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君に花束を、君に祝福を  作者: 四ノ明朔
序章【未だ白紙の英雄譚】
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七節/3

 最早蹴り飛ばすかのように、勇緋は地下三階と階段を繋ぐ扉を開ける。

 記憶にある光景と、同じ廊下。

 扉の先に敵がいる可能性を危惧し、太刀を構えていたが、その必要はないようだった。


 一度呼吸を整え、周囲を探る。

 爆発が起こったにしては、やけに廊下が綺麗だ。

 この施設の耐久性が高いのか、はたまた爆発ではない何かが起こっているのか。

 ──それを知っているのは、おそらく、この足音の主たちだろう。

 

 曲がり角の先から聞こえる音。

 人の呼吸音と足音の中に、粘着質なものを引きずる音が混じっている。

 進路は勿論、勇緋がいる方向。


 彼らは、走っている。

 『それ』は、彼らの後を追うように動いている。

 つまり、()()()()()()だ。

 

 曲がり角を飛び出すように、走り出した。

 突然現れた人影に、彼らは驚愕する。

 

 しかし、足は止めなかった。

 それは、本能的に『止まれば死ぬ』と理解していたからだろう。

 

 青服の男女三人の背後に迫る、蛇と海月のキメラを少しばかり人型に寄せたような生物。

 軽自動車ほどの黒一色のからだは、それが世界喰らいであることを証明していた。

 

 世界喰らいの触手が、一番後ろを走る男を狙う。

 勇緋は、集団の頭上を飛び越えて、彼と触手の間に割り込んだ。

 

 振り抜いた光の刃が触手を切り刻む。

 第二、第三の触手が伸ばされるも、難なく切り落とした。

 

 思っていたよりも、硬くはない。

 手数にさえ気をつければ、不覚を取ることはなさそうだ。

 

 離れた場所で足を止め、勇緋と世界喰らいの攻防を眺めていた三人のうち、眼鏡をかけた男が声を張る。

 

 

「君は誰だ!? どうしてこんなところにいる……!?」

「避難の援護に来ました! 詳しい話は、その後でお願いします」

「援護って……君にできることじゃない! それは紛れもなく怪物だ!」

「足止めくらいにはなります。なので、早く避難を!」

「それはこっちのセリフだ! 一般人を危険にさらすことはできない!」


 

 眼鏡の男性は、風貌からすぐに勇緋が機関外の人間であることに気づいたらしく、険しい表情で反論した。

 だが、勇緋としては、彼らには一刻も早く逃げてもらわなければいけない。

 

 なぜならば──

 

 

「その怪我で、いったいどうするって言うんですか。走るのだってやっとでしょう」

「それ、は……」

 

 

 彼らは皆、身体の一部から出血をしていたり、庇うような動きをしていたからだった。

 女性は右腕、最後尾だった男は左脚、そして、眼鏡の男は頭部。

 世界喰らいから逃亡する際についたものか、それ以前のものかは不明だが、それのせいで彼らに危険かが及んでいるのは確かだ。

 

 

「心配いりません。皆さんが避難し次第、移動しますから」

「……しかし」

 

 

 それでも食い下がる彼を、女性が制する。

 

 

「先輩、ここはあの子に任せましょう。私たちがいても、足を引っ張るだけです」

「……だが、我々の責務は市民を守ることだ」

「適材適所っすよ! なんなら、俺たちが応援呼んで来ればいいじゃないっすか!」

 


 後輩である二人に諭され、眼鏡の男は歯がゆいながらも決断した。

 

 

「……すまないが、ここは任せる! 危険なようなら、すぐに君も避難するように!」

 

 

 勇緋が彼の言葉に頷けば、三人は鈍い動きで階段へ向かっていく。

 ここから先は一本道だ。

 向かう途中で襲われる、なんてことは起きない。

 

 だからこそ、この怪物はここで抑えなければならなかった。

 

 次から次へと伸ばされる触手を一刀両断し、本体との距離を縮める。

 三人との会話中、触手をいなしながら観察していたが、あの世界喰らいには触手しか攻撃手段がないようだ。

 蛇のような容貌から、近距離になれば締め付けや尾の鞭打ちなどもするかもしれないが、手数が多くないのでそれほど脅威ではない。

 どんな攻撃手段があったとしても、当たらなければどうということはないのだ。

 

 遂に眼前まで到達したことで、触手の密度が薄くなる。

 その隙を逃さず、勇緋は太刀を振り上げ、世界喰らいを袈裟斬りにした。

 

 粘着質な表皮を切り裂き、刃は肉へと到達する。

 同時に、傷口から黒い液体が噴き出した。

 

 食い込む刃から逃れるべく、世界喰らいはなりふり構わず暴れる。

 そのあまりの膂力に、勇緋は飛び退いた。

 

 尾を床に叩きつけながら、半狂乱の怪物は距離を取った勇緋に突進する。

 だが、それは悪手だ。

 

 軽自動車並の体躯で突進するのならば、それ相応に力がかかる。

 力は速さとなるが、速さは力にもなるのだ。

 切れ味の悪い包丁でも、力さえあれば切れてしまうように。

 

 突進に合わせて、傷口に入り込むように太刀を振るう。

 一縷の狂いもなく再び切り込まれ、先程は肉で止まった刃も、上乗せされた速度の前では、骨すらも断ち切れるのだった。

 

 胴体と尾が二つに別れ、それぞれが床に転がる。

 断面からは、止めどなく黒の液体──黒血が溢れ出していた。

 

 《黒血(こっけつ)》とは、世界喰らいの血液である。

 生物がそれを摂取すると、体内から侵食され、やがて死に至る。

 死した生物は、間もなく世界喰らいとなる。

 害にしかならない、凶悪な物体だ。

 

 頬に付いた黒血を袖で拭い、刃に付着したものも払う。

 世界喰らいを討伐した今、勇緋はこのまま撤退しようと思っていたのだが、どうにか胸騒ぎがした。

 

 まだ終わっていない。

 まだ、残っている。

 何となく、そんな気がした。

 

 それに、肝心の現場をまだ直接見ていない。

 護送されていた三人と、護送を担当していた職員も発見できていないのだ。

 

 彼らを避難させるまで、まだ帰れない。

 そして、彼らはきっと、この奥にいるのだろう。

 

 光の太刀を握り直し、勇緋は先へ向かうのだった。

黒血(こっけつ)

 世界喰らいの体内を循環する、血液のようなもの。

 生物には有害であり、摂取すると体内を侵食され、やがて死に至る。

 

 侵食時は、刃物で刺されるような痛みが伴う。

 体内ME量が多いほど、侵食への耐性が強くなる。

 特定の神秘により除去することができるが、それ以外の方法では不可である。

 

 死亡した生物に黒血が侵食すると、数分後に世界喰らいへと変貌する。

 死体の死亡時期は問わない。

 

 世界喰らいへ変貌する際、体内ME総量が多いほど、元となった生物の原型が残る。

 世界喰らいのなった生物を戻す手段は、存在しない。


※〖Material of Blessing〗より引用

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