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君に花束を、君に祝福を  作者: 四ノ明朔
序章【未だ白紙の英雄譚】
19/30

八節/3

 どこからか、『光』が飛んできた。

 一見レーザーのようにも見えたそれは、光で作られた剣のようで、眼前の怪物の手に深々と突き刺さっている。

 

 

「……ようやく、か」

 

 

 驚きからか咆哮する世界喰らいへ、間髪入れずにまた同じ光が届いた。

 咄嗟に豪腕で防ごうとするも、剣は意も介さずに貫いていく。

 

 走り寄ってくる足音が聞こえた。

 ()()にしては珍しい戦い方だと思いながら顔を上げて、そこでやっと金嗣は気づいた。

 自分たちと世界喰らいの間に、立ち塞がるように駆けつけた人物が想定とは違うことに。

 

 静脈血のような暗赤色の髪と、動脈血のような鮮紅色の左目。

 そして、長い前髪に隠された純白の右目。

 どこにでもいそうな大人しい顔立ちだが、どこか浮世離れした雰囲気を持つその少年は、それまた不釣り合いなはっきりとした声で叫ぶ。

 

 

「ここは任せてください! お二人は早く避難を!」

 

 

 その顔も、その声も、金嗣には覚えがなかった。

 交流がないとか、そういう次元ではなく。

 そもそも、彼は機関の人間ではないようだった。

 

 高校生、あるいは中学生。

 ジャージにウインドブレーカーという日常そのものな出で立ちのくせに、どうしてか戦い慣れた様子で、傷つけるための武器まで持っている。

 

 その不揃いなところが、彼という存在の不安定さを物語っていた。

 

 名乗りもしない少年は、金嗣の返事を聞く前に、世界喰らいへ向かって飛び出す。

 制止しようとするも、咳き込んでしまって声が出せない。

 思わず伏せてしまった顔を上げようとしたとき、最悪の想定が頭を過る。

 だが、現実は良い意味で予想外だった。

 

 半狂乱で振りかぶられる手を、避け続ける少年。

 躱す直前に刃を沿わせることで、多少だがダメージも与えている。

 決定打はなく、状況は不利になっていく一方だろうが、彼は怪物に対抗していた。

 

 これは好機と思い、金嗣は自分へ回復術式を使用する。

 皮一枚で繋がった右腕を重心的に、銃を撃てる瀬戸際に調整して治していった。

 

 これなら、()()が使える。

 

 グリップを握り締め、予め設定していた言葉を発音した。

 

 

「〝形態変化(エンコード)弩級巨砲(ドレッドノート)〟!」

 

 

 言葉とエネルギーに、刻まれた術式が呼応する。

 まるで立体を展開するように、ショットガンから巨大なランチャーが姿を表した。

 

 飾り気のない引き金に指をかけ、銃口を世界喰らいへ向ける。

 対象に少年が含まれていないことを確認し、思い切り引き抜く。

 

 一点に収束する膨大な雷電とエネルギー。

 虫の息であった金嗣に目もくれず、少年にかまけていた世界喰らいは、ようやくそこで己の身に危険が迫っていることに気づく。

 振り下ろそうとした手を留め、世界喰らいは金嗣の射線上から退く。

 しかし、それは織り込み済みだ。

 

 

「死に晒せ、クソデカブツ野郎が!」

 

 

 放たれたその雷撃は、射線上に存在しなかったにも関わらず、世界喰らいに直撃した。

 弾けた稲妻が皮膚を焼き焦がしていく。

 悲鳴を上げる怪物。

 焼け爛れたからだは、地に立つことを許さない。

 五メートルにもなる巨体が崩れ落ちた。

 

 少年と、後退した世界喰らいの間に定められていたはずの照準。

 だが、確かに射撃は命中し、世界喰らいを倒した。

 これは、彼が使用した術式の特性によるものだった。

 

 金嗣の持つショットガンには、三つの形態がある。

 一つ目は、通常通り散弾銃として扱う『基礎(ベーシック)』。

 そして、二つ目が『弩級巨砲(ドレッドノート)』。

 

 弩級巨砲形態では、精密な操作が要求され、更に膨大な神秘的エネルギーを消費する。

 だが、それを加味しても余りある利点があった。

 

 それは、距離や障害物の有無に問わず、()()()()()()()()()()ということ。

 防御や軽減は可能だが、ある特例を除けば、回避は不可能だ。

 

 どこにいても、何をしても届く轟雷。

 それはまるで、神の怒りのようだった。

 

 これにより、迅金嗣という男は『雷霆の処刑人(パニッシュメント)』の称号を得ている。

 本人は、身の丈に合わない壮大なものだと卑下しているが。

 

 弩級巨砲の反動で肩を折角回復した肩を脱臼した金嗣は、神秘的エネルギーの欠乏も相まって、抗う間もなく気絶してしまう。

 こちらに向けて走り寄る少年とその背後で呻く怪物を捉えたのを最後に、視界は暗転した。

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