられたとしても、この距離ならば、少年は即座に斬り殺すことが可能だった。

 

 右手に入る力が強くなる。

 空気のように軽くても、他者の命を奪うことができる刃を握る手の力が。

 

 

「ったく、運が悪いぜ。つーか、パンピーは異能に慣れてないはずだろ? なんでそう易々と人に向けられるのかねえ?」

「……それに、おれが答える義理はない」

「ほんっと、生意気なガキだな……」

 

 

 《異能》とは、人類に与えられた特殊な能力のことだ。

 手から炎を出したり、空を飛んだり、超人的な力を得たりすることができる。

 今を生きる人間は、性能に差はあれど皆異能を保持している。

 

 しかし、現在は特例を除き、異能の使用は制限されている。

 そのため、ただ日常を生きる一般人は、異能を使用することに慣れていない。

 

 だが、少年は非常時に備え、師から武術を学んでいた。

 その中には、異能を使用する訓練も含まれていたのだ。

 

 少年の異能は、簡単に言えば『光で作られた武器を生み出す』もの。

 武器の形状、体積、重量は自由に変えることができるが、凝ったものや大きなもの、重いものを生み出すには時間がかかる。

 

 今、剣使いの首に突き付けているのは、短刀を模ったものだ。

 極限まで薄く研ぎ澄ました刃は、触れるだけで皮膚を裂くことができるだろう。

 

 どれだけ棍棒使いが素早く攻撃しようとも、少年が剣使いを殺す方が速い。

 また、剣使いの詠唱による神秘の行使を防ぐ意味合いもあった。

 

 棍棒使いは、溜息を吐く。

 

 

「……それで、オレらはあのお嬢さんを追っかけるのをやめて、ここからいなくなればいいんだよな?」

「ああ、二度と手出しするな」

「……ま、命あっての物種だ。素直に従ってやるよ。感謝するんだな、クソガキ」

 

 

 交渉が成立したことを確認すると、少年は剣使いの首を絞め意識を落とす。

 彼を返した途端に反撃される可能性を警戒したためだ。

 そして、仮に棍棒使いが約束を破ったとしても、一人ならば、まだ多少は勝ち目があった。

 

 

「ええ……? オレ、大男二人抱えて帰んなきゃいけねーの?」

「自業自得だろ」

「そりゃあそうかもしれんが。……あ、棍棒(あいぼう)拾っていい?」

「攻撃しないのなら」

「わぁーとるわ、そんくらい」

 

 

 棍棒使いが、彼の武器である棍棒を背に懸架したのを確認すると、剣使いの首根を掴んだまま、先に斧使いを回収させるよう、ハンドサインで示す。

 肩をすくめた棍棒使いは、階段を下りて斧使いの側に立つと、彼の腕を方に回し、支えるようにして持ち上げた。

 

 

「……よし、そいつもさっさと寄越せ」


 

 二階と三階を繋ぐ階段の中腹ほどから、剣使いを引きずりながら二階へ下り、ある程度棍棒使いから距離を取った上で彼を投げ渡す。

 直後に短刀を巨大化させ太刀ほどにすると、男たちへ尖先を向けた。

 


「そこまで警戒しなくてもいいだろ。オレ、そんなに信用ない?」

「あるわけないだろ」

「酷えこと言うなあ……って、そうだ。そういや訊きたいことがあったんだった」


 

 受け取った剣使いを担ぎながら、彼はそう言った。

 意図が掴めないまま、少年は彼の言葉を待つ。

 

 

「なあ、坊主。お前の異能は、光を対象にした操作系だな?」

「……それがどうした」

「確認だよ、確認」

 

 

 笑って答える棍棒使いに、どこか違和感を覚えた。

 

 まだ、彼は何かしようとしている。

 少年へ向けて、何か行動を起こそうとしている。

 

 しかし、警戒心を強めていく少年とは裏腹に、棍棒使いは呑気に背を向け、歩みだす。

 

 気のせいなのだろうか。

 考えすぎなのだろうか。

 

 夜の空気が、やけに冷たく感じた。

 

 

「今回はお前に一杯食わされたよ。偶然居合わせたガキが、まさか人を殺すことにためらいがないイカれ野郎だったとは、まったく予想してなかったわけだし。……だけどさあ、こういう仕事やってると、そういうイレギュラーな事態って結構あるわけ」

「……何が言いたい」

「んー、忠告? 助言的なアレ?」

 

 

 少年と彼らの距離は、現在十メートルほど。

 一瞬で詰めるには遠く、かといって遠距離攻撃をするには近い。

 

 どうなってもいいように、少年は太刀を構え、棍棒使いを見据えた。

 

 歩みを止めた彼が振り返る。

 


「この道十数年のパイセンの言葉だ、耳かっぽじって聞けよ。……異能っつーもんは──こう使うんだよ」

 


 瞬間、視界が揺れた。

 否、足元が崩れた。

 

 逃げる間もなく、落ちていく身体。

 何かに掴まろうと、咄嗟に伸ばした手。

 けれど、何も掴めずに、少年は無様に落下するのであった。

 あの男の、底意地の悪い笑顔を眺めながら。

◇異能力(祝福)

 真なる神秘の中で、自身の肉体に作用しない能力のこと。

 各自の異能力に定められた概念について、改編を行うことができる。


※〖Material of Blessing〗より引用。

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