表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に花束を、君に祝福を  作者: 四ノ明朔
序章【未だ白紙の英雄譚】
4/30

二節/3

 息を整えると、少年は再び立ち上がる。

 

 

「……よし。あなたは、ここで待っていてください」

「……貴方は、どこへ行くのですか?」

「あの人たちを倒しにいきます。ここで籠城するのも限界がありますから」

 

 

 そう言って外に出ようとする少年の手を、少女は掴む。

 その手は強く、離さないという気概が感じられた。

 

 

「無茶ですわ! 相手は殺しの専門家、貴方が戦える相手ではありません!」

「やってみなければ、わからないですよ」

「いや、嫌です。わたくし、約束しましたわ。貴方が無事に逃げるためのお手伝いをすると」

「もう十分果たしていただきました。それに、今からおれは、無事に逃げるために戦いに行くんです」

「なら、わたくしも──」

「それはしません。あなたを守りながら戦うほどの余裕は、多分ありませんから」

「……足手まといですの、わたくし」

「……言い難いことですが」

 

 

 少女は、少年の手を掴んだまま離さない。

 否、離せない。

 

 きっと、離してしまえば、少年はすぐあの三人の元へ向かうだろう。

 彼は、無事に逃げるために戦いに行くというが、実際の目的は、どちらかといえば少女を助けるためだ。

 

 無事に逃げるのが目標ならば、わざわざ戦いに出向くより、ここで籠城し、破られたときに戦えばいい。

 しかし、それをしないのは、少女に被害が及ぶ可能性が高いからだろう。

 

 だが、あの三人は手練だ。

 どこから見ても一般人である少年が、戦って勝てるような相手ではない。

 それは、彼自身もわかっているはずだった。

 

 だから、彼は、自分が死ぬと理解した上で、なお無謀にも戦おうとしているのだ。

 

 少年は、震える少女の手を握る。


 

「……何も、死にに行くわけじゃありません。難しそうなら逃げに徹して、時間を稼ぎます。これでも、武術をそれなりに習ってるんですよ?」


 

 彼が言うことは、おそらく、嘘ではない。

 死にに行くわけではないことも、武術を習っていることも。

 けれど、本当のことも言っていない。

 

 それは、少女に辛い思いをさせないための、気遣いで。

 けれど、少女にとっては、それが一番辛いものだった。

 

 

「……ごめん、なさい」

「違いますよ」

「……え?」

 

 

 少女の顔を覗き込むように、少年は腰をかがめる。

 今にも泣き出しそうな少女の目を見据え、彼は言った。

 

 

「『助けてもらったときは、ごめんなさいじゃなくて、ありがとうと言いなさい』……恩人からの受け売りです」

「……ありが、とう?」

「はい、そうです。その方が、互いに気が楽ですから」

 

 

 そして、少年は少女の手を強く握った。

 

 

「『必ず帰ってくる』という約束はできません。でも、おれは最期まで生きることを諦めません。……だから、行かせてください」

 

 

 少年は、嘘を吐くことが苦手だ。

 一度吐こうとすれば、雰囲気や表情に出てしまう。

 少年の嘘を見破れなかった者は、今まで一人もいない。

 

 だから、これはすべて真実だ。

 少年が口にした言葉は、紛れもない真実だ。

 

 少女は、少年の手を離す。

 少年は、少女の手を離す。

 

 

「……では、行ってきます」 

 

 

 自分より、少しだけ大きな背。

 けれど、ずっと大きく感じられる背。

 

 少女は扉が閉じる瞬間まで、それから目を離せなかった。

◇神秘

 自然法則を超越した現象の総称。

 世界基盤を改編することで起こすことができる。


※〖Material of Blessing〗より引用。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ